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お義兄様ルート

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 「あの……フェル?」

 私が、愛を告げた途端、石像のように固まって動かなくなってしまった。
 そんなに、驚くことかしら?
 少しも愛情を感じてくれていなかったのかしら……

 「あ……すまない。その、聞き間違いでなければ、私を愛してると言ったかな?」

 「はい。言いましたわ」

 「本当に……?」

 「そんなに、信じられませんか……?」

 「いや……、兄妹として過ごした時間が長すぎて、異性として見れているのか、少し心配だったからね」

 確かに、兄妹として過ごした年月は長い。
 フェルと婚約した時は、まだ兄としてしか見ることが出来ていなかった。
 でも……呼び方をお兄様からフェルに変え、徐々に、兄としてではなく一人の男性として見るようになった。
 それから、囁かれる愛の言葉に、触れ合う指先に、胸がときめくようになったの。

 「フェル……私ね、もうとっくにフェルのこと一人の男性として見ていたの。あなたに触れられる度に、ドキドキしてしまって、心を落ち着かせるのが大変なのよ? 言葉にしなかった私も悪いのだけど、信じて欲しいの」

 「あまりにも自分に都合が良すぎて……いや、これ以上、疑うのはメルに悪いね。今はその言葉を素直に受け止めることにするよ」

 「ふふっ、良かったです」

 「……今すぐ抱きしめたい衝動に駆られるが、流石にここでは……困ったな」

 「流石に、人目があるところでそれは……」

 「殿下の婚約者お披露目も終わったし、ダンスもしたし……礼儀は済ませた」

 「え……?」

 「メル、そろそろ失礼しようか」

 「えっ!?」

 え? え? フェル、こんなに早く帰る気なの?
 確かに、最低限の礼儀は済ませたとは言えるけれど……
 フェルは、困惑している私を、優雅にエスコートして、王城を後にした。

 フェルが私を抱き上げて馬車に乗り込み、そのまま着席した結果……私は今、フェルの膝の上に座っている。
 恥ずかしいわ……

 「フェル……あの、隣に座らせて貰えないかしら?」

 そういうと離すどころか、ぎゅっと抱きしめられ耳元に吐息が掛かり、胸が高鳴っていく。
 
 「メル、さっきのもう一度言ってもらえるかな?」

 さっきの……愛してると言ったことかしら。
 何度も言うのはなんとなく恥ずかしいけれど、顔が見えないから言いやすいかもしれない。

 「フェル……愛しています」

 「メル、ありがとう。私も愛しているよ。もう一つお願いしていいかな?」

 「お願いですか?」

 「……口付けても?」

 「……っ!?」

 口付け……愛し合っているのだもの。そう言うことをしても良いとは思うけど……
 恥ずかしくて、素直に「はい」とは言い難いわ。
 どうしよう……
 困惑して黙っているとフェルが体を少し離し、顔を覗き込んでくる。
 
 「……ダメかな?」

 えっ!? ダメじゃない!! と、首を横に振って意思を示す。

 「それじゃ……良いかな?」

 今度は、首を縦に振り意思を示す。
 言葉で肯定するのはなんとなく恥ずかしい……
 もう聞かずにしてくれて構わないのにと思ってしまうのは、わがままかしら。

 ゆっくりと近付いてくるフェルの顔を見つめながら、心臓が飛び出てしまいそうな程、ドキドキしていた。
 今にも触れそうなタイミングで、ぎゅっと瞳を閉じる。
 その様子にフェルは「ふっ」と笑いをもらし、優しく口付けを落とした。

 口付けの後、恥ずかしくて顔を上げられない私は、フェルの胸に顔を埋めて帰路についた。

 ◆ ◆ ◆

 あの日からフェルとは、毎日おはようとおやすみの口付けをするようになった。
 普段から甘い雰囲気があったけれど、最近糖度が増してきた気がして、心臓が壊れてしまいそう。

 「フェル、こんなに私をドキドキさせてどうするのですか」

 「今のうちに慣れておかないと……初夜が心配かな」

 「初夜……っ!?」

 初夜!? 初夜ってあれよね?
 結婚式を挙げた後、夜に……フェルと一緒の部屋で寝るのよね?
 えーっと、一応閨については習ったわ……習ったけど……
 大丈夫かしら……今の状態で心臓壊れてしまいそうって言っているのに、初夜なんて……心臓止まってしまわないか心配だわ。
 
 「メルも心配になってきただろう?」

 「えぇ、そうですわね……」

 「じゃ、もう少し触れ合いを増やしていこうか」

 「触れ合いを……うー、恥ずかしいですが、その方が良さそうですね」

 「おいで」

 膝をポンと叩きながら「おいで」と言われ、素直にフェルの膝の上に座ると、「良い子だね」と額に口付けられた。
 
 「それじゃ……、今までの軽い口付けじゃなくて、深い口付けをしてみようか」

 「深い口付けですか?」

 「そう。口を少し開けてごらん。息を止めないで、ちゃんと鼻で息をするようにね」

 「えーっと? 分かりましたわ」
 
 どれくらい開ければ良いのかしら。少しって言ってたから、これくらいで良いかしら?
 そう思っていると、フェルの舌がするりと入ってきて、驚きのあまり立ち上がろうとしたが、腰をがっちり掴まれていて、身動きが取れなかった。
 どうしよう。息が……あれ、息ってどうするんだったかしら?
 混乱しすぎて、息の仕方を忘れて、頭がくらくらしてきたところで、フェルがゆっくりと体を離す。
 
 「メル、ゆっくり呼吸をしてごらん。さっき、鼻で息するようにって言ったけど、ちょっと混乱させちゃったみたいだね」

 「あのっ、嫌だったとかそう言うわけではないのですが……ちょっと自分でもどうして良いのか分からなくて……」

 「少し性急過ぎたね。もう少しゆっくりやっていこう」

 またこうやってフェルは、引いてくれる。
 はぁ、だめね。私、フェルに甘えすぎてるわ。
 フェルは、私のために、慣らしていこうとしてくれているのに。

 「いいえ、フェル。その、初めてだったから、混乱してしまったけれど、次からはこんなに混乱しないと思うの。だから……」

 「無理してないか?」

 「無理じゃないわ。私もそういう触れ合いに慣れて行きたいの」

 「……分かったよ。それじゃ、今日はもうしないけど、明日からおやすみの口付けは今みたいな感じにして良いかな?」

 「分かりましたわ。心構えしておきます」

 「ははっ、心構えか。そうだね。ちゃんと心構えしておくように」

 「はい」

 ちょっと口付けを深くしただけで、こんなに混乱していたら……初夜ではどうなってしまうのだろう……
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