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変なヤツ
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「わぁー!!」
沙羅は初めての景色に歓声を上げる。
遥か上空から見下ろす地上は、眩い光の線に区切られた抽象画だ。
少女は、それらを食い入るように見つめていたが
やがておもむろに
「そういえば、あなた様のお名前を聞いていないのですが……」
と言ってきた。
流彦は少しためらったあと、
「蓮杖、流彦だ」
と名乗った。偽名を使ったところで、これから行くのは自分の家だ。どうせバレる。
「れ、蓮杖!?」
その名を聞いて、少女は飛び上がった。
「蓮杖って、あの炉亜様と蹴陽さまとうる香様がおられる、あの蓮杖家ですか?」
「他に何があるって――」
流彦の声は、沙羅のキャアアアという悲鳴にかき消された。
「え、本当に?え、あダメダメああああほんとにムリムリムリ、あーダメしんどいあーぁヤバイー!」
「……」
何を言ってるんだ、と流彦は思ったが、別に蓮杖家に行くことを嫌がっているわけではないことは分かった。
なんというか、この話し方やテンションは聞き覚えがあったからだ。
特撮やアニメについて、オタク仲間と語り合って盛り上がっている(らしい)ときの蹴陽によく似ているのだ。
「はあ~、憧れの蓮杖家に行けるなんて幸せです~!」
そういって流彦の背中に手足を広げて倒れる沙羅の様子に、
「おい、落ちねえよう気を付けとけよ」
流彦は冷や汗をかきながら注意した。
「あぁ、夢のようです!!蹴陽様といえば、火廷直属の実力部隊“炎卓の騎士”のお一人として活躍しておいでですし、炉亜様は賢人会議“八火天”の護衛隊長10人の中に入っておられるではないですか。うる香様も期待の若手ともっぱらのご評判!そんなドリームファミリーとお会いできるなんて……」
そう早口でまくしたてていた沙羅だったが、ふと、
「でも他にもご子息がいらしたんですね」
と言った。
「……」
流彦なんて名前は初めて聞いた、というわけだ。
まぁ当然のことだろう。
偉大な両親と、小さい時から優秀な妹と比べれば、自分はみそっかすだ。
今更、自身の才能や境遇に不満は持たないが、それでも他人から見れば、氷龍一匹まともに相手できない者など、それこそ紋戴児同然の存在だろう。
「あ、もしかして流彦さま――」
何かに気づいた、という感じの沙羅の言葉に、心の隅がちくりと痛む。
軽蔑か。
憐れみか。
いずれにしろ、きっと湿っぽい感情を含んだ言葉を投げかけられるのだろう。
流彦がそう身構えていると――
「蹴陽様や炉亜様に成り代わってお仕事とかされてませんでした?」
「は?」
思いがけない言葉に、思わず流彦は振り返ってまじまじと見つめた。
そうでしょう?と言わんばかりの自信満々の笑みを浮かべた少女が鼻息を荒くしていた。
「いえ、だって、お二人のお仕事の記録を追っかけてたらもうすごい仕事量なんですよ。もぅこれを一人でやってるとか信じられないことがあって、友達とも話してたんですけどこれ絶対影武者いるよねって。もぉ先月なんかこんなに移動して涼しい顔してるってありえないからって」
興奮して再び早口になっている沙羅。
「……ハハッ」
と流彦は苦笑した。
沙羅とあってから初めて漏らした笑いだった。
「確かに、親父やお袋に変身することはできる。けど、能力まではコピーできねぇからな。影武者なんてやったことねぇよ」
流彦の言葉に、「え」と沙羅は絶句し、続いて「んあー」とため息を漏らした。
「そうなんですかぁ。いい推理だと思ったんですけど」
少女は心底がっかりしているようだった。
「そんな素っ頓狂なことを考える奴に会ったのは初めてだよ」
「そうですか?影武者とか入れ替わりとか鉄板ネタじゃないですか!?」
「なんのネタだよ……」
アニメやゲームじゃねぇんだっての、と窘めて前方に目を凝らす。
「さぁ、もうすぐ俺ん家だ。一気に降りるから気をつけろよ」
「あ、はい!」
沙羅は流彦の首元の羽毛をきゅっと掴む。
その小さな手から伝わる体温は、先ほどよりもなぜか温かく感じられた・・・・・・
既に市街地は大きく離れて、山岳地帯に入ってきている。
雪明かりでようやく山の形が分かる程に薄暗い。
目を凝らして遥か彼方を見据えながら飛んでいくと、彼方に、小高い台地が見える。
その上に浮かぶ二つの光。
それは、蛍のように飛び回り、時にぶつかりながら眩いばかりの火花を散らしている。
蹴陽とうる香だ。
確かに、「いつも」の喧嘩よりも動きが激しいと感じる。
「急ぐぞ」
流彦は翼をせばめると、矢のようにそちらへと飛んだ。
沙羅は初めての景色に歓声を上げる。
遥か上空から見下ろす地上は、眩い光の線に区切られた抽象画だ。
少女は、それらを食い入るように見つめていたが
やがておもむろに
「そういえば、あなた様のお名前を聞いていないのですが……」
と言ってきた。
流彦は少しためらったあと、
「蓮杖、流彦だ」
と名乗った。偽名を使ったところで、これから行くのは自分の家だ。どうせバレる。
「れ、蓮杖!?」
その名を聞いて、少女は飛び上がった。
「蓮杖って、あの炉亜様と蹴陽さまとうる香様がおられる、あの蓮杖家ですか?」
「他に何があるって――」
流彦の声は、沙羅のキャアアアという悲鳴にかき消された。
「え、本当に?え、あダメダメああああほんとにムリムリムリ、あーダメしんどいあーぁヤバイー!」
「……」
何を言ってるんだ、と流彦は思ったが、別に蓮杖家に行くことを嫌がっているわけではないことは分かった。
なんというか、この話し方やテンションは聞き覚えがあったからだ。
特撮やアニメについて、オタク仲間と語り合って盛り上がっている(らしい)ときの蹴陽によく似ているのだ。
「はあ~、憧れの蓮杖家に行けるなんて幸せです~!」
そういって流彦の背中に手足を広げて倒れる沙羅の様子に、
「おい、落ちねえよう気を付けとけよ」
流彦は冷や汗をかきながら注意した。
「あぁ、夢のようです!!蹴陽様といえば、火廷直属の実力部隊“炎卓の騎士”のお一人として活躍しておいでですし、炉亜様は賢人会議“八火天”の護衛隊長10人の中に入っておられるではないですか。うる香様も期待の若手ともっぱらのご評判!そんなドリームファミリーとお会いできるなんて……」
そう早口でまくしたてていた沙羅だったが、ふと、
「でも他にもご子息がいらしたんですね」
と言った。
「……」
流彦なんて名前は初めて聞いた、というわけだ。
まぁ当然のことだろう。
偉大な両親と、小さい時から優秀な妹と比べれば、自分はみそっかすだ。
今更、自身の才能や境遇に不満は持たないが、それでも他人から見れば、氷龍一匹まともに相手できない者など、それこそ紋戴児同然の存在だろう。
「あ、もしかして流彦さま――」
何かに気づいた、という感じの沙羅の言葉に、心の隅がちくりと痛む。
軽蔑か。
憐れみか。
いずれにしろ、きっと湿っぽい感情を含んだ言葉を投げかけられるのだろう。
流彦がそう身構えていると――
「蹴陽様や炉亜様に成り代わってお仕事とかされてませんでした?」
「は?」
思いがけない言葉に、思わず流彦は振り返ってまじまじと見つめた。
そうでしょう?と言わんばかりの自信満々の笑みを浮かべた少女が鼻息を荒くしていた。
「いえ、だって、お二人のお仕事の記録を追っかけてたらもうすごい仕事量なんですよ。もぅこれを一人でやってるとか信じられないことがあって、友達とも話してたんですけどこれ絶対影武者いるよねって。もぉ先月なんかこんなに移動して涼しい顔してるってありえないからって」
興奮して再び早口になっている沙羅。
「……ハハッ」
と流彦は苦笑した。
沙羅とあってから初めて漏らした笑いだった。
「確かに、親父やお袋に変身することはできる。けど、能力まではコピーできねぇからな。影武者なんてやったことねぇよ」
流彦の言葉に、「え」と沙羅は絶句し、続いて「んあー」とため息を漏らした。
「そうなんですかぁ。いい推理だと思ったんですけど」
少女は心底がっかりしているようだった。
「そんな素っ頓狂なことを考える奴に会ったのは初めてだよ」
「そうですか?影武者とか入れ替わりとか鉄板ネタじゃないですか!?」
「なんのネタだよ……」
アニメやゲームじゃねぇんだっての、と窘めて前方に目を凝らす。
「さぁ、もうすぐ俺ん家だ。一気に降りるから気をつけろよ」
「あ、はい!」
沙羅は流彦の首元の羽毛をきゅっと掴む。
その小さな手から伝わる体温は、先ほどよりもなぜか温かく感じられた・・・・・・
既に市街地は大きく離れて、山岳地帯に入ってきている。
雪明かりでようやく山の形が分かる程に薄暗い。
目を凝らして遥か彼方を見据えながら飛んでいくと、彼方に、小高い台地が見える。
その上に浮かぶ二つの光。
それは、蛍のように飛び回り、時にぶつかりながら眩いばかりの火花を散らしている。
蹴陽とうる香だ。
確かに、「いつも」の喧嘩よりも動きが激しいと感じる。
「急ぐぞ」
流彦は翼をせばめると、矢のようにそちらへと飛んだ。
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