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第一章 初心者の躍動
第4話 チュートリアル
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1日経って今日、ついに昼過ぎにAOが正式にサービスが開始される。
おかげで朝から大忙しで家事を全て終わらせ、昨日の教訓から久々に晩御飯は出前を事前に予約注文しておいた。
ちなみに部活の為に出かけた夏輝は『俺も帰ってきたらすぐに行くから!絶対に2人だけで楽しむなよ⁉』と叫びながら走って行った。
それを見送った俺と夏帆はどちらも頷く事はなく、悪戯っぽい笑みを浮かべて目配せをした。
「言うこと聞くわけないっての」
「だよね~」
当たり前に夏樹を待ってやるつもりなんてなかった。それだけに俺と夏帆はお互いにすぐに分かれて課題なんかのめんどう事を素早く片付ける事を優先した。
おかげで昼前にはやる事も終わって問題なくゲームに集中できる状況になっていた。
「18時半にはリビング来いよ」
「わかってる~」
出前を予約した時間は19時だけど、その前には終わらせておかないと絶対食事忘れてのめり込むから念のために注意した。でも、夏帆の返事を聞く限りは効果はなさそうだ。
ただ俺もちゃんと切り上げられる自身はないからタイマー機能で時間に成ったら知らせてくれるようにはしてある。
「さて、やりますか」『リンク・オン』
――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――
「昨日ぶりですね!ナギさん‼」
そしてログインしてすぐの目の前に居たのは昨日も見た案内妖精のスターリィの顔だった。
ただ端に見える景色はキャラ作成の白い空間とは違って草原になっていた。その事が無性に気にはなったけど、一先ずは目の前で楽しそうに笑っているスターリィの相手が優先だろうな。
「あぁ、今日もよろしく頼むよ」
「はい!まっかせて下さい‼」
頼られることが嬉しいのかスターリィは満面の笑顔で胸を張る。その姿に少し微笑ましく気が緩みそうになるけど我慢だな。
「それで今日は何をすればいいのかな?」
「今日はチュートリアルです!持っているスキルの使い方を覚える感じです」
「なるほど、理解した」
前日までに初期のステータスなどを決めたからこそのチュートリアルって感じだな。
戦闘は自前の技術で補えるとは思うけど、ゲームとしてのシステム的特性は俺もわからないから助かる。
「では、まずは火魔術からにしましょう!」
そう楽しそうにスターリィが言うと何もなかったはずの草原に案山子が現れた。
案山子は等間隔に並んでいて顔の部分には的のような円が描かれている。ようするに的ってことだな。
「あの案山子に向かって撃てばいいのか?」
「はい!最初の魔術系は『○○ボール』『○○ウォール』の2つが使えるようになってるんです。なのでナギさんは『ファイヤーボール』と『ファイヤーウォール』になりますね‼」
「なるほど、わかった」
「え?」
スターリィの話を聞いて昨日から漠然と感じていたスキルの使い方がイメージできた。
現実では味わいようのない感覚に興奮を抑えられない俺は早速とばかりに試してみる事にした。
「こうして…こうか」『ファイヤーボール』
すると突き出した手の先にサッカーボールほどの大きさの火の玉が現れ、案山子目掛けて放たれた。
案山子に直撃した火の玉は当たると同時に破裂して炎を撒き散らす。そして案山子は当たった頭部が焦げてなくなっていた。
「おぉ…結構迫力あるな」
「な、なん…」
「でも、感覚的にもう少し工夫もできそうなんだよな。もう一度」
「なんで使えてるんですか――⁉」
「うぉ⁉」
もう一度試そうとすると急にスターリィが慌てて顔の前に飛び出してきたので中断する事になった。
ただ何を慌てているのかは分からなかった。
「何で使えるのかって、今ってそう言う時間だろ?」
「そうなんですけどっ!そうじゃなくて‼普通は私が説明してから使い方を理解できるはずなんですよっ」
「へぇ~でも普通にできたぞ」『ファイヤーボール』
証明するように手を突き出して火球を放つが、先ほどの物とは違いサッカーボールより一回り小さく圧縮してあった。
それが案山子に当たると『ドォ――ンッ!!』とより強い爆発を起こして案山子の上半身を弾け飛ばした。
破片がパラパラと落ちてくる中でスターリィは案山子のあった場所を見て唖然としていた。
「な、え…は?」
「う~ん…もう少し行けそうな気がするんだけど、現状だとこれが精一杯かな」
個人的には跡形もなく吹き飛ばせるほどの威力を目指していたんだけど、なんか圧縮している途中で遮るものがあるように操作ができなくなった。おそらくスキルレベルなんかによる限界値ってことなんだろうけど悔しいと感じてしまうのは仕方のない事だと思う。
そうして俺が考察している間にスターリィも意識がッきりとしてきたようでものすごい勢いで問めてくる。
「どうなっているんですかナギさん⁉」
「え、なにが?」
「なんで初心者の貴方があんな高威力のファイヤーボールが使えるんですか⁉意味が分かりませんよ‼」
「そう言われてもな。大したことはしていないぞ?圧縮すれば威力が上がりそうだと感じたから、なんとなくで試したら…できた」
「そんな簡単に言わないでください!本来ならチュートリアルの後にクエストをこなしながら身に付ける技術をなんで!?」
個人的には大したことをしたつもりはなかったけれどスターリィの反応を見る限り普通ではなかったようだ。
詳しく説明してもらったことを要約すると『魔術系スキルはプレイヤーが普段するような動きとは別の認識が必要になる。スキルのアシストがあるので常人でも発動はできるが、最初から威力の調整までできる者はまずいない』という事だった。
「なるほどな。でも、感じる事が出来るんなら操ることもできるのは普通じゃないか?」
「本来は感覚を掴んでから徐々に練習するんですってば!少なくともチュートリアルで圧縮をしようとした人はいません!」
「マジか…」
人とズレていると言われることは多いけど、まさか仮想現実の世界でも言われることになるとはおもっていなかった。ただ魔術の操作事態はいずれ他の者もできる可能性があるようだし必要以上に隠す必要はないようでよかった。
変に隠すことが増えると動きずらくなる一方だからな。
そうして説明を理解する事ができると俺としては早く次に移りたかった。
「説明はわかったから、もう一つの魔術を試していいか?」
「…はぁ、いいですよ。もう好きにしてください」
「よし!えっと、こうして…こう」『ファイヤーウォール』
一応の許可を取ってから次の魔術を試す。
発動すると前方約3mに炎の壁が現れた。目算に成るが高さ2.5m・横が約4m・厚さ約50㎝ってところで、適当な落ちていた石を投げるとしたから吹き上がる炎の勢いで弾き飛ばされた。
今度は全力で投げ入れると炎に飲み込まれて貫通する前に威力が殺されて落ちてしまう。
そして発動から5秒ほどで炎の壁は勢いを弱めて消えた。
「これは結構有用だな。でも、地面が焦げている所を見ると植物の多い所だと使うのは危険か…」『ファイアウォール』
発動跡を見て少し考察してから、もう一度発動する。
先ほどのファイヤーボールと同じように圧縮して強度を上げるようなイメージで使用したが大きく変化はなかった。近くに落ちていた石を同じように投げてみたけど結果も同じだった。
「操作できている感覚はあるけどなんでだ?」
「防御系の術は圧縮による強化は効率がわるいんですよ」
「どういうことだ?」
「はぁ…本当は私の担当じゃないんですけど…」
疲れたように話すスターリィだったがなんだかんだ言いながら説明をしてくれるようだった。
「攻撃系の魔術は圧縮する事で解放時の威力が増すんです。でも、防御系魔術は圧縮しようとしても強度を上げられるほどに圧縮するにはスキルレベル5でようやく実用的と言えるでしょう」
「そう言う感じか…」
「なので防御系の魔術を改変したいなら消費MPを増やすイメージでやると良いです」
「ふむ、試すか…」『ファイヤーウォール』
言われたようにイメージして使用すると先ほどまで以上に強く炎が噴き出して範囲もすべてが1割り増しほどになっていた。
「おぉ~~!こんな感じか」
「な~んで一回でやれるんですか。もう他のスキルも説明いらないんじゃないですか?」
「いや、さすがに一度は説明してくれないと困る」
確かに俺の物事の習得速度は速いとは思う。けれど0から何かをできるようになるのは無理だ。
事前知識としての説明があればそこから発展させることはできるんだけどな。
「まぁ~説明するのが仕事ですからやりますよ!」
「頼みます‼」
どこか不貞腐れているようにも見えるけどスターリィは最後には笑顔で説明を再開してくれた。
説明を大雑把にまとめると、基本的にスキルは『物理系・魔法系・採取系・生産系』の4系統に分ける事が出来て、魔術スキルは魔法系の1つだと言う。
そして次に教えるのは採取系なんだそうだ。
「その何とか系って普通最初に説明しないか?」
「仕方ないじゃないですか。少し張り切りすぎて忘れちゃったんですよっ」
「まぁ…そう言う事なら仕方ないか。で?採取系ってどう使えばいいんだ?」
「採取系は基本的には常時発動型《パッシブ・スキル》という物になります。ナギさんの場合だと採掘・採取・伐採の3つですから、そこらへんを見ていて光っているように見える場所はないですか?」
スターリィに言われ周囲を見渡してみると草原の中に光っている場所を見つけた。
光っている場所へと近づいて触れてみるとピコン‼と機械音が鳴って『薬草×2を手に入れた』と表示が現れた。
「こうなるのか」
「チュートリアル中は薬草が採取できるようになってるんですけど…さすがに違う物を採取してたりしませんよね?」
「薬草2個って表示されたな」
「では問題ないですね‼」
採取された物を聞いたスターリィは今日一番の良い笑顔を浮かべていた。
ここまで露骨に嬉しそうにされると何とも言えない気持ちになるけれど自分が混乱させていたのはわかっているから何も言えない。
それから続けて伐採と採掘なわけだけど道具が必要だった。
「採取はステータスのDEXとLUCの値次第で決まります。同じく伐採と採掘にもステータスの数値が影響しますけど、同時に斧やツルハシで叩く時の動きなどの判定次第で品質に影響が出ます」
「つまり、丁寧にやらないとゴミになるってことか…理解した」
「斧とツルハシは初級の物が配られているはずですから、それを使ってください」
「わかった」
言われて自分の持ち物を確認すると、初級と書かれたアイテムが幾つか入っていた。
他のも見てみたい気持ちはあったけど今回は諦め、言われた通りに斧とツルハシを取り出した。すると近くの岩や木に薬草を採取した時と同じような光点が現れた。
最初に近くにあった木に斧を振るうと光点の位置が少し移動した。
それに合わせて微調整しながら10回ほど斧を振るうと木が倒れて目の前に『木材×5を入手した』というメッセージが現れた。
同じように岩にツルハシを振るうと今度は光の強さが変わった。
なんとなく光の強さに合わせて力の強弱を合わせると感覚的に上手くいっているか、反対にミスしたかがよく分かった。そして『石×3と銅鉱石×2を手に入れた』と出ていた。
「おぉ~初めてで鉱石2つも無事に入手できるなんてすごいですね」
「いや、体感だったけど次はもっといける気がする」
「そう言うのは後回しでお願いしますね?一向におわらないですかね」
「わかってるよ」
さすがに自分の事に集中し続ける癖がバレてしまっているのでスターリィに少しくぎを刺されてしまった。
これ以上の時間の浪費は俺としても良くないし、大人しく従ってチュートリアルを進めていく。残りは別に難しいことはなかったので少し説明を聞いて、その通りに実行するだけで終わった。
「説明がうまくて助かったよ」
「あんまり仕事をした気はしませんけど、お礼を言われて悪い気はしませんね」
どこか釈然としない様子ではあったがスターリィは少し嬉しそうにしていた。
でも、本当に俺としても説明をしてくれる存在はありがたかった。おかげで手探りでやるよりも大幅に時間を短縮する事が出来た。
「では、もうお別れになります」
「そうか…少し残念ではあるな」
「ふふふ!また機会があれば会う事が出来ますよ」
「なら楽しみに待つとするよ」
「はい!その時まで元気に、この世界を楽しんでください‼」
笑顔のスターリィを最後に光に包まれ、視界が開けた時にはまるで中世にタイムスリップしたかのような石畳の街の中へと立っていた。
おかげで朝から大忙しで家事を全て終わらせ、昨日の教訓から久々に晩御飯は出前を事前に予約注文しておいた。
ちなみに部活の為に出かけた夏輝は『俺も帰ってきたらすぐに行くから!絶対に2人だけで楽しむなよ⁉』と叫びながら走って行った。
それを見送った俺と夏帆はどちらも頷く事はなく、悪戯っぽい笑みを浮かべて目配せをした。
「言うこと聞くわけないっての」
「だよね~」
当たり前に夏樹を待ってやるつもりなんてなかった。それだけに俺と夏帆はお互いにすぐに分かれて課題なんかのめんどう事を素早く片付ける事を優先した。
おかげで昼前にはやる事も終わって問題なくゲームに集中できる状況になっていた。
「18時半にはリビング来いよ」
「わかってる~」
出前を予約した時間は19時だけど、その前には終わらせておかないと絶対食事忘れてのめり込むから念のために注意した。でも、夏帆の返事を聞く限りは効果はなさそうだ。
ただ俺もちゃんと切り上げられる自身はないからタイマー機能で時間に成ったら知らせてくれるようにはしてある。
「さて、やりますか」『リンク・オン』
――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――
「昨日ぶりですね!ナギさん‼」
そしてログインしてすぐの目の前に居たのは昨日も見た案内妖精のスターリィの顔だった。
ただ端に見える景色はキャラ作成の白い空間とは違って草原になっていた。その事が無性に気にはなったけど、一先ずは目の前で楽しそうに笑っているスターリィの相手が優先だろうな。
「あぁ、今日もよろしく頼むよ」
「はい!まっかせて下さい‼」
頼られることが嬉しいのかスターリィは満面の笑顔で胸を張る。その姿に少し微笑ましく気が緩みそうになるけど我慢だな。
「それで今日は何をすればいいのかな?」
「今日はチュートリアルです!持っているスキルの使い方を覚える感じです」
「なるほど、理解した」
前日までに初期のステータスなどを決めたからこそのチュートリアルって感じだな。
戦闘は自前の技術で補えるとは思うけど、ゲームとしてのシステム的特性は俺もわからないから助かる。
「では、まずは火魔術からにしましょう!」
そう楽しそうにスターリィが言うと何もなかったはずの草原に案山子が現れた。
案山子は等間隔に並んでいて顔の部分には的のような円が描かれている。ようするに的ってことだな。
「あの案山子に向かって撃てばいいのか?」
「はい!最初の魔術系は『○○ボール』『○○ウォール』の2つが使えるようになってるんです。なのでナギさんは『ファイヤーボール』と『ファイヤーウォール』になりますね‼」
「なるほど、わかった」
「え?」
スターリィの話を聞いて昨日から漠然と感じていたスキルの使い方がイメージできた。
現実では味わいようのない感覚に興奮を抑えられない俺は早速とばかりに試してみる事にした。
「こうして…こうか」『ファイヤーボール』
すると突き出した手の先にサッカーボールほどの大きさの火の玉が現れ、案山子目掛けて放たれた。
案山子に直撃した火の玉は当たると同時に破裂して炎を撒き散らす。そして案山子は当たった頭部が焦げてなくなっていた。
「おぉ…結構迫力あるな」
「な、なん…」
「でも、感覚的にもう少し工夫もできそうなんだよな。もう一度」
「なんで使えてるんですか――⁉」
「うぉ⁉」
もう一度試そうとすると急にスターリィが慌てて顔の前に飛び出してきたので中断する事になった。
ただ何を慌てているのかは分からなかった。
「何で使えるのかって、今ってそう言う時間だろ?」
「そうなんですけどっ!そうじゃなくて‼普通は私が説明してから使い方を理解できるはずなんですよっ」
「へぇ~でも普通にできたぞ」『ファイヤーボール』
証明するように手を突き出して火球を放つが、先ほどの物とは違いサッカーボールより一回り小さく圧縮してあった。
それが案山子に当たると『ドォ――ンッ!!』とより強い爆発を起こして案山子の上半身を弾け飛ばした。
破片がパラパラと落ちてくる中でスターリィは案山子のあった場所を見て唖然としていた。
「な、え…は?」
「う~ん…もう少し行けそうな気がするんだけど、現状だとこれが精一杯かな」
個人的には跡形もなく吹き飛ばせるほどの威力を目指していたんだけど、なんか圧縮している途中で遮るものがあるように操作ができなくなった。おそらくスキルレベルなんかによる限界値ってことなんだろうけど悔しいと感じてしまうのは仕方のない事だと思う。
そうして俺が考察している間にスターリィも意識がッきりとしてきたようでものすごい勢いで問めてくる。
「どうなっているんですかナギさん⁉」
「え、なにが?」
「なんで初心者の貴方があんな高威力のファイヤーボールが使えるんですか⁉意味が分かりませんよ‼」
「そう言われてもな。大したことはしていないぞ?圧縮すれば威力が上がりそうだと感じたから、なんとなくで試したら…できた」
「そんな簡単に言わないでください!本来ならチュートリアルの後にクエストをこなしながら身に付ける技術をなんで!?」
個人的には大したことをしたつもりはなかったけれどスターリィの反応を見る限り普通ではなかったようだ。
詳しく説明してもらったことを要約すると『魔術系スキルはプレイヤーが普段するような動きとは別の認識が必要になる。スキルのアシストがあるので常人でも発動はできるが、最初から威力の調整までできる者はまずいない』という事だった。
「なるほどな。でも、感じる事が出来るんなら操ることもできるのは普通じゃないか?」
「本来は感覚を掴んでから徐々に練習するんですってば!少なくともチュートリアルで圧縮をしようとした人はいません!」
「マジか…」
人とズレていると言われることは多いけど、まさか仮想現実の世界でも言われることになるとはおもっていなかった。ただ魔術の操作事態はいずれ他の者もできる可能性があるようだし必要以上に隠す必要はないようでよかった。
変に隠すことが増えると動きずらくなる一方だからな。
そうして説明を理解する事ができると俺としては早く次に移りたかった。
「説明はわかったから、もう一つの魔術を試していいか?」
「…はぁ、いいですよ。もう好きにしてください」
「よし!えっと、こうして…こう」『ファイヤーウォール』
一応の許可を取ってから次の魔術を試す。
発動すると前方約3mに炎の壁が現れた。目算に成るが高さ2.5m・横が約4m・厚さ約50㎝ってところで、適当な落ちていた石を投げるとしたから吹き上がる炎の勢いで弾き飛ばされた。
今度は全力で投げ入れると炎に飲み込まれて貫通する前に威力が殺されて落ちてしまう。
そして発動から5秒ほどで炎の壁は勢いを弱めて消えた。
「これは結構有用だな。でも、地面が焦げている所を見ると植物の多い所だと使うのは危険か…」『ファイアウォール』
発動跡を見て少し考察してから、もう一度発動する。
先ほどのファイヤーボールと同じように圧縮して強度を上げるようなイメージで使用したが大きく変化はなかった。近くに落ちていた石を同じように投げてみたけど結果も同じだった。
「操作できている感覚はあるけどなんでだ?」
「防御系の術は圧縮による強化は効率がわるいんですよ」
「どういうことだ?」
「はぁ…本当は私の担当じゃないんですけど…」
疲れたように話すスターリィだったがなんだかんだ言いながら説明をしてくれるようだった。
「攻撃系の魔術は圧縮する事で解放時の威力が増すんです。でも、防御系魔術は圧縮しようとしても強度を上げられるほどに圧縮するにはスキルレベル5でようやく実用的と言えるでしょう」
「そう言う感じか…」
「なので防御系の魔術を改変したいなら消費MPを増やすイメージでやると良いです」
「ふむ、試すか…」『ファイヤーウォール』
言われたようにイメージして使用すると先ほどまで以上に強く炎が噴き出して範囲もすべてが1割り増しほどになっていた。
「おぉ~~!こんな感じか」
「な~んで一回でやれるんですか。もう他のスキルも説明いらないんじゃないですか?」
「いや、さすがに一度は説明してくれないと困る」
確かに俺の物事の習得速度は速いとは思う。けれど0から何かをできるようになるのは無理だ。
事前知識としての説明があればそこから発展させることはできるんだけどな。
「まぁ~説明するのが仕事ですからやりますよ!」
「頼みます‼」
どこか不貞腐れているようにも見えるけどスターリィは最後には笑顔で説明を再開してくれた。
説明を大雑把にまとめると、基本的にスキルは『物理系・魔法系・採取系・生産系』の4系統に分ける事が出来て、魔術スキルは魔法系の1つだと言う。
そして次に教えるのは採取系なんだそうだ。
「その何とか系って普通最初に説明しないか?」
「仕方ないじゃないですか。少し張り切りすぎて忘れちゃったんですよっ」
「まぁ…そう言う事なら仕方ないか。で?採取系ってどう使えばいいんだ?」
「採取系は基本的には常時発動型《パッシブ・スキル》という物になります。ナギさんの場合だと採掘・採取・伐採の3つですから、そこらへんを見ていて光っているように見える場所はないですか?」
スターリィに言われ周囲を見渡してみると草原の中に光っている場所を見つけた。
光っている場所へと近づいて触れてみるとピコン‼と機械音が鳴って『薬草×2を手に入れた』と表示が現れた。
「こうなるのか」
「チュートリアル中は薬草が採取できるようになってるんですけど…さすがに違う物を採取してたりしませんよね?」
「薬草2個って表示されたな」
「では問題ないですね‼」
採取された物を聞いたスターリィは今日一番の良い笑顔を浮かべていた。
ここまで露骨に嬉しそうにされると何とも言えない気持ちになるけれど自分が混乱させていたのはわかっているから何も言えない。
それから続けて伐採と採掘なわけだけど道具が必要だった。
「採取はステータスのDEXとLUCの値次第で決まります。同じく伐採と採掘にもステータスの数値が影響しますけど、同時に斧やツルハシで叩く時の動きなどの判定次第で品質に影響が出ます」
「つまり、丁寧にやらないとゴミになるってことか…理解した」
「斧とツルハシは初級の物が配られているはずですから、それを使ってください」
「わかった」
言われて自分の持ち物を確認すると、初級と書かれたアイテムが幾つか入っていた。
他のも見てみたい気持ちはあったけど今回は諦め、言われた通りに斧とツルハシを取り出した。すると近くの岩や木に薬草を採取した時と同じような光点が現れた。
最初に近くにあった木に斧を振るうと光点の位置が少し移動した。
それに合わせて微調整しながら10回ほど斧を振るうと木が倒れて目の前に『木材×5を入手した』というメッセージが現れた。
同じように岩にツルハシを振るうと今度は光の強さが変わった。
なんとなく光の強さに合わせて力の強弱を合わせると感覚的に上手くいっているか、反対にミスしたかがよく分かった。そして『石×3と銅鉱石×2を手に入れた』と出ていた。
「おぉ~初めてで鉱石2つも無事に入手できるなんてすごいですね」
「いや、体感だったけど次はもっといける気がする」
「そう言うのは後回しでお願いしますね?一向におわらないですかね」
「わかってるよ」
さすがに自分の事に集中し続ける癖がバレてしまっているのでスターリィに少しくぎを刺されてしまった。
これ以上の時間の浪費は俺としても良くないし、大人しく従ってチュートリアルを進めていく。残りは別に難しいことはなかったので少し説明を聞いて、その通りに実行するだけで終わった。
「説明がうまくて助かったよ」
「あんまり仕事をした気はしませんけど、お礼を言われて悪い気はしませんね」
どこか釈然としない様子ではあったがスターリィは少し嬉しそうにしていた。
でも、本当に俺としても説明をしてくれる存在はありがたかった。おかげで手探りでやるよりも大幅に時間を短縮する事が出来た。
「では、もうお別れになります」
「そうか…少し残念ではあるな」
「ふふふ!また機会があれば会う事が出来ますよ」
「なら楽しみに待つとするよ」
「はい!その時まで元気に、この世界を楽しんでください‼」
笑顔のスターリィを最後に光に包まれ、視界が開けた時にはまるで中世にタイムスリップしたかのような石畳の街の中へと立っていた。
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