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しおりを挟む良く晴れた休日。
王都の大通りは今日も人が溢れ、彼方此方から呼び込みの声が聞こえる。その声に釣られて店先から店内を覗き込めば、試食だよと果物を一切れ差し出された。それを有難く手にして口に放り込むと瑞々しい果汁が溢れてくる。
帰り際に買うと約束して店を後にし、ぶらぶらと大通りを見て歩いていた。
「シン、何処か寄りたいところはないか?」
俺の腰に腕を回して隣を歩くギルは終始爽やかな笑顔を浮かべて通り過ぎる人々の目を惹き付けていた。反対側の俺の隣には、手を繋いだレイドの姿が。笑顔は浮かべていないが、その表情はとても穏やかでギルと同じように道行く人々を魅了している。
先日の仕事中のギルの奇行の後。彼の私室でデートについてレイドも交えて話した結果、初めの内は1人ずつ順番にデートするという話で纏まりつつあった。が、やっぱり俺は2人と一緒に行きたくて必殺・キャラじゃないけど上目遣いを発動させてもらった。
結果、3人でのデートに決まったのだ。
正直、デートなんてものをしなくても3人で過ごせるだけで満足だったのだが、いざ出掛けてみるとやはり楽しい。
そこまで娯楽が多いわけではないこの世界では、服飾品を見て回り食事をしてデートというものは終わる。時折イベントなどが開催され、それを観たりするのもあるらしい。
劇や歌など芸術的センスのかけらも無い俺が観てもさっぱりなので、こうして様々な店を見て回りあーでもないこーでもないと話したり笑い合ったりする方がいい。
「…疲れていないか?」
俺の手を握るレイドが僅かに距離を縮めて問うてくる。俺は緩く頭を左右に振って軽く笑いかけた。
「大丈夫。レイドは?疲れてねぇ?」
俺の問い掛けに目元を和らげて頷くだけに止めたレイド。すると、俺の腰を抱いていた腕に僅かに力が込められ次いで髪に触れられる何か。
「俺には聞いてくれないのか?」
頭上から尋ねられると声を発した本人を軽く見上げて答えの分かりきった質問をする。
「全く…。ギルは疲れてねぇ?」
尋ねられた本人は、殊更嬉しそうに笑みを浮かべて大丈夫だと返事を返した。
暫くの間は大通りの出店や店舗を覗いていた。
ギルやレイドが服や装飾品を俺に買おうとするので、断るのに大変な労力を要する。
立派な服を買っても着る機会はないし、装飾品を貰っても仕事柄身に付けられるとは思えない。
あれこれと買い与えようとする2人に断りを入れると、物欲が無いなと呆れられてしまった。
「物を買って貰うよりも、こうやって一緒にいる時間の方が俺には大切なの」
反論するように2人の顔を交互に見つめながら言ったら、物凄く嬉しそうに笑顔を浮かべて大通りだというのに2人から熱い抱擁をプレゼントされた。
熱い抱擁で厚い胸板に押し潰され蛙が潰れた声を出してしまったのは何時もの事である。
デートというよりはただ街をぶらぶらと練り歩くだけのようなものだったが、それでも3人で過ごせるのは楽しくあっと言う間に時間が過ぎる。
夕食は宿舎に戻って食べたいという俺のリクエストを快諾してくれた2人と、買うと約束した果物を買って宿舎へ戻る。
「こうやって過ごすのも良いもんだな。またデートしようか」
「次は順番にデートしよう」
「独り占めも…したい」
まだ言ってたか。
2人の言葉に笑いつつ頷く。
確かに、3人で過ごすのも良いがそれぞれとゆっくり過ごすのも良い。
俺は2人に約束をする。
何かしたわけじゃないけど、楽しかった。
満足げに笑顔を浮かべた俺を見て、2人もまた嬉しそうな笑顔を浮かべた。
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