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しおりを挟む「団長、下ろして下さい」
「嫌だ」
「書類がどんどん溜まってますよ?」
「シンが頷くまで絶対に手を付けない」
「何子供みたいな事言ってるんですか。いいから、下ろして下さい」
「絶対に嫌だ」
ーーーーーーーーーー
そろそろ魔道具に魔力を通さないとならない時間帯。明るかった室内はじわじわと夕陽色に染まり、書類にペンを走らせていた手元は徐々に闇に飲まれていく。
午後の業務も残り僅かな時だった。
団長室の執務机で書類処理をしているギルに呼ばれ、執務机の前に立つ。だが彼は更に近付くようにと手招きし、俺は仕方なく執務机を回り込んでギルの隣に立った。その途端、ペンを投げ出したギルに腰を抱き込まれて膝の上に向かい合って座らされガッチリと身体を抱き込まれた。俺よりも遙かに力のあるギルに雁字搦めにも近い形で拘束されては手も足も出ない。
「ちょっ、何してるんですか?!」
一応、まだ仕事中なのだ。いくら恋人とは言え、公私混同は良くない。団長室にはギルと俺しか居ないが、まだ仕事中でいつ誰が来るか分からない。俺は無駄だと分かりつつもジタバタと抵抗する。
「シンに話したい事があるんだが…」
俺の抵抗を物ともせずにギルが口を開く。俺は尚も腕から逃れようともがく。
「離し、てくれたら…っ聞きます…!」
「嫌だ」
一向に緩まない腕の力に抵抗を諦める。が、説得は続ける。
話したい事があるならば何も今でなくてもいいのではないか。
「話なら聞きますから、離して下さい」
「このまま聞いて欲しい」
真剣な声音で言われると、何かしらの命が下されたのかと思ってしまう。だが、現在の状態で離すには不自然だ。
「このままの状態で聞く理由は?」
「俺がそうしたいからだっ」
仕事用の「私」ではなく、俺という言い回しとその理由…。明らかに私情であるのを確認してジトリと睨む。
「団長、今はまだ業務時間です。終わるまで待てないんですか?」
若干、怒気を孕みつつ告げるとギルは多少たじろいだだけで離してはくれない。
俺は深く息を吐き出して早く話を聞いてしまおうとギルの顔を見上げる。
「分かりました。話を聞きます。でも腕の力を少し緩めて下さい。苦しいです」
苦しい、と告げた途端に腕の力が弱まる。本当は苦しくはないが、こうでも言わなければいざという時動けない。
「ありがとうございます。……それで?話というのは?」
密着していた身体を離して姿勢を正し、見上げる形から真正面で対峙するように見つめる。
「シン、今度の休みにデートしよう!」
真正面から俺の瞳を見つめこの上なく爽やかな笑顔を振りまきつつ、さも名案だと言わんばかりのドヤ顔に色々ツッコミ所満載である。
「……分かりました、いいですよ。さぁ、離して下さい」
色々言いたいことはあるが、まだ仕事が残っているのだ。ギルが処理した書類を分類分けして各部署に届けたり、逆に団長室へ届けたり。そう言えば意見を聞きたいからとヒースにも呼ばれていたな、等と離してもらった後の仕事の段取りを確認して解放されるのを待つ。
だが、待てど暮らせどギルの腕は俺の身体から離れない。
「団長?離して下さい」
目の前の男に目をやれば、可哀相な程にしょんぼりとしょげている。
何故だ。
「どうしたんですか?」
「……もっと喜んでくれるかと思っていた…」
マジふざけんな。
など思いつつ表には出さない。顔を上げさせて悲しそうに揺らめくエメラルドグリーンの瞳を見つめた。
「きちんと仕事が終わってて、ギルの部屋でこの話を聞いてたら喜んだけどな?ギルは第三の団長なんだから仕事中に私情を挟んじゃダメだろ?仕事が終わらなかったからギルと過ごせないなんて嫌だからな、俺は」
そう言って額に軽く唇を寄せる。公私混同は良くないが、ギルの気持ちを浮上させないと溜まった書類は捌けない。仕事が終わらなければプライベートな時間が減ってしまうのだ。
なので、あえて公私混同します。
俺の行動は効果覿面だったようで、ようやく膝の上から解放してもらえた。それと同時に業務を停滞させたお詫びもきちんともらえたので良しとする。
続きはギルの部屋で聞く事を約束して、本日の業務を終わらせるために動く。
俺の行動でご機嫌になったギルは、いつも以上の処理スピードを発揮して終業の時刻には明日の仕事も半分程終わらせていた。
いつもこの位書類仕事してくれたらいいのにな…と呟いてしまったのは許してもらいたい。
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