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新人騎士の指導期間も残すところ後僅か。
指導期間が終わったからと言って所属が別な所に移る訳ではなく、第三騎士団内での異動なので顔を合わせる機会はそこまで変わらない。
俺が担当していたデレクくんも、ギルの元に就くのが決まっているので、今までと殆ど変わらない。何をするにも2人一緒に、という行動では無くなるというだけだ。
他の新人騎士と指導騎士も似たようなものであまり大差はない。

そんな訳で2人で行動できる期間を有意義に過ごすため、付きっきりで指導している最中だ。
指導と言ってももう殆どが1人で出来るレベルなので訓練相手になる程度だ。


今日も今日で、デレクくんからの訓練のお誘いを受けて誰もいない訓練場に足を運んでいる。
指導騎士になった最初の頃はレイドと訓練をしていたが、デレクくんが普通に話し掛けてくれるようになってからはレイドとの訓練回数は減った。
と言ってもデレクくんに誘われたらレイドとの訓練を断っているだけだが。
レイドとデレクくんと俺の3人でやろうと誘った事もあったが、デレクくんが恐れ多いと拒否したので基本的に2人で訓練している。


「踏み込みが甘い」


デレクくんの打ち込みをいなして踏み込んだ利き足を小突く。途端にバランスを崩して倒れそうになり、腕を掴んで転倒を防ぐ。


「無闇矢鱈と突っ込むな。相手の動きをよく見て。デレクくんなら敵が次にどう動くか予想出来るはずでしょ」


デレクくんのようにセンスのある人は、動き出すタイミングは身体の様子をきちんと観察していれば分かるはずだ。
人が動くときは必ず予備動作がある。細かな筋肉の動きや息遣い、目線などを注意深く見れば次にどう動くのか予想するのは難しくない。
予想が出来れば瞬時に反応できる。反応するのが早ければ早いほど確実に敵を追い詰める事が出来るのだ。


「疲れたからこそ集中しろ。集中が切れたら死ぬぞ。魔物は休ませてくれないんだからな」


剣先がぶれ始めている。集中力が低下している証拠だ。俺はそんな状態のデレクくんに構わず打ち込む。木剣だが、当たれば相当痛いだろう。
右から左から上から下からと様々な角度から打ち込む。最初の内は何度か剣筋を止められたが、集中力が切れかけている今は彼の身体に打ち込まれる回数の方が多い。
勿論、怪我などさせたくはないので力加減はしている。だが木剣が当たったカ所は赤くなっている。


「目を逸らすな。集中しろ」


そろそろ完全に集中力が切れるか……そう判断して最後の一撃とばかりに大振りに振りかぶる。
言うなれば俺は今胴周りを敵前に晒して無防備な状態だ。集中力があればデレクくんはこの隙を見逃さずに切り込んできただろうが……どうやら限界のようで、その場に座り込んでしまった。
俺は振り下ろす寸前で力を抜き、彼の座り込んだ頭部に軽く木剣を当てて終わる。


「もっと体力付けないとな。今日は昨日よりも集中力がもった。良く頑張ったな」


俺は座り込むデレクくんの髪を軽く撫でてやる。ついでに打ち身だらけで赤くなった身体に回復の魔法をかけた。


「あ、……りがとう…ご、ざいま……す…っ」


肩で息をするデレクくん。そんな彼の身体を支えて休める場所に座らせると、木剣を置き刀を手にして今度は自分の訓練を始める。
デレクくんには歩けるまで休んだら先に戻るようにといつも言っているので今は自分の事に集中する。


深く深く息を吐き出す。ゆっくり細く、長く。
胸いっぱいに空気を吸い込み、それを全身に力を込めてゆるゆると吐き出す。
腰に差した刀を鞘から引き抜いて両手で握る。

目の前に敵がいる。
敵の目は俺の命を食い破ろうと隙を窺っている。
喉元に食らい付き、鋭い爪で腹を引き裂こうとする。
殺らなければ殺られる。

体勢を低くし握った刀を構える。
今にも襲いかかろうとする魔物を下から斬り上げて屠る。
そうして次々とイメージする魔物を斬り、屠っていった。


何十、何百という魔物を斬り伏せようやく集中力が切れる。
深い息を吐き出して刀を鞘に収めると、俺は流れる汗を手の甲で拭いつつ宿舎内へ戻ろうと踵を返した。

空はすっかり暗くなり随分集中していたようだ。風呂に入って今日はもう休もうとしたところで宿舎の出入口に人が立っているのに気付いた。

暗がりで顔が見えず確認するのと戻るのとで近付いて行けば、見覚えのある顔が。


「戻ってて良かったんだぞ?」


デレクくんである。俺は苦笑して自分より少し背の高い彼を見上げて言う。


「シン先輩、このままだと夕食食べ損ねると思って。食堂で作ってもらいました」


見れば彼の手には簡単に手で食べられるサンドイッチのような食事があった。
一瞬、きょとんとし次いで笑みを浮かべて礼を述べると宿舎内へ戻る足を止めて差し出された食事を受け取る。
汗まみれで部屋に戻りつつ、行儀が悪いと分かっているが歩きながらそれを食べる。
既に多くの団員は自室に戻っているようで宿舎内はとても静かだった。


「デレクくん、風呂入った?まだなら一緒に入ろうか」


頷いたデレクくんを連れて着替えを取りに部屋に戻ると、そのまま浴場へ向けて2人で足を進めていった。
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