67 / 81
67
しおりを挟む満月の日が過ぎれば後は身体が元に戻るだけ。
身体を元に戻すために必要なエネルギーを摂取してるのか、2日間の3食全て3倍は食べている。
デレクくんなんて俺がいつも以上に食べた量を見て目を見開いて驚いていた。
「シン先輩の身体の何処に、そんな量が入ったんですか……?」
デレクくんが世話を焼いてくれた日以降、彼は普通に話し掛けてくれるようになった。
そんなデレクくんが俺のちみっこい身体を不思議そうに見つめる。お腹はぽっこり出てるが、服で隠れているので一見分からないだろう。
自分でさえ不思議だ。限界を遙かに越える量を食べて、ぽっこり、で済んでいるのだ。
満腹だという感じはするが、苦しいとか、限界とかは感じない。それが2日間続く。時折足りなくて間食したりもするのだから余程のエネルギーを消費しているのだろう。
俺の世界にはない仕組みで、尚且つこの世界でも未だに謎が多いとされている事象だ。
俺があーだこーだ考えて理解出来るものではないし、理解した所で解決するとも限らないのでこういうものなんだな、と思考を止めた。
そんな事を考えつつ、俺は王都の街並みを歩く。
今日は休日でトラスティさんに教えてもらった薬師のお店に向かっている。
トラスティさんに書いてもらった羊皮紙には、分かりやすい地図が描かれていた。
その羊皮紙を片手に道行く人に道を尋ねながら歩き、辿り着いたお店。
王都の大通りから1本外れた場所。
大通りのような賑わいはないが、人通りは少なくない。専門的な店が多く建ち並ぶ通りだ。
その通りの一画に小さな看板が掲げてある。
その看板と手にした羊皮紙を交互に見つめ、間違っていない事を確認すると店内へと足を踏み入れた。
店内へ入った途端、薬草独特の香りが漂う。
俺結構この匂い好きなんだよな。
薬草と言うと、ゲームの印象が強くて青々とした雑草のようなもので、匂いも青臭くて薬っぽくて…飲んだら苦いというイメージだった。
だがこの世界の薬草というものは少し違うようで、薬草というイメージとは結びつかない物まで薬草と言った。薬になるものは一括りに薬草という名付けで、中には動物の角や内蔵、糞や虫の身体の一部分や花びらや蜜、勿論、薬草というイメージそのままの物もある。
味も違っていて、殆どが無味。花びらや蜜等は甘い。ただ、匂いだけある。それぞれの薬草によって匂いは違うが、臭いものや良い匂いのもの様々な匂いがある。
余談だが、毒という物は魔物からしか生まれず、その味も決まって苦いのだとか。どんなに誤魔化しても苦味は消えず、毒性を消すことは出来ても苦味は決して消えない。薬にも応用出来ないらしい。
店内は乾燥した薬草やまだ鮮度のあるもの、虫の死骸や瓶に詰められた液体など、様々な物が所狭しと並んでいた。
入店した俺に気付いたのか、奥から初老の店員が顔を覗かせる。
俺には薬草の知識はないので手っ取り早くその店員さんに話を聞こうと声をかけた。
「すみません、第三騎士団のトラスティという方の紹介で来たのですが……」
俺がトラスティさんの名前を出すと初老の店員は思い当たる事があったのかうんうんと頷いていた。
「話は聞いているよ。変化の症状を軽くする薬草が欲しいんだろう?まずは君の症状を聞かせてくれるかな?」
どうやらトラスティさんが話を通してくれていたらしい。
お礼しよう。
初老の店員さん…この店の店主さんで、名前をアースルド……ランスラント…ルミニョエル?シャフザーさん。大変長いお名前の方である。
店主さんでいいかな。
いいよな。
俺は自分の症状である、全身の虚脱感、目眩、息苦しさ、微熱を伝え全身の虚脱感だけでも軽減したい旨を伝えた。
店主さんは俺の症状や希望を聞きながら何かの名前を羊皮紙に書き込んでいく。恐らく調合する薬草の名前だろう。
「軽減するのは全身の虚脱感だけでいいのかい?」
「出来れば全てですけど。身体に全く力が入らないのでせめて虚脱感だけでもと思いまして」
「成る程……」
そう呟くと、店主さんは書き付けたものに書き足したり消したりと何やら作業をしている。それを黙って見つめながら時折質問される事に答えていく。
そうして調合する薬草が決まったらしい店主さんは、俺に椅子を勧めて待つように言うと店内をあちらこちらと忙しく動き回った。
何百とある薬草の中から迷いなく目的のものを手に取り、店の奥へと運んでいく。
そうして何往復かして椅子に座る俺の元へ戻ってきた。
「君の要望通りに虚脱感を軽減させる薬草を調合するからね。全ての症状を無くす事は出来ないが、虚脱感以外の症状も軽減させるようなものは作る。ただし、きちんと決められた通りに飲みなさい。でなければ効果は望めないからね」
俺はその言葉に頷く。
所謂、用法用量を守って正しくお使い下さいというものだ。
「調合する薬草は3日分。変化が現れる前日から満月までの3日間、毎食後にお湯に溶かしてから飲みなさい。私が渡す薬草は粉状にしているが、間違っても直接飲まない事。毎食後必ず飲むこと。これを守りなさい。今日は調合した薬草は手渡せないが、後日出来上がった薬草と使用方法を書いた物を騎士団に送るからね」
そう言って何も書かれていない羊皮紙とペンを差し出してくる。
何処の騎士団所属か、自分の名前、上司の名前を書くように言われ言われた通りに書く。
それから代金を……となったのだが、驚くほど安かった。
薬草の定価がどの位か分からないが、それぞれに合わせた薬草を調合してもらうために高いものだと思い込んでいた。
俺に調合してもらう薬草はそこまで高値ではないらしく、安定して仕入れられる物で物価の変動もそこまで激しくないという。
更に調合する費用や騎士団まで送る費用も高値ではない為、安くなるのだとか。
俺は有難くその金額で了承し、代金を支払った。
その代わり、薬草の効果をきちんと話に来いという。初めての客には必ずしてもらう事らしく、薬草が身体に合わなかった場合もあるのでどのような効果が出るのか確かめているのだとか。報告された内容によっては別の薬草を調合し直す必要もあるようだ。
俺はその内容に納得し、店主さんの親身な対応に有り難さを感じる。
この店を紹介してくれたトラスティさんにも改めて礼をしようと、店主さんに頭を下げて店を後にする。
帰り際、トラスティさんに何かお礼をと街をぶらつきつつ宿舎へ戻った。
良い物が見付からず、今度酒でも奢ろうと決めてトラスティさんが業務を終えるのを自室でのんびりと待ったのだった。
22
お気に入りに追加
2,053
あなたにおすすめの小説
猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る
マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・
何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。
異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。
ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。
断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。
勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。
ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。
勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。
プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。
しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。
それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。
そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。
これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。
王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜
・不定期
【完結】父を探して異世界転生したら男なのに歌姫になってしまったっぽい
おだししょうゆ
BL
超人気芸能人として活躍していた男主人公が、痴情のもつれで、女性に刺され、死んでしまう。
生前の行いから、地獄行き確定と思われたが、閻魔様の気まぐれで、異世界転生することになる。
地獄行き回避の条件は、同じ世界に転生した父親を探し出し、罪を償うことだった。
転生した主人公は、仲間の助けを得ながら、父を探して旅をし、成長していく。
※含まれる要素
異世界転生、男主人公、ファンタジー、ブロマンス、BL的な表現、恋愛
※小説家になろうに重複投稿しています
小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~
朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」
普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。
史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。
その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。
外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。
いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。
領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。
彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。
やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。
無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。
(この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる