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しおりを挟む王城に戻って数日。相変わらずの軟禁生活中だ。
調査は一向に進まないらしく、ワンドロークが黒幕だという確証が得られないらしい。
その間にも魔道具が破壊されている所が幾つも見付かり、その対応と魔物討伐に騎士団は大忙しだ。
勿論、第三騎士団も例外ではなく今日も討伐任務に赴いている。
そんな中俺は、外にも出られず部屋から出るときは朝の鍛練と図書室に向かう時のみ。
相変わらずアレクは部屋に訪れてくれるが、その他の来訪者は無い。
今日も日課となっている読書をしていたが、いまいち頭に内容が入ってこない。持っていた本をテーブルに置き、のそのそとベッドに上がって寝転がる。
侍従のシムスさんは今も部屋に控えてくれているが、俺から姿が見えないような場所にいる。らしい。
寝転がったベッドから窓の外に広がる青い空を見つめる。
今日はとても良い天気で、通りすがりに覗き込んだ中庭には色取り取りの花と、それにも負けない豪華なドレスを着込んだご婦人方の姿が見えた。
早く戻りたいなー…。
ギルとレイドに会いたい。
魔王なんて誕生しないのに。
俺を殺してもなんにもなんないのに。
鬱々と気分が滅入ってくる。
俺は頭を軽く振り、気分を変えようと起き上がってソファに座る。豪華すぎて座り心地が良すぎるソファにも大分慣れた。
テーブルに投げ出されるように置かれている数冊の本の中から、先程読んでいたものとは違う本を取り出す。
クソ水晶……神について書かれている本だ。
時間が有りすぎている現在、魔法を使わずに読んで覚えようとしている。
俺は本のページを捲っていく。
神とは…という典型的な冒頭から始まり、神話や神という概念などの説明が書かれている。
大昔のリーデルハイムには、確かに信仰が存在し、絶対神であるクソ水晶をその信仰の対象にしていた。その当時は信仰する者達に啓示があったりもしたらしい。
だがいつしかその信仰は薄れていったという。
その原因には文明の発展や絶対悪と言われている魔物の存在が大きく関わっている。
文明の発展で魔物に対抗しうる力を持った者達は、力を合わせて1つの敵に挑んでいった。
力を合わせた事により、敵に打ち勝ってきた歴史があるため神への祈りよりも自助努力を優先するようになっていった。
その為、今は信仰そのものが廃れていったという。
そんな内容が事細かに書かれていた。
要するに神頼みを止めた話だ。だが最後のページに気になる一文を見付けた。
【祈りを捧げる者に神は応える】
これはあれだろうか。
大昔は信仰してた人に神の啓示があったという事を示してるんだろうか。
興味を引かれた俺は、本を閉じて祈りを捧げようと両手を合わせる。
………………祈るってどうすんの?
生まれてから転生して1年。神と言えばクソ水晶しか見た事がない俺は、祈りのやり方なんて分からない。
神が存在する事は認める。そうでなければ転生などするはずがないし、そんな事を覚えているのもおかしな事だ。
俺が知っている祈りと言えば……。
「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏…」
そう、お経を唱える事しか分からない。仏教が果たして通じるのか?
合わせていた両手をすりすりと擦り合わせて同じ言葉を10回唱える。はっきり言って、この唱え方もどうかと思うが…。
端から見れば心底怪しい。
何やってんだ、俺は……。
ふと我に返り目まで閉じてお経を唱えていた事に呆れてしまった。
別の本でも読もう、とテーブルの上に手を伸ばした時。
『まさかお経を唱えるなんて思わなかった~!おっかしいんだから、諏訪慎一郎くんは!』
突然、頭に響く声。聞き覚えのある声に思わず周囲を見渡す。だが、声を発しているであろう、あの空中に浮く水晶の姿はない。
『探してくれてるの?嬉しい~!でも、神は現世に姿を現せないんだ、ごめんね?その代わり、諏訪慎一郎くんのお呼び出しに応えて直接リンクさせてもらいました~!パチパチパチ!』
どうやら直接頭に語りかけているようだ。直接的に響く声に若干イラッとする。
『あ、怒っちゃいや~!何か思うところがあって呼びかけてくれたんでしょ?』
どうやら心の声も聞こえるらしい。ウザい。
が、折角のクソ水晶降臨だ、この機会を逃してなるものか。
という事で答えろ、クソ水晶。
ワンドロークが黒幕だという証拠は何処にある?
魔王誕生が誤解だとどうやって証明する?
俺を早く第三騎士団に戻せ、叩き割るぞ。
おっと、最後のは自分の願望だった。とにかく答えてもらおう。
【黒幕の証拠はあるみたいだけど巧妙に隠されてるみたいだから探し出すのは難しいかもね。それから誤解を解くのは割と簡単かも。誤って伝わっている伝記を見れば、正規で伝わってる歴史書との違いなんてあっさり分かるし。ワンドロークには正規の歴史書は何故か伝わってないけど、その他の国にはちゃんと真実が伝わってるからね】
そうか。さて…どうやって証拠を探し出すかな…。
【忘れてもらっちゃ困るよ、諏訪慎一郎くん。君には便利な魔法をサービスしたじゃない!】
は?
【もぅ!お鈍さんめっ!創造魔法だよ!読んで字の如く!魔法を創っておしまいなさいよっ!それを使って証拠を探せばいいじゃないっ?】
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