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翌日の朝早く、シムスさんが宿舎の俺の部屋を訪れて会議開催日が延期になった事を伝えられた。
敵の正体や目的が明らかになったものの、多くの不確定要素が判明したからだろう。
会議が延期になったという事は、王城に戻らねばならないのだろうかと思っていたところ、調査に人員を割くらしく王城での護衛が難しくなったとの事で、引き続き第三騎士団に護衛の任務が課された。どうやらこのまま宿舎に残っても問題ないらしい。
だが、相変わらず外には出られないしトイレ以外は四六時中護衛の者達と過ごすことになる。
それでも王城にいるよりはマシだと思ってしまうのは、想う相手と気心知れた仲間がいるからだろうか。


「今日は3人でゆっくり過ごそうと思ってたんだけどな…」


シムスさんが部屋から去り、受けた知らせに苦笑する。
それでもみんなと過ごせる時間は嬉しいため、すぐに苦笑を引っ込めた。
そこで、ある事を提案する。


「仕事って、昨日で今日の分も終わらせたんだよな?」


俺を膝に乗せて項に顔を埋めるレイドの頭をぽんぽんと撫でながらシムスさんの対応をしてくれていたギルに話しかけると、一緒に過ごせる時間が増えた事を喜んでくれているのかとても言い笑顔で返事が返ってきた。


「あぁ、シンと部下達のお陰ですっかり片付いている。何かやりたい事でもあるのか?」


そう。やりたい事があるんです。

王城での生活は、息苦しさは感じたが基本的に自由に過ごさせてもらっていた為、快適ではあった。
その生活の中で特に喜んだのが、風呂の存在だ。
こちらの世界での風呂は、主にかけ湯オンリー。
しかし、王城にはあったのだ。浴槽が。
そう、浴槽だ。
初めて湯船に浸かったときのあの感動は今でも忘れない。

勿論、風呂は贅沢品だ。水は貴重で、浴槽も陶器で作るという頭があるためか、とても高価だ。
しかし俺はあの日の感動を忘れられず、人知れず風呂をどうにか出来ないか調べに調べ上げ、試行錯誤を繰り返してこっそり実験してきたのだ。
そこで俺は己の力を思い出す。

創造魔法
魔力無限

なんて素晴らしい能力だろうか。
クソ水晶様ありがとう。と、この時ばかりはあのクソ水晶に感謝の気持ちが込み上がったのは言うまでもない。

浴槽を騎士団宿舎の風呂場に作りたいとギルとレイドに話すと、初めは渋い顔をされた。当然、魔法で作るという事が伝わって無かったからである。
そこで、魔法で作り出すという事柄を付け加えると大いに賛同された。

早速風呂場へやってきた俺達3人。
他の団員達は訓練中という事もあり、誰もいない。
出来れば訓練が終わるまでに仕上げてしまいたいと、早速作業に取りかかる。

まずは風呂場中央に置かれた3つある1メートル四方の大きな桶を魔法で解体する。
それから床に張り巡らされている床板も刀を使って5メートル四方に切り外す。床下は排水設備が整っており、60センチほど土魔法で掘り下げて魔法で剥き出しの土壁をコンクリートを作り出して固める。
排水設備の高さを調節し浴槽のお湯が上手く外に流れるかテストした後に解体した桶の木材と床板を組み合わせ、足りない木材は再び魔法で作り出して深さ50センチ、5メートル四方ほどの浴槽を作り出した。
お湯が漏れないように、木片などで怪我をしないように加工し直して使ったため、性能は自信がある。
見た目は廃材をリサイクルして使ったため、古めかしい感じに仕上がりはしたがそれも味という事で勘弁してもらおう。
最後にお湯の噴出口に魔道具を取り付けて魔力を通せば、そこから適温のお湯が流れ出してきた。貯まるまで時間が掛かるため、少し魔力を多めに込めて噴水のようにお湯を吹き出して貯めていく。
この魔道具。実はこれも創造魔法で作り出したものだ。適温のお湯が出るようなものにし、魔力は俺の魔力無限を込めているので、常時適量が流れ出る仕組みになっている。

そうこうしてる内にお湯が張り、俺は魔力を込めていた手を引っ込める。暫く出来上がった浴槽の周りを見て漏れたりしていないか、魔道具の不備はないか確認し問題ないのを確認してから深い息を吐き出した。


「よし!完成!」


温泉だ、温泉。
効能があるわけではないが、作った俺本人が温泉をイメージして作ったのだから、この風呂場はもう温泉だ。

いい汗かいた。風呂に入ろう。

1人満足して脱衣所へ向かう。ギルとレイドには手伝わなくてもいいと伝えていたため後ろで出来上がった浴槽を見て驚いているようだった。
まぁ、この世界での浴槽とは大分違うだろう。この世界では、浴槽と言えば陶器で出来ており、所謂バスタブのような見た目なのだ。
それがこんな、木で出来ており真四角ならば驚いても仕方がない。

とにかく俺は早く風呂に入りたい。
なので2人にも声を掛ける。


「一緒に入ろう?」


脱衣所から手招きして2人を呼ぶと手早く服を脱いでいく。
時間的にもまだ訓練が終わる時間ではないのでのんびり湯に浸かれそうだ。
慌てて服を脱ぎ出す2人を置いて、俺はいそいそと湯船に近付く。
勿論、軽くかけ湯をしてから入るのがマナーです。

腰掛ける段差も作ってある。湯加減も丁度良い。
俺はそろりと足を湯船に沈めていく。
初めはビリビリとした熱さ。それからじんわりと広がる暖かさを感じて湯船の中央まで進んで腰を下ろす。


「……はぁ…」


思わず息が漏れるが許して欲しい。
野太い声が出なかっただけ褒めてもらいたい。

俺は自分で作り上げた風呂に、逆上せる一歩手前まで入ってじっっっくりと堪能したのだった。
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