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しおりを挟む明後日の会議まで俺に出来る事は、精々外に出ないこと位だ。
目の前に座るギルとレイドに向けていた笑みを引っ込めて気になっていた事を聞いてみる。
「この2日間の俺の護衛ってギルとレイドかヒース…はアレクに呼び出されてるからトラスティさんとアールくん?」
アレクの計らいで、宿舎で過ごす間の護衛は第三騎士団が担うことになっている。
第三騎士団の誰が護衛に付いても問題ないが、四六時中一緒にいるならば気心の知れた相手がいいと思っていた。だからという訳ではないが、希望する相手の名前を挙げてみる。
「俺達2人が護衛する」
「俺やレイドの都合が悪くなった場合はトラスティとアールを付ける予定だから大丈夫だ」
2人の言葉を聞いてほぼ希望通りになった事に安堵する。たまにヒースも様子見程度に護衛に加わるそうだ。
ありがとうヒースママン。
先程までの話し合いを思い出しこの場に残った俺達3人に出来る事はなく、所謂暇という現象に陥っている。
厳密に言うとギルは団長としての仕事があるだろうし、レイドも副団長としての仕事がある。
だが何となく取り残された感が否めず、通常の仕事に戻って良いものか決めあぐねている。
俺は立ち上がり、久々に会う2人の間に割って入り座り込む。当然のように腰と肩に腕が回され座っていた距離が更に縮まった。
「2人とも、任務お疲れさん。第三のみんなのお陰で色々と調査が進みそうだな」
改めて2人に笑いかけそれぞれの足に軽く手を置いて労う。
俺が王城で過ごす間、仲間達は必死に任務をこなしていた。その甲斐あって、敵の正体と目的が知れた。まだまだ調査の必要があるとはいえ解決の糸口が見え、俺の軟禁状態に近い生活に終わりが見えはじめた。
正直、自分で選択した事とは言え自分だけ安全圏にいて仲間達を危険に晒しているような状態を早く終わらせたい。
早く元通りの生活を送りたい。
仲間達と過ごしたい。
……早く2人の元に戻りたい。
国が…ましてや世界が危機的状況に陥るかもしれない時に何を言って、と思われるかもしれないが、そんな時だからこそ心許せる者達の傍にいたいのだと思ってしまう。
知らず知らずの内に、自分の身体を抱く2人の手に自分の手を重ねて握り締め、その温もりに安堵の吐息を吐き出し身体の力を抜く。
「……やっぱ2人の傍が1番安心するわ」
要するに、心細かったのだ。慣れない場所での生活と常に護衛が傍にいる状況、更には2人に会えない寂しさも相まってホームシックに陥ってしまったのだろう。
俺は2人の顔をそれぞれ見つめる。俺の言葉に驚いたような顔をしていて思わず吹き出しそうになる。
「なんだよ、寂しがってたのは俺だけ?」
おどけて言ってみると2人に抱き締められた。厚い胸板に押し潰されて蛙の潰れたような声も出ません。
任務を優先させる2人の事だから、寂しいと思ってくれててもそれを少しも感じさせずに任務に没頭してただろう。
それに、こうして強く抱擁されていると少しは俺と同じように感じてくれていたのだと理解できる。
俺は強く抱き締める2人の身体から解放してもらおうと肩や腕を叩いて離してくれるように促す。
「あぁっ、すまないっ。つい嬉しくて…」
ギルが慌てて謝りながら離してくれた。レイドもそれに続いて離してくれたが、優しく頭を撫でてくれている。
解放された事に軽く息を吐く。
「取りあえず、難しい事はアレク達に任せてギルとレイドは仕事しようか。机の上の書類が崩れそう」
団長室にある、ギルの執務机の上に堆く積まれた書類を指差してそう言えば、2人ともげんなりしたように息を吐き出して書類から目を逸らした。
「今はシンとの時間が優先されるから仕事は大丈夫だ」
「仕事はいつでも出来る…」
ギルは素晴らしく素敵な笑みを浮かべて書類仕事を放棄しようとし、真面目なレイドでさえ駄々を捏ねてしまった。
これでは後で俺がヒースに鉄拳制裁される。
「今日中に明日の分の仕事まで終わったら、明日は3人でゆっくり出来るんだけどなぁ……。俺も手伝うからさ、一緒に頑張ろ?……お願い。な?」
自分でも引くくらい甘えた声を出して問い掛ける。止めに2人の頬にキスを送ってみた。
これでダメならヒースの鉄拳制裁を受ける覚悟をしなければ!
と思っていたら……
「シンのお願いだからな!やるしか無いだろう!」
「俺も…仕事持ってくる…」
と、分かりやすくそそくさと執務机へと向かうギル。レイドはレイドで副団長室に向かって歩き出していた。
なんて単純なんだ。
取りあえず、これでヒースから怒られる事は無いと安堵して仕事を手伝うべくソファから立ち上がって書類に目を通し始めたギルの元へと向かった。
程なくして、両手に書類を抱えたレイドが何とも器用に扉を開けて入ってくる。
そのすぐ後に3人程のギルとレイドの部下も団長室に入ってきた。
久しぶりに会う同僚に久しぶりと笑顔で挨拶し、3人もそれぞれ挨拶を返してくれる。
ギルとレイドは既にサインや何かを書き加えた書類を可、不可と書かれた運べ入れていく。
その仕分けされた書類を取り出して部署毎に分けていくと、ある程度溜まったところでもう1人のギルの部下の1人である同僚に手渡した。
手にした部下は仕分けされた書類を部署毎に返しに行く。
俺は護衛という面から必然的に2人から離れることは出来ないので、団長室内で書類整理やお茶の用意や雑用やなんかをするしかない。
そうして書類の山が無くなるまで仕事を手伝って1日は終わってしまった。
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