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非常に深刻な事態だった。

任務を終えて戻った第三騎士団が持ち帰った調査結果を聞き終えると、その場にいる誰もの顔付きが変わる。
結論から言うと、敵の正体と目的が判明した。
敵は、予想していた通りのボランティア団体だったがどうやらその裏には魔族が関わっているようだ。国が関わっているのか、それとも全く関係ないのか、そこはまだ調査中とのこと。
目的は、魔王と神の遣いらしい。
ちなみに、このリーデルハイムという世界に魔王や勇者などが誕生した事は一度も無い。
では何故魔王なのか。それに神の遣いがどう関わるのかである。
何でも、敵は魔王という存在を作り出そうとしているらしい。そのために神の遣いの命が必要なんだとか。
そもそも、神の遣いという存在も今まで一度もリーデルハイムという国には存在した事がない。
もし何処かに【魔王の作り方】なんて本があったとしても材料に神の遣いと記述されている訳がないのだ。
ましてや、俺の鑑定結果を見たスティラ国が勝手に神の遣いという存在にしたのだ。

敵の正体と目的が分かった。
だが多くの謎が更に増えてしまった。

何故、魔族が関わっているのか。
魔族の国、ハーデンが関わっているのか。
魔王とはなんなのか。
魔王を作り出して何をするのか。
何故、魔王を作り出すのに魔物を増やす必要があるのか。
何故、神の遣いの命が必要なのか。

皆目見当が付かない事態に、話し合いは頓挫してしまった。
これ以上顔を付き合わせてうんうん唸っていても話が進まないと判断したアレクは、ギル、レイド、ヒースに視線をやりどういった経緯で今回の調査結果に至ったのか聞き出す。
ギルは頷き、話し始めた。

今回の任務…魔物討伐と、周辺の聞き込み調査。
魔物討伐は順調に進んでいたそうだ。普段よりも出現する魔物の数が多い事から、魔素溜まりに設置していた魔道具が壊されているだろうと判断して魔道具を設置していた場所に行ってみたが、魔道具は壊されておらず正常に作動していたという。
そこで森の中を丹念に調べたところ、新たな魔素溜まりが発見されそこから魔物が溢れていたという結論に至った。事実、壊れた魔道具と交換するために持ってきた魔道具を設置したところ、その数時間後から魔物の数は減っていったという。

通常の討伐任務ならばそれで終わりだったが、今回の任務は少しばかり事情が異なる。その為、10人ばかりの見張りを元からある魔素溜まりの見張りに残し、その他の団員は周辺の村や町で任務通りの聞き込み調査をしていたらしい。

聞き込み調査を初めて3週間。なんの成果も上げられずに今回の任務は終了かと思われたある朝に、森での見張りを担当する者達から緊急の連絡が入ったという。
前日の夜、5人ずつの交代制で見張っていた魔素溜まりに突然黒いローブ姿の人物が2人現れた。何もない空間からいきなり現れたのだ。
幸いにも気配遮断の能力を見張り全員がかけ、更には距離を置いていたため気付かれる事は無かったらしい。
ローブ姿の1人は平均的な体格のようで特徴と言えば少ししゃがれた声。だがその身に纏っていたローブにはとあるボランティア団体の紋章が入っていた。
もう1人のローブ姿の人物には魔族であろうと思われる特徴があった。ローブを纏っていた背中に、不自然に膨れる2つの山があったのだ。まるで翼の上からローブを纏っているような…。
見張り全員がその事を確認しあっていると、魔族と思われるローブの人物が拳大の魔石を取り出して魔道具に近付けて破壊しているのを全員が目撃。
その後2人で何やら話をしてから丸いレリーフを置いて来たときと同様にその場から突如として姿を消した。

その時の会話をやはり見張り全員聞き逃すはずもなく、今回の調査結果に至ったらしい。

魔王様誕生まであと少し。
もっと魔物を増やす。
後は神の御遣い様の命を捧げれば終わる。

見張りの団員は、すぐに壊された魔道具を交換して置かれたレリーフを回収し朝まで見張りを続行。
その後すぐに全員でギル達がいる騎士団支部に戻ったという。

成る程、と思った。
いくら周辺の村や町で調べても何も出ない訳だ。
突然その場に現れたら痕跡も何もあったものじゃない。唯一、レリーフが証拠と呼べる証拠になってしまうわけだ。


「もしかしたら敵は、シンの詳細な情報を知らないのかもしれないね。それどころか騎士団の動きも分からないと見える」


アレクの言葉に目を向ける。どう言う事なのか説明を乞うた。


「もし、シンの詳細な情報が敵に知られていたならば、第三騎士団に所属しているのも分かっている筈だろう?私が敵なら第三騎士団が魔物討伐に赴く隙を突いてシンを奪うね。それなのに今回現れた者達はつい先日まで第三騎士団がいた森に無警戒で現れて尚且つ素晴らしい情報をもたらしてくれた。更に言うなら周辺にいる第三騎士団には目もくれず帰って行った。シンの命をただ奪うのが目的か、攫ってどこぞで儀式的なものをするのかは分からないが、どちらにしても神の遣いを必要としている割にはあまりにも行動しないなと思ってね。神の遣いの情報を制限している部分はあるが、第三騎士団所属のシンの情報が漏れているのは確かだから、何もないのはおかしいんだよ。……まぁ、敵の作戦か本当になんの情報もないのか判断は難しいけどね。それに敵が突然現れたという事も気になる。もしなんの弊害もなく何処にでも現れるのなら、シンを何処で護衛してても意味は無くなってしまう。なんせ何処にでも現れるからね」


アレクの言葉で更に問題が増えた気もしなくはない。
自分が巻き込まれている以上人に丸投げしたくはないが、それでも丸投げしたくなるくらい疑問が増えていく。


「ギルフォード団長、少しばかりヒースレン副団長をお借りできるかな?明日、また話し合いをしたい。それまでシンの護衛を頼んだよ」


ギルは頷き、名指しされたヒースが席を立ってアレクの後ろに控えるカインくんの隣へ立つ。
アレクは俺の頭を軽く撫でてカインくんとヒース、シムスさんとその他の護衛を全て引き連れて団長室を後にした。

なんだか色々と面倒になってきたな…。

そう思いつつ残されたギルとレイドの顔を見る。
お疲れ様、の意味を込めて俺は2人に笑いかけるしか出来なかった。
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