上 下
50 / 81

50

しおりを挟む



城での生活は思ったよりも快適だった。
アレクの配慮のお陰で好きに行動できるし、侍従のシムスさんや護衛騎士達とも上手くやっている。
朝早く訓練場に赴いて軽く汗を流し、午後には図書室で本を見繕って読書。たまに城内を見て回り、ご婦人方に見付かりそうになったり。1日に1度以上は必ずアレクが部屋を訪れるし、招かれてその逆もあったり。
本来の目的を忘れそうになるほど快適だった、が…。

今日、俺は朝からそわそわしている。
何故なら、一時帰宅が許されたから!!

久しぶりに第三のみんなに会えるのだ。
朝早く目覚めて鍛練もそこそこに部屋に戻った俺は、アレクが来るのを心待ちにしていた。

何故、一時帰宅が許されたのか。
要するに、ホームシックに陥ったのだ。俺が。
第三騎士団の任務完了までの1ヶ月、国のために働くみんなの健康を気にしつつ過ごした。第三騎士団の強さは知っている為、討伐任務で多少の怪我はするだろうがそこは大して心配していない。

任務完了で戻ってくる日数を数える度に、段々と寂しくなり、会いたくなり。端から見れば元気がない様子が何日か続いたらしい。
そこで心配してくれたアレクが事情を聞き出して、恥ずかしながら第三のみんなに会いたい事を話した。
会うだけならギル達3人を城に呼ぶという手段になったかもしれない。だが、俺は城から出たかった。自分で納得してこの状況になったにも関わらず、だ。
我が儘なのを百も承知で告げると、アレクは少し悩みそれでも頷いてくれた。


「警備の事で色々と調整しなければならないし、少し時間がかかるが待っててくれるかい?出来る限り希望を叶えたい」


俺の我が儘を聞いてくれて本当に感謝です。

護衛を目的として城に招かれた為、色々と準備が必要なのは分かってる。分を弁えないお願いを聞いてくれるという事だけでも感謝しかない。
敵と思われる奴らの動向を探ることが出来ない以上、護衛体勢を整えるだけでも大変だろう。
たかがホームシックという理由で、自分の命を危険に晒し国の威信にも傷を付けるかもしれない可能性を考え後悔してしまうが、それでもギル達に会えるかもしれないという事が純粋に嬉しい。


「シン様、殿下がお見えになりました」


この数日間で親しくなったシムスさんがアレクの到着を告げる。
最初は俺の事スワ様と呼んでたんだよな。どうにかこうにかシンと呼ばせるに至ったが、侍従の身分柄敬称無しでは呼べないだろうと納得して様付けを了承してしまった。

俺はシムスさんに頷いてアレクを迎え入れる。その後ろからカインくんも部屋に入ってくる。


「待たせたかな?」


いいえ、待ってませんので早く行きましょう。

なんて急かしそうになって一旦落ち着く。
アレクをソファに案内し、自分はその向かい側に座る。カインくんはアレクの後ろに控えるように立ち、シムスさんがそっとお茶を用意してくれてすぐに下がるとアレクが口を開いた。


「段取りは頭に入っているかい?」


俺は頷く。
いくら次期国王でも、そう簡単に婚約者を城から出せない。ましてや敵がおり、その目的の1つが神の遣いであろうという今、護衛対象である俺をそう易々と城外へと連れ出せないのだ。
視察という名目で連れ出せないか奔走してくれたらしいアレクの元に、第三騎士団からの報告が届いたのが一昨日。
その報告を見たアレクが、騎士団本部で会議を開くという。そこに、婚約者ではなく神の遣いとして俺に参加要請がきたのだ。
会議は明後日。その前に、事実確認や詳しい報告、話し合いをするために前日から宿舎に行くことになったのだ。そこに、神の遣いとして俺が同行する形になった。

要するに、第三騎士団のみんなが調査結果を持ち帰ってくれたお陰で俺は久しぶりにみんなに会える事になったのだ。
だが、どうやらその調査で重要な事実が分かったようで。
本来であれば、事実確認や話し合い等の事前に出来る事をわざわざ王族が赴いて行わない。王城に当事者を出向させて行うものだ。
それをわざわざ王族が出向くとなると、事の重大さが分かるというものだ。
要するに、某かの手かがりを掴んで来たのだ。
そこで機転を利かせてくれたアレクが婚約者ではなく、神の遣いを伴って詳しい話を聞くために宿舎に赴くことになったのだ。

そんなこんなで今日と明日の2日間、俺は久しぶりに宿舎に帰りみんなに会える事になったのだ。
護衛も、第三騎士団から抜擢してくれるらしい。その代わりにこの2日間は外での鍛練は禁止と、トイレ以外のプライベートも含めた全ての時間を護衛2人と常に一緒にいること。
まぁ、当然の事なので受け入れる。
周りは騎士だらけと言っても、王城のように常に警備の者がそこかしこにいる訳ではない。
宿舎は所謂、騎士のプライベート空間。
出入口や団長室などの要所には勿論警備の者はいるが、それでも王城に比べたら手薄だ。

そんなこんなで今日の段取りを確認する。
今日はこのまま団長室で詳細な報告を受け、今後の方針など大まかな事を決めていく。
どの位の時間がかかるか分からないが、今日1日使う覚悟で色々と話し合う予定。
明日は明日で、明後日の会議の準備などを行うがそれは夕方からで、それまでの時間は自由に出来る。アレクの配慮の賜だ。
行動の制限はあるが、外に出ないように気を付けながらみんなの顔を見て回りたい。

アレクと段取りを確認し合うと、そのまま部屋を出る。
カインくんとシムスさん、それからいつもより多い護衛を引き連れて普段は立ち入れない政務棟から騎士団本部へ行き、そこから宿舎へ。

何の手掛かりを掴んできたのか。
久しぶりにみんなに会える。

緊張しつつ、それでも楽しみな部分もあり、団長室への廊下を大分大人数で歩いて行った。



しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜 ・不定期

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【完結】父を探して異世界転生したら男なのに歌姫になってしまったっぽい

おだししょうゆ
BL
超人気芸能人として活躍していた男主人公が、痴情のもつれで、女性に刺され、死んでしまう。 生前の行いから、地獄行き確定と思われたが、閻魔様の気まぐれで、異世界転生することになる。 地獄行き回避の条件は、同じ世界に転生した父親を探し出し、罪を償うことだった。 転生した主人公は、仲間の助けを得ながら、父を探して旅をし、成長していく。 ※含まれる要素 異世界転生、男主人公、ファンタジー、ブロマンス、BL的な表現、恋愛 ※小説家になろうに重複投稿しています

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~

朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」 普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。 史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。 その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。 外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。 いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。 領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。 彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。 やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。 無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。 (この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

処理中です...