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しおりを挟む城での生活は思ったよりも快適だった。
案内された部屋は豪華で広すぎて落ち着かないが。
この国の要である陛下に会った時も、思ったよりも気易い方で緊張していたのが馬鹿みたいに思える程だった。
陛下には、勝手に神の遣いと位置付けした事や、情報漏洩の事、不便な生活を強いること等を謝罪されてしまった。
確かに謝られるべき事項なのだろうが、この国のトップに君臨する人物に頭を下げられるととても気まずい。
気にしてません、と言う以外出来なかったのを後悔している。
それから2、3日は部屋で大人しくしていたのだが、はっきり言って飽きてしまった。
何もする事がないのもそうだが身体が動かせないのが1番の苦痛で、暇を見付けては顔を出すアレクに思い切ってお願いしてみた。
「鍛練が出来るような場所を使わせて貰えないでしょうか?」
「構わないよ。というか、もっと自由に動いてくれて大丈夫だ。護衛と一緒に行動して貰うことになるが、城の中にいてくれるなら好きにして構わない」
と、何ともあっさりと了承して貰えたので早速刀を手に部屋を出る。
しかし…何処に向かえばいいのか…。
廊下と呼ぶには豪華すぎる回廊を左から右へと流し見る。正直、ここから出たら戻ってこれる自信もない。俺は軽く溜息を吐き出して、先ほどから扉の両サイドで微動だにしない護衛騎士に視線を向ける。
「あの、お尋ねしたいんですが…」
護衛任務中に話しかけて良いものか多少悩んだが、如何せん場所が分からない。なので常日頃から王城勤務をしている第一騎士団の2人に声をかけた。
実は侍従やメイドを付ける、とアレクに言われたのだが断っていた。
婚約者と言っても仮だ。某かの理由が無い限り護衛以外の人員を割いて欲しいとは思えなかった。
俺の問い掛けに反応した1人が目線を向けてくれる。
「剣の鍛練をしたいのですが、そういった場所に相応しい場所はありますか?出来れば、皆さんの邪魔にならないところで」
意図を察してくれたのか、護衛騎士が頷く。それと同時に道案内もしてくれるようだ。助かる。
歩き出す彼の後ろに付いて行く。俺の後ろをもう1人が付いてきて…前後を挟まれながら歩く事になった。
辿り着いた場所は中庭のようだ。四方を建物に囲まれており、色とりどりの花や木々、更には噴水等が設置された広々とした空間だった。
……ここでやれと?
確かに広さ的には問題ない。城で働く人達も庭師を除いて、この中庭には入ってこないだろう。
しかし。
遠くの方に見える東屋らしき場所に、何やら煌びやかな格好の女性方がいるのだが…。
うふふ、おほほと優雅に談笑しておられるのだが…。
この国の女性って確か殆ど王籍に入ってるんだよな…。
王族じゃん!
「あの…他の場所は無いんでしょうか?流石にご婦人方の近くで剣を振り回す訳にはいかないですし…」
遠慮がちに別の場所をお願いすると、案内してくれた彼は困ったように眉を寄せた。すると後ろから付いてきていたもう1人の護衛騎士がおずおずと声を掛ける。
「あの…よろしいですか?」
俺は振り返り了承の意を込めて頷く。
「王族の方々が鍛練に使う場所があるのですが、その場所の使用許可を取らないと剣の鍛練が出来るような広い場所はここしかないのです。午後には殿下がお部屋をご訪問予定ですので、その時にお話しされてみてはいかがですか?」
そういうの先に言って欲しかったぁ!
等と内心ツッコミを入れつつ、その提案に頷くしか無かった。
ものを知らない俺が悪い。
取りあえず一旦部屋に戻ることにして踵を返すと、中庭に面した窓の中に本棚が沢山見えた。
俺は足を止めてその窓を指差し、今度は2人に問い掛ける。
「あの場所は図書室とかでしょうか?図書室なら許可が無くても入れますか?」
俺が指し示した場所を見つめて場所を確認した2人は同時に頷く。
アレクが部屋に来るまでの時間つぶしに利用させて貰おうと中庭をぐるりと回る形で図書室へと向かった。
図書室で何冊かの本を借り、部屋へ向かう。
ジャンルはバラバラだが、今まで見たことがないようなものをチョイスした。
部屋へ戻り備え付けの豪華なソファに座ろうとして足を止める。
座り心地は最高だが、本を読む気になれないのだ。行儀が良いとは言えないが、フカフカの絨毯に座り込む。持ってきた本はテーブルの上に置き、そこから1冊手に取って表紙を開く。
初めの内はパラパラとページを捲っていたが、既に覚えていた内容だったと本を閉じる。念の為魔法で暗記はしたが、やはり事前に覚えていた内容とあまり違いは無かった。
2冊目を手に取り同じようにページを捲っていく。今度の本は恋愛ものの物語のようだ。そっと本を閉じて別な本を手に取る。
医療に関する事が書かれているようだった。魔法がある世界のため、医療技術は画期的とは言えない内容だった。だが初めて見る薬草の名前や生息地域、採取方法に煎じ方等、事細かに書かれており嬉々として魔法で暗記してからページを進める。
どれくらいそうして本を読んでいたのか。
分厚い本だった為、まだ半分も読み終えていない。
ふと、読んでいたページに影が落ちて俺は顔を上げる。
そこにはにこにこと笑みを浮かべたアレクの姿があった。
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