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鈍った身体を鍛え直して数日。
第三騎士団に王命が下された。

魔物討伐及び、その周辺の調査。

今回の任務は森での魔物討伐と、その周辺や近隣の村にまで及ぶ調査だ。
通常の任務ならば魔物討伐のみで終わる。

そもそも魔物が発生する原因は、魔素と呼ばれる魔力の素みたいなものが滞留することにある。滞留してしまうと魔素はやがて澱み、そこから魔物が発生してしまうのだ。魔素が滞留することを魔素溜まりという。
魔素溜まりは、空気を循環させれば回避できるものだ。つまり、洞窟や風が届かないような場所には魔素溜まりが発生しやすい。故に、そのような場所には定期的に人が訪れ空気を循環させる事が必要なのだ。
人口割合が少ない人族は、魔道具を使って風を発生させたりしている。
それでも広大な領土全体をカバー出来ず、騎士団が魔物討伐の任務をこなすのだ。
3ヶ月に1度の割合で魔物討伐をすれば、人的、物的な被害が出ない程度に魔物の発生を抑えられる。

だがここのところ、その頻度が増えていた。
3ヶ月に1度が2ヶ月に1度になり、今では1ヶ月に1度のペースで討伐任務が下るようになってしまった。
幸い今は人的被害は出ていないが、田畑を荒らされたり家畜が襲われたりという被害が相次いでいたのだ。

明らかに何か異変が起きていると判断した国は、その調査に乗り出し原因であろう事態に辿り着いた。

設置していた魔道具が、人為的に破壊されていたのを何ヶ所かで発見した。
設置していた魔道具は、魔石に込められた魔力が尽きるか魔力を込めた人物が止めない限り半永久的に稼働する仕組みになっている。
人為的に破壊されていた魔道具の核である魔石には損傷が見られ、込められていたはずの魔力が根こそぎ枯渇していた。
そもそも魔石は通常傷を付ける事すら出来ない魔力の結晶のようなものだ。特殊な方法でしか加工出来ず、その方法は秘匿されている。間違っても自然の力で傷を付ける事は出来ないのだ。
その魔石に損傷が見られたという事は即ち、人為的に破壊した以外にない。

何者かが、魔物を大量に生み出そうとしている。

国はそう結論付け、今回の任務に至ったのである。

魔物討伐の際に、魔道具を再度設置し怪しい人物がいなかったかの聞き込みや、魔物による被害などを調査するのが今回の任務だ。

あの晩、ギルが本部に呼び出されたのもこの件だったらしく無用な混乱を防ぐために箝口令が敷かれたのだそうだ。
こうして討伐任務が遂行される時になって、全騎士団員には全ての事情を通告し、暫くして国民にも布告された。
本当は無用な混乱を避けようと、布告をしない方針もあったようだが、実際に物的被害があり、人的被害が起きてからでは遅いという国民本位の考え方で話は纏まったそうだ。



現在俺達第三騎士団は、魔物討伐を行う森の手前にある街の騎士団支部にて討伐任務の準備を行っている訳だが…。

なんでここにアレクセイ殿下がいるのかな?

騎士団支部に到着した第三騎士団一行は、仮宿舎の門を潜り建物内へ通じる扉を開けて固まった。

所謂玄関ホールと呼ばれるような場所で、殿下が仁王立ちになっていたのだ。
その傍らには護衛のカインくんが物凄く申し訳なさそうな表情を浮かべて立っていた。

え、何してんのこの人。

取りあえず全員同じ感想を持ったに違いない。
ハッとしたギルが膝を付き頭を垂れるのを見て、他の団員も慌ててそれに倣う。


「長旅ご苦労だったね。討伐任務任務に向けて各々準備を行ってくれ。ギルフォード団長、ヒースレン副団長、レイド副団長、シンイチロウ、話があるので後で部屋まで来てくれ」


第三騎士団に言葉を掛けると有無を言わさぬ迫力と共に名を呼ばれ、そのまま仮宿舎の奥へと向かって行ってしまう。


ギル達3人はともかく、何で俺も?と疑問が浮かんだが取りあえず殿下の言葉に逆らえる筈もなく、俺達4人は部下や同僚に指示を出して殿下がいる客室へと足を向けた。

ちなみに、ヒースレンとはヒースの事だ。
ヒースレン・ウィリル。25才。
俺達4人の中の年長者。俺のオカン。ギルのお目付役兼幼馴染み。
後は怖い能力が色々。
口が裂けても言えない情報。



客室の扉をノックして返事を待つ。
開けてくれたのはカインくんで、入室を促されたため中へ入る。
客室は豪華な作りではないものの、それでも賓客を迎えるには十分な広さと品の良い家具が置かれた落ち着いた空間だった。
座り心地が良さそうなソファに座る殿下の後方にカインくんが立つのを見計らい、ギルが右手の平を左胸へ添えて軽く頭を垂れる。
俺達3人も同じように礼を取ると、殿下は向かいのソファへ座るように促され大人しく従う。


「着いて早々にすまないね。緊急の案件があって来たんだ」


殿下は俺達1人1人の顔を見て話を始める。


「説明はきちんとするが……まずはシンイチロウ。君には私の婚約者になってもらう」


「え、嫌です」


反射的に即答してしまった。
俺の両隣に座るギルとレイドは咄嗟に俺の腰や頭へ腕を回して隠すようにガードし、ヒースは面倒事の気配に苦笑しているのが感じ取れた。

俺の即答と、ギルとレイドの態度に動じることなく、殿下は話を続ける。


「本当に婚約者にする訳じゃない。…まぁ、話を聞きなさい」


ん?どういう事?

殿下の言葉に理解が追い付かず、取りあえず話を聞こうと未だにガードしているギルとレイドの腕をそれぞれ軽く叩いて拘束を解いてもらう。

まぁ、2人に腰や肩は抱かれているが、取りあえず話を聞こう。

身体を密着させてきた2人は置いておき、俺は殿下の話を聞こうと心持ち姿勢を正した。



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