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しおりを挟む1日の仕事をこなして自主練習に励もうかと訓練場へ向かう途中、珍しく私服姿のギルとヒースに会った。明日は第三騎士団全員が休みのため、どうやら久々に街へ飲みに行くらしい。レイドも後から来るのだとか。
週に2日の休みの内、1日は個人が好きなときに休める休日。そしてもう1日はそれぞれの騎士団単位で休めるようになっているのだ。
第一、第二、第七、第八の4騎士団を除いた第三から第六までの騎士団は主に魔物討伐に赴くため、こうした一斉休日をそれぞれに設けている。
ちなみに第一は王族警護の任務のため、1人1人の休日は決められている。
第二は王都警護の任務なのでこちらも第一と同様だ。
第七は主に斥候…所謂情報収集が仕事のため、休日などの任務に差し障りある情報は明かされていない。
第八はそもそも王都ではなく、騎士団支部がある街や村などの警護担当で、それぞれの地で休日が決められているらしい。
「シンも来るか?」
嬉しい誘いである。同僚と何度か飲みに行った事はあるが、3人とは飲んだことがない。
それにこの身体になってからは酒が弱くなったようで、いつもセーブして飲んでいた。この3人と一緒なら思い切り飲めるかもしれない、と勝手に思う。
俺はその誘いに乗って頷き、後から合流するレイドに話を通しておくからとヒースが知らせに行き、ギルは俺と一緒に部屋へと向かう。
着替えてる最中に色々とイタズラされそうになって、俺の部屋に来たヒースにギルが怒られつつ3人で街へ向かう。
団長、副団長という職務柄普段街ではあまり飲まないらしいが、立て込んだ仕事もなく急ぎの書類も無い事が3人共に重なり、久々に外へ飲みに行こうという事になったようだ。
え、俺そこにお邪魔して良かったの?
積もる話とか積もる話とか積もる話とかあんじゃないの?
俺が付いていく事は気にしていないようで、慣れた様子で少し高そうな酒場へと入っていく。
俺のような平団員が普段飲みで行くような酒場ではないが、だからといって高級感溢れるような場所でもない。
言うなれば、ボーナス出たからちょっと良いとこ行こうぜ!で行くような酒場だった。
普段行くような酒場では、来店者が各々好きな席へと座ったり相席をしたりする。従業員は料理や酒を運び、都度注文を受けたら厨房へ伝えるというシステムだ。
連れられてきたこの酒場は、生前の店で行われたサービスのように従業員が席へと案内してくれる。注文方法などは普段行っている店と同様だ。
どうやらここはギル達がよく利用する酒場のようで、店員と親しげに笑いながら案内されるまま椅子へ座る。奥の方の席で、出入り口からは見えない場所になる。
ヒースが後に1人来ることを伝え、エールと食事を適当に注文するとガタガタと椅子を鳴らしてギルが隣に移動してきた。
「ギル、一応ここは宿舎外ですよ?もう少し自重して下さい」
隣に移動して俺の腰に腕を回して抱き寄せるギルに対してヒースが注意を促すものの、本気で止めさせる気は無いらしく運ばれてきたエールを受け取ってそれぞれの前に置いてくれた。
「宿舎外だからこそだろう?レイドが来る前に少しでもシンを独り占めしておかないとなっ」
とてもいい笑顔でそう言い放つギルに呆れつつ、エールが注がれた木製のジョッキを手に取る。乾杯、と軽く持ち上げて口を付けると魔法によってよく冷やされたアルコールが喉を滑り落ちていく。
1日の疲れを癒やすように冷たさが身体の隅々まで染み渡っていくようだ。
思わず一気飲みしそうになり、ジョッキ半分程で口を離す。
以前、同僚と飲んだ時に一気にジョッキ一杯分煽ってしまいぐらぐらと視界が揺れたことを思い出す。
「シンさんはお酒、弱いんですか?」
ヒースに目敏く見抜かれて苦笑する。運ばれ、並べられていく料理に手を伸ばして1皿手元に引き寄せると、それを摘まみながら頷く。
「前に飲んだ時、加減が分からなくて一気に飲んだらぐらぐらしたんだ。だから弱いんだと思う」
口の中でほろほろと崩れてゆく柔らかい肉を胃に収め、残ったエールをチビチビと舐めるように飲む。
「酔っても俺が責任を持って宿舎に連れて帰るから安心して飲んで良いぞ、シン」
既に二杯目を半分まで飲んでいたギルが俺の腰を撫でようとしたので、口の中に先ほど俺が食べていた煮込んで味付けた肉を放り込む。
それと同時にヒースに睨まれてギルが少し大人しくなるが、相変わらず腰は抱かれたままだ。
ギルはザルなのか、顔色1つ変えずにエールよりも度数の強い酒に切り替えて飲んでいる。
ヒースもエールからワインへと移行しているが、ほんのり頬が色付いてきているようだった。
俺は相変わらず一杯目のエールをチビチビ飲み、それだけでふわふわとした心地になる。
3人で他愛のない話に花を咲かせ時折ギルにイタズラされてはヒースがギルを睨んで大人しくさせる。そうして小一時間ほど。ようやく自分のジョッキが空になり、気分が良くなってきたがゆらゆらと視界は揺れる。
「ギルぅ…かたかしてぇ…」
呂律は回っているが、大分ゆったりと喋ってしまっている。ギルの返事を待たずに腰を抱く彼の肩に頭を預けた。
んー…楽ちん。
その様子にやれやれと肩を竦めたヒースが水を頼んでくれ、直ぐに運ばれてきたそれを零さないように両手で受け取る。
何やらご機嫌なギルに口移しで飲まされそうになり、自分で飲めるからと必死に死守して半分程飲み干し一息ついた頃に、レイドがやっと合流した。
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