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しおりを挟むつい先ほど俺に告白した男は、今目の前で可哀想なほど慌てている。
普段の様子からは想像できないような慌てぶりで、俺は思わず笑ってしまった。
俺の様子に気付いたレイドは何が起きたのか分からないといった様子で見ている。
「あぁ、ごめん。馬鹿にしている訳じゃないんだ。普段は冷静で落ち着いてるのに、凄く慌ててるから」
「…っ…それは…」
大丈夫だと言うように頷いて口を開く。
「自分の気持ちを伝えてるんだ。それにレイドは話すの苦手だろ?慌てるのも仕方ないって」
まぁ、本当は俺が1番慌ててる気がするけども。
レイドの様子に冷静になれただけ。
好かれているんだろうな、とは思っていた。
ただそれは仲間としてとか人間的な意味で好いてくれているんだと思っていただけで、恋愛の対象としてではなかった。
好意を寄せてもらえるのは純粋に嬉しい。それに見合う何かで恩返し等が出来たら、と思う。
だが、その好意が恋愛に関係するとなると…。
ギルの気持ちに対して未だに曖昧な態度を取って待たせ続けている状態の俺が、レイドの気持ちまで受け取ってしまって良いものか…と思う。
それと相反して、拙いながらも懸命に気持ちを伝えてくれたレイドの言葉を無下に出来ない想いもあった。
頭を抱え込みそうになって、ハッとする。
目の前に不安げに瞳を揺らすレイドの顔があった。
何やら考え込むタイプの彼の前で、いかにも困ってますというような態度は見せられないと思ったのだ。
「レイドの気持ちは嬉しいよ。でも今すぐに答えは出せないんだ。……ごめんな」
卑怯だ、と自分に対して悪態をつきそうになる。
ギルの時も、結局こうして逃げてしまった。逃げて、考えを放棄してしまった。
きちんと考えなければ、と思う。このままでは2人に対して失礼だ。
「でも、ちゃんと返事はするから。少しで良い、待っててくれるか?」
考える時間が必要だ。
どんな結果になるにせよ、2人に対して失礼な事にならないようにしなくては。
レイドが頷いてくれたのを見て礼を言う。
そのまま自室へと戻るべく、レイドの部屋を出て歩く。
考えなければ。
これは先延ばしにしていたツケが回ってきたのだ。
どんな結論に至るにせよ、2人にはきちんと応えようと思った。
自室に戻りベッドに寝転ぶ。
幸い明日は休日で、考える時間はたっぷりある。
自分はどう思っているのか。
どうしたいのか。
あの2人とどうなっていきたいのか。
これまでに無いくらい考える。
今まで過ごした時を思い出し、自分の気持ちの変化を思い出す。
ギルは、暴走気味なところはあるけれどとても頼りになる。流石に団長職に就いてるだけあり、緊急時には常に冷静に物事を捉えている。
出会った当初からとても親切にしてくれてロレンスの時も合同訓練の時も、何かある度に助けてくれ、安心感を与えてくれる。人知れず駆けずり回り、俺の居場所も作ってくれた。
レイドは、真面目でとても優しい。無表情だし口下手だから誤解されがちだが、仲間をとても大切に想っている。頑張っている者の実力を認め、背中を押してくれる。
出会った当初は警戒されていたが仲間を守るためには当たり前の行為で、一緒に過ごす内に俺も認めてもらえた。訓練ではまだまだ及ばないが、討伐任務の際には背中を預けて貰える事も多くなった。誰よりも俺を気遣ってくれているのも彼だ。その気持ちがとても嬉しい。
そう、俺は2人に対して好意を寄せている。好きなのだ、あの2人が。
仲間としてなのか、友としてなのか、尊敬できる相手だからなのか、それとも恋情なのか。
その種類が判別出来ていないだけで。
ただ、2人からの想いは嬉しく感じている部分もある。
そう言えば…と、何かが引っかかった。
媚薬を飲まされた時、相手をお願いするならギルかレイドがいいな…と思っていた事を思い出す。
あの時は切迫詰まっていたとはいえ、頼める相手が2人しか思い浮かばなかった。
ヒースは……何だかそういう事を頼むのとは違う気がしていたし、何より2人しか傍にいなかった。
ここでちょっとした違和感を覚える。
確かに傍には2人しかいなかった。
でも、親しい人を呼ぼうと思えば呼べたはずだ。もっと言うなら、そういう行為に精通した者に頼むことだって出来たはず。
何より、ヒースはそんな対象として見られないのに、ギルとレイドは平気だというのが引っかかった。
何で、2人は平気なんだ?
薬で朦朧としてても、嫌な気持ちは一切無かった。
そもそも、性行為をするなら出来れば抱きたい側だと思っていたじゃないか。
ギルだったから良かったのであって、仲良くなった同僚騎士だったら?
仮にギルではなくレイドだったら?
あの時を思い出し、仮に…と想像してやはり2人しか考えられなかった。
ドツボにハマりそうになり考え方を変えてみる。
俺がギルやレイドだったならどうだろう?
ギルやレイドがもし休暇中に行方不明になって、媚薬を盛られていたら?
迷い無く2人を探して俺のできる限りの手を持って助けるだろう。
ギルやレイドが旧第一騎士団に嫌がらせを受け、酷く暴行され命が危うい状態に追い込まれていたら?
2人が、いなくなったら?
他の誰かに目を向けていたら?
俺ではない誰かに、好きだと…愛しているのだと笑いかけたら?
……………………うん、分かった。
ちょっと……いや、かなりムカッとする。
そもそもこんな考えに至る事が証拠だ。
元々の恋愛対象が女だった俺が、男である2人と性行為を想像できる事自体が答えだったのだ。
抱こうが抱かれようが、2人と想像できてしまうのだ。嫌悪も何もなく、寧ろ嬉しく思ってしまうのが証拠。
マジか。
2人が好きとか二股じゃね?
なんて新たな問題が浮上したものの、取りあえず2人に対して誠実に向き合える事に安堵した。
後の問題は……。
どうやってどちらに気持ちを伝えるのか、だな…。
2人とも好きなんだ!ごめん!
うわ…最低…。
胃が痛くなってきた。
考えすぎてクラクラする。
知恵熱出っかもしんねぇわー……。
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