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34(レイド視点)
しおりを挟むいつの間にか、だった。
最初は怪しい奴だと警戒した。
接していく内にその人となりが分かりとても勤勉で礼儀正しく、何事にも真摯に向き合う姿に好感を抱いた。
第三騎士団に正式に入団してからは仲間として守らなければと思った。
神に纏わる事情を知ってからはこれからは幸福でいて欲しいと願った。
街で行方不明になった時は、彼の身の上に降りかかる災難に怒りが込み上げた。
やっと見つけ出した彼は薬によって強制的に高められた状態で、こんな事をやらかした敵に殺意を覚えた。
早く楽にしてあげなければと思うものの、歯止めが利かなくなりそうで結局団長に任せた。
この時初めて団長に嫉妬した。
彼を乱れさせているのが団長だと…どうして俺ではないのかと…。
乱れる彼の姿を思い出しては、愚息が反応してしまい、目の前であんな濡れ場を見たせいだと己を律した。
何故自分が彼に心を乱されるのか分からず、もやもやとした気持ちばかりが募っていき、それを払拭する為に訓練に没頭する。
彼とも何度も訓練に励み、その度に彼に触れるともやもやとした気持ちが晴れた気がした。
自分にしては珍しくことあるごとに彼の傍に寄るようになり、肩に触れたり髪を撫でる回数も増えていった。
そうすると心のもやもやが晴れていき、とても幸福な気持ちになるのだ。
ただ、団長と仲良くしている様子を見てしまうとどうしても気持ちが黒くなっていってしまった。
何故嫉妬してしまうのか、何故傍に寄りたいのか、疑問に思うばかりだった。
合同訓練と魔物討伐任務をこなしている間、別行動する彼らの様子が気になり落ち着かなかった。
やっと顔が合わせられたと思ったら、第二王子や見ない顔の第一騎士団と仲良く談笑していた。団長とも以前より距離が縮まっているような気がして焦りを覚えてしまう。
彼に嫌がらせをする第一と第二を排除できたはいいものの、はやりもやもやは晴れず。
いつものように彼と訓練をしていた夕方。
俺の目の前で彼は倒れてしまった。
どうした?
大丈夫か?
怪我をしたのか?
病気なのか?
治らないのか?
ただの風邪なのか?
目の前でベッドに力無く横たわる姿を見て、何とも言えない気持ちになる。
俺は何故こんなになるまで見過ごしたんだ?
もっとやれることはないのか?
早く楽にしてやりたい。
いつものように笑いかけて欲しい。
早く一緒に訓練をしよう。
ずっと胸が苦しい。
ずっと傍にいたい。
いっそ嫁に貰ってしまおうか。
団長は邪魔してくるだろう。
それでも彼を……シンを、この腕に抱いていたい…。
あぁ、そうか………俺は、シンを愛しているのか…。
もやもやとした気持ちが、ストンと胸の奥に収まった気がする。
シンに対して色々と世話を焼いてしまうのも、気にしてしまうのも、傍にいたいと思うのも、団長に対する嫉妬も、何もかも愛しているが故に、だ。
2日を経て体調が戻ったらしいシンは、体調不良の間に失った体力を取り戻すように大量のご飯を食べてやっと元気になったようだった。
それでもまた倒れるかも知れないと心配してしまう。ヒース副団長も心配だったのか、わざわざ呼び出していた。
シンが部屋に戻った頃に様子を見に行こうと正装である団服を脱ぎ、軽装に着替える。
そろそろか、と部屋を出ようとしたところでドアをノックされドアを開けるとそこには今正に会いに行こうとしていた人物の姿が。
すぐに部屋に招き入れ、手を取って椅子に座らせた。そのすぐ近くに椅子を寄せて俺も座る。
顔色も大分良く、体調も普段通りに落ち着いたようだ。良かった。
「原因って言っても凄く単純で。……18になって、満月だったからなんだ」
体調不良の原因は、なんとなく気付いてはいた。まさか本人の口から確証を得るとは思っておらず、直接報告された事に深読みしてしまう。
俺と、そういう事をしたいと思って…?
いや、そこまで考えていないかもしれない。
きっと今頃、状況を把握したヒース副団長が団長にも報告しているはずだ。
でも、もしかしたら…。
ぐるぐると思考が頭の中を駆け巡る。
言葉を上手く操れない自分が話すごとに、シンの顔に疑問が浮かんでいるのが分かる。
どう言えばいいのか…。
俺が心配していたから、いち早く報告に来てくれたであろう事は分かった。
その気持ちが嬉しいのだと伝えた。
「俺の方こそ、ありがとう。心配して色々気遣ってくれて。レイドの気遣いが凄く嬉しかった」
俺の意図は伝わったようで安心するが、このまま終わらせてはいけないような気がしてしまう。
咄嗟に言葉を続けてしまって、言ってしまった言葉に後悔した。
可愛らしく笑む様子に思わず出てしまった。
言うべきではないのは分かっている。
言ったら確実にシンを困らせてしまう。
でも団長でさえ想いを告げたのに。
俺は言わずに黙っていられるのか?
このままいつも通り過ごせるのか?
少しは意識してもらえるのではないか?
あぁ、きょとんとした顔が可愛い。
再びぐるぐると考え出してしまい、独りよがりな想いが渦巻く。
確実に困ってしまうと分かっているのに、言わずにいられない。
「俺は、シンを……愛して…いる…」
言ってしまった。
何故こんなに我慢が効かないのだ?
あぁ、ほら……固まってしまった。
確実に困っている。
どうする?
困っていても綺麗だな。
笑った顔は年相応で可愛い。
…ではなくて…っ。
謝るべきか?
いや、謝ったら無かった事になってしまう。
軽くパニックに陥っていると、シンが笑っていた。
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