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合同訓練及び魔物討伐任務から王都に戻って1ヶ月。
新第一騎士団と共同で取り調べていたクズ共は、取り調べという名のギルの尋問に耐えられなかったのか、それともただ単に罪を軽くしたかっただけなのか実にあっさりと指示していた黒幕の存在を吐いた。その証言を元に、殿下達は敵対している邪魔者とついでの第二騎士団を捕らえた。
順調に事が運び過ぎていて逆に罠かもしれないと警戒していたもののその心配はなく、異例のスピードでとてもクリーンな国政に生まれ変わった。

敵対していた側がアホだったのか、殿下達が優秀過ぎるのか、それともどちらかなのか。

国の上層部や一部の騎士団の人員が大幅に減少し多少の混乱が起こったものの、そこは実力者の国らしくすぐさま後継の者が後を引き継ぎ正常に機能しているという。
第一騎士団の新たな団長はカインくんが任命され、久々に会った彼は気恥ずかしそうなそれでも誇らしげに笑っていた。
とにかく、今回の騒動は一応の落ち着きを取り戻した。




再び平穏な日々が戻り、今日も朝から訓練で汗を流し午後からは雑務をこなす。夕方からは比較的自由に過ごせるため、レイドと一緒に自主練習に励んでいた。
お互い手にしているのは木剣で、打ち合いをしては休憩し再び打ち合いをしては休憩し。何度かそれを繰り返していた。
やっぱり万能刀の能力底上げがない状態ではレイドにあと一歩敵わない。
いつかレイドから1本取ってやる、と意気込んで自主練習を終わらせようとした時、急激に身体の力が抜け倒れそうになりなんとかその場に蹲る。


「シン?!」


その様子に慌てたレイドがすぐさま駆け寄り、俺の身体を支えてくれた。
頭がクラクラして目眩のような症状だ。暫く支えて貰うままその場でゆっくりと呼吸を繰り返すが、一向に治まる気配はなく身体にも力が戻らない。
蹲っていた足にもとうとう力が戻らずにペタリと地面に座り込んでレイドにもたれ掛かってしまった。


「ごめ…レ、イド…」


何とか言葉を紡ぐものの息苦しさも感じてきて呼吸を荒げてしまい、途切れ途切れの言葉を発してしまう。


「喋るな。部屋まで運ぶ。辛かったら言え」


短く答えたレイドが俺を慎重な動きで横抱きの状態で抱え上げ、歩き出した。その動きはとても丁寧で、少しの振動も感じさせまいとしたものだ。俺はその心遣いに自然と笑みが浮かんでしまい、無意識に抱き上げられて近くなったレイドの肩に頭を預ける。
瞬間的に抱き締められる腕に力が隠った気がしたが、熱が出てきたのか身体が熱くなっていきそれどころではなくなっていた。

その後、レイドに連れられて部屋へ戻った俺は回復魔法を施してもらったが症状があまり変わらず、2日間程ベッドの住人になった。高熱ではなかったものの相変わらず身体に力が入らなかったため、ベッドから起き上がれなかったのだ。
3日目にはあっさりと症状が回復し苦も無く動き回れるようになったが、念の為だとその日もベッドで過ごす。
4日目と5日目には異様な空腹を覚えて、いつも食べている量の3倍程の量をペロリと平らげた。
そして6日目、俺はヒースに呼び出されて副団長室にいる。


「シンさん、身体の調子はどうですか?」


「問題ないぞ。多分風邪だったんだろ」


やけに真剣な表情で聞いてくるヒースに、俺は心配させてしまったんだと理解して大丈夫だと訴えた。


「それは良かったです。…ところでシンさん、今お幾つですか?」


優しく笑みを浮かべて安堵したかと思ったら、突拍子もない質問をされる。
俺は当然17と答えた。


「……本当に?」


え、なんで?

疑問に思っているヒースの様子に、焦りを覚える。
17の筈だ。
そう思って自分を鑑定してみると……



名前 シンイチロウ・スワ
年齢 18才
身長 175センチ
装備 刀(Max)
能力 鑑定(Max) 気配察知(Max) 気配遮断(Max) 剣術(Max) 全言語理解 アイテムボックス(容量無限) 魔力無限 創造魔法 解毒魔法(Max) 回復魔法(Max) 暗記魔法(Max) 精神統一 一刀両断 沈黙魔法(Max) 拘束魔法(Max) 土属性魔法(Max)

転生者。神の加護を持つ。色気溢れる美人(気を付けるように!)。満月の日に妊娠する(避妊をしっかり!)



………………なんてこったい。

いつの間にか俺は、1つ、年齢を重ねていたようだ。能力欄もだが、備考欄にもなんか増えてる…。

俺の様子に何かを察したらしいヒースは、深い息を吐き出した。


「その様子では、18になっていたようですね…。恐らく先日の体調変化も、18になった事が原因です。シンさん、あなた、満月の日に妊娠する身体に変化してたんですよ」


俺はヒースの言葉に目眩を覚えた。

確かについ2日前は満月だった!
満月の2日前から体調変化もあった!
満月の後2日間は食欲も3倍だった!
最近異様に髪が伸びたような気もしてた!

それら全てを繋ぎ合わせて導き出された答えに俺は内心で大慌てだった。

……………マジかよぉおおぉおおおおお!!!!!!!



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