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しおりを挟むギルのお陰で暗い気持ちから復活した俺は、ギルと共に殿下とカインくんの元に戻る。
するとそこには見知らぬ顔が……。
………え、誰?
服装や腕章を見る限り、第一騎士団だ。
一瞬固まりかけ、カインくんが指示を出してその第一騎士団の人達がクズ共をどこかに連れて行こうとしているのを見て、殿下へと近付く。
「あぁ、戻ったね。大丈夫かい?さっきまで酷い顔をしていたけど…」
殿下が歩み寄っていた俺達に気付き、眉尻を下げて俺の顔を覗き込んできた。
突然のイケメンどアップに再び固まりかけて、反射的に僅かに後退しつつも大丈夫だと告げれば、殿下は優しげな笑みを浮かべて頷いて離れてくれた。
「あの…殿下、彼らは…?」
クズ共の武器を取り上げて1人一人をしっかりと縄で縛り上げていく第一騎士団の格好をした彼らを示して尋ねると、殿下は何事かを思い出したように声を上げる。
「彼らはカインと同じように私に真の忠誠を誓った者達だよ。第一騎士団の中でも真面目で、勤勉な者達だ。実力も申し分ないし、何より国を思ってくれている」
成る程。捕まったクズ共と一緒に考えてはいけないな。
俺は一面しか見えてなかったようだ。
殿下の説明を聞きながら納得する。
要するに、こうしてクズ共を捕まえた後の事をちゃんと考えていたらしい。
他国がいる野営地へ捕縛した者達を連れて行けば、自国の醜聞を晒すような事になってしまう。かといってクズ共を連行するのに第三騎士団の人員を割くと、帰りがけの魔物討伐任務に支障が出るかもしれない。
殿下を護衛していた第一騎士団が野営地から姿を消せば、それこそスティラ国で何かあったと勘繰られる事になる。だからと言って殿下共々野営地から去るわけにはいかない。
ならばどうするか。
別の誰かに連行させればいい。
代わりの護衛を付ければいい。
幸い、クズ共は疚しいことをしようとしていた為他の者達と深く関わってはいないし、他の者達もあまり興味はなさそうだった。
万が一違う護衛だとバレてもどうとでもできる、と殿下は言う。
「後は彼らに任せればいい」
そう言うと、殿下はカインくんを伴い野営地へ戻っていく。その後を護衛の新第一騎士団が追っていくが、俺とすれ違いざま全員が全員頭を下げていく。
その表情には謝罪の思いが浮かんでおり、俺は彼らに大丈夫だと笑顔を返して見送る。
俺は残った新第一騎士団の彼らに囲まれたクズ共にかけていた拘束と沈黙の魔法を解き、野営地とは逆方向にクズ共を連行していく30名程の団体を見送った。
連行する任務を負った彼らも、殿下の後を追った彼ら同様に俺に頭を下げていく。再び大丈夫だと笑顔を浮かべてそれに応えていった。
まだ夜が明けない時間帯。全員を見送る形でこの場に残った俺とギルも、野営地へ戻り明日からの任務に備えて身体を休めようと足を動かし出した。
翌日、殿下の指示で魔物討伐任務を遂行しながら森の出口へ向かう。
前日とは打って変わり、殿下や第一騎士団も魔物との戦闘に加わる。
王族に何かあったら、と気が気ではなかったが殿下は相当な腕前のようで心配もすぐに無くなった。とはいえ、やはり王族。何かあってからでは遅いのだ。後半は大人しく護衛されててくれという満場一致の意見に、渋々といった体で大人しくしてくれた。
行きと同じく、帰りもそこそこの数の魔物に遭遇しその度に見事な連携を取りつつ討伐しながら大草原に着く。怪我人も少なく、軽傷者で済んでいる。薬草を塗り込めば大丈夫な程度だ。
大草原へ着けば、みんな互いに称賛し、労い、感謝してそれぞれの国の陣営へと戻っていく。
それぞれの国の代表が集まり、互いに報告しあって今回の合同訓練及び魔物討伐任務は無事終了したのだ。
無事、というには少々誤りがあるが。
王都へ戻ったら今回のクズ共の尋問が待っている。
第一騎士団と第三騎士団で合同で取り調べを行い、上層部に繋がる証言を吐き出させなければならない。
殿下に、取り調べに同席するか聞かれたが遠慮しておいた。
また暗い気持ちに逆戻りしそうだし、クズ共の顔を二度と見たくなかったからだ。
その代わりにギルが意気揚々とその提案に乗っていたので、やり過ぎには注意するようにと忠告して詳細な報告は聞かない事にした。最終的な処分は当事者兼、協力者故に聞かされるらしい。
まぁ、その報告もいらないんだけどな…。
殿下はこのクズ共捕縛の機会を生かして、ついでに上層部の敵対している邪魔者達も一掃するようでその中には第二騎士団の俺にちょっかいをかけていた奴らも含まれるんだとか。
だが、第二騎士団は今回の第二王子廃位の件には全く関係なく、単に第一騎士団の行動に便乗していただけのようだ。
第二騎士団は主に王都の警備を担当していたがその大半が職務怠慢や、騎士にあるまじき行為を繰り返している為に捕縛の流れとなるそうだ。まぁ捕縛しても良くて左遷、悪くて退団の処分になるそうだが。
そんなこんなで王都に戻っても忙しい日々が待っているので、正直魔物討伐の方が気が楽だと思ったり思わなかったり。
平穏が1番だな、うん。
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