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しおりを挟む何度か魔物との戦闘を繰り返して辿り着いた野営地。
幅2メートルほどの小さな川が流れるそこは、何度も騎士団の討伐任務で使用した形跡のある拓けた場所だった。
討伐任務で赴いたこの森はとても広大で、こういった野営地に適した場所が幾つもあるのだとか。
道中、何度か大型の魔物と遭遇したが幸いにも負傷者はあまり出ていない。
掠り傷程度の者が多く、毒にも侵された者はいなかった。負傷者の手当は魔族の人達に任せ、薬草を運んだり野営準備を手伝ったりと忙しく動き回る。
森での焚き火は厳禁だが、火は魔物や野生動物を寄せ付けない為に必要なため、最小限に止めておく。
空も夕闇に染まり始め、各々明日の準備を終えて見張りや明日の打ち合わせを終えた者達がゆっくりと身体を休めていた。
俺もそろそろ見張りの為に早めに休もうと他国の者達と談笑していた輪を抜け出す。
そこで、呼び止められた。
「シンイチロウさん、殿下がお呼びです。ご足労願えますか?」
振り返るとそこには第一騎士団の騎士がいた。
またかよ…とげんなりしたのも一瞬。どうやら毛色が違うようだ。
俺を呼び止めたその騎士は、今までの第一騎士団のように見下した態度が見えない。それどころか、俺に対する謝罪の念すら感じ取れる。
その様子を不思議に思い、それでも警戒は怠らずに頷く。
その騎士の後ろを付いていくが、何やら様子がおかしい。俺の歩幅に合わせて歩いてくれるし、何よりも他の第一騎士団に会わないようなルートをわざと歩いてるような気がする。
俺の警戒心は膨れ上がるが、疑問も更に膨れ上がった。
案内された簡易テントの中は、大草原で張られていたテントとは大違いに簡素だった。
ベッドやテーブル、椅子などはなく、ちょっと豪華な敷物が敷かれただけの空間。
討伐任務中で当たり前といえば当たり前なのだが、その差に一瞬戸惑う。
テント内を見渡せば、俺を呼び付けた張本人の殿下と、いつの間にか呼ばれていたらしいギルの姿しかなく。
「あぁ、来たね。何度も呼び付けて申し訳ない。まずは……結界」
殿下が俺がテント内に入ったのを見計らって、声をかけてくる。それから素早く魔法を使った。
「これで、中の声は外に漏れない。外の様子は分かるから、何かあればすぐに対処出来るだろう」
そう言う殿下の様子は明らかに先ほどとは違って見えた。人を値踏みするような目線は消え、常に穏やかに浮かべていた笑みを消している。そしてそのまま無造作に、敷物の上に腰を下ろした。
「立ち話もなんだから、適当に座ってくれ。まぁ、椅子はないんだけどね」
殿下を見下げる格好になる俺とギル、第一騎士団の騎士は、慌てて腰を下ろす。俺は条件反射で正座してしまった。
ちょっと後悔。
いくらちょっと豪華な敷物が敷かれたといっても、地面はボコボコだ。足が痛い。
でも俺以外の誰も文句は口にしないのでそのまま口を閉じる。
ちなみにギルはちゃっかり俺の隣に座ってます。
「まずは、シンイチロウ。任務中、度重なる第一騎士団の言動に不快な思いをさせてしまってすまないね。事情があって口出しせずにいたんだ。申し訳ない」
頭を下げる殿下に続いて、第一騎士団の騎士も頭を下げる。
俺は訳も分からず、でも2人に頭を下げられ慌てて頭を上げるように訴えた。
ギルもその様子に混乱しているようで、説明を求めた。
「殿下、シンが困っていますし、事情を説明していただけませんか?」
ギルの言葉に頭を上げた2人を見てホッとする。偉い人に頭を下げさせるのは居心地が悪い。
殿下は俺とギルを見た後、第一騎士団の騎士に視線を向けて頷き、そして口を開いた。
「シンイチロウ、君の鑑定結果が王と、国の上層部に報告された事は知っているね?私もその報告を受けた1人だ」
俺は殿下の言葉に頷く。
俺の存在が異質だった為、然るべき所に報告するのは当たり前だろう。
多少、秘密にしている部分はあるものの、殆どありのままを報告されているはず。
そしてそれは鑑定される前に了解している。
「その報告を受けた一部の上層部が、良からぬ事を計画しているようでね。今回連れてきた彼以外の第一騎士団の騎士は、その計画を実行するための言わば駒なんだよ」
チラリ、と殿下の横に座る騎士に目をやる。彼は悔しそうな表情を浮かべ、自分の手を握り締めていた。
「王位継承第一位である私の兄が病弱なのは知っているね?とても優秀な事も、王位継承権を返上したがっている事も」
頷いて続きを促す。第一王子は、自身の病弱さを隠さず王位継承権を返上するためにわざわざ布告したとも言われている。
「兄と私の間で王位の事は既に話が付いているし、父である現国王も納得しているし、着々と準備は進んでいたんだ。でもね、このまま何事もなく王位継承権第一位が私に譲られるととても困る者達がいるんだよ」
その事実を口にするだけでも不快だと言わんばかりに殿下の眉間に皺が寄る。
「兄はとても優秀で病弱な事を除けば、次代の王に相応しい方だ。このまま王位に就いても病弱さは私が支えれば何とかなるはずだったんだが……一部の者達がね、バカな事を企て始めたんだよ」
心底疲れた、というように深い息を吐き出す殿下を見つめる。様々な苦労をしてきのが窺えた。
「まず第一に、無能な護衛を兄と私に付けて監視し、兄を国王からも私からも遠ざけた。第二に、進めてきた王位返上の儀を様々な理由を持ち出して頓挫させた。第三に、私を廃位に追い詰めようと動き出した」
そこで、不意に俺へと視線を向けられた。疲れと、呆れと、謝罪が込められたような複雑な眼差しをしていた。
「私の護衛としてきた彼以外の第一騎士団の騎士は、今回の他国も絡んだ大事な任務中に君を手酷く犯して、他国のせいにするように私に命令されたのだと証言するらしいんだよ。……バカだろう?」
呆れたように笑った殿下の言葉に俺だけではなく、ギルも固まる。
………………はい?
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