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「シンイチロウというのはお前か?」


1日目の合同訓練の休憩中。
獣族、魔族と友好的な関係を築こうと会話を楽しんでいると突然背後から声をかけられた。振り返って見てみると、見たこともない騎士の姿。恐らく第一騎士団だろう。腕章の色が第三とも第四とも違った色だ。

ちなみに、第三者から第六は腕章が赤く、縦線模様の数でどの騎士団に所属しているか分かるようになっている。第一は紫、第二が青、第七が黒、第八が白だ。


「そうですが…何かご用でしょうか?」


度重なるセクハラと嫌がらせですっかり第一が嫌悪対象になっていた俺は、あからさまに不機嫌ですという顔をしてしまった。


「アレクセイ殿下がお呼びだ。至急、殿下の元へ向かえ」


そんな俺の様子を鼻で笑い、上から目線の命令を口にする。選民意識に凝り固まったその態度に眉を寄せてしまう。無視して談話を続けようかとも思ったが、第二王子直々の呼び出しに応じない訳にもいかず…。
せっかく打ち解けはじめた二国の人達に申し訳ないと謝りつつ立ち上がって王子の待つテントへ向けて歩き出す。
既に歩き出していた第一の騎士に、ギルが同行する旨を伝えているようだが呼ばれているのは俺だけだと言ったきり振り向きもせずにずんずん先を歩いて行ってしまった。
ヒースやレイドにも途中で会い同じように同行を求めていたが、やはり同じように言うだけ言われて結局1人で向かうことになった。


「失礼致します」


こうなったらさっさと済ませてしまおうと入室前に一言断り、躊躇なくテントの中へ入る。
そこはテントの中とは思えないほどの広々とした空間だった。魔物討伐任務中だと言うのに不釣り合いな豪華な家具やベッドが置かれ、草原だったはずの地面にはふかふかな絨毯が敷かれている。その中央で椅子に座り優雅にお茶を嗜みながら地図を広げている人物。
華やかな金色の髪を後ろで1つに束ね、アイスブルーの瞳で広げられた地図を見つめていた。いわゆる、THE王子と言わんばかりの見目。優しそうなたれ目で鼻筋は通り、やはりイケメン顔である。
地図を見ていた目が動き、入室したばかりの俺を見つめる。


「突然呼び立ててすまないね。君の事は報告を受けた時から気になっていたんだ。少し話をしないか?」


すぐに穏やかな笑みを浮かべ、落ち着いたトーンの声で話しかけられる。が、その目は品定めをするようなそれだ。目の奥は笑っているように見えない。その様子に面倒事の匂いがして一瞬顔をしかめそうになり、相手は王子だと顔を引き締める。
傍には世話をするための従僕が2人付き従い、お茶や資料のようなものを手渡したりと忙しく動き回っている。
出入り口付近には第一騎士団団長が護衛のために立っていて、入室してきた俺の全身を舐めるように見つめていた。主に下半身を。


「気にかけて頂き、ありがとうございます。殿下からのせっかくのお誘いですが……明日からの討伐任務に向けて色々と準備もありますので、心苦しくはありますが辞退させて頂きたく存じます」


慣れない言葉遣いに舌を噛みそうになり、下手くそな言葉を紡ぎながらさっさとこの場から立ち去りたいがために話を断る。
こんな何考えてるか分からない王子と、気持ち悪い視線を寄越してくる第一のいるところで呑気に話などしていたくはない。


「ふむ…確かに君の言うとおりだね。明日は1日、君と一緒な訳だし、ここは大人しく引き下がるとしよう」


断られてもさして気にした様子はなく、面白いものを見るように笑みを深めただけだった。

ずっと引き下がってて下さい。
寧ろこの場所から動かないで下さい。

などと言えるわけもなく曖昧に笑顔を浮かべてその場を後にし、先ほどまで訓練していた場所に戻りつつ第二王子について思考を巡らせる。

本当に話をしたかっただけなのだろうか?
気になっていた、というのは本当のようだが…どうも得体が知れない。

確か第二王子は現在王位に1番近いとされ、文武両道で国民からも高い支持を受けている。国民には優しいが、身内ともいうべき者達には厳しすぎる面もあるとか。
第一王子にも勿論王位継承権はある。とても優秀だという話だが、ひどく病弱で1日の大半をベッドで過ごしているらしい。故に、王位継承権を返上したいがっているが周囲の者が何故か止めているという。

何とも厄介な人物に目を付けられた感が否めない。
明日は出来るだけ離れて行動したいが…果たしてどうなるか…。
それに、王子の護衛をしているあの第一の団長。本部で会う度に下世話な言葉と視線を、ご丁寧にセクハラ込みで仕掛けてくるのだ。その部下達も然り。それに煽られるように第二騎士団の奴らまで仕掛けてくるもんだから、ブチッとキレたんだよな…。


段々と気が重くなり深く溜息を吐き出す。

気分転換だ。
さっさと戻って訓練に集中しよう。
打ち解け始めた二国の人達ともっと話してみたい事もある。

無理矢理気持ちを切りかえた俺は小走りで訓練を再開した自分の部隊へ戻ったのだった。

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