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15(レイド視点)

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初めて会ったのは、団長達が討伐任務から帰還した日の午後だった。
団長に連れられ宿舎の応接室に向かいながら大まかな話を聞く。

森で魔物に囲まれた際に助けてくれた恩人だと言う。
見たこともない武器を使い、相当の腕前の人物。
瞬時に判断して解毒魔法を使い、更には連続して回復魔法も使って見せたのだとか。
事情によっては第三騎士団に入団させる、とまで判断している。
暫くは俺に監視をさせるという。
とても綺麗な人で、色気がダダ漏れだから惚れるなよ、とは団長の個人的な意見だ。

既に陥落した団長はさて置き、話だけ聞くと、この上なく怪しい。
事の真相を確かめなければならない。
国や民を危険には晒せない。


応接室には既に礼の人物がヒースと共に座っていた。
斜め向かいに座って、少年を観察する。
シンイチロウという少年は、確かにとても綺麗だった。あの容姿ではさぞ苦労しただろう。
挙動だけ見れば怪しくはない。むしろ堂々としているが…。
ヒースの投げ掛ける質問に曖昧な答えしか返さないのは余計な疑惑を深めるだけだ。
やはり何処かの手先か…。


「………信じてもらえるか分からないが…」


そう前置きしてから話された内容に、驚く。
それに加えて先ほどヒースが投げ掛けた質問にも答えていく様子をじっと観察する。


「両親の名前は覚えてない。あの森にいたのは、気付いたらあの場所にいたからだ。身体能力が高いのは、この刀のお陰だな。鑑定が使えるのも神にもらった能力だからだ。解毒魔法は、創造魔法で作った。回復魔法を連続で使えるのは、魔力無限の能力を持っているからだ。もう一つ言わせてもらうなら、何か企んでたら団長達を助けてない。更に魔物をけしかけるか、奇襲する」


成る程、筋は通っている。到底信じられる内容ではないが、嘘を吐いていれば視線が揺れる。
彼にその様子は見られなかった。
団長とヒースの様子を見て、この先の展開に察しが付いた。
仮に、彼が言う事が事実なら騎士団で守ることが出来る。
逆に、偽りならば騎士団にいる限り好き勝手には動けないだろう。
俺は2人の判断に従う旨を目線で伝える。
団長もヒースも察してくれたらしく、話をどんどん進めていた。
あらかた話が終わりると、ヒースに彼を部屋に案内するように支持された。場所は俺達3人の部屋と同じ階の端の部屋だ。何かあれば直ぐに対応できる場所だ。


次の日は、彼にヒース特性の試験を受けさせた。団長の名前しか書けなかったらしい。
更に次の日、彼の部屋に大量の本を運び込んだ。どうやら常識が分からないというのは本当の事らしく、入団試験の為の勉強に使うらしい。本が壁と化している。この大量の本の内容を今から覚えなければならない彼に多少同情する。
2日後、本を全て覚えたという。魔法を使ってしまったが、試験まで日数の余裕がないから目を瞑ってくれとの事だった。渋々、俺達3人は納得する。
しかし、驚いた。あれだけの本の内容を覚えたにも関わらず、更に勉強すると言うのだ。せめて年齢に見合った知識を、と思っているらしい。
……彼に対する認識を改めなければならないかもしれない。
年齢に対する認識も。あの見た目で成人しているなど誰が信じるのか…。


訓練場に向かうらしい彼の後を追う。
自主練習に励む団員に声をかけようとしたところに割って入った。
実力を見てみたい。率直にそう思ったからだ。


「訓練なら、付き合う」


だが彼は、暫く俺を見つめた後に辞退する。


「申し出は有り難いが、俺では副団長の相手としては実力不足だと思う」


折角、木剣も用意したんだが…残念だ…。だが観察はさせてもらおう。どんな戦い方をするのだろう。
彼は、近くで自主練習に励む団員に声をかけて訓練に付き合ってもらっていた。入団試験の事を詳しく聞き、どんな試験なのか調べている。魔法も打たせて観察していた。
魔法が的に当たって感激しているようだった。
無邪気だな…。

次はどうやら木剣での打ち合いらしい。
無駄のない動きで剣をいなしていく。徐々に段階を踏まえて打ち込む難易度を上げる団員も素晴らしいが、その切り込みを躱し、流し、時には反撃する。
その動作1つ1つが美しいと思った。


訓練を終えた彼は部屋に戻るらしく、俺も後に続く。監視もそうだが、また訓練する様子を見たいと思ったからだ。
また訓練を見ることを伝えて彼の元を去る。
次の日も、更に次の日も、彼の訓練する様子を見つめる。
あの華奢に見える身体にはどんな風に筋肉が付いているのだろうか。
あの無駄のない動きはどのように動けば繰り出されるのか。
訓練相手にも誠実に向き合っているのも素晴らしい。
毎日欠かさず訓練に勤しみ、入団試験に臨む姿にも好感が持てた。
とても興味深い人物だ。
カタナ、と言ったか。あの武器も見てみたい。
彼の振る舞いにさぞかし似合うのだろう。


「何が目的だ?」


そう問われれば、素直に答える。


「カタナを見てみたい」


彼は嫌がる素振りもなく、部屋に招き入れてくれた。そして躊躇なくカタナを手渡してくるが……柄を握って引き抜こうとしても抜けなかった。
彼には抜けるらしい。
何か試したい事があるらしく、訓練場へ戻る。
何を手伝えばいいのだろうか。


どうやらカタナは彼以外には扱えない代物だったようだ。
残念だ……。
しかし、カタナを振るう彼の姿はとても美しいと思った。煌めく刃を戸惑いなく振り上げる様子に肌が粟立つ。
もっと見てみたい。


「副団長、なんでそんなに後ろ歩くんだ?」


「……客人だからだ」


知らず、開けていた距離を見て咄嗟に口を吐いたのが客人という言葉で良かったと思う。監視のためだなどと、彼には言えない。


「別にそんな離れなくても良くねぇか?客って言ってもヒースの個人的な客扱いで、実際はただの怪しい奴だしな」


3メートル程の距離を指し示して笑う彼は、可愛らしく見えた。と同時に自嘲に満ちている気がした。自嘲気味に笑う彼に申し訳なさと、それとは別の胸を締め付けるような感覚に襲われた。


「……興味が湧いた」


彼に、シンに興味が湧く。これ以上上手い言葉が見付からず無言のまま隣を歩き、そのままぞれぞれの部屋へ戻る。

どう言えばいいのだろう。
あんな風な笑顔は見たくない気がした。
訓練している時のシンは楽しそうで、魔法を見た時の表情はキラキラと輝いていたようだった。
あんな風に輝くような笑顔が見てみたいと思った。
明日からの訓練、やはり俺も参加しよう。
シンには断られたが、色々経験させてやりたい。

早速明日、話してみよう。
言葉を上手く操れないが、シンなら分かってくれそうな気がした。


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