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しおりを挟む部屋に戻ったのだが……。
何故か、訓練を終えた後も後を付いてくる者が1人。
後ろを振り返り、3メートル程離れて立つ人物を見つめる。
「……何か、用でも?」
藍色の瞳で無表情にじっとこちらを窺っている。無表情な上に寡黙らしいその見た目からか冷たい印象を受けてしまう彼は、レイド副団長。
何故か訓練する様子をじっと観察し、その後も無言のまま俺の後を付いてきていた。
え、何?こわっ。
「………明日の訓練…見せてもらう…」
それだけ言うと、踵を返して去って行った。
………はい?え、それだけ?
訳が分からない。いや、もしかしたら監視か?
でももし監視だったなら俺が部屋に戻ったくらいでレイドが去って行くのも変だ。
謎の行動を起こす人物に首を傾げながらその日は部屋で過ごした。
翌日は朝から、頼んでいた本を暗記する。そして午後には訓練場へ。
勿論、レイドが観察している。昨日訓練を頼んだ彼が、別な属性を使える団員を連れてきてくれていた。
本当いい人だな!
それぞれの属性攻撃を見せてもらい、剣を使っての打ち合い。
それが終わると部屋へ戻る。そして当然レイドも付いてくる。去り際にまた明日も訓練を見ると告げて。
その繰り返しの日々が何日か続き、去ろうとするレイドに堪らず声をかけた。
「何が目的だ?」
正直、うんざりしていた。何か言うわけでもなく、邪魔をする訳でもない。
かといって隠れて観察しているわけでもない。
精神的に疲れるのだ。
声をかけられ足を止めたレイドは、俺に半身を向けたまま暫く考え込む。
「…………カタナを見せてくれ」
やがてポツリと言葉を発したかと思うと、きっちり3メートル以上近付かなかった彼が近付いてくる。
は?カタナ?刀か?
え、見たいだけ?
「カタナを見てみたい」
目の前に立つレイドが言う。無表情のままなので本心なのか、他に思惑があるのか分からない。
害意がないのだけは分かったので、頷いて部屋へ招き入れる。
刀はベッド脇のチェストに立てかけていた。それを手に取り、出入り口付近で立ったままのレイドへ手渡す。
何の装飾も施されていない、漆塗りの黒い鞘。鍔も、柄も、飾り気はない。
レイドはそんな刀をまじまじと見ている。柄に手をかけ、引き抜こうとした。
「……抜けない?」
軽く引くだけで抜ける筈の刀身は、鞘からその姿を見せる事は無く。
何度も抜こうとするが、抜けない。
「ちょっといいか?」
レイドから刀を受け取り、今度は自分がやってみる。
カチリと小気味よい音と共にスラッとした刀身が露わになる。
どういう事だ?
確認するように刀身を鞘に戻し、再び引き抜く。また抜けた。何度か試してから再びレイドに手渡して同じように引き抜いてもらうが、抜けない。
「……お前にしか抜けないらしい」
刀を差しだして俺に返してくるレイドが残念そうな声音で告げる。
マジかよ…。
「ちょっと、試してぇ事があるんだ。付き合ってくれ、副団長」
とある考えが浮かび、俺は刀を受け取りつつ部屋から出る。レイドは言われるまま付いてくる。3メートル程後ろを。
何故に3メートル離れる?
不思議な男である。
俺が向かったのは訓練場。先ほどまでいた場所だ。
既に人影は無いが、気にせず歩を進める。
多少暴れても差し障りない場所まで来ると、俺は後ろを付いてきたレイドに刀を差し出す。
鞘の部分を持ったまま、柄の部分を差し出す形だ。
「引き抜いてみてくれ」
意図を察したレイドが頷き、柄を握り込んで引き抜く。が、抜けない。
今度はレイドに鞘の部分を持ってもらい、俺が柄を握って引き抜く。今度は抜けた。
成る程、鞘は誰でもいいのか。
空の鞘をレイドから受け取り腰のベルトに差すと抜き身の刀を代わりに渡す。
次いで、魔法練習用の的に切りつけるてみるように言う。
扱い方を知らない素人が刀を使っても、軽く切り込みが入る程度だろう。そう言って振るってもらった。
が……的には切り込みどころか、削れた後さえない。
何度か頼んで同じ動作を繰り返してみたが、的にはなんの跡も付いていなかった。
今度は俺が刀を手にする。レイドが離れたのを見て、的に斜め下から斬りつけた。
的は、その丸い形を見事に半分に切られていた。
「どうやらこの刀は、俺以外には木の棒よりも役に立たない武器らしい」
刃こぼれ1つ無い刀身と、無残にも切り裂かれた的を交互に見つめて肩を竦める。
「……そうか」
明らかに落胆した様子で、しょんぼりと肩を落とす。数日前にも見た光景だ。
その様子が仔犬のようで、知らず笑みが零れる。刀を収めて戻ろうと声をかけると再び後方を3メートル程開けて付いてくる。
「副団長、なんでそんなに後ろ歩くんだ?」
「……客人だからだ」
疑問を口にすれば、もっともらしい答えが返ってくる。確かに、客相手なら並んでは歩けないな。でも離れすぎ。
「別にそんな離れなくても良くねぇか?客って言ってもヒースの個人的な客扱いで、実際はただの怪しい奴だしな」
物理的な距離を指し示して笑って言えば、距離を詰めて隣を歩いてくれた。
「怪しいとは思っていない」
予想外の返答に、続きを促してみる。
「……興味が湧いた」
これまた予想外の返答に疑問が浮かぶが、それ以上話すつもりはないようで黙ってしまった。話すつもりがない相手に迫っても口は割らないだろう。仕方なくそのままそれぞれの部屋へと戻っていった。
興味って…何に?
分かんねぇよ…言葉のキャッチボールしようぜ、副団長…。
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