13 / 81
13
しおりを挟む今日から試験当日まで勉強漬けの日々が始まる。
受験勉強以来だな…と現実逃避したくなるほどの本の山が目の前にあった。いや、最早壁である。
あの話し合いの翌日、ヒースから簡単なテストを出された。
それはスティラ国に関する様々な事柄に関する問題で、歴史は勿論、騎士団の組織の本質や、様々な物事の仕組みなどの全100問程の問題。
ヒースが夜なべして作ったらしい。
……ご苦労さまです。
だが俺はその問題を、一問しか解けなかったのだ。
その問題は【第三騎士団団長の名前は何でしょう?】という問題。
分かった途端フルネームを華麗に書いた。0点では無かった事に安堵する。
「書くことは問題なさそうですね。本当に何も覚えてない事も分かりましたし、きちんと1から教えますので安心して下さい」
とてもいい笑顔で去って行くヒースを見て、どうしようも無い寒気を感じたのは気のせいでは無かったらしい。
更に次の日には団長、副団長総出で抱えきれない程の本を部屋に運んできたのだった。
3人で何往復したのか、ベッドとは反対側の壁側に本が高く積まれている。本の壁である。崩れてきたら圧死するレベルだ。
その中の1冊の本を手に取る。国の歴史を分かりやすく子供に読み聞かせる為の、挿絵の付いた絵本だ。
それをパラパラと捲りつつ、つい先日の話し合いを思い出す。
ギル、ヒース、レイドの3人で勉強を見てくれる方向に決まったとはいえ、団長と副団長がずっと俺に付いている訳にはいかない。あの3人は第三騎士団のトップ3なのだ。そこで、3日に1度、1人ずつ俺に勉強を教えてくれる事になった。3人が来れない日は、自主勉強という訳だ。
「それにしたって…あり過ぎだろ…」
俺はげんなりしつつ本の壁を見つめる。
筆記試験に出題する範囲のもので、俺にも分かりやすく書かれている本を集めたらしい。
気遣いは有り難い。本の内容も実に分かりやすく、面白い程読み進められる。
だが、一向に減る気配がない。読み終えた本をベッド側の壁に沿って積み重ねている。かなり読んだと自負できるほどの量だ。
しかし……壁がまだ崩れない…。
俺は休憩がてらベッドに横になる。朝から読んでるせいか、目が霞む。
目頭を揉みながら深い息を吐いた。
どうにかこの本の内容を覚えなくてはならない。
うんうん唸りながら覚えるにはどうすればいいかと思案する。
ふと、俺の能力で何とかならないかと思い当たった。
創造魔法。読んで字の如く、だ。
魔法を創造する魔法。つまり、創ってしまえばいいのだ。
早速俺は手にした手本に手を翳し、呟く。
「……暗記」
途端、手の平が淡く光り直ぐに消えた。そして絵本を捲る。内容を確認するように1ページ1ページの文字を丹念に目で追う。
……………知ってる。いや、覚えた!
手にした絵本と魔法を使った手の平を交互に見つめ、思わずガッツポーズをした。
創造魔法!!ありがとう!!
それからは早かった。既に読み終えた本にも暗記の魔法を使っていく。何冊か終えて内容を確認する為にページを捲り、再び魔法を使う。それを1日中繰り返し日が暮れる頃には本の壁は無くなっていた。
翌日、ギル達3人に他の本を借りて貰えるように交渉する。
当然、勉強用の本は覚えたと伝えた上で。魔法で覚えたのは反則技だが、試験当日まで時間はなくやむを得ないと強引に納得してもらった。
「ヒース、俺の年齢に見合った本を新たに借りられないか?」
この世界で当たり前に生活していれば、当然知っているであろうこと。俺にはそれが足りないのだ。
例えば物の価値、貨幣価値など。生活に関する事が全くと言っていい程分からない。
「分かりました。シンさんはお幾つですか?」
「鑑定したら17だった」
「「「え?!」」」
3人とも目を見開いて驚きを露わにする。無表情らしいレイドでさえ。
この世界での成人は16才。どうやら俺は15才位に見えていたらしい。
日本人の童顔恐るべし……。
ともかく、ヒースは了承してくれたので見合った本を明日にはまた部屋に運ぶと言ってくれた。
我が儘を受け入れてくれた事に感謝を述べて俺は3人の元を去り訓練場へ向かう。
忘れてはならない。入団試験には、筆記試験の他に実技試験もあるのだ。
どうやら実技試験には武器の持ち込みは不可らしい。ということは、俺は刀を使わずに試験を受けなければならないのだ。
実技試験は試合形式で行われ、勝ち負けは合否判断の1つ。試合中の動きや判断力、魔法攻撃への対策など、様々な点で合否を決めるらしい。
そのための訓練だ。
訓練場には自主練習に励む隊員が数名いるのみだった。
訓練場へ足を踏み入れる際、礼をする。それからこの場にいる隊員に訓練相手を頼もうかと近付こうとしたが、別の声に止められる。
「訓練なら、付き合う」
短くそう言った相手は俺の後ろから声をかけてきた。振り向き声の主を見ると、部屋から付いてきたのだろうレイドの姿が。手には訓練用の木製の剣が握られている。
逡巡し、失礼ながら鑑定を使う。
名前 レイド・アイザック
年齢 23才
身長 190センチ
装備 木剣
能力 土属性魔法(Max) 聖属性魔法(5) 気配察知(5) 剣術(9) 槍術(8)
備考 スティラ国第三騎士団副団長。寡黙だが優しく、剣術の腕前は団長よりも上。奥手だが、1度好きになるとしつこい。むっつり(気を付けて!)
だから、最後の説明文!!
まぁそんな事より…ギルより強いのか…。
鑑定画面を見つめつつ考える。はっきり言って、俺は刀が無ければただの人。俺の能力を底上げしてくれる万能刀が無ければ、第三騎士団で実力ナンバー1の男相手に訓練らしい訓練が出来るかどうか…。
「申し出は有り難いが、俺では副団長の相手としては実力不足だと思う」
流石に申し訳がなく、やんわり断るとレイドが見るからにしょんぼりとしていく。
「………ならば、見ている」
何アレ!!
そんな怒られた犬みたいな目をすんな!可愛いだろうが!!
何故か良心がズキズキと痛むが、引いてくれたレイドに感謝しつつ近くで自主練習に励む団員に声をかけ、入団試験を受けるための訓練に付き合って欲しいと伝えると快く引き受けてくれた。
聞いた話では、騎士団に入団するには騎士養成学校の卒業試験に合格している事が必須条件だという。
故に、この騎士団にいる団員は全て卒業試験経験済み。
攻撃魔法がどんなものか分からず、試しに訓練用の的に打ってもらった。彼は水属性らしく、水の弾を素早く的へ放つ。火属性は火の弾、風属性は風の弾、土属性は土の弾。
試験での魔法攻撃は、殺傷能力の低い4つの属性攻撃だけしか打てないのだそうだ。それでも本気で打ち合いをするので油断は出来ないらしい。
成る程、と納得して次は剣を使って打ち合いをする。
この世界の剣は使った事が無かったが、大して支障なく使える。相手をしてくれる彼も、徐々に打ち込む段階をあげてくれているらしく、時折魔法を使って試験さながらに相手をしてくれた。
なんていい人だ。
あらかた終えると俺は彼に礼をして訓練場を後にする。
明日からはヒースが持ってくるであろう基礎知識の本を覚え、属性の違う魔法を見せてもらおうと計画を立てて部屋へと戻った。
46
お気に入りに追加
2,053
あなたにおすすめの小説
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る
マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・
何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。
異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。
ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。
断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。
勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。
ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。
勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。
プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。
しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。
それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。
そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。
これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。
王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜
・不定期
小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~
朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」
普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。
史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。
その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。
外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。
いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。
領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。
彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。
やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。
無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。
(この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)
【完結】父を探して異世界転生したら男なのに歌姫になってしまったっぽい
おだししょうゆ
BL
超人気芸能人として活躍していた男主人公が、痴情のもつれで、女性に刺され、死んでしまう。
生前の行いから、地獄行き確定と思われたが、閻魔様の気まぐれで、異世界転生することになる。
地獄行き回避の条件は、同じ世界に転生した父親を探し出し、罪を償うことだった。
転生した主人公は、仲間の助けを得ながら、父を探して旅をし、成長していく。
※含まれる要素
異世界転生、男主人公、ファンタジー、ブロマンス、BL的な表現、恋愛
※小説家になろうに重複投稿しています
一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?
たまご
ファンタジー
アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。
最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。
だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。
女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。
猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!!
「私はスローライフ希望なんですけど……」
この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。
表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる