上 下
12 / 81

12

しおりを挟む


目の前に広がる賑やかな街並み。
様々な種族が行き交う大通り。
食欲をそそる匂いを漂わせる露天や色とりどりの食物を並べる商店。
客引きの声や楽しげに語らう人々の声。
そして、通りの奥に聳え立つ王城。


朝日が昇る頃村を出発した騎士団+俺は、昼過ぎに王都へ到着した。
途中で何度か魔物と遭遇し、騎士団は任務を遂行していく。
そうして到着した王都は、周囲を高い壁に囲まれていた。魔物の襲撃を防ぐためか、その他の何かからの進行を防ぐためか。
クソ水晶の話を鵜呑みにするなら、前者だろう。
定期的に魔物討伐任務を遂行しているという話を、道中で話すようになった団員達から聞いた。
どの国も、魔物対策に頭を悩ませているのだと。

………どの国も、か。




騎士団は王城に隣接する騎士団本部へと到着した。
騎士団は第一から第八まであり、その半数がこの本部に併設する宿舎で生活している。
残り半分は通いだったり、遠方任務中だったりでいないらしい。
その宿舎の中を、ヒースに案内されて歩く。ギルは今回の討伐任務の報告をするとかでこの場にはいない。
案内されるのが本部ではなく宿舎なのは、ヒース個人の客人として招かれているから、らしい。


「個人的な客人として招いた方が、後々動きやすくなりますから。シンさんへの待遇も悪くなる事はないですしね」


何やら色々思惑があるようだが、細かい事は分からないし悪い状況にならないようなので大人しく従う。

案内された部屋は、応接間だった。
宿舎の中にある為簡素な作りではあるが、案内される途中で覗き見た他の部屋よりは随分豪華だ。室内中央のソファに座るよう促されベルトに差した刀を外して座る。
暫くしてギルともう1人見知らぬ男が入ってきた。
ギルとヒースと同じ格好をしているところを見ると、同じ第三騎士団の者だろう。
ヒースが俺の隣へ、ギルは俺の真向かい、その隣に見知らぬ男が座る。


「話を始める前に改めて紹介を。私はヒースレン・ウィリル。スティラ国第三騎士団の副団長をしています。団長のギルフォードはご存知ですね?団長の隣に座るのが、もう1人の副団長、レイド・アイザックです」


見知らぬ男がもう1人の副団長だと知ると、改めて男を見た。
藍色の髪と瞳。切れ長で鋭い目付きをしたその男は、見た目の印象からか冷たい感じを受ける。名前を紹介されニコニコするギルとは正反対で、会釈をしただけだった。


「ギル…団長には名乗ったが、改めて。シンイチロウだ。長くて呼びにくいらしいからシンでいい」


「では早速。身元確認をしなければならないので幾つか質問をさせて頂きます」


互いに名乗りを上げると、早速話が進む。


「出身は?」
「ご両親の名前は?」
「何故あの森に?」
「その武器は?」
「あの身体能力は?」
「何故鑑定が使える?」
「本当に種類を特定した解毒魔法だったか?」
「回復魔法を何故あんなに連続で使用できる?」


ヒースから投げかけられる質問に、俺は殆ど答えることが出来なかった。
分からない、なんとなく、としか言いようがなかったのだ。
唯一答えられたのは刀の事だけで、改めて俺は怪しい男認定されたらしく。


「……シンさん、このままでは貴方を投獄しなくてはなりません。素性の知れない貴方を野放しには出来ないのです」


困ったように言葉を紡ぐヒース。言いたい事ももっともで、さて、どうしたもんかと腕を組んで考える。いっそ、全て話してしまおうか。少なくとも、ギルとヒースは信用できるだろう。
もう1人の…レイドという男は分からないが。
…………よし。


「………信じてもらえるか分からないが…」


ギルとヒースが連れてきたなら信用出来るのではないか、と勝手に結論付けて前置きをする。


神の間違いで死んだこと。
お詫びで転生した(生き返った)こと。
諸々の能力をもらったこと。


転生ではなく、生き返った事にした。生前の事も何もかも覚えていないと嘘をつく。
ここが何処か分からず、常識的な事も分からないと告げる。嘘に、本当のことを混ぜると真実味は増す。
泉でもそうだった。ヒースは騙せて無かったみたいだが…。


「両親の名前は覚えてない。あの森にいたのは、気付いたらあの場所にいたからだ。身体能力が高いのは、この刀のお陰だな。鑑定が使えるのも神にもらった能力だからだ。解毒魔法は、創造魔法で作った。回復魔法を連続で使えるのは、魔力無限の能力を持っているからだ。もう一つ言わせてもらうなら、何か企んでたら団長達を助けてない。更に魔物をけしかけるか、奇襲する」


あらかた真実を話したため、先ほど質問された内容を答えていくと同時に無実も訴えてみる。驚いた様子のギルや、何かを考え込む様子のヒース。レイドは無表情で俺をじっと見つめたままだ。
暫く三者三様の様子だったが、ふいにヒースがギルへ視線を向けて頷く。


「シン、騎士団に入るつもりはないか?」


ギルの突然の提案に首を傾げて何故と問う。


「今の話を裏付ける為に、シンを鑑定してもらうつもりだ。だが鑑定は希少な能力故に、使える者を無闇矢鱈と連れ出すわけにもいかない。王城にいるにはいるんだが……私達は出来るだけシンの存在を隠したい。その根回しに時間がいる。」


「何故、俺の存在を隠す必要が?」


「魔物に脅かされる各国が、シンの戦闘力や能力を知ったらその力を狙ってくるかもしれない。騎士団に所属していれば、そう簡単に他国は手を出せない。つまりは身の安全をはかるためだ。入団するには試験が必要だが入団してしまえば仲間だ。私達騎士団は仲間を必ず守る」


成る程と納得する。これからの事を何も決めていない身からすれば有り難い話だ。ひとまず匿われる形で騎士団に所属し、ゆっくりとこれからを考えるのも悪くない気がした。
俺はその提案に乗ることにした。が、気がかりが…。
それは騎士団の入団試験。詳しく聞けば、実技試験と筆記試験があるらしい。しかも騎士養成学校とやらを卒業していない身分のため、大分合格基準が厳しいらしい。
実技はともかく、筆記試験には不安しかない。なんせこの世界の常識や文化、歴史やその他諸々の事が全く分からないのだ。
その事を正直に話すと、やはり驚かれた。


「成る程…覚えていないなら仕方ないですね。では試験まで私達が交代でお教えしましょう。読み書きは出来ますか?」


話した内容に納得したのか、ヒースが頷く。


「村に滞在したときに文字は見たから多分読めはする。書けるかは分からん」


あくまで覚えていない事を全面にアピールしつつ答えていく。
勉強に関するあれこれや、今後の宿舎での生活のあれこれを話し合い、あらかた決まったところで解散になった。
ヒースは色々準備があるからと何処かへ行き、ギルは今回の討伐任務の事後処理が残っているからと団長室に向かった。
残された俺は……未だに一言も声を聞かない相手と部屋に残される。


「………………案内する…」


漸く発せられた声に一瞬何のことか分からず呆けるが、レイドが立ち上がり扉へ向かうのを見て部屋に案内されるのだと悟る。
そう言えばさっきヒースに言われてたな…。

俺とレイドは、終始無言で部屋へと向かったのだった。
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜 ・不定期

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【完結】父を探して異世界転生したら男なのに歌姫になってしまったっぽい

おだししょうゆ
BL
超人気芸能人として活躍していた男主人公が、痴情のもつれで、女性に刺され、死んでしまう。 生前の行いから、地獄行き確定と思われたが、閻魔様の気まぐれで、異世界転生することになる。 地獄行き回避の条件は、同じ世界に転生した父親を探し出し、罪を償うことだった。 転生した主人公は、仲間の助けを得ながら、父を探して旅をし、成長していく。 ※含まれる要素 異世界転生、男主人公、ファンタジー、ブロマンス、BL的な表現、恋愛 ※小説家になろうに重複投稿しています

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~

朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」 普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。 史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。 その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。 外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。 いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。 領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。 彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。 やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。 無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。 (この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

処理中です...