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歩き出してすぐ、後ろから掛け声と共に団体様が動く気配がした。
それを確認してから歩くこと数分。
目の前が突如として開けた。鬱蒼と生い茂る木々はその場所を避けるようになくなり、代わりに青く澄んだ小さな泉と、そこに流れる小川が姿を現した。
周りをぐるりと見渡し、後から来るであろう団体様が休めるくらい広々とした場所だと確認する。
気配遮断は切っていたので、敏感な動物たちは近くにはいないようだ。

何度か泉の水が溢れたのか、近くの木の根元は水によって根っこがあらわになっていた。丁度、人が寝転がっても風除けになりそうな具合である。
俺はそこに刀を立てかけ、既に乾きかけていた上着をバリバリと脱ぎ始めた。
丁度下流の方で、俺が手に付いた血を洗い流すとそのまま泉の外へと水は流れていく。
これなら団体様が汚れた水を口にせずに済むだろう。
水温は多少冷たいが、血塗れのままでいるよりはマシだ。
手始めに脱いだ上着を洗ってみるが、汚れが薄くなるだけで臭いは全く取れない。
仕方なく衣服は諦めた。さっさと汚れを落としてしまおう。
うぇ……髪もバリバリするわ…。

手早く衣服を脱ぎ、無事だった下着と靴下、靴を刀のそばに置いて全裸で泉へ入る。
下半身が全て泉へ浸かると、丁度団体様が着いたようだ。
騎士団っぽいとはいえ、女性がいないとも限らないからな。…いや、女少ないんだっけ。まぁいいか。

言葉を交わした男が何やら指示を出し、何かを手にしてこちらに来るのを確認する。
あれか、臭い消し的なのでもあんのか?


「待たせてすまない。これが着替えだ。あちらに置いておくぞ?それからカムの実だ。」


俺の居る場所までは泉の畔から少し遠い。多少大声で男が言うと、小さな赤い実を投げて寄越した。
なんだこれ。

投げ寄越された赤い実を不思議そうに見つめると、何かを納得したように男は頷き、赤い実の説明をする。


「カムの実はな、魔物の臭いを消してくれるんだ。最近発見されたばかりだから知らないのも無理はない。軽く噛んで、そのまま飲み込むといい。数分後に効果が表れる」


へぇ、そんな便利なのがあんのか。有り難く頂こう。
俺は言われた通りにカムの実を軽く噛んでから飲み込んだ。それから男に背を向けて片手を上げると頭まで泉へと潜り汚れを落としていく。
青く澄んだ水に、血の濁りが広がっていく。折角の綺麗な景色が台無しだ…。

下流へと流れていく濁りを目で追いつつ、頭や顔をゴシゴシと擦っていく。
空気を求めるために顔を出し、更にもう一度潜る。その度に汚れた部位を洗い続ける。
何度か繰り返して水面から顔を出す。そのまま身体のあちこちを擦ってザラつきや引き攣りがない事を確かめると次いで腕の臭いを嗅いでみた。
うん、カムの実すげぇわ。

心配していた臭いもなく、汚れも落ちた。泉へ視線をやり、濁りがないのも確認した。
よし、上がるか。流石に寒ぃ…。
ザブザブと水音を立てて泉から上がる。途中、何人かこちらを見ていたような気がして見回してみたが誰も見ていない。気配察知にも団体様以外の反応はない。
……?気のせいか。
刀のそばには元々着ていた服と、その隣に見慣れない服。さっきの男が持ってきてくれたものだろう。ついでにタオルも置いてあった。有り難い。
タオルで濡れた髪を拭き取りつつ視線を感じて後ろを向く。さっきの男だ。


「…タオル。服も、助かった……っくし…!」


そう言って身体を拭こうとしたらくしゃみが出た。
やっぱり寒い。水浴び、早まったか?


「…っ!だ、大丈夫かっ?何か暖かいものを用意させる。その間、火に当たってるといい。」


いつの間にか用意されていた木切れ。そこに男が手を翳すと何か呟いた。


「火よ…」


すると次の瞬間、手の平が淡く光ったと思ったら木切れに火が灯っていた。薪を用意してくれたようだ。


「おー…すげぇ」


思わず口に出た。自分も創造魔法が使えるから火を起こすことなんて簡単だろうが、やるのと見るのでは違う。思わず全裸なのも忘れてはしゃぎそうになる。
取りあえず服着よう。寒ぃ。
手早く身体の水分をタオルで拭き取る。用意してもらった服に袖を通すとブカブカだ。前の俺くらいのサイズじゃね?
腰回りが何とも心許ない。無事だったベルトで締め付けつつ、刀を差す。裾は3回程捲った。ちょっと切なくなったが、希望通りになったと思えば大丈夫。袖も捲って、まぁ…以下略。


「…ホットワインだ。熱いから気を付けて」


先程からずっと俺のそばにいた男がカップを渡してくる。…え、いつ用意したんだよ。あ、さっき人が着たような…?まぁいいか…。
有り難くそれを受け取り、薪のそばに腰を下ろす。髪はまだ濡れていたので借りたタオルはそのまま頭に被っておいた。風除けだ、風除け。
すると男も俺の隣に腰を下ろす。
え、邪魔…。


「…改めて礼を言わせて欲しい。先程は助かった。ありがとう」


そう言って男は再び頭を下げる。


「いい。俺も色々やってもらったしな」


ホットワインを一口飲む。うん、美味い。邪魔とか思ってすまん。
ホッと一息つくと隣の男を見上げた。さっきは暗くて分からんかったが、めっちゃイケメン。こりゃ女なら黄色い声上げてるわ。


「私はギルフォード・ロウヤーという。スティラ国第三騎士団団長を務めている。ギルと呼んでくれ」


「ご丁寧にどうも。俺はす…いや、慎一郎という。好きに呼んでくれていい」


やっぱり団長様か。にしても転生云々は説明すんの面倒い。名前だけでいいか。


「シンイチロウ?聞いたことのない響きだ…しかし長いな……シン、と呼んでもいいだろうか?」


好きにしろ、と頷き残りのホットワインを飲み干す。
身体温まってきたな。動いても平気そう。
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