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鬱蒼と繁る木々。
見たこともないカラフルな果物。
背にした大木から背後をチラリと見れば、異形の生物に取り囲まれている騎士らしき小隊。

見たところ腕は立つようだが幾人かの怪我人と退路を断たれているせいか異形の生物と対峙したまま隙を窺っていて身動きが取れないでいるようだ。
まだ若いのに苦労するな…と考えて今の自分の見た目が今し方観察していた人物よりも若いであろうことを思い出して苦笑する。

さて、助けなければならないな。
流石に素通りは出来ん。


「………」


ガサリ、と繁みから抜け出しつつ異形の生物ー魔物ーの背後へ回る。
魔物と対峙していた小隊は、突如現れた俺に注意を向けた。だが、取り囲む魔物にも気を払っているのは見て取れた。

……お?流石に騎士っぽい格好してるだけあるな。

俺は知らず笑みを浮かべる。その様子に警戒心をかき立てられたのか、俺が観察していた人物…団長と思しき男が口を開く。


「………何者だ」


当然の反応。俺は肩を竦めると、腰に差していた刀へと手を添える。鞘を握り親指で鍔を軽く押すとカチリ、と小気味よい音が響いた。柄を握り体勢を低く構えると自分に向かって唸りを上げる魔物へと、一気に間合いを詰めていった。




ーーーーーーーーーーーーーーー

時は少し遡る。

どうやら俺は死んだらしい。妹を守って街路樹と車のボンネットに挟まれて即死。
道場からの帰り道。偶然帰りが一緒になった妹と自宅へと帰宅途中、酔っ払いが運転する車が俺達目がけて突っ込んできた。幸い、俺は妹を突き飛ばせて避難させられた。まぁ、掠り傷くらいは負っただろうが死ぬよりマシだろう。
意識が途切れる前、傷みよりも死の恐怖よりも何よりもそんな事を思ったのを思い出す。

そして目が覚めたら真っ白い空間にいた。
目の前には水晶みたいなよく分からん物が浮いている。
訝しんでいるとその水晶みたいな物から声が聞こえた。


『はいはい、こんにちわ。こんばんは?とにかく初めまして、神様ですよー』


何とも間抜けな声に眉間に皺が寄る。
神様?…なんだ、夢か。


『失礼しちゃうー。夢じゃないんだからね!君は死んだんだよ、諏訪慎一郎くん。いやぁ、享年27って若いよね。しかもちゃんと妹さんを守って!お兄ちゃん偉い!そこで!神様であるボクが!君にすんばらしいプレゼントをしたいとおもいまぁす!!パチパチパチ~!』


あぁ、なんだ…イライラするわ…。ノリが軽いとかそんなものよりイライラするわ。叩き割るか。


『わー!待って待って!割っちゃやだー!ちゃんと説明するし、素敵なプレゼントなんだから落ち着いて!ね!ね?!』


曰く、ここは狭間だという。
現世とあの世の狭間。
…訳分からん。
曰く、俺はこのクソ水晶の間違いで死んだらしい。
…ふざけんな。
曰く、死ぬ予定じゃない死を迎えたため、輪廻転生出来ず、この世界…俺が元いた世界では消滅の道しか残されていないらしい。
…ふざけんな。
曰く、お詫びとして、別世界に転生させるという。チート?というモノを込み込みで。
…訳分からん。


『ほんっとうにごめんね?!だからお詫びとして、たっくさんプレゼントあげるからね!ちなみに、諏訪慎一郎くんが転生する世界は、剣と魔法と時々魔物のファンタジー世界だよ!あんまり女の人いないけど、でもすっごく楽しい世界だと思うの!更に今なら諏訪慎一郎くんを少し若くして転生させちゃうね!凄いでしょ~!』


ファンタジー世界なのは分かった。転生も、若返るのも分かった。でも女が少ないとは?頭に疑問符が浮かぶ。


『あー…あのね、ボクの前の神様がね?女の人を作るのが苦手でね?だから女の人が少ないんだよね。そもそも人間を作るのが苦手だったみたいで、諏訪慎一郎くんが行く世界には獣族とか魔族とか、人族以外の人が多いんだ。国同士の諍いとかも比較的少なめだし、脅威は突然変異の魔物くらい。ただ、その魔物の数がすんごく多くて大変なの。ボクも頑張って魔物を間引きしてるけど、あくまで間引き。あんまり干渉出来ないからね。魔物もこれから行く世界では必要不可欠な存在だからさ、難しいんだよね~。必要悪とか、魔素的な意味でね。』


魔素?良く分からんが、女が少なくて魔物が多いのは理解した。まぁ少なかろうが多かろうがどっちでもいいが。
で、プレゼントとやらを受け取ろうか。


『あ、若干面倒になってきてる?ごめんね!じゃあまずは武器!諏訪慎一郎くんはどんな武器がいい?』


武器か…魔物が多ければ武器は確かに必要だな。…刀があれば対処できるかもしれん。


『刀ね?おっけー。じゃあここをこうして…うーん?これで、ああして…こんな感じかな!』


ポンッと目の前にいきなり刀が現れる。反射的に片手で掴むとずしりとした重量感とともに手にしっくりと馴染むのを感じる。

あぁ、いい刀だ…。まさか本物を手にする日がくるとは…。


『気に入ってもらえたみたいで良かった~!それ、お手入れ不要の切れ味抜群!どんなに切っても刃こぼれもしない!万能刀にしといたからね~!後は能力的なプレゼントは何か希望あるかな?』


万能包丁みたいな説明に、一気に感動が薄くなる。はぁ…で、能力?別にいらんが…。


『じゃあボクが勝手に付けちゃうね!それからそれから!1番大事なこと!若返った諏訪慎一郎くんの見た目はどうする?このままだと割と大変かもだけど…』


見た目なんぞ変えてどうすんだ?大変とか分からん。…あぁ、強いて言うなら身体をもう少し平均サイズにしてくれ。梁に頭をぶつけるのも、デカくて邪魔だと言われるのももううんざりだ…。
どの位若返るのか分からんが、適度な大きさで頼む。


『おっけーい!じゃあ10年くらい若返ってもらおうかな?身長は…むむ…こんな感じかな?体格も平均的…平均的ってどんなサイズ?ええい!一回り小さくしちゃえ!さてと…見た目変えないと大変だと思うけど……お尻、大切にね?妊娠しちゃうから…大切にするんだよ?』


尻?何で尻なんだ?妊娠?訳分からん。
ポンッとまたしてもそんな音が響くと自分の視界が低くなった。
さっきの音と一緒に身体も変わったらしい。水晶を見上げるような形だ。多分15センチ程。
ということは…175くらいか?
胸板とかも薄くなってるな。
本当に一回り小さくなったようだ。まぁ、こんなもんだろう。


『能力はー…鑑定とか気配察知は付けて当然!のあるあるだよね。全言語理解もだしー…あ、魔力無限もつけちゃえ!攻撃力は刀があるから大丈夫そうだし、体力増強…は諏訪慎一郎くんの性格じゃ付けない方がいいかな?自分で鍛えちゃいそう。素早さも動体視力もまぁまぁな数値だから上げなくても大丈夫かな?あ、アイテムボックス付けちゃお~!あれ便利だもんね!魔法属性とか全属性付けてあげたいけど、どうしよっかな…気合で作れそう…じゃあ全属性の代わりに創造魔法にしよっと!うん、こんな感じかな!』


何か訳分からん事をブツブツ言ってるな…眠ぃ…。


『あ!寝ちゃだめだよ!能力説明する前に転生しちゃう~!』


あぁ、もう無理。寝るわ。おやすみ。


『あぁあ~…!諏訪慎一郎くん!向こうに行ったら速攻で鑑定使って自分を鑑定してね!!忘れちゃ駄目だよ~!!』


そんな言葉を聞きつつ、俺は意識を手放した。

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