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65、知らぬは本人ばかりなり
しおりを挟む学年交流会。
屋上で田中実に事情は説明した。
しかし、嘘を織り交ぜて。
時は夏休み最終日の夜まで遡る。
既に辺りは暗く、明日から通常通りの学園生活に戻る為、こんな時間まで校舎にいる生徒や教職員は既にいない。
「で、どうなった?」
最初に口を割ったのは不破だ。
藤堂は頷き、1つの鍵を取り出す。
「これは屋上の鍵だ。外から施錠する事が出来るが、内側からは簡単に解錠出来る。屋上の鍵をかけたら直ぐに物陰に隠れていろ。もし見付かるようならどちらか囮になれ。なんなら張り倒してもいい」
鍵を手渡しながら不機嫌さを隠そうともしない藤堂は物騒な事を口にする。
事の発端は、学年交流会の内容が生学会メンバーから漏れた事だった。
通常学年交流会当日に内容が発表されるはずが、外部組織を作ったばかりにそこから情報が漏れ更に不穏な計画を耳にしたからだ。
生徒会長として、外部組織を作った者として、情報規制には気を付けていた。
ましてや、田中実の身の安全を考えての外部組織勧誘だったために、今回ギリギリまで対策が取れなかった事を藤堂は気にしていた。
自分達のファンと名乗る連中が、田中実を狙っているという事。
鬼役が隠れ役の生徒を見付けた場合、その生徒の1日を好きに出来るという情報も既に出回っていた。
どうやらファンと名乗る連中は、そのご褒美とも取れる特典を使って田中実に手を出すつもりらしい。
それが暴力行為なのか、辱めなのか、そのどちらもなのか、容易に想像できてしまう。
既に学年交流会の準備は終えており今更変更するのも難しくなった頃に発覚した事だった為、藤堂と春日井は他の3人へ連絡を取り、田中実の身の安全を確保する方向で話を進めてきた。
その為に壊れていた屋上の鍵も急遽直させた。スペアキーを作り、それを手に入れもした。
普段から立ち入り禁止である屋上を保護する場所に選んだ理由は、鍵がかけられる事と生徒には知られていないもう一つの出入口がある事が大きかった。
いざとなれば不破か生駒を囮にして田中実を逃がすことが出来るからだ。
「情報漏らした人はどうなったの?」
鍵を受け取る不破に視線を向けていた生駒だったが、ふと疑問をなげかけてみる。
「学園行事とはいえ、機密情報漏洩って事で停学処分にする予定っすよ。その内退学処分にでもするでしょ」
そう言いつつ藤堂へ視線を向ける春日井は肩を竦めて息を吐き出す。
「田中くんを襲おうとする連中も炙り出しが必要ですが、怖い思いをさせてしまうかもしれない事が心苦しいですね…」
桐生が沈んだ声で呟いた言葉に、全員が申し訳なさそうな表情を浮かべる。
誰よりも真面目に準備を手伝い、僅かばかりの時間でも参加できることを喜んでいたのは、ターゲットにされた田中実本人だった。
身の安全を最優先に考えた為本人の楽しみを奪う結果となってしまう事に、5人は申し訳ない気持ちが込み上げる。
「……まぁ、ミノルが危ねぇ目に遭うよりマシだろ。終わったら甘やかしてやりゃいい」
不破の言うとおりではあるのだが、果たして田中実本人が素直に甘えてくれるかは疑問である。
そんな疑問を抱きつつも、5人は後手に回ってしまう状況を切り抜けるべく綿密に話し合いを続けたのだった。
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