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45、…………おやぁ?
しおりを挟む通された室内は職員寮とは思えない程広々としていて、マンションの一室だと説明されたら信じてしまいそうな程でした。
大きなテレビの前には黒い革張りのソファセットがあり、カウンターキッチンも常備されています。
ベッドルーム、仕事部屋、お風呂やトイレ等もあるらしく、家具、家電類は初めからあったそうです。
豪華すぎる職員寮です。
学生寮も1人一部屋で十分広いですが。
「ソファにでも座っててください。今お茶を持ってきますね」
言われるがままソファの端の方に座りますが、まるでお客さまのように対応され、ちょっと戸惑ってしまいます。
でも、遊びに来たわけではありません。勉強しに来たのです。
俺は、手にした鞄から勉強道具を取り出し、プリント状にまとめられている課題をパラパラと捲っていきます。
そうこうしている間に、先生がお茶の乗ったトレイを手に戻ってきて俺の隣に座ります。
俺も丁度分からなかった問題が載っているページを開けました。
「お茶、ありがとうございます。早速なんですけど…この問題が分からないんです」
開いたページを見せ、ペンを手に取ります。
先生は課題の束を手に取り、問題を確認すると成る程と頷きました。
「田中くん、教科書は持ってきていますか?」
その言葉に鞄の中から数学の教科書を取り出します。それを受け取った先生はパラパラとページを捲っていき、計算式が載ったページを開いて見せてくれました。
「課題の問題はこの計算式が元になっています。授業でやった応用は覚えていますね?」
確か…と余白に覚えていた計算式を書いていきます。それから応用問題も。
それらを見てから課題の問題を見て当てはまる部分を繋ぎ合わせ……。
「……あ、出来た」
先生の言葉を聞いて何とか解くことが出来ました。
解いた問題を先生に確認してもらうと、先生は良く出来ましたと言わんばかりのイケメンスマイル全開で俺の頭を撫でます。
「正解です。良く出来ましたね」
普段よりも近くに先生がいるので、イケメンスマイルも間近です。桐生先生は普段から俺を良く褒めてくれます。やっぱり褒められると嬉しいもので、俄然やる気が出てきました。
そうして暫くの間、普段の授業で分からなかったところ、課題の問題、自分が苦手としている分野等の勉強を見てもらいました。
先生も嫌がるような素振りを見せないので、調子に乗ってしまった感は否めません。
気付くと夕方でした……。
すみません、先生…。
「そろそろ寮に戻ります。先生、今日はとても充実した勉強が出来ました。ありがとうございます」
いそいそと勉強道具をしまい込み、消しカスだらけにしてしまったテーブルの上を掃除します。
お茶の入ったカップはすっかり空で、せめてものお礼に片付けようと手に取ります。
「田中くんがとても熱心なので、私も教え甲斐があって楽しかったですよ」
そう言って終始笑顔だった先生は、俺が手にしたカップを受け取ってトレイに乗せ、そのままキッチンへ向かってしまいます。
「あの、お礼にもならないですが、片付けはさせて下さい」
俺は後に付いてキッチンへ向かいます。ですが、先生に止められてしまいました。
勉強を教えるのは教師の勤めであって、お礼をしてもらう事ではない、と。
そう言われてしまったら何も出来ず。俺は素直に荷物を置いたままだったソファへ戻ります。
「田中くん、スマホ持ってますか?」
すぐに戻った先生は、鞄を持つ俺に向かって自分の端末を弄りながら問うてきます。
「今日のように場所が空いてない時や、私が学園に居ないときはここで勉強しましょう。時間も無駄にならないですしすれ違いになることも避けるために連絡先を交換しておきましょう。ね?」
登録して下さい、と番号の表示された画面を見せてきます。恐らく、先生の端末の番号なのでしょう。
遠慮する間もなく番号を登録させられ、俺の番号も先生の端末に登録され。
何だかこのやり取り……覚えがあるような……。
確か、ゲームで主人公が桐生先生と過ごした夏休みの初日に番号交換…みたいなイベントがあったはずです。
…………………………おやぁ?
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