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42、森宮飛鳥の正体
しおりを挟む耳に届いた言葉に俺の頭は更に混乱しました。
恋愛するつもりがない?
あの5人?
何故俺が気にしていた夏休みの話題を出す?
そもそも、何故そんな話を俺にするのでしょうか。
ゲームの内容を知っているような彼の言葉に益々混乱し、俺は森宮くんをただじっと見つめる事しか出来ません。
「僕も君と同じなんだよ」
「同じ……?」
「そう、同じ。突然、ここはゲームの世界だと思った。本当に、ある日突然そう思っただけ」
なんということでしょう。森宮くんも、自我を持った方だったなんて。
今までの混乱など吹き飛んでしまう勢いです。
「僕は主人公で、攻略対象の5人の誰かと恋愛していくんだってただ漠然とそう思ったんだけど……同時に嫌だなって思ったんだ」
俺の頭を撫でていた手を下ろして何でもない事のように笑いながら話す森宮くんを見つめます。
どういう事なのか首を傾げれば、彼は肩を竦めて見せました。
「ゲームのシナリオ通りに進むのが嫌だったんだよ。攻略対象の5人を本当に好きになるならともかく、シナリオ通りに生活して好きでもない相手と結ばれるなんてまっぴらだと思ったんだ。それに、心から好きになる相手なら僕がどんな風に過ごそうとゲームの抑止力?みたいなものが働くんじゃないかなって。でも、どんなに自由に過ごしても抑止力的なものは働かないし、あの5人に対しても気持ちの変化はないし。そうやって過ごす内にね、この世界はゲームじゃないんじゃないかって思い始めたんだ」
森宮くんの言葉をただ黙って聞いていました。
俺が、何故彼が攻略対象者達と絡んでいなかったのか不思議に思っていた事の真相を聞き、納得します。
そして彼も彼なりに自分の身に起こった不可解な現象を理解しようとしていました。
「転校初日に田中くんを見て、違和感があったのが最初の疑問だった。田中くんは所謂モブキャラなのに凄く美人になってるし、個性があった。あの5人とも何故か交流があるしね。それに他の人達だってそう。モブキャラだとか言われてた人達は、モブなんて言うのも失礼なくらい個性があるし、何より1人1人がしっかりとこの学園で生活してる」
森宮くんの言葉に一部理解出来ない部分はありましたが、それでも彼が話す内容は俺も思っていた事でした。
「僕はね、この世界は神様か何か、不思議な力でゲームそっくりに創られた世界なんだって思うことにしたんだ。そこで生活する僕達には現実で、自由に、自分の思うままに生きてもいいんだって。そう思わないと僕達が何故突然この世界はゲームなんだ!なんて思ったのか理解出来ないから」
そして行き着く先も、俺と同じでした。
何故、と疑問を感じて答えの出ない事象を考えるよりも、自由に自分の思うままに生きる事を選んだのでしょう。
俺はなんだか安心して、思わず笑みが溢れてしまいます。
「そうだったんですか…。なかなか大胆なんですね、森宮くんは」
俺の言葉に、森宮くんはそうかな…なんて首を傾げていました。
「そもそも、ここが本当にゲームだったら僕達みたいなものはバグとして修正されちゃうでしょう?それに、ゲームのシナリオ以外の生活があるなんておかしすぎるからね」
「確かにそうですね。それは俺も思いました」
2人でうんうんと頷き合います。
先程までの雰囲気とは大分違い、お互い砕けたように雰囲気は柔らかくなりました。
そこで、やはり疑問に思っていた事をぶつけてみます。
「でも、森宮くんはどうして夏休みは帰宅する事にしたんですか?」
「僕の好きな人が地元にいるからだよ」
森宮くんの素敵な笑顔と答えで、俺の疑問はあっさりと解決したのでした。
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