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41、想定外の情報
しおりを挟む集団いびりという貴重な体験をした日、俺は結局委員会を休んでしまいました。
更には生徒会長さんと春日井くんに探しに来てもらうというご迷惑までおかけしてしまって。
流石に集団いびりの事は言えなかったので曖昧に誤魔化してしまいました。追求されなくて良かったです。
「田中くん」
夏休みまで残り2日、という日の昼休み。
今日は珍しく屋上で1人の食事です。たまには1人になりたいなんて贅沢な悩みですが、食事風景を毎回観察される日々から少しでも抜け出したいという俺の心情も察していただきたいものです。
そんな訳で、今日は春日井くんに用事があると断ってから1人で屋上に来ています。
屋上は、普段立ち入り禁止なのですが不破先輩に鍵が壊れている事を聞いてからたまに来ています。
お陰で今は誰もいなくて、ゆっくりと過ごせています。幸い、今日は日差しがあまりキツくなくて気持ちの良い風も吹いているので居心地が最高なのです。
そんな1人の空間を堪能していた俺に居るはずのない人の声が聞こえ、更には名前を呼ばれるという事態に。
俺は声が聞こえた方を振り返り声の主を見つめます。
「田中くん、ここは立ち入り禁止だよね?どうやって入ったの?」
「………森宮くん」
そこには柔らかな笑顔を浮かべまるで天使のような可愛らしい容姿の主人公…いえ、クラスメイトの森宮くんが立っていました。
実は、俺は森宮くんが少し苦手です。
転校してきた当初、森宮くんの姿をしっかりと見た感想は、怖い、というものでした。
容姿は確かにとても可愛らしくふわふわの髪は緩く波打ち、色素が薄い茶色の髪は日に透けてキラキラと光っているようです。
瞳の色も独特で、色素が薄いのが影響しているのか、金色に近い茶色です。
唇はぽってりとしていて、そこから発せられる声は優しく穏やかな響きを含んでいるようで、聞くものの心を落ち着かせるようでした。
ほんわかとした雰囲気で、誰にでも優しく接している様子はとても好感が持てましたが……あまりにも完璧過ぎるといいますか…。ゲームの主人公だから、と言われてしまえば完璧過ぎる森宮くんの存在は納得してしまうのですが、完璧過ぎる故に違和感を感じてしまうといいますか……。
とにかく、何か底知れないものがあるような、そんなものを感じてあまり積極的に関わってこなかったのです。
そんな彼がどうしてここに、更には俺に話し掛けたのか…。
「田中くん、どうやってここの鍵の事を知ったの?」
声はとても穏やかです。ですが、俺を見つめる瞳は笑っておらずじっと観察するように見つめてきます。
「……な、仲良く…なった、先輩に……お、教えて頂いた…ので……」
勝手に声が震えてしまいます。裏返らないように必死に言い募っていると、俺を見つめていた瞳がす、っと細められ暫く俺を観察した後、途端にその表情を柔らかいものに変えました。そして、俺が座っている目の前で膝を折り、俺の頭を優しく撫でたのです。
「そんなに怯えなくてもいいよ。僕は田中くんに何かするために話しかけたんじゃないから」
そう声をかけられた瞬間、森宮くんに感じていた得体のしれない違和感がなくなり、俺は困惑します。
「田中くん、君は僕が何故夏休みに帰省するのか知りたくない?」
困惑する頭に、聞こえた気になるワードがすっと入ってきます。俺は思わず頷いてしまいましたが、色々と分からなくなってきました。
「僕はね、あの5人と恋愛するつもりはないからだよ」
にこやかな笑顔でそう言う森宮くんは俺の頭をわしわしと撫で続けつつその場に座り込んでしまいました。
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