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38、解けない誤解
しおりを挟む「はい、田中くん。これ食べなよ」
生駒先輩がガサゴソとスポーツバッグから取り出したのは、大きなおにぎりが2つ。
1つのおにぎりが俺の拳2つ分位の大きさをしています。
どうやって握ったんでしょうか…。
いや、それよりも。
「受け取れませんよ。生駒先輩が食べるために作ったんですよね?」
「いや、後2つ入ってるから大丈夫だよ」
生駒先輩、どんだけ食べるのでしょうか。
おにぎり2つ並べたら俺の顔くらいあるんですが…。
「あ、足りない?もっと食べる?」
「いえ、十分です!頂きます!」
咄嗟に頂いてしまいました…。生駒先輩にはおにぎりのお返しもしなければ。
「あの……ありがとうございます」
再び生駒先輩に頭を下げてお礼を言います。
普段は4つ食べる生駒先輩のおにぎりを2つも頂いてしまって、少し罪悪感です。
しかし、満足しないお腹の虫には有難い貢ぎ物になってしまうのです。
丁寧に包まれたラップを取り外していきます。
何しろ俺の拳2つ分の大きさのおにぎりなので、両手でずっしりと重みのあるおにぎりを持ちます。
一体どう握ったらこんな大きさに出来るのでしょうか。
俺には大きすぎて握れないです。
「えっと…頂きます」
生駒先輩に向かって言うと、先輩はニコニコとした爽やかイケメンスマイルを浮かべてどうぞ、と言ってくれます。
そんな笑顔に後押しされて、口を大きく開けておにぎりに齧り付きます。
おにぎりはとてもいい塩加減で、握ったばかりなのか海苔も所々まだパリパリとした張りが残っています。お米も熱々とまでは行かなくても、美味しい温度を保ったまま。
握り加減も固過ぎず、柔らか過ぎずいい握り加減です。
生憎、中身の具材は何が入っているのかまだまだ分からない状態ですが、具材が入ってなくても十分に美味しいおにぎりです。
「生駒先輩、とっても美味しいです!おにぎり握るのお上手なんですねっ」
感動して思わず笑みが溢れてしまいます。
美味しいものを食べたら誰だって笑顔になりますよね。
「成る程、これかー…」
俺の顔を見て何やら納得した様子の生駒先輩。
アレですか?
春日井くんや不破先輩や生徒会長さんが言っていたおかしな事ですか?
誰だって美味しければ笑顔になるんですよ?
可愛いかは別ですが。
「誰だって美味しければ笑顔になるんですよ?可愛いというのはただの目の錯覚ですからね」
ペロリと1つ目のおにぎりを平らげながら言うと、もう一つのおにぎりを手に持ち生暖かい視線を送ってくる4人を見つめます。
「それにしても本当に美味しいです。今度握り方教えて下さい、生駒先輩」
見つめた4人は何やら呆れたような、諦めたような視線を送ってきました。
目の錯覚だという真実を突き付けても誤解は解けていないご様子です。
これはじっくりゆっくりと誤解を解いていかなければならないですかね…。
なんて思いつつ、2つ目のおにぎりもペロリと平らげ、俺は満腹になったお腹を満足そうに撫でてご馳走様でした、と挨拶したのでした。
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