エロゲーのモブが自我を持ちました

３５、とんでもない勘違い

扉を閉めて一息。更に鍵を掛けてようやく身体の力が抜けます。
手にしていた鞄を無造作に机に置き、ブレザーを脱いでベッドに仰向けで倒れ込みます。

天井をぼんやりと見つめますが、頭の中はぐちゃぐちゃにこんがらがっています。

それは何故か。


もしかしたらこの世界は、ゲームの世界ではないかもしれない、という考えが浮かんでしまったからです。


そもそも自我を持った時点で気付くべきだったのだと思います。
単なるモブキャラである俺が自我を持つなど、バグに過ぎないのです。さっさと修正されて終わるはず。
それなのに２ヶ月という長い間、俺は好きに生活出来ています。

更に言うなら、ゲームがスタートするのは主人公が学園に転校した時に始まるのです。主人公が学園に転校する前の学園生活がある事自体、ゲームという状況で考えればおかしいのです。

そして主人公と攻略対象者達の態度。お互いがお互いに関心がなさ過ぎるのです。

主人公である森宮くんは明るくて気さくな性格なのですぐに学園に馴染んでいきましたが、攻略対象者である５人とは特別仲良くなっている様子は見受けられません。
クラス担任の桐生先生や、幼馴染みでクラスメイトの春日井くんとはそれなりに接点はありますが、先輩である生徒会長さん、不破先輩、生駒先輩との接点は皆無です。

逆に攻略対象者である５人は森宮くんを気にしている様子もありません。
桐生先生は一生徒を見る態度を崩しませんし、幼馴染みである春日井くんはどこにでもいる友達のように接しているだけ。先輩３人はそもそも接点がありません。

俺の知らないところで親交を深めているならまだしも、そんな様子は微塵も感じませんでした。

そして決定打。
本来のゲームであれば森宮くんは夏休み中、帰省する事はありません。
それはゲームのどのルートでも共通で、帰省するという選択肢すら出ないのです。

それなのに、森宮くんは夏休み中帰省するというのです。


そこで俺は思ってしまったのです。

この世界はゲームではなく、現実なのかもしれない、と。