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02 姿と形 その二
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街の中を車で走る。運転しているのは獅子の頭を持つライオンヘッドだ。
これはいい。と思いながら助手席にバッドは乗っていた。ジープに乗ったのは初めてだったが車体が大きいおかげで姿勢が自由にできるのは楽でいい。
ふと運転するライオンヘッドを見る。風で鬣が後ろに波打っていた。
それを見て言葉が漏れる。
「流石……百獣の王」
その言葉を聞いてライオンヘッドがにやりと笑う。威嚇しているような印象も受けるがやはり百獣の王と呼ばれるだけの魅力を感じざるを得なかった。
「お前も百歳超えなのか」
「……はい?」
間の抜けた返事をすると笑い声で返される。
「街で流行ってる冗談か何かですか?」
「いやいやいや、っくっく」
バドの間の抜けた返事がよほど面白かったのまだ笑いが抜けきらないようだった。
バドは納得いかなかったが笑いが抜けるのを待つ。そしてライオンヘッドが上機嫌なのを見て色々聞いておこうと考えた。
ここで人間館の主の人となりを聞いておけば色々と有利にいけるかもしれない。そして肝心なことも聞けるかもしれないからだ。
ひとしきり笑い終えたあとライオンヘッドは口を開いた。
「百獣の王だよ」
「それがどうして百歳越えにつながるんです?」
「うちのボスと同じことを知ってるからだよ。 百獣の王なんて言葉は前世界の言葉だろう? 俺と近い年の奴が知っている言葉じゃあないわな。追加で言うと俺らライオンはあまりいいイメージが持たれてないだろう?」
なるほど、と納得する。
この世界になってからライオンはあまりいい印象を持たれていないのが現状だ。前世界の影響なのかプライドが高く王様気質なのが多いせいだろう。
「それじゃあライオンヘッドさんの言うボスって人間館の主ですよね? その人が百歳超えてると?」
「そんな与太話があるって話だよ。 後、ラドでいいぞ自分で名乗っておいてなんだが長いから呼びにくいだろ?」
後、敬語もしなくていいとウインクしながら言った。
名前の件は了解し、敬語はまあ時々で。と返事をすると満足したらしい。そしてバドは話を戻し百歳超えという事について追求した。
「与太話は与太話、百歳超えなんてのは俺らにゃ証明しようがないだろ? 俺は箔を付ける為に言ってんじゃないかと見てる。 それにボスは前世界マニアだからなぁ、前世界について詳しいんだよ」
いい情報を手に入れた。もしかすると色々と知ることができるかもしれない。
そして肝心のことを質問する。
「ところで街で聞いても誰も知らなかったんで教えて欲しいんですが、人間館の主の名前って?」
「知らん」
バドは呆れた顔でじろりと睨む。
「本当だっての、この街なら人間館の主で通るからなぁ、知ってる奴いないんじゃねぇのか?」
呆れた話だが本当らしい。嘘じゃあないとバドにはわかった。
「じゃあ次は俺から質問だ。 山羊だか羊だか知らんのだがお前はやれるのか?」
ラドは最初にバドを見た時から疑問に思っていた。
人間館の主からは自分が迎えに行くのは交渉人と名乗る便利屋と聞いていたのだが、いざ対面してもバドが向いているとはとても思えなかった。
話術の点についてはわからないが、荒事がやれるとはどうしても思えない。山羊・羊で暴れるやつを見たことがなく、バッドは足が不揃いという欠点まであり、どう考えても荒事には向いていない。
「お前は変異度低いだろう?」
変異度というのは人間ではない獣になっている部分の事だ。
バドには牙があるわけでもなく、爪を出せるわけでもない。さらに蹄を持つ変異部を持つのはラドの知る限り荒事に向いていない。そして続けて問う。
「それとも俺が知らんだけで山羊ってのは荒事に向いているのか?」
少し考え込んでいるのかバドは頭から生えている角を弄る。
「結論をいうと荒事は苦手ですかね。 自分の仕事は荒事が起きた後の落としどころの交渉なんですよ」
バドは嘘は吐いていないと自分に言い聞かす。そして続ける。
「しかしまあ、荒事になるのを避けれない時はやっぱり銃かなぁ」
それを聞いてラドはしみじみと返事をする。
「やっぱ野良だとハンドガンか」
野良というのは一つの場所に定住せず街を転々をする生き方をしている人々を指す。その場合ハンドガンが一番都合がいいのだ。
そしてラドも野良時代が長かったのか昔を少し思い出していた。
よし、話が逸れた。とバドはさらに話を逸らす。
「そういえばここが犬の警官なのは意外でしたよ」
「ああ猫だと思ってたか?」
バドその言葉に頷く。
前世界にあった犬猿の仲と同じ意味で『犬猫の仲』という言葉が生まれていた。それは『悲鳴の日』が起きて最初に起きた有名な諍いだ。
変異した人々はやはり似た姿が落ち着くのか犬なら犬、猫なら猫と言うように同じ変異をした者が集まって街を作る傾向にあった。その中でも犬と猫の数が圧倒的に多かったのだ。そして原因は定かではないがその最大の派閥である犬と猫が争いを始めたのだ。
何度か血を流す争いも起こったらしいが最終的に他の勢力からの抗議の声が大きくなり表向きの争いは収まる。
だが一箇所に集まって暮らすにはお互い数が多すぎた為、ある程度分散する形にならざるを得なかった。そして分散させると同時に生きる道を模索した結果それぞれの街に警備・治安を守る警官を派遣するという形になっていた。犬と猫の両者ともである。
「この街は特殊だから猫だと思ってましたよ」
そう同じ仕事をしても犬と猫は仕事への姿勢が違った。大雑把に言うと犬はルールに重きを置いたカッチカチ、猫はある程度ならルール無視をしても問題ないというものだ。
「逆だな。 この街は特殊だからこそ犬じゃないと収まりがつかなくなっちまうんだよ」
何かを思い出しているのかラドは面倒くさそうな顔をして続ける。
「ここは色んな変異をした奴が集まってるだろ? それには理由があってな頭が三つあんだよ」
それを聞いてバドは理解した。
三つの勢力が協力してこの街を成り立たせているのだ。互いに牽制しつつ成り立たせるためには三者が守るべきルールは必要不可欠なのだろう。
思っていた以上にややこしそうだ。とバドは空を見上げた。
「おい見えてきたぞ」
いつの間にか街中は抜けており周囲に灰色がない。どうして街の頭が街の外で暮らしているのかという疑問や人間館の主の注意点はあるか等も聞きたかったがその時間はなさそうだった。
向かう先に大きな洋館の屋根が見えていた。
これはいい。と思いながら助手席にバッドは乗っていた。ジープに乗ったのは初めてだったが車体が大きいおかげで姿勢が自由にできるのは楽でいい。
ふと運転するライオンヘッドを見る。風で鬣が後ろに波打っていた。
それを見て言葉が漏れる。
「流石……百獣の王」
その言葉を聞いてライオンヘッドがにやりと笑う。威嚇しているような印象も受けるがやはり百獣の王と呼ばれるだけの魅力を感じざるを得なかった。
「お前も百歳超えなのか」
「……はい?」
間の抜けた返事をすると笑い声で返される。
「街で流行ってる冗談か何かですか?」
「いやいやいや、っくっく」
バドの間の抜けた返事がよほど面白かったのまだ笑いが抜けきらないようだった。
バドは納得いかなかったが笑いが抜けるのを待つ。そしてライオンヘッドが上機嫌なのを見て色々聞いておこうと考えた。
ここで人間館の主の人となりを聞いておけば色々と有利にいけるかもしれない。そして肝心なことも聞けるかもしれないからだ。
ひとしきり笑い終えたあとライオンヘッドは口を開いた。
「百獣の王だよ」
「それがどうして百歳越えにつながるんです?」
「うちのボスと同じことを知ってるからだよ。 百獣の王なんて言葉は前世界の言葉だろう? 俺と近い年の奴が知っている言葉じゃあないわな。追加で言うと俺らライオンはあまりいいイメージが持たれてないだろう?」
なるほど、と納得する。
この世界になってからライオンはあまりいい印象を持たれていないのが現状だ。前世界の影響なのかプライドが高く王様気質なのが多いせいだろう。
「それじゃあライオンヘッドさんの言うボスって人間館の主ですよね? その人が百歳超えてると?」
「そんな与太話があるって話だよ。 後、ラドでいいぞ自分で名乗っておいてなんだが長いから呼びにくいだろ?」
後、敬語もしなくていいとウインクしながら言った。
名前の件は了解し、敬語はまあ時々で。と返事をすると満足したらしい。そしてバドは話を戻し百歳超えという事について追求した。
「与太話は与太話、百歳超えなんてのは俺らにゃ証明しようがないだろ? 俺は箔を付ける為に言ってんじゃないかと見てる。 それにボスは前世界マニアだからなぁ、前世界について詳しいんだよ」
いい情報を手に入れた。もしかすると色々と知ることができるかもしれない。
そして肝心のことを質問する。
「ところで街で聞いても誰も知らなかったんで教えて欲しいんですが、人間館の主の名前って?」
「知らん」
バドは呆れた顔でじろりと睨む。
「本当だっての、この街なら人間館の主で通るからなぁ、知ってる奴いないんじゃねぇのか?」
呆れた話だが本当らしい。嘘じゃあないとバドにはわかった。
「じゃあ次は俺から質問だ。 山羊だか羊だか知らんのだがお前はやれるのか?」
ラドは最初にバドを見た時から疑問に思っていた。
人間館の主からは自分が迎えに行くのは交渉人と名乗る便利屋と聞いていたのだが、いざ対面してもバドが向いているとはとても思えなかった。
話術の点についてはわからないが、荒事がやれるとはどうしても思えない。山羊・羊で暴れるやつを見たことがなく、バッドは足が不揃いという欠点まであり、どう考えても荒事には向いていない。
「お前は変異度低いだろう?」
変異度というのは人間ではない獣になっている部分の事だ。
バドには牙があるわけでもなく、爪を出せるわけでもない。さらに蹄を持つ変異部を持つのはラドの知る限り荒事に向いていない。そして続けて問う。
「それとも俺が知らんだけで山羊ってのは荒事に向いているのか?」
少し考え込んでいるのかバドは頭から生えている角を弄る。
「結論をいうと荒事は苦手ですかね。 自分の仕事は荒事が起きた後の落としどころの交渉なんですよ」
バドは嘘は吐いていないと自分に言い聞かす。そして続ける。
「しかしまあ、荒事になるのを避けれない時はやっぱり銃かなぁ」
それを聞いてラドはしみじみと返事をする。
「やっぱ野良だとハンドガンか」
野良というのは一つの場所に定住せず街を転々をする生き方をしている人々を指す。その場合ハンドガンが一番都合がいいのだ。
そしてラドも野良時代が長かったのか昔を少し思い出していた。
よし、話が逸れた。とバドはさらに話を逸らす。
「そういえばここが犬の警官なのは意外でしたよ」
「ああ猫だと思ってたか?」
バドその言葉に頷く。
前世界にあった犬猿の仲と同じ意味で『犬猫の仲』という言葉が生まれていた。それは『悲鳴の日』が起きて最初に起きた有名な諍いだ。
変異した人々はやはり似た姿が落ち着くのか犬なら犬、猫なら猫と言うように同じ変異をした者が集まって街を作る傾向にあった。その中でも犬と猫の数が圧倒的に多かったのだ。そして原因は定かではないがその最大の派閥である犬と猫が争いを始めたのだ。
何度か血を流す争いも起こったらしいが最終的に他の勢力からの抗議の声が大きくなり表向きの争いは収まる。
だが一箇所に集まって暮らすにはお互い数が多すぎた為、ある程度分散する形にならざるを得なかった。そして分散させると同時に生きる道を模索した結果それぞれの街に警備・治安を守る警官を派遣するという形になっていた。犬と猫の両者ともである。
「この街は特殊だから猫だと思ってましたよ」
そう同じ仕事をしても犬と猫は仕事への姿勢が違った。大雑把に言うと犬はルールに重きを置いたカッチカチ、猫はある程度ならルール無視をしても問題ないというものだ。
「逆だな。 この街は特殊だからこそ犬じゃないと収まりがつかなくなっちまうんだよ」
何かを思い出しているのかラドは面倒くさそうな顔をして続ける。
「ここは色んな変異をした奴が集まってるだろ? それには理由があってな頭が三つあんだよ」
それを聞いてバドは理解した。
三つの勢力が協力してこの街を成り立たせているのだ。互いに牽制しつつ成り立たせるためには三者が守るべきルールは必要不可欠なのだろう。
思っていた以上にややこしそうだ。とバドは空を見上げた。
「おい見えてきたぞ」
いつの間にか街中は抜けており周囲に灰色がない。どうして街の頭が街の外で暮らしているのかという疑問や人間館の主の注意点はあるか等も聞きたかったがその時間はなさそうだった。
向かう先に大きな洋館の屋根が見えていた。
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