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プロローグ 黒い部屋の主
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仕事を終えて灯りを消す。
まだ日も落ちきっていないが外の光りが遮断された部屋は月の無い夜のように暗い。だが彼は暗闇の中でも平然と歩き仕上げた書類を扉の横にある机においた。
あの時から暗闇こそが彼にとっては落ち着く空間になっていた。そして落ち着く事に激しい苛立ちを感じる。
――いつからだろうか?
昔を思い出しかけて、思考を止めた。意味が無い事だ――だが彼はそれを何千、何万回も繰り返してきた。
彼は暗い部屋の中を数週した後で、仕事用ではない古ぼけた木の椅子に腰を下ろした。
その椅子は素人が作ったかのように出来が悪く、今の彼には大きさすら合わない。それでも彼はその椅子を愛用していた。そして暗闇の中で目を瞑る。何も考えず、体も動かさない。――いつもの習慣だ。
何かを考えれば醜く歪んだ体を考えてしまう。
体を動かせば醜く歪んだ体を意識してしまう。
とは言え無心で居られる時間はほんの僅かだ。そして気が付かないうちに何千、何万回と繰り返してきた悩みの根源に立ち返る。
――いつまで続くのだろうか?
彼の無為な思考はおそらくは彼が死ぬまで繰り返されるのだろう。
ふと思考を止めて彼は立ち上がった。そして窓の方へ足を向けた。少しだけカーテンを捲り外を見る。
陽の光は強く、太陽が彼には自分を部屋の中から出でないように仕向けているのではとさえ思えた。そしてそれに逆らう様に遠くを見る。
灰色で味気のない建造物が立ち並び。全てが一様に汚れている。
昔はそれらに気を止めたこともなかったが今では数少ない名残だ。愛着すら感じる。しかしそれら灰色の建造物も過去の姿のままではなかった。時間の流れから来る変化と過去の事象から忌むべき変化もある。
そこでカーテンを閉じた。
自分の体への嫌悪を思い出したからだ。それはカーテンを閉じれば済む様な簡単な問題ではなかった。常に彼に付き纏う最大にして最悪の嫌悪感だ。
だがそれを止められるという噂が一つだけあった。それが噂でしかないのは十分に理解していた。だが彼はその噂を信じていた。信じざるをえなかった。
――もし、それが嘘なら……
まだ日も落ちきっていないが外の光りが遮断された部屋は月の無い夜のように暗い。だが彼は暗闇の中でも平然と歩き仕上げた書類を扉の横にある机においた。
あの時から暗闇こそが彼にとっては落ち着く空間になっていた。そして落ち着く事に激しい苛立ちを感じる。
――いつからだろうか?
昔を思い出しかけて、思考を止めた。意味が無い事だ――だが彼はそれを何千、何万回も繰り返してきた。
彼は暗い部屋の中を数週した後で、仕事用ではない古ぼけた木の椅子に腰を下ろした。
その椅子は素人が作ったかのように出来が悪く、今の彼には大きさすら合わない。それでも彼はその椅子を愛用していた。そして暗闇の中で目を瞑る。何も考えず、体も動かさない。――いつもの習慣だ。
何かを考えれば醜く歪んだ体を考えてしまう。
体を動かせば醜く歪んだ体を意識してしまう。
とは言え無心で居られる時間はほんの僅かだ。そして気が付かないうちに何千、何万回と繰り返してきた悩みの根源に立ち返る。
――いつまで続くのだろうか?
彼の無為な思考はおそらくは彼が死ぬまで繰り返されるのだろう。
ふと思考を止めて彼は立ち上がった。そして窓の方へ足を向けた。少しだけカーテンを捲り外を見る。
陽の光は強く、太陽が彼には自分を部屋の中から出でないように仕向けているのではとさえ思えた。そしてそれに逆らう様に遠くを見る。
灰色で味気のない建造物が立ち並び。全てが一様に汚れている。
昔はそれらに気を止めたこともなかったが今では数少ない名残だ。愛着すら感じる。しかしそれら灰色の建造物も過去の姿のままではなかった。時間の流れから来る変化と過去の事象から忌むべき変化もある。
そこでカーテンを閉じた。
自分の体への嫌悪を思い出したからだ。それはカーテンを閉じれば済む様な簡単な問題ではなかった。常に彼に付き纏う最大にして最悪の嫌悪感だ。
だがそれを止められるという噂が一つだけあった。それが噂でしかないのは十分に理解していた。だが彼はその噂を信じていた。信じざるをえなかった。
――もし、それが嘘なら……
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