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8・1 奔走と絶望

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 パラムが真龍の元へ着くと、魔王が真龍の鼻先に手を置き語り掛けていた。

「これからが面白いところなのにもう往くのか、真龍よ」
「……運命の件か……我に出来ることはもうしてやったぞ……」

「だが何千人繋げたところでイクスの魔力量には及ばぬ」

「……ほう、運命の奴の子飼いは……お主の傍に居たのか……」

「次の王はあいつが選ばれる、そうなると運命の神託通り、この世界の自我を持つもの全てを滅ぼすだろう、そうなると……」
「……創造主の交代か……」
「ああ」

「……だが、魔王よ、この世の終わりの責まで……お主が背負うことはなかろう……」
「……形あるものは消える……それが何万年続いていようが同じだ……」

「それが、ことわりと言うものか」

「……そういうことだ、気に入らぬか……」
「ああ」

「……そろそろ、本音を聞かせてくれるか、魔王よ……」
「……確かに魔力量で考えればお主より運命の子飼いが上であろう……」
「……しかし、ただ傍観する訳ではなかろう……何を企んでいる……」

「余は龍になる」

「……ほう、我を討つか……」

「いや」
 魔王は言葉少なに言うと少し楽しそうに口角を上げる。

「……はーはっはっは……はぁ……お前の言う龍とは我ごときではないと……」
「……これは面白い……消滅するのが惜しくなったぞ……」
「……だが、魔王よ、悪いがお主の魔力では成れぬ・・・ぞ……」

「そうだな、だが、イクスには我が配下となった時から魔力譲渡の契約が施されている」

「……ほう……其奴が死ねば、その魔力はお前に宿ると……」
「……それならあり得るか……」
「……だが、どう倒す……運命の子飼いであれば、確率変動や思考錯誤があろう……魔力量で負けていると易々とは破れぬぞ……魔力を得るための魔力が足りぬ……」
「……この問答をどう解く……」

「転生者を呼ぶ、魔力素養に富んだ者をあらゆる世界から探し出す」

「……はーはっはっは……お主は大胆この上ないな……よっぽどこの世界の理が嫌いとみえる……」
「……よかろう、お主が成る時には後押しするよう縁を繋ぐ者ネクタイルに口添えしておこう……」
「……運命の奴は認めぬだろうから……四分の一は大きいぞ……」

「助かる」

「……愉快愉快……最期に面白い話を聞けて満足した、感謝するぞ魔王ヴァンxxx……」
 そう言うと真龍は風に飛ばされる胞子のように静かにその姿をこの世界から消した。

「パラム、目星はついておるか」
 魔王がこちらに向けて話し掛けてくる。

「はい、面白い世界に住む魔力素養に富んだ者を見つけております」
「うむ、では理とやらに抗うぞ」
「お供致します」

 そして、急に場面が変わった。
 最初に見た、玉座のある部屋によく似た部屋の中で大量の魔法陣や紋様が飛び交っている。
 床に書かれた大きな魔法陣の反対側では魔王が映像越しで見てるだけで身体が硬直しそうなほどの魔力を注いでいる。
 イクスとか言う奴はこの魔力をも凌駕するのかと考えると今度は身が震える。

 目線の主であるパラムも限界が近いのか、時折目線がブレたりぼやけたりする。
 首を振ると右側にもう一人同様に魔力を注いでる人影が見える。

 そして、その魔法陣にはホログラムのように元の世界で何気ない生活を送るオレの姿が映っていた。

 覚えてるぞこの日!
 新刊のラノベ[ある日起きたら妹に猫耳が生えていたのに、周りの誰もそれに気付いてないので僕も気付かない振りをし続けて三年、今度は尻尾が生えてきた]略して[いもみみ]を買った日だ!

 猫耳は良かったんだが、どちらかと言うと内容的には妹推しの部分が強くて、いまいちオレの需要とマッチしてなくってこの後の2巻を買うかすげー悩んだんだよな。

 結局レビューに書いてあった[前巻の妹推しが不評だったのを作者も改善、猫耳推しにシフトチェンジした本巻は耳ラーなら読まずには死ねない!]と言う文句に促されて買ったけど……やべ、今、関係ない。

 ー 転生の候補者の召喚の準備が整いました ー
 ー 転生の候補者の生命を今すぐ断ちますか ー

「仕方なかろう……」
 パラムが天の声に答える。

「パラムよ、可能であるならこの者が元の生命を終えるまで時を進めれぬか」
「しかし、王よ、そこまでしてやるだけの魔力が残っておりませぬ」

「ネイトよ、時を支える者の加護でなんとかならぬか」
 魔王が魔力を注ぐ銀髪の若者に声を掛ける。
 さっきの銀髪の兄ちゃん、ネイトって言うんだ、自己紹介より先に知っちゃったよ。

「人の人生を早送りするなんて、そんな面白いお願い、聞いてくれますかねー」
「やれるだけで良い」

「了解!時を支える者タイリーンのお嬢ちゃん、異世界のこのモテなさそうな少年の人生を可能な限り早送りできる?死なない程度に俺の魔力持ってっていいから!」

 すると、映し出されたオレの生活が早送りのようにせわしなく動き出す。
 てか、大事な場面でモテなさそうとか軽くディスってんじゃねーよ。

 ー 転生の候補者が自然に死を迎えるまで待ちますか ー
 天の声が再び答えを求める。

「ネイトよ、どのくらい早くなったか分かるか」
「通常の四倍ってところですかねー」
「パラム、この少年の世界の人はどれほど生きる」
「長くて百、早ければ六十年くらいでしょうか」

「転生までに十五年以上か、構わぬ、待とう」

 ー 転生の候補者が死亡した後、転生が行われます ー
 ー 能力の付与を行いますか ー

「行う。……と……と……とを付与する」

 ー 転生時の年齢や格好、転生場所を指定しますか ー

「細かいな。パラム、あとは頼んでも良いか……」
 おい、魔王、飽きるな!
 呼ぶなら最後まで責任持てよ!

「お任せください、この少年の世界で目を付けてる格好がありますゆえ」

 え、もしかしてこの今着てるジャージ選んだのってパラムの爺さんなの?
 セ、センスいいじゃん。
 そうか、パラムの爺様は転生者選びで散々オレの世界を観察してたから元の世界でしか知り得ないような行動や発言をしてたのね。
 意外とミーハー。

 そして、天の声の細かな質問に嬉々として答えるパラムの爺様を横目に他の二人は部屋を出て行く。

 そしてまた映像が途切れる。
 場面が変わり、玉座に座る魔王。
 その目は何も捉えていない。

 取り乱すパラムの爺様。
「まさか、まさか、まさか!」
「このような事がありえるのか!」

 細切れに映像が変わり出す。

 魔術書と格闘しながら多くの魔法陣を駆使して複雑な魔法を作り上げる場面。
 玉座に座る魔王にその魔法を施す場面。
 苛立つ場面。
 また新たな魔法を作成しようと奔走する場面。
 施す場面。
 うなだれる場面。

 そして、次に映し出されたのは、ネーシャに首を締められ宙吊りにされているオレ。

 すると突然オレ自身に話しかける声が聞こえた。

「今日に至るまで十五年、王に掛けられた精神操作の魔法を解呪することはできなんだ」
 さっきまで見ていた映像は消えていて、現実のパラムの爺様が話している。

「もはや最初の予定だったお主の力を借りて王がイクスを討ち取ることは叶わぬ」

「でもイクスを倒せば精神操作も解けたりするんじゃない?」

「その可能性ももちろんある、しかし、我々だけで討ち取ること自体が無理での」
「無理って……」

「あ、エリンは? エリンもイクスに精神操作されてたんですよね、それを解呪できたのであれば……」

「エリンには王が与えた絶対防御があったでの、深層まで精神操作が及んでおらなんだ。お陰で王のために作った魔法のうちの一つで解呪が可能だったんじゃが……」

「魔王が与えたのなら魔王も絶対防御を持ってるんじゃ……」
「残念ながらこの世界では神以外が能力を付与すると言う行為は譲渡するということに等しい」

「てことは、オレがもらった能力も?」
「そうじゃ、王から譲渡された。その譲渡した分だけ王が弱くなっていったことは否めん。もちろんエリンにもお主にも非はなく、全ては必要なことじゃったからの」

「だが、もっと悪い知らせもある」
「これ以上?」

「王がイクスに施していた魔力譲渡の契約は破棄され、精神操作後に逆に王が消滅する時にはイクスへその力が宿るように契約をされておった」
「魔王が死ぬと、その力を全部イクスが引き継ぐってこと!?」

「そうじゃ」

 最悪だ、何をどうすればこの状況を打破できるのかオレには考えも及ばない。

「そんな状況なのに魔王を討伐するって、一体どんな秘策があるの? 倒したらイクスが強くなっちゃうんでしょ?」

「残念ながら秘策はない、消極策が残るのみじゃ」

 パラムの爺様の説明は確かに消極策でしかなかった。
 まず前任の魔王が消滅し新たな魔王が選ばれた時、新たな魔王は相応の魔力を神に要求される。
 今の魔王の時は二百年の眠りにつき、その間ずっと魔力を捧げていたという。
 つまり今の魔王が消滅すると次の魔王候補のイクスは長い眠りにつくことになる。

 だが問題は、今の魔王が消滅するとその魔力がイクスに渡されるため、そうなるとイクスの眠りは数年、早ければ眠りにつく事なく新たな魔王として君臨できてしまう。

 イクスの魔力譲渡の契約を破棄する事は出来ないが、今の魔王を消滅させ、かつ魔力譲渡を行わせない方法が一つだけある。

 それは、魔王を転生させること。

 魔力譲渡は転生後も引き継がれ、転生することなく消滅するまでその効力は保留される。

 つまり、うまく転生が成功したとしても転生後の魔王が何らかの理由で消滅すればイクスはその魔力を使って目覚めるし、例え転生後に生き長らえてもイクスは自らの魔力を捧げ続けいつか魔王として君臨する。

 王手間近で逃げの一手が打てるだけ。
 何も解決しないが、他に方法もない。

 敵に回った魔王と戦いながら無事に転生させるなんて、狂気の沙汰としか思えないが、やるしかないらしい。


 ここまできたら転生者史上もっとも無力でツイてない転生者として名を残してやろうと密かに心に誓った。

「決心はついたかの」
 パラムの爺様がオレに聞く。

「転生してから一度も決心なんてついてないのに今やこの状況ですよ? もう振り回されるなら最後まで全力で振り回されてやるという心積もりは出来ました!」

「上出来じゃの」
 パラムの爺様は初めて会った時にも披露した黄門様のような笑い方で笑った。

 ……このミーハー爺様、間違いなくオレの世界のテレビも一通り見たんだろうなぁ。
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