22 / 33
8・1 奔走と絶望
しおりを挟む
パラムが真龍の元へ着くと、魔王が真龍の鼻先に手を置き語り掛けていた。
「これからが面白いところなのにもう往くのか、真龍よ」
「……運命の件か……我に出来ることはもうしてやったぞ……」
「だが何千人繋げたところでイクスの魔力量には及ばぬ」
「……ほう、運命の奴の子飼いは……お主の傍に居たのか……」
「次の王はあいつが選ばれる、そうなると運命の神託通り、この世界の自我を持つもの全てを滅ぼすだろう、そうなると……」
「……創造主の交代か……」
「ああ」
「……だが、魔王よ、この世の終わりの責まで……お主が背負うことはなかろう……」
「……形あるものは消える……それが何万年続いていようが同じだ……」
「それが、理と言うものか」
「……そういうことだ、気に入らぬか……」
「ああ」
「……そろそろ、本音を聞かせてくれるか、魔王よ……」
「……確かに魔力量で考えればお主より運命の子飼いが上であろう……」
「……しかし、ただ傍観する訳ではなかろう……何を企んでいる……」
「余は龍になる」
「……ほう、我を討つか……」
「いや」
魔王は言葉少なに言うと少し楽しそうに口角を上げる。
「……はーはっはっは……はぁ……お前の言う龍とは我ごときではないと……」
「……これは面白い……消滅するのが惜しくなったぞ……」
「……だが、魔王よ、悪いがお主の魔力では成れぬぞ……」
「そうだな、だが、イクスには我が配下となった時から魔力譲渡の契約が施されている」
「……ほう……其奴が死ねば、その魔力はお前に宿ると……」
「……それならあり得るか……」
「……だが、どう倒す……運命の子飼いであれば、確率変動や思考錯誤があろう……魔力量で負けていると易々とは破れぬぞ……魔力を得るための魔力が足りぬ……」
「……この問答をどう解く……」
「転生者を呼ぶ、魔力素養に富んだ者をあらゆる世界から探し出す」
「……はーはっはっは……お主は大胆この上ないな……よっぽどこの世界の理が嫌いとみえる……」
「……よかろう、お主が成る時には後押しするよう縁を繋ぐ者に口添えしておこう……」
「……運命の奴は認めぬだろうから……四分の一は大きいぞ……」
「助かる」
「……愉快愉快……最期に面白い話を聞けて満足した、感謝するぞ魔王ヴァンxxx……」
そう言うと真龍は風に飛ばされる胞子のように静かにその姿をこの世界から消した。
「パラム、目星はついておるか」
魔王がこちらに向けて話し掛けてくる。
「はい、面白い世界に住む魔力素養に富んだ者を見つけております」
「うむ、では理とやらに抗うぞ」
「お供致します」
そして、急に場面が変わった。
最初に見た、玉座のある部屋によく似た部屋の中で大量の魔法陣や紋様が飛び交っている。
床に書かれた大きな魔法陣の反対側では魔王が映像越しで見てるだけで身体が硬直しそうなほどの魔力を注いでいる。
イクスとか言う奴はこの魔力をも凌駕するのかと考えると今度は身が震える。
目線の主であるパラムも限界が近いのか、時折目線がブレたりぼやけたりする。
首を振ると右側にもう一人同様に魔力を注いでる人影が見える。
そして、その魔法陣にはホログラムのように元の世界で何気ない生活を送るオレの姿が映っていた。
覚えてるぞこの日!
新刊のラノベ[ある日起きたら妹に猫耳が生えていたのに、周りの誰もそれに気付いてないので僕も気付かない振りをし続けて三年、今度は尻尾が生えてきた]略して[いもみみ]を買った日だ!
猫耳は良かったんだが、どちらかと言うと内容的には妹推しの部分が強くて、いまいちオレの需要とマッチしてなくってこの後の2巻を買うかすげー悩んだんだよな。
結局レビューに書いてあった[前巻の妹推しが不評だったのを作者も改善、猫耳推しにシフトチェンジした本巻は耳ラーなら読まずには死ねない!]と言う文句に促されて買ったけど……やべ、今、関係ない。
ー 転生の候補者の召喚の準備が整いました ー
ー 転生の候補者の生命を今すぐ断ちますか ー
「仕方なかろう……」
パラムが天の声に答える。
「パラムよ、可能であるならこの者が元の生命を終えるまで時を進めれぬか」
「しかし、王よ、そこまでしてやるだけの魔力が残っておりませぬ」
「ネイトよ、時を支える者の加護でなんとかならぬか」
魔王が魔力を注ぐ銀髪の若者に声を掛ける。
さっきの銀髪の兄ちゃん、ネイトって言うんだ、自己紹介より先に知っちゃったよ。
「人の人生を早送りするなんて、そんな面白いお願い、聞いてくれますかねー」
「やれるだけで良い」
「了解!時を支える者のお嬢ちゃん、異世界のこのモテなさそうな少年の人生を可能な限り早送りできる?死なない程度に俺の魔力持ってっていいから!」
すると、映し出されたオレの生活が早送りのようにせわしなく動き出す。
てか、大事な場面でモテなさそうとか軽くディスってんじゃねーよ。
ー 転生の候補者が自然に死を迎えるまで待ちますか ー
天の声が再び答えを求める。
「ネイトよ、どのくらい早くなったか分かるか」
「通常の四倍ってところですかねー」
「パラム、この少年の世界の人はどれほど生きる」
「長くて百、早ければ六十年くらいでしょうか」
「転生までに十五年以上か、構わぬ、待とう」
ー 転生の候補者が死亡した後、転生が行われます ー
ー 能力の付与を行いますか ー
「行う。……と……と……とを付与する」
ー 転生時の年齢や格好、転生場所を指定しますか ー
「細かいな。パラム、あとは頼んでも良いか……」
おい、魔王、飽きるな!
呼ぶなら最後まで責任持てよ!
「お任せください、この少年の世界で目を付けてる格好がありますゆえ」
え、もしかしてこの今着てるジャージ選んだのってパラムの爺さんなの?
セ、センスいいじゃん。
そうか、パラムの爺様は転生者選びで散々オレの世界を観察してたから元の世界でしか知り得ないような行動や発言をしてたのね。
意外とミーハー。
そして、天の声の細かな質問に嬉々として答えるパラムの爺様を横目に他の二人は部屋を出て行く。
そしてまた映像が途切れる。
場面が変わり、玉座に座る魔王。
その目は何も捉えていない。
取り乱すパラムの爺様。
「まさか、まさか、まさか!」
「このような事がありえるのか!」
細切れに映像が変わり出す。
魔術書と格闘しながら多くの魔法陣を駆使して複雑な魔法を作り上げる場面。
玉座に座る魔王にその魔法を施す場面。
苛立つ場面。
また新たな魔法を作成しようと奔走する場面。
施す場面。
うなだれる場面。
そして、次に映し出されたのは、ネーシャに首を締められ宙吊りにされているオレ。
すると突然オレ自身に話しかける声が聞こえた。
「今日に至るまで十五年、王に掛けられた精神操作の魔法を解呪することはできなんだ」
さっきまで見ていた映像は消えていて、現実のパラムの爺様が話している。
「もはや最初の予定だったお主の力を借りて王がイクスを討ち取ることは叶わぬ」
「でもイクスを倒せば精神操作も解けたりするんじゃない?」
「その可能性ももちろんある、しかし、我々だけで討ち取ること自体が無理での」
「無理って……」
「あ、エリンは? エリンもイクスに精神操作されてたんですよね、それを解呪できたのであれば……」
「エリンには王が与えた絶対防御があったでの、深層まで精神操作が及んでおらなんだ。お陰で王のために作った魔法のうちの一つで解呪が可能だったんじゃが……」
「魔王が与えたのなら魔王も絶対防御を持ってるんじゃ……」
「残念ながらこの世界では神以外が能力を付与すると言う行為は譲渡するということに等しい」
「てことは、オレがもらった能力も?」
「そうじゃ、王から譲渡された。その譲渡した分だけ王が弱くなっていったことは否めん。もちろんエリンにもお主にも非はなく、全ては必要なことじゃったからの」
「だが、もっと悪い知らせもある」
「これ以上?」
「王がイクスに施していた魔力譲渡の契約は破棄され、精神操作後に逆に王が消滅する時にはイクスへその力が宿るように契約をされておった」
「魔王が死ぬと、その力を全部イクスが引き継ぐってこと!?」
「そうじゃ」
最悪だ、何をどうすればこの状況を打破できるのかオレには考えも及ばない。
「そんな状況なのに魔王を討伐するって、一体どんな秘策があるの? 倒したらイクスが強くなっちゃうんでしょ?」
「残念ながら秘策はない、消極策が残るのみじゃ」
パラムの爺様の説明は確かに消極策でしかなかった。
まず前任の魔王が消滅し新たな魔王が選ばれた時、新たな魔王は相応の魔力を神に要求される。
今の魔王の時は二百年の眠りにつき、その間ずっと魔力を捧げていたという。
つまり今の魔王が消滅すると次の魔王候補のイクスは長い眠りにつくことになる。
だが問題は、今の魔王が消滅するとその魔力がイクスに渡されるため、そうなるとイクスの眠りは数年、早ければ眠りにつく事なく新たな魔王として君臨できてしまう。
イクスの魔力譲渡の契約を破棄する事は出来ないが、今の魔王を消滅させ、かつ魔力譲渡を行わせない方法が一つだけある。
それは、魔王を転生させること。
魔力譲渡は転生後も引き継がれ、転生することなく消滅するまでその効力は保留される。
つまり、うまく転生が成功したとしても転生後の魔王が何らかの理由で消滅すればイクスはその魔力を使って目覚めるし、例え転生後に生き長らえてもイクスは自らの魔力を捧げ続けいつか魔王として君臨する。
王手間近で逃げの一手が打てるだけ。
何も解決しないが、他に方法もない。
敵に回った魔王と戦いながら無事に転生させるなんて、狂気の沙汰としか思えないが、やるしかないらしい。
ここまできたら転生者史上もっとも無力でツイてない転生者として名を残してやろうと密かに心に誓った。
「決心はついたかの」
パラムの爺様がオレに聞く。
「転生してから一度も決心なんてついてないのに今やこの状況ですよ? もう振り回されるなら最後まで全力で振り回されてやるという心積もりは出来ました!」
「上出来じゃの」
パラムの爺様は初めて会った時にも披露した黄門様のような笑い方で笑った。
……このミーハー爺様、間違いなくオレの世界のテレビも一通り見たんだろうなぁ。
「これからが面白いところなのにもう往くのか、真龍よ」
「……運命の件か……我に出来ることはもうしてやったぞ……」
「だが何千人繋げたところでイクスの魔力量には及ばぬ」
「……ほう、運命の奴の子飼いは……お主の傍に居たのか……」
「次の王はあいつが選ばれる、そうなると運命の神託通り、この世界の自我を持つもの全てを滅ぼすだろう、そうなると……」
「……創造主の交代か……」
「ああ」
「……だが、魔王よ、この世の終わりの責まで……お主が背負うことはなかろう……」
「……形あるものは消える……それが何万年続いていようが同じだ……」
「それが、理と言うものか」
「……そういうことだ、気に入らぬか……」
「ああ」
「……そろそろ、本音を聞かせてくれるか、魔王よ……」
「……確かに魔力量で考えればお主より運命の子飼いが上であろう……」
「……しかし、ただ傍観する訳ではなかろう……何を企んでいる……」
「余は龍になる」
「……ほう、我を討つか……」
「いや」
魔王は言葉少なに言うと少し楽しそうに口角を上げる。
「……はーはっはっは……はぁ……お前の言う龍とは我ごときではないと……」
「……これは面白い……消滅するのが惜しくなったぞ……」
「……だが、魔王よ、悪いがお主の魔力では成れぬぞ……」
「そうだな、だが、イクスには我が配下となった時から魔力譲渡の契約が施されている」
「……ほう……其奴が死ねば、その魔力はお前に宿ると……」
「……それならあり得るか……」
「……だが、どう倒す……運命の子飼いであれば、確率変動や思考錯誤があろう……魔力量で負けていると易々とは破れぬぞ……魔力を得るための魔力が足りぬ……」
「……この問答をどう解く……」
「転生者を呼ぶ、魔力素養に富んだ者をあらゆる世界から探し出す」
「……はーはっはっは……お主は大胆この上ないな……よっぽどこの世界の理が嫌いとみえる……」
「……よかろう、お主が成る時には後押しするよう縁を繋ぐ者に口添えしておこう……」
「……運命の奴は認めぬだろうから……四分の一は大きいぞ……」
「助かる」
「……愉快愉快……最期に面白い話を聞けて満足した、感謝するぞ魔王ヴァンxxx……」
そう言うと真龍は風に飛ばされる胞子のように静かにその姿をこの世界から消した。
「パラム、目星はついておるか」
魔王がこちらに向けて話し掛けてくる。
「はい、面白い世界に住む魔力素養に富んだ者を見つけております」
「うむ、では理とやらに抗うぞ」
「お供致します」
そして、急に場面が変わった。
最初に見た、玉座のある部屋によく似た部屋の中で大量の魔法陣や紋様が飛び交っている。
床に書かれた大きな魔法陣の反対側では魔王が映像越しで見てるだけで身体が硬直しそうなほどの魔力を注いでいる。
イクスとか言う奴はこの魔力をも凌駕するのかと考えると今度は身が震える。
目線の主であるパラムも限界が近いのか、時折目線がブレたりぼやけたりする。
首を振ると右側にもう一人同様に魔力を注いでる人影が見える。
そして、その魔法陣にはホログラムのように元の世界で何気ない生活を送るオレの姿が映っていた。
覚えてるぞこの日!
新刊のラノベ[ある日起きたら妹に猫耳が生えていたのに、周りの誰もそれに気付いてないので僕も気付かない振りをし続けて三年、今度は尻尾が生えてきた]略して[いもみみ]を買った日だ!
猫耳は良かったんだが、どちらかと言うと内容的には妹推しの部分が強くて、いまいちオレの需要とマッチしてなくってこの後の2巻を買うかすげー悩んだんだよな。
結局レビューに書いてあった[前巻の妹推しが不評だったのを作者も改善、猫耳推しにシフトチェンジした本巻は耳ラーなら読まずには死ねない!]と言う文句に促されて買ったけど……やべ、今、関係ない。
ー 転生の候補者の召喚の準備が整いました ー
ー 転生の候補者の生命を今すぐ断ちますか ー
「仕方なかろう……」
パラムが天の声に答える。
「パラムよ、可能であるならこの者が元の生命を終えるまで時を進めれぬか」
「しかし、王よ、そこまでしてやるだけの魔力が残っておりませぬ」
「ネイトよ、時を支える者の加護でなんとかならぬか」
魔王が魔力を注ぐ銀髪の若者に声を掛ける。
さっきの銀髪の兄ちゃん、ネイトって言うんだ、自己紹介より先に知っちゃったよ。
「人の人生を早送りするなんて、そんな面白いお願い、聞いてくれますかねー」
「やれるだけで良い」
「了解!時を支える者のお嬢ちゃん、異世界のこのモテなさそうな少年の人生を可能な限り早送りできる?死なない程度に俺の魔力持ってっていいから!」
すると、映し出されたオレの生活が早送りのようにせわしなく動き出す。
てか、大事な場面でモテなさそうとか軽くディスってんじゃねーよ。
ー 転生の候補者が自然に死を迎えるまで待ちますか ー
天の声が再び答えを求める。
「ネイトよ、どのくらい早くなったか分かるか」
「通常の四倍ってところですかねー」
「パラム、この少年の世界の人はどれほど生きる」
「長くて百、早ければ六十年くらいでしょうか」
「転生までに十五年以上か、構わぬ、待とう」
ー 転生の候補者が死亡した後、転生が行われます ー
ー 能力の付与を行いますか ー
「行う。……と……と……とを付与する」
ー 転生時の年齢や格好、転生場所を指定しますか ー
「細かいな。パラム、あとは頼んでも良いか……」
おい、魔王、飽きるな!
呼ぶなら最後まで責任持てよ!
「お任せください、この少年の世界で目を付けてる格好がありますゆえ」
え、もしかしてこの今着てるジャージ選んだのってパラムの爺さんなの?
セ、センスいいじゃん。
そうか、パラムの爺様は転生者選びで散々オレの世界を観察してたから元の世界でしか知り得ないような行動や発言をしてたのね。
意外とミーハー。
そして、天の声の細かな質問に嬉々として答えるパラムの爺様を横目に他の二人は部屋を出て行く。
そしてまた映像が途切れる。
場面が変わり、玉座に座る魔王。
その目は何も捉えていない。
取り乱すパラムの爺様。
「まさか、まさか、まさか!」
「このような事がありえるのか!」
細切れに映像が変わり出す。
魔術書と格闘しながら多くの魔法陣を駆使して複雑な魔法を作り上げる場面。
玉座に座る魔王にその魔法を施す場面。
苛立つ場面。
また新たな魔法を作成しようと奔走する場面。
施す場面。
うなだれる場面。
そして、次に映し出されたのは、ネーシャに首を締められ宙吊りにされているオレ。
すると突然オレ自身に話しかける声が聞こえた。
「今日に至るまで十五年、王に掛けられた精神操作の魔法を解呪することはできなんだ」
さっきまで見ていた映像は消えていて、現実のパラムの爺様が話している。
「もはや最初の予定だったお主の力を借りて王がイクスを討ち取ることは叶わぬ」
「でもイクスを倒せば精神操作も解けたりするんじゃない?」
「その可能性ももちろんある、しかし、我々だけで討ち取ること自体が無理での」
「無理って……」
「あ、エリンは? エリンもイクスに精神操作されてたんですよね、それを解呪できたのであれば……」
「エリンには王が与えた絶対防御があったでの、深層まで精神操作が及んでおらなんだ。お陰で王のために作った魔法のうちの一つで解呪が可能だったんじゃが……」
「魔王が与えたのなら魔王も絶対防御を持ってるんじゃ……」
「残念ながらこの世界では神以外が能力を付与すると言う行為は譲渡するということに等しい」
「てことは、オレがもらった能力も?」
「そうじゃ、王から譲渡された。その譲渡した分だけ王が弱くなっていったことは否めん。もちろんエリンにもお主にも非はなく、全ては必要なことじゃったからの」
「だが、もっと悪い知らせもある」
「これ以上?」
「王がイクスに施していた魔力譲渡の契約は破棄され、精神操作後に逆に王が消滅する時にはイクスへその力が宿るように契約をされておった」
「魔王が死ぬと、その力を全部イクスが引き継ぐってこと!?」
「そうじゃ」
最悪だ、何をどうすればこの状況を打破できるのかオレには考えも及ばない。
「そんな状況なのに魔王を討伐するって、一体どんな秘策があるの? 倒したらイクスが強くなっちゃうんでしょ?」
「残念ながら秘策はない、消極策が残るのみじゃ」
パラムの爺様の説明は確かに消極策でしかなかった。
まず前任の魔王が消滅し新たな魔王が選ばれた時、新たな魔王は相応の魔力を神に要求される。
今の魔王の時は二百年の眠りにつき、その間ずっと魔力を捧げていたという。
つまり今の魔王が消滅すると次の魔王候補のイクスは長い眠りにつくことになる。
だが問題は、今の魔王が消滅するとその魔力がイクスに渡されるため、そうなるとイクスの眠りは数年、早ければ眠りにつく事なく新たな魔王として君臨できてしまう。
イクスの魔力譲渡の契約を破棄する事は出来ないが、今の魔王を消滅させ、かつ魔力譲渡を行わせない方法が一つだけある。
それは、魔王を転生させること。
魔力譲渡は転生後も引き継がれ、転生することなく消滅するまでその効力は保留される。
つまり、うまく転生が成功したとしても転生後の魔王が何らかの理由で消滅すればイクスはその魔力を使って目覚めるし、例え転生後に生き長らえてもイクスは自らの魔力を捧げ続けいつか魔王として君臨する。
王手間近で逃げの一手が打てるだけ。
何も解決しないが、他に方法もない。
敵に回った魔王と戦いながら無事に転生させるなんて、狂気の沙汰としか思えないが、やるしかないらしい。
ここまできたら転生者史上もっとも無力でツイてない転生者として名を残してやろうと密かに心に誓った。
「決心はついたかの」
パラムの爺様がオレに聞く。
「転生してから一度も決心なんてついてないのに今やこの状況ですよ? もう振り回されるなら最後まで全力で振り回されてやるという心積もりは出来ました!」
「上出来じゃの」
パラムの爺様は初めて会った時にも披露した黄門様のような笑い方で笑った。
……このミーハー爺様、間違いなくオレの世界のテレビも一通り見たんだろうなぁ。
0
お気に入りに追加
45
あなたにおすすめの小説
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
【完結】王女様の暇つぶしに私を巻き込まないでください
むとうみつき
ファンタジー
暇を持て余した王女殿下が、自らの婚約者候補達にゲームの提案。
「勉強しか興味のない、あのガリ勉女を恋に落としなさい!」
それって私のことだよね?!
そんな王女様の話しをうっかり聞いてしまっていた、ガリ勉女シェリル。
でもシェリルには必死で勉強する理由があって…。
長編です。
よろしくお願いします。
カクヨムにも投稿しています。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。
桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」
この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。
※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。
※1回の投稿文字数は少な目です。
※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。
表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年10月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
1ページの文字数は少な目です。
約4500文字程度の番外編です。
バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`)
ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑)
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる