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第3章 領地編
第72話 待ち合わせ
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サンブリーのダンジョンは街から、西におよそ4キロの地点にある。
ローソニア帝国との国境沿いにあるせいで、過去に利権を巡った戦争が起こり、近隣にあった街が滅んでしまったという経緯もあるため、今は騎士団が常駐している。
イメリア率いるマトファミア王国第13騎士団が、建築ギルドの力を借りて見張り塔を作成。
ダンジョンの入り口に物理的に蓋をしている。
ダンジョンへの入場希望者は騎士団に入場手続きを申請して、許可を得たものが入る形になっている。
自国民は入場に銀貨2枚、他国民は銀貨3枚。
ダンジョンで得た報酬も自国民は利益の20%を、他国民は利益の30%を税金として引かれることとなっている。
「さて、着いたな」
イメリアと別れること1時間、火が上り始めた時間に俺はそのダンジョンの入り口――ではなく、それを囲む集落に到着した。
ほとんどのダンジョンは安全の都合上、街から離れているため、内部で得たものを持ち帰るのは何かと不便だ。
袋の容量限界になったらいちいち街まで戻らなければならない。
なので、大抵のダンジョンはその入り口付近に、換金用の集落が形成されるらしい。
冒険者ギルドや輸送ギルド、商人ギルドなんかが冒険者相手の商売として、いろいろな面倒事を引き受けてくれるというわけだ。
もちろん料金はかかるが割安。
俺たちは解体も輸送も自前でいくらでもできるため、利用する機会はあまりないとは思うけどな。
「カイト、こっち」
集落に入った俺に気づいたのは、俺の料理の弟子で元凄腕の暗殺者、そして俺をこの世界に誘拐した3人のうちの1人であるミズハだった。
今日は冒険に出るので店にいる時の白いコック服ではなく、イブセブンで俺たちと戦った時の服を着ている。
全身を覆うメッシュの入ったのボディスーツの上に、ビキニアーマーならぬビキニガーダーで心臓と下腹部をガード。
着物っぽい上着を装備し、腰と胸、そしてふとももにナイフベルト。
胸のベルトは豊かな谷間に埋もれておりπ/状態。
防刃マフラーで首を守っているその見た目は、ファンタジー色強めな女忍者に見える。
俺、こんな奴と戦ったのか……
あの時は救出と脱出に必死で気にも留めなかったけど、正直この格好えっちすぎない?
「よかった。待っているの疲れた」
「疲れた? お前がそんなこと言うなんて珍しいな」
「体力じゃなくて精神のほう」
「それこそ珍しくない?」
ミズハは元暗殺者。
少々のことどころか、大抵のことでも眉一つ動かさないようなメンタル強者のはずだが。
「みんなを待っている間、ひっきりなしに声をかけられてウザかった……」
「あー……」
ナンパか。
そりゃこんな美人がこんな格好をして1人でいるなら声もかけられるだろうな。
しかし、ミズハを疲れさせるほどのナンパとは。
おそらく、相当な数が来たんだろう。
朝っぱらからお盛んですな。
「ピートが来るまで本当に大変だった……」
「あ、ピートはもういるのか。でも姿は見えないけど一体どこに?」
「トイレを借りるって言ってあのお店に入った」
「どう見ても一杯ひっかけにいったんじゃねーか」
ミズハが指さした先は、商人ギルドが運営する宿屋兼酒場だった。
「ミーナがいないからあいつのゾンビに斥候やってもらうつもりなのに! 何で引き留めなかったんだよ!?」
「漏れそうだって言ってたから……すごい必死だったし」
「あの野郎……ずいぶんと演技派になったじゃねーか」
元暗殺者を騙しきるとはなかなかの名演である。
「おっはよーなのじゃ。いやー、とうとうこの日が来ると思ったら興奮してなかなか寝られんかったわ……ん? どうした? 何かあったか?」
「アミカ、おはよう」
「丁度よかった。ロリマス、一緒に来てくれ。酒クズを回収するぞ」
……
…………
………………
「いや、違うんですよ皆さん。僕は本当にトイレを借りたかったんです」
5分後――駐屯地の一角を借りて、俺たちはピートにお仕置きをしていた。
他国の捕虜尋問用機械――水車にさかさまに磔にしてグルグル回すアレ――にピートをセットしている。
「何しろ久しぶりのダンジョンの上、メンバーが豪華なのでちょっと緊張してしまいましてね? で、のどが渇いたから水をもらおうとテーブルにですね……」
「ほう? じゃあわしらが店に入った時の『ビールください。氷魔法でキンッキンに冷えた奴を大ジョッキで!』というセリフは何だったのかのう?」
「さあ? きっと空耳ですよ。ロリマスは見た目は美少女ですけど相当お歳を召していますから。ありもしないセリフが聞こえたんですよ」
「精神年齢はともかく肉体年齢は14なんじゃが!?」
「そのセリフ、俺もはっきりと聞こえたんだけどな?」
「カイトさんは働きすぎです。領主の仕事だけでもきついのに、趣味でレストランまで開いているから、自分の思う以上に疲労がたまっているんだと思います」
「私、『ヘイ! 大ジョッキお待ち!』ってビールがテーブルに置かれたところを見た」
「ミズハさん、あれはオーダーミスです。店主の方がほかの注文を間違えて僕のテーブルに持ってきてしまったんです。いやあ、ホントうっかりさんな店主ですね」
「なるほど」
「そっか、それじゃあ俺たちの早とちりなんだ。ごめんなピート」
「いえいえ、気にしていません。普段から誤解されるようなことをしていた僕が悪いんですから。でも、これからは違いますよ! 今日から僕はお酒に負けません! みなさんのように、きちんと自分に与えられた役割をこなしてみせます!」
「おお、そうじゃ。ピート。店出る時おぬしのビール代立て替えておいたぞ。あとで返してくれ。銀貨1枚」
「あ、すいません。腰に僕のサイフあるんでそこから取ってください」
「ピート、お水いる?」
「ありがとうございます。ちょうどのどが渇いていたんですよ」
「そっかそっか、じゃあたっぷり飲めよ。ミズハー、回して」
「了解」(ぐるぐる)
――ガボガボガボガボッ!
――ゴボゴボッ! ゴガボボボボボボッ!
水車のハンドルをミズハが回した。
ピートが磔られた水車が回り、頭から水に突っ込んだ。
回転方向的に鼻に思いっきり水が入っている。
アレは痛い。
「ガハッ!? ゴボォッ!? 痛ッ! 鼻痛ッ!? 水飲みすぎて吐きそう!」
「なら丁度良いのじゃ」
「銀貨1枚ならビール2杯分だな。胃の中からアルコール成分取っ払うぞ」
「ちょっ!? 止めて!? ごめんなさい! 僕が悪かったですから!」
「問答無用。酔っぱらってたら慎重な魔法コントロールなんてできないだろ。仕事前に飲んだお前が悪い。ミズハ、続けて」
「ん」(ぐるぐる)
「ギャーッ!」
「陽キャ成分が出ているから念入りになー」
「素面だとしゃべり方あんなに明るくないからのう」
「ん」(ぐるぐる)
「ギャアアアァァァーーッ!」
そして10分――
「ごめんなさい……もう、ホント反省してます。仕事前にお酒とかもう飲みません……」
ようやく酔いが冷めたようなので水車から下ろした。
このオドオドした感じ、素面のピートで間違いない。
「僕みたいな基本暗い奴がパーティだと空気重いかなって思って……少しでも明るくなろうって……それでお酒を……」
「んなもん、わしらは誰も気にせんじゃろう」
「斥候やってもらうんだから酔われちゃ困るんだよ」
「酔ってたら上手く魔法を使えない」
「……はい、すいませんでした」
再度ピートが謝った。
本当に反省しているようなので、この話はこれで終わり。
「吸収された酒の成分が抜けるまでここで打ち合わせしよう」
「出発が遅れるが……まあ、仕方ないのう」
「安全には代えられない」
「重ね重ねホントすいません……」
気を取り直して仕事の話だ。
「まず初めに俺たちの目標。これはこのダンジョンの深層にある『神霊水』。これを持ち帰ってネクタルを作ることが最終的な目標になる」
その理由はここにいる見た目中2の、ロリータギルドマスターにかかっている呪いの解呪。
年齢とともに若返り、最後は赤子に戻って消えてしまうという恐ろしい呪いだ。
若返りと聞くと、一見得しかないように思えるが、実際はそんなことない。
日々、自分が死に近づいているのを実感させられてしまう。
「ネクタルの効果はすでに実証済み。あらゆる怪我や病気、呪いに効果があるのはわかっているから、できれば大量に持ち帰りたい」
「一瞬でわしの怪我が治ったしのう」
「緊急用に確保しておきたい」
「その水でお酒を作ったらどんだけ美味しいんでしょうね?」
「ピート、もう1周行っとく?」
「ごめんなさい」
全く、困った奴だ。
俺がビールの美味さを教えただけに、ちょっと責任を感じなくもない。
「この仕事が終わるまで、基本1日中ダンジョンに詰めることになるが。帰宅は毎日できる」
「ふふん、わしの空間跳躍のおかげじゃぞ? 感謝するのじゃ!」
アミカのこの魔法があるため、俺たちは他の冒険者と違い、ダンジョン内で何日も過ごすということをしないで済む。
ちゃんと毎日帰宅できるのは本当にありがたい。
「何度も出たり入ったりすることになるから、そのあたりのことは話を付けておいた。一応俺が所有していることになっているから、入場や素材に関して、俺たちは特例法が適用されるそうだ」
「つまり?」
入場とか、ダンジョン関連で金がかかるようなことは全部タダってこと。
「パーティは前衛が俺とミズハで中衛がピート、ロリマスが後衛。ピートは死霊術でゾンビを作って、俺たちの前を先行させてくれ。ダンジョン特有の罠は、全部ゾンビくんに食らってもらう」
「死者を全く敬わないストロングスタイルじゃのう」
いいんだよ、それが一番手っ取り早いし。
「緊急時はピートも前衛に加わってくれ」
「えぇっ!? 僕死霊術師ですよ!? 思いっきり後衛向きじゃあ……」
「いや、お前は前衛一択だ」
「後衛とかありえんし」
「宝の持ち腐れ」
「何で!? 実家は武術やってましたけどビビリですよ僕!? チキンすぎて追い出されたんですよ!?」
ピートは酔って陽キャ気味になると、近接戦闘力がバカ強くなる。
その時の記憶がないのでこう言っているが、実際のところ格闘戦はこの中の誰よりも強い。
死霊術と武術を組み合わせた死酔拳は正直タチが悪すぎる。
一発食らったらほぼアウトだからな、アレ。
「その時は斥候できなくなるから、斥候役はミズハと交代な」
「ん、了解」
パーティの行動についてはこのくらい決めとけばいいだろう。
「冒険者ギルドから上がっている報告では食える魔物、食えそうな魔物なんかが多数存在しているらしい。それらの現地調査をしつつ深層を目指すぞ」
肉や魚系もいいが、特に欲しいのは植物系の魔物だ。
植物系の魔物は極上の野菜や果物になることはすでにわかっている。
群生地を見つけることができれば……もう、なんかすごいことになる予感しかない。(語彙力)
その魔物たちでコンソメやデザートを作ったらどれくらい美味いものが作れるんだろうか?
想像するだけでよだれが溢れる。
「話し合うことはこれくらいだな」
「そうじゃな。これだけ決めておけばとりあえず十分じゃろ」
「未知の食材……滾る。早く料理したい」
「うぅ……どうか前衛役をやらされませんように」
酔いも覚めたころだろうし、そろそろ行こう。
さあ、冒険の始まりだ。
--------------------------------------------------------------------------------
《あとがき》
というわけでダンジョン編突入します。
どんな食い物……いや、魔物が生息しているのでしょうね?
ローソニア帝国との国境沿いにあるせいで、過去に利権を巡った戦争が起こり、近隣にあった街が滅んでしまったという経緯もあるため、今は騎士団が常駐している。
イメリア率いるマトファミア王国第13騎士団が、建築ギルドの力を借りて見張り塔を作成。
ダンジョンの入り口に物理的に蓋をしている。
ダンジョンへの入場希望者は騎士団に入場手続きを申請して、許可を得たものが入る形になっている。
自国民は入場に銀貨2枚、他国民は銀貨3枚。
ダンジョンで得た報酬も自国民は利益の20%を、他国民は利益の30%を税金として引かれることとなっている。
「さて、着いたな」
イメリアと別れること1時間、火が上り始めた時間に俺はそのダンジョンの入り口――ではなく、それを囲む集落に到着した。
ほとんどのダンジョンは安全の都合上、街から離れているため、内部で得たものを持ち帰るのは何かと不便だ。
袋の容量限界になったらいちいち街まで戻らなければならない。
なので、大抵のダンジョンはその入り口付近に、換金用の集落が形成されるらしい。
冒険者ギルドや輸送ギルド、商人ギルドなんかが冒険者相手の商売として、いろいろな面倒事を引き受けてくれるというわけだ。
もちろん料金はかかるが割安。
俺たちは解体も輸送も自前でいくらでもできるため、利用する機会はあまりないとは思うけどな。
「カイト、こっち」
集落に入った俺に気づいたのは、俺の料理の弟子で元凄腕の暗殺者、そして俺をこの世界に誘拐した3人のうちの1人であるミズハだった。
今日は冒険に出るので店にいる時の白いコック服ではなく、イブセブンで俺たちと戦った時の服を着ている。
全身を覆うメッシュの入ったのボディスーツの上に、ビキニアーマーならぬビキニガーダーで心臓と下腹部をガード。
着物っぽい上着を装備し、腰と胸、そしてふとももにナイフベルト。
胸のベルトは豊かな谷間に埋もれておりπ/状態。
防刃マフラーで首を守っているその見た目は、ファンタジー色強めな女忍者に見える。
俺、こんな奴と戦ったのか……
あの時は救出と脱出に必死で気にも留めなかったけど、正直この格好えっちすぎない?
「よかった。待っているの疲れた」
「疲れた? お前がそんなこと言うなんて珍しいな」
「体力じゃなくて精神のほう」
「それこそ珍しくない?」
ミズハは元暗殺者。
少々のことどころか、大抵のことでも眉一つ動かさないようなメンタル強者のはずだが。
「みんなを待っている間、ひっきりなしに声をかけられてウザかった……」
「あー……」
ナンパか。
そりゃこんな美人がこんな格好をして1人でいるなら声もかけられるだろうな。
しかし、ミズハを疲れさせるほどのナンパとは。
おそらく、相当な数が来たんだろう。
朝っぱらからお盛んですな。
「ピートが来るまで本当に大変だった……」
「あ、ピートはもういるのか。でも姿は見えないけど一体どこに?」
「トイレを借りるって言ってあのお店に入った」
「どう見ても一杯ひっかけにいったんじゃねーか」
ミズハが指さした先は、商人ギルドが運営する宿屋兼酒場だった。
「ミーナがいないからあいつのゾンビに斥候やってもらうつもりなのに! 何で引き留めなかったんだよ!?」
「漏れそうだって言ってたから……すごい必死だったし」
「あの野郎……ずいぶんと演技派になったじゃねーか」
元暗殺者を騙しきるとはなかなかの名演である。
「おっはよーなのじゃ。いやー、とうとうこの日が来ると思ったら興奮してなかなか寝られんかったわ……ん? どうした? 何かあったか?」
「アミカ、おはよう」
「丁度よかった。ロリマス、一緒に来てくれ。酒クズを回収するぞ」
……
…………
………………
「いや、違うんですよ皆さん。僕は本当にトイレを借りたかったんです」
5分後――駐屯地の一角を借りて、俺たちはピートにお仕置きをしていた。
他国の捕虜尋問用機械――水車にさかさまに磔にしてグルグル回すアレ――にピートをセットしている。
「何しろ久しぶりのダンジョンの上、メンバーが豪華なのでちょっと緊張してしまいましてね? で、のどが渇いたから水をもらおうとテーブルにですね……」
「ほう? じゃあわしらが店に入った時の『ビールください。氷魔法でキンッキンに冷えた奴を大ジョッキで!』というセリフは何だったのかのう?」
「さあ? きっと空耳ですよ。ロリマスは見た目は美少女ですけど相当お歳を召していますから。ありもしないセリフが聞こえたんですよ」
「精神年齢はともかく肉体年齢は14なんじゃが!?」
「そのセリフ、俺もはっきりと聞こえたんだけどな?」
「カイトさんは働きすぎです。領主の仕事だけでもきついのに、趣味でレストランまで開いているから、自分の思う以上に疲労がたまっているんだと思います」
「私、『ヘイ! 大ジョッキお待ち!』ってビールがテーブルに置かれたところを見た」
「ミズハさん、あれはオーダーミスです。店主の方がほかの注文を間違えて僕のテーブルに持ってきてしまったんです。いやあ、ホントうっかりさんな店主ですね」
「なるほど」
「そっか、それじゃあ俺たちの早とちりなんだ。ごめんなピート」
「いえいえ、気にしていません。普段から誤解されるようなことをしていた僕が悪いんですから。でも、これからは違いますよ! 今日から僕はお酒に負けません! みなさんのように、きちんと自分に与えられた役割をこなしてみせます!」
「おお、そうじゃ。ピート。店出る時おぬしのビール代立て替えておいたぞ。あとで返してくれ。銀貨1枚」
「あ、すいません。腰に僕のサイフあるんでそこから取ってください」
「ピート、お水いる?」
「ありがとうございます。ちょうどのどが渇いていたんですよ」
「そっかそっか、じゃあたっぷり飲めよ。ミズハー、回して」
「了解」(ぐるぐる)
――ガボガボガボガボッ!
――ゴボゴボッ! ゴガボボボボボボッ!
水車のハンドルをミズハが回した。
ピートが磔られた水車が回り、頭から水に突っ込んだ。
回転方向的に鼻に思いっきり水が入っている。
アレは痛い。
「ガハッ!? ゴボォッ!? 痛ッ! 鼻痛ッ!? 水飲みすぎて吐きそう!」
「なら丁度良いのじゃ」
「銀貨1枚ならビール2杯分だな。胃の中からアルコール成分取っ払うぞ」
「ちょっ!? 止めて!? ごめんなさい! 僕が悪かったですから!」
「問答無用。酔っぱらってたら慎重な魔法コントロールなんてできないだろ。仕事前に飲んだお前が悪い。ミズハ、続けて」
「ん」(ぐるぐる)
「ギャーッ!」
「陽キャ成分が出ているから念入りになー」
「素面だとしゃべり方あんなに明るくないからのう」
「ん」(ぐるぐる)
「ギャアアアァァァーーッ!」
そして10分――
「ごめんなさい……もう、ホント反省してます。仕事前にお酒とかもう飲みません……」
ようやく酔いが冷めたようなので水車から下ろした。
このオドオドした感じ、素面のピートで間違いない。
「僕みたいな基本暗い奴がパーティだと空気重いかなって思って……少しでも明るくなろうって……それでお酒を……」
「んなもん、わしらは誰も気にせんじゃろう」
「斥候やってもらうんだから酔われちゃ困るんだよ」
「酔ってたら上手く魔法を使えない」
「……はい、すいませんでした」
再度ピートが謝った。
本当に反省しているようなので、この話はこれで終わり。
「吸収された酒の成分が抜けるまでここで打ち合わせしよう」
「出発が遅れるが……まあ、仕方ないのう」
「安全には代えられない」
「重ね重ねホントすいません……」
気を取り直して仕事の話だ。
「まず初めに俺たちの目標。これはこのダンジョンの深層にある『神霊水』。これを持ち帰ってネクタルを作ることが最終的な目標になる」
その理由はここにいる見た目中2の、ロリータギルドマスターにかかっている呪いの解呪。
年齢とともに若返り、最後は赤子に戻って消えてしまうという恐ろしい呪いだ。
若返りと聞くと、一見得しかないように思えるが、実際はそんなことない。
日々、自分が死に近づいているのを実感させられてしまう。
「ネクタルの効果はすでに実証済み。あらゆる怪我や病気、呪いに効果があるのはわかっているから、できれば大量に持ち帰りたい」
「一瞬でわしの怪我が治ったしのう」
「緊急用に確保しておきたい」
「その水でお酒を作ったらどんだけ美味しいんでしょうね?」
「ピート、もう1周行っとく?」
「ごめんなさい」
全く、困った奴だ。
俺がビールの美味さを教えただけに、ちょっと責任を感じなくもない。
「この仕事が終わるまで、基本1日中ダンジョンに詰めることになるが。帰宅は毎日できる」
「ふふん、わしの空間跳躍のおかげじゃぞ? 感謝するのじゃ!」
アミカのこの魔法があるため、俺たちは他の冒険者と違い、ダンジョン内で何日も過ごすということをしないで済む。
ちゃんと毎日帰宅できるのは本当にありがたい。
「何度も出たり入ったりすることになるから、そのあたりのことは話を付けておいた。一応俺が所有していることになっているから、入場や素材に関して、俺たちは特例法が適用されるそうだ」
「つまり?」
入場とか、ダンジョン関連で金がかかるようなことは全部タダってこと。
「パーティは前衛が俺とミズハで中衛がピート、ロリマスが後衛。ピートは死霊術でゾンビを作って、俺たちの前を先行させてくれ。ダンジョン特有の罠は、全部ゾンビくんに食らってもらう」
「死者を全く敬わないストロングスタイルじゃのう」
いいんだよ、それが一番手っ取り早いし。
「緊急時はピートも前衛に加わってくれ」
「えぇっ!? 僕死霊術師ですよ!? 思いっきり後衛向きじゃあ……」
「いや、お前は前衛一択だ」
「後衛とかありえんし」
「宝の持ち腐れ」
「何で!? 実家は武術やってましたけどビビリですよ僕!? チキンすぎて追い出されたんですよ!?」
ピートは酔って陽キャ気味になると、近接戦闘力がバカ強くなる。
その時の記憶がないのでこう言っているが、実際のところ格闘戦はこの中の誰よりも強い。
死霊術と武術を組み合わせた死酔拳は正直タチが悪すぎる。
一発食らったらほぼアウトだからな、アレ。
「その時は斥候できなくなるから、斥候役はミズハと交代な」
「ん、了解」
パーティの行動についてはこのくらい決めとけばいいだろう。
「冒険者ギルドから上がっている報告では食える魔物、食えそうな魔物なんかが多数存在しているらしい。それらの現地調査をしつつ深層を目指すぞ」
肉や魚系もいいが、特に欲しいのは植物系の魔物だ。
植物系の魔物は極上の野菜や果物になることはすでにわかっている。
群生地を見つけることができれば……もう、なんかすごいことになる予感しかない。(語彙力)
その魔物たちでコンソメやデザートを作ったらどれくらい美味いものが作れるんだろうか?
想像するだけでよだれが溢れる。
「話し合うことはこれくらいだな」
「そうじゃな。これだけ決めておけばとりあえず十分じゃろ」
「未知の食材……滾る。早く料理したい」
「うぅ……どうか前衛役をやらされませんように」
酔いも覚めたころだろうし、そろそろ行こう。
さあ、冒険の始まりだ。
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というわけでダンジョン編突入します。
どんな食い物……いや、魔物が生息しているのでしょうね?
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