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第2章 貴族編

第53話 檻の中の光明

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「オラッ! さっさと入れ!」

 ――ドカッ!

 兵士に背中をり飛ばされた。
 そのせいでバランスを崩し、俺は顔面から獄中ごくちゅうに入ってしまう。

馬鹿ばかやつらだ。大方おおかた、そこのガキに助けを求められたんだろうが、変な正義感を出すからこういうことになる」

「全くだぜ。亜人なんかのたのみを聞くから、命を落とす羽目はめになるんだよ」
「下等種族なんぞ見捨てときゃいいのに」

 3人の兵士は俺たちを牢にぶち込むと、1人を見張りとして残し去って行った。

「どうせ明日死ぬお前らのために、俺たちからサービスだ。会いたかった樹族と同じろうにぶち込んでやったぞ。せいぜい感謝しながらあの世にけよ」

 誰がするか差別主義者さべつしゅぎしゃが。
 テメーには頼まれても俺の飯は食わさん。
 店に入った瞬間、塩ぶっかけて追い出してやる。

「そこにいるのは……もしかしてキョウか?」
「その声は……父さん?」

「アヤメは? アヤメもいるの?」
「母さんも! アヤメはいないよ。安全な場所でかくまってもらっている」

「どうやら、同じ牢屋にご両親がいたみたいね」
「感動の再会ですね」

「いや、こんな場所だと感動できないじゃろ」
「何とかして脱出しないとなあ」

 あらためて、俺たちがぶち込まれた牢を見る。
 天然の岩盤がんばんを魔法でくりぬいて作った牢屋らしく、広さはかなりのものだ。

 バスケットコート2面分はありそうな広さだ。
 その広い牢獄ろうごくの中に、俺達を含めた50人くらいの人たちが、同じ空間に閉じ込められている。

「ミーナ、何とかできない?」
「無理ね。かぎ開け道具は袋の中にあるし、兵士も見張っているから開けようにも開けられないって」

「ロリマス、魔法で何とかならない?」
「無理じゃな。この牢獄、魔ふうじの結界を張っておる。この結界の中では一切の魔法は使用できん。智慧ちえの到達点と呼ばれたわしでものう」

「ピート、何とかできない?」
「うーん……つかまる前につくったネズミ型ゾンビが外にいるから、袋を取り返すチャンスはあるかもですが、ああも見張られているとなると……」

「全員、打つ手なしか。何だよもう、使えねえ偽ロリだなあ」
「何でわしだけ言うんじゃい」

 いやあ、何となく。
 しかし、魔法が使えないとなると、ロリマスはもはやただの偽幼女でしかない。

 最強戦力の一角が封じられたのは本当に痛い。
 タイムリミットの明日までに、ロリマス抜きで何とか脱出しなくては。

「すいません。助けに来ていただいたのにこんなことになってしまって」
「私たちの子を保護ほごしていただいてありがとうございました」

 仲間たちと思案しあんめぐらせていると、キョウの両親から声をかけられた。
 どうやらキョウはお母さん似のようだ。

「いえいえ、こちらこそ助けに来たのに捕まっちゃってすいません。それもこれもここにいるこの偽ロリがですねえ、もうちょっと、こう上手い感じにロリっていれば……」

「なんじゃい。わしの演技に何か不満でもあるのか?」
「いや、演技って。ロリマス完全にだったわよね」
欠片かけらも演技なんてしていませんでしたねえ」

 みんなから総ツッコミを食らって偽ロリがぐぬぬとなった。

「わ、わしの演技が問題じゃないわい! というか、捕まった原因は明らかにカイトじゃろうが! おぬしが顔バレしていなければ捕まらずにんだのじゃ!」

「しゃーねーだろ! まさか俺を誘拐ゆうかいした張本人がいるとか思わないだろ普通!」

 あれは完全に誤算だった。
 あの銀髪ツインテ女さえいなければ、俺たちの計画は完璧かんぺきだったはずだ。

 今ごろ救出の準備を始めている頃だったのに、最悪の想定外が起きてしまったものだ。
 計画の見直しをしないと。
 タイムリミットは明日みたいだから、今夜中になる早で。

「あの、お二人にお聞きしたいんですけど、捕まった人たちはあとどのくらい?」
「ここにいる者で全員です」

「初めはもっと居たのですが……おそらく、もう」
「そうですか……おやみ申し上げます」

 予想はしていたことだけど、やはりリアルに犠牲ぎせい者が出たことを聞くと心が痛む。
 もっと早く助けに来れれば――と、心のどこかで思ってしまう。

「そんなに大勢の人たちを使って、ローソニアは何を?」
「彼らの目的は、おそらく私たちしか作れない秘伝ひでんのものでしょう」

「ああ、キョウから聞きました。秘伝のシロップでしたよね」
「でもさ、たかがシロップで村をおそう?」
「甘い物で侵略しんりゃく戦争仕掛けるとか、ちょっと考えにくいのう」

 ミーナとアミカの言う通りだ。
 シいくら秘伝とはいえ、たかがシロップ一つで戦争とかありえない。

「奴らの狙いはシロップではありません」
「彼らの狙いは秘伝の聖酒せいしゅネクタル。シロップはこのネクタルを一万倍にうすめたものにすぎません」

「大地の魔力を凝縮して作るネクタルは生命のかたまりです。ある時代では不老不死の酒や、死者をよみがえらせる霊薬とも言われていました」

 不老不死は権力者が見る最後の夢とも言われる目標の一つだ。
 狙われる理由としては、ちょっと眉唾まゆつばものだけどおかしくないかもしれない。

「そのネクタルですけど、本当にそんな効果が?」
「いえ、あくまでそれは当時のうわさで、実際はそんな効果はありませんよ」

 ああ、やっぱりそんなもんだよな。
 そう思った次の瞬間、俺の身体に衝撃しょうげきが走る。

「でも、それに近い効果はあります。ネクタルは先ほども言ったように生命の塊です。不老不死や死者蘇生そせいは不可能ですが、あらゆる怪我けがや病気を一瞬で治療ちりょうすることができますし、どんな呪いにも打ち勝つことができます」

「死んでさえいなければ即時復活が可能なので、おそらくこれを利用した疑似ぎじ的な不死の軍団を――」

 2人の説明は続くが、俺の耳には全く入ってこなかった。
 そしておそらく、もう一人の耳にも。

「聞いたか? ロリマス」
「うむ、しかと聞いた」

「よかったな。ギリギリだけど見つかったぞ」
「うむ……うむ! わし、これからも生きれるんじゃな。これからは皆と同じように年を取って、普通に死ぬことができるんじゃな……」

「脱出計画にひと手間てま加えないとね」
「ですね。料理はひと手間加えた方が美味しいなんてことは、僕みたいな素人しろうとでも知っているので」

「ネクタルもうばって脱出するぞ。樹族と一緒にアミカも助けるんだ!」
「でもどうやって?」

「それは……これから考える!」
「「「「ですよねー……」」」」

 皆があきれた顔で俺を見た。
 そんな顔で俺を見るな。

「とりあえず飯でも食って考えようぜ。おーい、そこの見張り」
「あん?」

 俺は見張りに声をかけて手まねきをする。

「何だどうした? ここから出せとでも言いたいのか?」
「そんな無駄なこと言わねえよ。腹が減ったから飯を食いたいんだ」

「はぁ!? 明日死ぬお前らに出すメシなんてあるわけがないだろうが」
「お前らになくても俺にはあるんだよ。俺の袋あるだろ? それ取ってくれないか? 中に食い物や調理器具が大量に入っているんだ。許可を出すから、あんたの手で調理器具と食い物を取り出してくれ」

「何でそんなことを俺がやらなくちゃならん!」
「あんたしか頼める奴がいないからだよ。何? もしかしてビビってんのか? 食い物を武器にして出られちゃうんじゃないかってどんな妄想もうそうだよ? ローソニア帝国の兵士様の教養きょうようはお高いですなあ。一体どんな方法で食い物で脱出するのでしょう? わたくしみたいな低能にはとんと想像つきませんわ。ははっ(笑)」

「こ、この劣等れっとう人種が……」
「お? 何? 怒ったの? 沸点ふってん低いよキミィ。ローソニアの軍人のあお耐性たいせいゼロかよwww 悪口言われただけで顔真っ赤とか大丈夫? そんなガキみたいなメンタルで生きててつらくない?」

「言わせておけば……っ! そこに直れ! ぶっ殺してやる!」

 いいぞ、こっち来い!
 まさかこんな簡単に挑発に乗るとは思わなかった。
 牢の中に入った瞬間、一瞬でボコって鍵をうばってやる。

「どうしたの? 何のさわぎ?」
「こ、これはミズハ様……」

 見張りの兵士がカギを開けようと立ち上がった瞬間、あのツインテ女がやってきた。
 チッ……やはりそう簡単に脱出はできないか。

「こ、この劣等人種が私を侮辱ぶじょくしたのです! それで今から制裁せいさいしようと……」
「あなたバカ? それが彼の狙い。開けた瞬間、あなたは一瞬でやられる」

「そ、そんなことはありませぬ! 軍人たる私がこんな亜人の仲間の劣等人種などに……」
「能力に人種は関係ない。彼らをなめないほうがいい」

「しかし、奴らは素手すでです! 武器を持たぬ者など!」
「武器なしでも私はあなた程度一瞬で殺せる。私の見立てだと彼らの中にも、私と同等の使い手が2人いる。それでもためす?」

「い、いえ……失礼しました」
「それが賢明けんめい

 ツインテ女――ミズハの説得で、怒りの炎は沈静化ちんせいかしてしまったようだ。

「あまり挑発しないで。中央の兵士は弱くてバカなくせにプライドだけは高い。あなたたちに逃げられる」
「それを聞いたら余計よけいに挑発したくなっちゃうなあ。死にたくないし」

「ダメ。あなたたちの死は決定事項。くつがえらない」
「ちぇっ、かわいい顔してるのにケチだなあ」

 かわいいと言われた瞬間、ピクっと一瞬だけ反応があった。
 暗殺者アサシンだし、こういうお世辞せじは言われれていないとか?
 おだてればいけるか?

「かわいい……初めて言われた。私、かわいいの?」
「え? うん、まあ、世間一般で考えたら上位1%には入る見た目じゃないか? 顔小さい。髪きれい。スタイルいい」

「……カイト? なーに婚約者の前で敵を口説くどいてるのかなあ?」
「ちょっ!? ミーナ、これは作戦だって。口説いて出れるならそのほうがいいだろ!」

「そりゃまあそうだけどさ……なら、今のめ言葉は口だけのでまかせ?」
「いや、心からの本心だが」

「だと思った! だからダメです! これ以上口説くの禁止!」
「何でだよ!? 大体お前、前に嫁は3人までオッケーって言ってたじゃん!」
「いくらなんでも敵はダメーッ!」

 そうさけんだミーナが俺にチョークスリーパーをかける。
 ちょ、ミーナさん! 頸動脈けいどうみゃく入ってる!

「わ、わかった! もう止める! 止めるから!」
「……約束だからね」
「ああ、わかったよ」

 嫁(予定)にお願いされてしまったので、もうこの手は使えない。
 また新しい第3の方法を考えるしかない。

「もういい?」
「あ、うん……待ってくれてありがとう」

 会話が途切とぎれたのに、律儀りちぎに待ってくれていたようだ。
 見張りの兵士よりは会話ができそうなので、引き続き俺は会話に戻る。

「話は聞こえてた。かわいいって言われたのは嬉しいけど、私は決してあなたたちを出さない。今回の作戦を成功させる。それが私の仕事」

契約けいやくは絶対ってやつか。暗殺者も大変だな」
「暗殺者だからこそ契約が大事。契約を守らない裏の人間は狂犬と同じ。危なくて使えない」

 なるほど。
 犯罪者だからこそ、守るべきルールを守る、か。
 これはどっちにしても出るのは無理だったかな。

「あんたを説得して出るのは無理そうだってのはわかったよ」
「そう。理解してくれて何より」

「脱出はしないから、簡単なお願いはしてもいいか?」
「何?」

「俺の袋から食材と調理器具を出してくれないか? もちろん、脱出に関わりそうな道具を出さないよう、あんたの手で出してくれ。包丁で変なことしないように。料理している最中さいちゅう見張ってくれてもいいぞ」

 人生最後の夜になるから料理させてくれ。
 美味い飯を食わせてくれ。
 俺はそう頼み込んだ。

「わかった。料理させてあげる」
「よし! ありがとう!」

 俺は思わずガッツポーズした。

「よかったらあんたも食うか? 味には自信あるぞ」
「いいの? じゃあ食べる。一応言っておく。私、訓練してるから毒かない」
「そんなもん入れねえよ。料理人なめんな」

 さあ、料理開始だ。





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 《あとがき》
 次回、獄中料理回です。

 第4回次世代ファンタジーカップにエントリーしました!
 読み終わった後、できれば評価をいただけたらと。
 作者のやる気に繋がりますので。
 応援よろしくお願いします!
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