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第2章 貴族編

第45話 嵐の前

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「あ、おはよーカイト。眠そうだけど徹夜てつや?」
「いや、 3時間ほど寝た。寝ないと思考がにぶるし、身体の感覚がおかしくなるからな。緊急時じゃないかぎりはできるだけ寝た方が良いんだ」

 早朝――起き抜けに部屋から出てきたミーナと話した。
 ミーナの部屋は俺のとなりなので、割と朝方にこういうはち合わせはよくある。

「 3時間じゃ寝た気にならなくない? あたしなら逆に眠くなっちゃうけど」
「起きて動けばすぐにスッキリするさ。起きたばっかで腹減ってるだろ。メシにしようぜ」
「うん。じゃあ、厨房ちゅうぼう行こっか」

 俺達は並んで廊下ろうかを歩き、一階にある厨房へと移動。
 手を洗ってエプロンを身につけ、簡単な朝食を作り始める。

「卵焼きとトーストにするね。カイトはお茶とデザートをお願い」
「わかった。花蝙蝠はなこうもり茶とスライムゼリーでいいよな?」
「よろしく」

 俺は無限袋から花蝙蝠の死体を取り出し、まな板の上できざんだ。
 トントンシャキシャキという子気味こぎみ良い音が厨房にこだまする。

 適当な量が確保できたところで、花蝙蝠を無限袋に収納しゅうのう
 刻んだ部位を布でくるみ、水の入ったケトルに入れた。

 花蝙蝠の味はミントに近いので、水だしの冷たいお茶もいけるのだ。
 続けてスライムゼリーを2つ出し、皿の上に2つ並べる。

 これだけでは華やかさが足りないので、ミルクと卵を使った生クリームも上に乗せる。
 こういう痛みやすいものも収納できるから、冒険者の袋って本当に便利な代物しろものだと思う。

「じゃ、食べよっか」
「ああ、いただきます」

 天気がいいので庭へ移動し、自分たちで作り合った料理を食べる。
 ……なんていうか、その、アレだな。

 朝一緒に起きて一緒に料理作って、こうして一緒に庭のテラスでメシ食うとか、まるで同棲どうせいしている大学生カップルみたいだな、今の俺たち。
 大学生にしてはゴージャスぎるけど。

「何? どうかした? あたしの顔に何かついてる?」
「え……いや、別にそんなことは」
「もう、何よ! 変なカイト。あらためてそんな見られたら……なんかれるじゃん」

 ミーナが赤くなって目をらした。
 俺もつられて目を逸らす。

 ……このままではお互い気まずくなってしまう。
 そうなる前に話題を変えよう。

「そういえばミーナ、お前って料理上手くなったよな」
「へっへーっ♪ でしょ? あんたと出会ってまだ半年くらいしかってないけどさ、出会った頃とは比べ物にならないくらい上手くなったと思うよ?」

「やっぱ俺の影響?」
「そりゃね。一緒に冒険するたびにあんな美味しいものを食べさせられたら、そりゃ舌も肥えますって。一人で冒険する時もさ、ぜーんぜん食事に満足できないから頑張って覚えたのよ。幸い、先生役は身近にいたしね」

「作ってくれたトーストの焼き加減もいい感じだし、卵焼きもふわっふわだな。アイアンスコーピオンのフライパンで焼いたから独特の風味が卵に付くけど、綺麗きれいに中に閉じ込めてる。中身のトロトロがあふれ出した瞬間、濃厚なエビとカニが混ざったかのような香りが、バターと一緒に鼻の中を突き抜けて行ったし、完璧だな」

 料理全般の知識や技術はまだまだだけど、こと簡単な家庭料理や卵焼きに関してはもう俺と遜色そんしょくないレベルで作れると思う。

「じゃあお店出せる? 繁盛はんじょうする?」
「ああ、この出来なら間違いなく繁盛すると思う」

「じゃ、じゃあさ……あんたと一緒にお店、できるかな?」
「おいおい、王様から大豪邸もらうんじゃないのかよ? 豪邸やめて店にでもすんのか?」

「違うわよ! そういう意味じゃなくて……」

 ミーナは言葉を濁すと、花蝙蝠のミントティーを一口すすった。

「あんたさ、またここでお店出したけど、一軒だけじゃ満足しないでしょ?」
「もちろん。俺の目標は俺の料理を世界に広めることだからな。国中どころかこの大陸中に開きたい」

「そうなったら、すっごく忙しいと思うけど、すっごく人手が足りなくなると思うんだよね。ほら、あんたの料理って個性的だし」
「うん」

 むしろ個性しかないまである。

「今はまだ難しいけど、そうなった時にカイトの隣に全部とはいかないまでも、ほとんどまかせられる人――パートナーがいればすごく助かると思わない?」
「それは……思う」

「だからもし、もしそうなった時に、あんたのそばで一緒に料理ができるような、パートナーに、なれるかなって……そういう意味で、その……」

 もじもじしながらも真剣に言葉をつむぐミーナの姿が、はげしく俺の心をさぶった。
 こんなことを言われて意図いとみ取れないほど、俺は鈍感どんかんでもラブコメ主人公でもない。

「なれるよ。ミーナには、そうなってほしいと思ってる」
「……ホントに?」
「えーと……」

 何というべきか、上手く言葉が出てこない。
 でも、言うべきことはわかっている。

 ここでお茶をにごしたら完全にヘタレだし、人として最低だ。
 それをして許されるのは、ラブコメ時空の主人公だけだ。

「結構前に俺、言っただろ? お前のこと好みドストライクって。あれ、マジなんだぜ。小さい頃遊んでくれた近所のお姉ちゃんがお前みたいな子でさ。だからだろうな、俺、ショートカットが似合う女の子に弱いんだ」

「それにしては全然あたしに手を出さないじゃん……今だって一緒の家に住んでるのに」
「それは……ちゃんと覚悟を決めずにそういうノリで、そういうことするのが嫌だからってだけで……」

「じゃあ、本当はそういうことしたいってこと……?」
「したい。出会った時からなんだかんだ言いながらも、俺がやることにこうして付き合ってくれる、超絶俺好みなミーナっていう女の子とそういうことがしたい」

「そ、そう……」

 俺の告白を聞いてミーナはだまってしまった。
 今までこういう機会がなく、なんとなくのノリで関係についてスルーしてきたけど、そろそろハッキリさせるべきだと思った。

 俺は、彼女が好きだ。
 だから、彼女とこれからもずっと一緒にいたい。
 できることなら、日本に帰ることになっても――ずっと。

「俺の目標はこの世界に俺の料理を広めることだけど、元の世界に帰ることも目標の一つとして考えている。もしもこの先、帰る手段が見つかって。帰るってなった時は……一緒に、来てくれないか?」

「やだ……カイト、なんだかプロポーズみたいじゃん」
「俺はそのつもりで言ってる」
「……!」

 もうこの世界に来たばかりの頃の俺じゃない。
 暮らして幾だけの知識ちしきも得た。力も得た。
 誰かをやしなうだけの財力も得た。

 だから、そういう意味でも言っていいと思ったんだ。

「だからミーナ、今より時間に余裕ができて時期が来たら……俺と結婚してくれ!」
「はい……! あたし、カイトのお嫁さんになります……」

「っしゃあああぁぁぁぁっ! やったぜえええぇぇぇぇっ!」

 はー緊張きんちょうした! 心臓止まるかと思った!
 世の中の夫婦の皆さんはみんなこういう経験をして結婚したのか。

 マジリスペクトだよホント。
 一生分の勇気を振りしぼった感じだ。

「断られたらどうしようかと思ったよ……あー、メシがさらに美味い!」
「あたしが断るわけないのに。カイトってホント鈍いよね。そーゆとこも、まあ好きなんだけどさ……あ、ちょっとそのまま。食べカスついてる」

「え? どこ?」
「そのままそのまま。今、あたしが、取ってあげるから――」

 ミーナの手と顔が近づいてくる。
 手は俺のほおを通り越して肩にえられ、彼女の顔が徐々じょじょに俺の口へと――、

御免ごめんッ! カイトはいる!? 緊急事態なの!」

 何だよもう! せっかくいいところだったのに!
 人生におけるファーストキスのチャンスだったんだぞ!
 空気読めよ!

「ミーナ、その、なんか大事おおごとらしいから……」
「うん……続きは、また今度ね……」

 ほらぁ! そういう空気じゃなくなっちゃったじゃねえか!
 普段の俺たちってこういう空気にならないんだぞ!?

 他に誰かが基本居るし、友達みたいなノリで会話するから再現難しいんだぞ!?
 どうしてくれんだよもう……! もう……!

「ここにいたのね! ……何か機嫌悪くない? ミーナも」
「……別に、そんなことないわよ」
「……俺も」

 むしろいいことがあったから機嫌自体は良い。
 ただ、さあ……こう、なんか残念な感じがさあ……。

「で、イメリアはこんな朝早くから何を急いで来たんだ?」
昨晩さくばん、あなたの店で私が言ったことは覚えているかしら?」
「ああ、なんかローソニア帝国が国境侵犯こっきょうしんぱんしてるとか何とか」

 ただし、しているのは俺たちのいるマトファミア王国ではなくて、
 同じく国境線を共にするイブセブン連邦のほうだと聞いている。

「昨晩深夜、イブセブンの住人を保護ほごしたわ」
「!」

「傷だらけだったから、今は手当てして寝かせている。話を聞きたいから一緒に来て」
「わかった」

「傷の様子からして、明らかにタダことじゃない感じだったわ。何らかの作戦行動が起きていると見ていい」
「じゃあ……?」

 イメリアは神妙しんみょう面持おももちのままコクンとうなずく。

「最悪、戦争になるかもしれない」





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 《あとがき》
 この話はラブコメ要素はあってもラブコメメインではありません。
 ラブコメなんて許さねえ。
 絶対にぃ……絶対に許さんぞォーッ!

 第4回次世代ファンタジーカップにエントリーしました!
 読み終わった後、できれば評価をいただけたらと。
 作者のやる気に繋がりますので。
 応援よろしくお願いします!
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