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第2章 貴族編

第41話 死霊術師(ネクロマンサー)

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 事のきっかけはクラーケンだった。
 俺がこの領地を手に入るきっかけになったぜん伯爵はくしゃくによるテロ。
 それにいた過程かていで戦った、廃墟はいきょの街の地下にいたクソデカタコさん。

 あの日、俺が手に入れた食材はクラーケンの足だけじゃない。
 倒したクラーケンの身体そのものを無限袋の中に入れている。

 クラーケンの身体は超絶ちょうぜつデカい。
 そりゃあもう、半端はんぱなくデカい。
 舟にからみついて船体をバキバキにして沈めるくらいだから相当そうとうなものだ。

 そんなクラーケンの足しかまだ食ってないことに気づいた俺は、例のタコパならぬクラパの後、こっそり足以外の部位をけずり、誰にも見つからないように天日干てんぴぼしにしていたのだ。

 今の季節はさわやかな風が吹く春。
 山から吹き下ろす風に十分当たるよう気を付けつつ何日も干したら、いい感じに干物ができるんじゃないかと思って実行した。

 そう、俺がこの時作ろうとしたのは、スルメイカならぬスルメダコだ。
 サンブリーの地はこの国有数のワインの名産地。
 ならば、酒のつまみに合うものの一つや二つくらい作れないかと思って。

 実験の結果、スルメダコの完成は成功。
 味見をねて、さっそく仕事終わりに楽しもうと、自室で取れたてのぶどうジュースとともにいただこうとしたのだが――

「あれ? カイト何それ?」

 まずミーナに見つかった。
 俺が食おうとしていた矢先やさき、風呂上りに飯を要求しに来たミーナがこのスルメを目撃した。

「クラーケンの干物だよ。ミーナも食うか?」
「食べるぅ~♪」

 この時のミーナは風呂上がりだったので、ジュースではなくワインを注ぎ、スルメを酒のアテにして食べさせた。

「美っっっっ味あああぁぁぁぁぁぁっ!?  海産物の旨味うまみが一点に凝縮ぎょうしゅくされて超濃厚なんだけどこれ!? 硬いけどめば噛むほど味が染み出てくるし、いくらでも食べれるよこれ!」

「マジ美味ぇぇぇぇぇっ!? 俺の故郷ふるさとのスルメの3倍は美味いぞ! おでんとか作って出汁だし取りてええぇぇぇっ! すさまじく美味いおでんができそうだぁぁぁぁぁっ!」

 この出汁を使ったおでんに煮卵とか魚のすり身を入れてよーく煮たら……あ、やば。
 よだれが止まらなくなりそう。

 美味い美味いと食べていると、そこにやってきたのはギルマスとマールさんの2人。
 新規ギルド支部立ち上げに必要な手続きを全て終わらせたと報告がてら、業務終了の挨拶あいさつに来たタイミングだった。
 当然、俺は2人にもこれを食わせた。

「美味ええええぇぇぇぇっ! 過去一酒のアテに合うううぅぅぅっ!」
「ワインが……ワインが止まりません!」

 おためしで作ったスルメは計1キロほど。
 そのうちの半分ほどこの2人に食いつくされた。

 作るまで一週間ほど天日に当てて乾燥かんそうさせたスルメだ。
 残り半分は大事に食おうと、俺は調理場にある、あの廃墟から持ち帰ったミミックの死体にスルメを入れ、鍵をかけて保存しておいたのだが……

「美味っ! メチャメチャ美味っ! ミミック暗室保存効果で魔力が染みてさらに旨味が!」
「やべえ……アレ以上に美味くなるとかマジでやべえぞクラーケン……」
「ギルマス、今度クラーケン狩ってきてくださいよ」

「っていうかギルマスもマールも食いすぎだろ! 俺たちまだロクに食ってないんだぞ!」
「そうよ! もうちょい気をつかって残しなさいよね!」
「次のダンジョン攻略に持ってくつもりだから、その分は残してほしいかな、僕的には」

「わかってるわよ。でも、このミミックの鍵開けてあげたのあたしなんだから、もうちょいもらっても……」

 と、このように味にハマったバカどもが勝手に開けて、残りをほぼ根こそぎ平らげてしまったのだった。
 またアレ食いたい! アレが欲しい!

 そう言われてもスルメを作るためには天日干しで干さなければならない。
 最短で一夜干しとかできなくもないが、十分に水分を抜かした方がスルメは断然だんぜん美味い。

 スルメは一日にして成らず。
 俺も領主の仕事を色々やりつつなので、量を確保するのが難しい。

 作業時間が限られている中で、需要じゅようを満たすための大量のスルメ確保。
 どうすればいいか俺たちは考えた。

 シズの火魔法であぶってみたが上手くいかなかった。
 ただ、焼きダコはそれはそれで美味かった。

 火魔法では均等きんとうに水分が抜けず、旨味もいい感じに残らない。
 じゃあどうする?

 何日も何日も、スルメを短時間で大量生産する方法を考えた俺たちは、一つの答えにたどり着いた。

 重要なのは乾燥というファクターだ。
 それを実行できる手段を持つ職業ジョブ
 それが――、

「ピート、きみはどんなアンデッドを使役するんだ?」
「え? えーとですね、スケルトンとか、ミイラですね」

「ほう? ゾンビじゃないんだ」
「ゾンビもいけますけど、スケルトンやミイラに比べて疲れるんですよ。ほら、肉の分体積たいせきがあるから、それだけ魔力を送らなきゃいけないので」

 なるほど、死霊術師ネクロマンサーの魔法ってそんな感じなのか。
 確かにゾンビのほうが肉の分、それを維持いじして動かすための魔力はいるよな。
 意外と物理法則が仕事してる。

「周りがゾンビしか作れない環境だったらどうする?」
「その時は素直すなおにゾンビを使いますけど、時間があるなら加工します。肉の分パワーはあるけど、スケルトンやミイラに比べて重いし遅いから、吸命ドレインの魔法を使って干からびさせて――」

「パーフェクト! 素晴らしい!」
「な、何がですか?」
「吸命が使えるってことがだよ! それだけできみはここに来た誰よりも価値がある! 俺たち的に!」
「何で!?」

 何でも何も、そういうことなんだよ。
 何せ吸命の魔法は文字通り命を吸収する魔法。
 覚える目的でわざと食らうにしては、リスクが高くて手が出せなかった。

 それが使える。
 つまりもう勝ち確ってことだ。

「よーし、テンション上がってきた! ピートくん、きみには期待しているよ? それもものすっごく」
「だから何で!?」

 ……
 …………
 ………………

 そしてこの後、彼を職場に案内した。
 場所は冒険者ギルド建設予定地……の横に併設へいせつされた解体場だ。

 冒険者ギルドでは持ち込んだ素材を買い取るのだが、その際に余計な汚れがついている場合がある。
 角の周りの肉とか骨とか、それらをぎ落とし、素材としてベストな状態にととのえるのが解体場。

 今後、持ち帰られた魔物の肉をいい感じに解体するため、この街では予算とスペースを他の街の何倍もいている。
 クラーケンだって中に置ける。

「今から出すものに吸命の魔法をかける。それがここにおけるきみの仕事だ」
「わ、わかりました! でも一体何に――ってデッカあああぁぁっ!? え!? こ、これクラーケンですか!?」

「ご名答めいとう。これに魔法をかけてミイラに加工してくれ。とりあえず手持ちのクラーケンはそれだけだから、それが終わったら好きにしてくれていい。冒険に出るもよし! ゴロゴロするもよし! ただし、新しいものが来たら吸命の魔法をかける。それさえしてくれれば俺は何も言わない。休みの間に旅行に行ってもいいぞ!」

好待遇こうたいぐうすぎて逆に怖いんですけど……で、でもどうしてクラーケンをミイラになんて?」
「それはもちろん食うためだよ」

「これを!?」
「美味いんだぞ? 人を狂わすほど」

「し、信じられないけど……ウォータースネークのこともあるし……とりあえずやります」
「どのくらいかかりそうだ?」
「この大きさだと……最短で4時間、全身きれいに干からびさせるなら10時間くらい欲しいかな?」

 1日で終わるんだ……。
 俺が一週間、自然の力を借りて頑張った作業がほぼ半日で……。

「素材を痛ませるのも嫌だから、今日はこの半分まででいい。明日もう半分を渡すから、それを加工したらさっきも言ったように自由にしてくれ。給料はちゃんと払う」
「本当に……?」

「俺は嘘なんてつかん。魔法を使うんだから、その過程で新しくできることも増えるだろう。もしそうなったら、何ができるようになったか教えて欲しい」
「わ、わかりました。頑張ります!」

「ちなみにこれがクラーケンのミイラな。スルメって言うんだ。好きなタイミングで食ってくれ」
「え? じゃ、じゃあ早速…………ふわあああぁぁぁぁぁぁっ!? な、何ですかコレ!? 口の中が一瞬で海になりましたよ!? 海のさちが舌の上で大爆発だ! お酒が! お酒が欲しくなる!」

「そう言うと思ってワインを1本持ってきた。俺って優しいだろう?」
「はい! 最高に優しいです!」

「それじゃあ、もっと優しいことを言ってあげよう。魔法を使い続けるのは体力いるし、疲れたらちょっとだけ食っていいよ」
「ありがとうございます! 頑張ります!」
「おう、頑張ってくれ」

 後は職人に任せて仕事に戻ろう。
 しかし死霊術師――実に夢のある職業だ。

 吸命の魔法はスルメだけじゃない。
 カツオに代わる魚が見つかれば鰹節かつおぶしだって作れるし、ホタテの干物だって余裕でいける。
 ゾンビ化の魔法を応用して、もしかしたら納豆なっとうだって作れるかもしれない。

「そうなれば、この異世界で日本の和食がほぼ再現可能になる」

 世界が認めた日本のメシ、それを素材で上回る異世界の物で再現したら、一体どうなってしまうのだろう?
 今からそれを作るのと食うのが、両方とも楽しみで仕方がない。

海苔のりっぽいものがあったらそれ作るのもいいなあ……吸命の魔法、料理するのに便利すぎだろ。めっちゃくちゃ食らって俺の物にしたいわ」

 一料理人いちりょうりにんとしてめちゃめちゃ欲しい。
 この前ロリババアから覚えた魔法なんかより、死霊術のほうが百億倍は欲しい。
 死霊術師……うらやましすぎる。

「何とかして覚えられないもんかな」

 無理だと分かっていても、口にしたくなるのが人のさがだ。
 今後出力可能になるであろう料理と、加工後の新たなスルメの保存場所について考えながら俺は仕事に戻った。

 なお、完成したスルメをまた盗まれてはたまらないので、最強ロリを解体場の守護者ガーディアンとしてミミッククッキー5枚でやとった。
 夕方様子を見に戻たっところ、ミーナとギルマスが倒れているのを発見した。

 食いたいのはわかるが我慢がまんしろお前ら。
 あと、ちゃんと働け。


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 《あとがき》
 ネクロマンサーの魔法で作れる料理は干物でした。
 アジの干物とか美味いですよね。

 《旧Twitter》
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