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第1章 冒険者編
第26話 脱出劇
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「いいか? 2人とも絶対俺から離れるなよ?」
「わかってるけど……これ密着しすぎじゃない?」
「ひゃぁっ!? ボクのお尻触らないでください!」
「あ、ごめん」
「カイト! あんたわざとやってないでしょうね!?」
「んなわけねーだろ! 俺がそんなセクハラすると思うか!?」
「まあ、あんたはしないわよね。そーいうこと」
「そうだろ? よくわかってるじゃないか」
「…………やるならとっくにあたしに手を出してるだろうし」
「何か言ったか? 能力使うのに必死で聞き取れなかったんだけど?」
「何も言ってないわよ、バーカ」
「??????」
「うぅ……いつまでこうすればいいんでしょう?」
こんなふうに言い合いながら、俺たちは現在敵陣の真っただ中を歩いている。
周囲には武装した敵兵が巡回する姿がちらほら。
こんなトーンで話していたら速攻で見つかり一発アウト、今度こそ本当に殺されてしまう――はずなのだがそうはならない。
先ほどミミックから食らった新しい能力――その名も透化七面相。
自分を中心とした半径1メートル以内にある空間を、自分の思う形で他者に認識させられるというチートじみた擬態能力のおかげだ。
俺が「自分は空気だ」と思い込んでいる限り、周囲の奴らには俺たちを認識することができない。
ただし、認識できないだけで存在はしているから、触れられたら即バレてしまうというリスクもある。
しかし、要は触られなければいいだけの話なので、敵側の動きにさえ注意していれば見破られることなどまずありえない。
俺たちは安心して出口を探せるというわけだ。
「しかし、こいつら一体何者なわけ?」
「装備にわかりやすい家紋があればいいんですけど、こんなことしている人たちがそんなもの入れるわけありませんし……」
「有力な貴族だっていうこと以外、何もわからないよなあ」
わかっているのは相手の財力だけ。
年単位で人払いをしたり、侵入者を即断即決で始末しようとするなんて、普通の立場じゃ絶対にできない。
相当な権力を持っているとみて間違いないと思う。
「それよりカイト、あたしらの話に交じって大丈夫なわけ? 集中途切れて見つかったら絶対ダメだかんね」
「それくらいなら大丈夫だ。それよりお前たちも恥ずかしがらずにもっと寄れって。この能力マジで狭い範囲しか効果ないんだからな。できるだけ密着しないと……」
「わ、わかってますけど……男の人とこんなにくっつくなんて初めてで……ずっと修道院暮らしだったし……」
「慣れなくて悪いけどそこは我慢で頼む」
「わ、わかりました……ひゃあんっ!? またお尻を……」
「……カイト?」
「マジでわざとじゃない! こんな状況で命がけのセクハラするわけないだろ!」
「な、なあ、あれ……」
――っ!?
まさか気づかれたか!? 巡回の2人のうち1人が、俺たちのいる空間を指さす。
今のやり取りで気づかれたか!?
一瞬だけ集中が途切れてしまった気がするし……くそっ、どうする!?
「あそこがどうかしたのか? 何もいないが」
「あ、ああ……そうだよな。今、一瞬だけすげえいい感じのケツが3つほど宙に浮いていたような気がしたんだが……さすがに気のせいだよな?」
よかった……気づかなかったようだ。
しかし宙に浮かぶいい感じのケツって……
「あんた何考えてんのよ!?」
「しょうがないだろ! 俺だって健康的な男なんだし、かわいい同年代の女子の尻わしづかみにしたら一瞬くらい考えちゃうわ!」
「か、かわいい? そんなの言われたの初めてです……カイト、ボクかわいいんですか?」
「少なくとも俺はそう思う」
背が高いから同性にはかっこいいと思われがちだろうけど、顔の印象はかわいい系だしなあ。
セシルのようなボーイッシュな女の子もストライクゾーンな俺としては、かわいい以外にない。
「こんな状況で何修道女口説いてんのよ? 罰が当たっても知らないからね?」
「別に口説いてないっつーの。それよりミーナ、お前ももうちょっとこっちに――(むにっ)あ、ごめん! ホントまじでごめん!」
「カイト、あんたいい加減にしなさいよ!? いや、別にいいけどさあ! こんな場所じゃなかったらいいんだけどさあ!」
「おいっ! …………あれ?」
「もしかして……お前も?」
「ああ、ただ俺はケツじゃなくて、綺麗な乳首をした3つの巨乳が浮かんでいるのが見えた」
「そうか……お前はケツドラマーじゃなくておっぱい聖人だったもんな。ケツじゃなくておっぱいを見たのはある意味当然かもしれない」
「きっと、連日の勤務で俺たち疲れてるんだろうな。この極秘任務が終わったら休暇届を伯爵様に提出するか」
――伯爵!?
「……おい、今の聞いたか?」
「もち! あたしらをこんな目に合わせたのはここの伯爵ってわけね」
「ノイン王国時代のオーバーテクノロジーの秘密実験……伯爵は一体何をする気なのでしょう?」
セシルの呟いた小さな疑問、それに応えるかのように2人が漏らす。
「まあ、出したところで受理はされないだろうよ。クーデターが成功しない限りは」
「だよなあ。俺たちサンブリー伯爵直属の秘密騎士団だし。これから王家相手の戦争を始めるのに、暗部が休暇を取る訳にはいかないもんな」
「実験も最終段階に入ってるみたいだし、忙しくなるんだろうな」
「あの装置でさっさと強襲して終わらせたいもんだ」
そう、仕事に関しての愚痴を言いつつ、2人組の騎士は去っていった。
「今、ものすごくやばいこと聞いちゃったな、俺たち……」
「速攻でギルマスに報告して国に通報したほうがいいやつだよね……」
「で、でも最終段階に入ったって言ってましたよ? 時間とか大丈夫なんでしょうか?」
恐らく大丈夫じゃない。
転送装置に関してのものと思われる一連の事件、それを時系列で追っていくとジャイアントレッグの大量発生から始まり消えた畑、そしてウォッチャーと対象がどんどんピンポイントになりつつある。
「この季節にいないはずのジャイアントレッグの大量発生はおそらく、こことは反対の季節にある遠い場所から転送されたもの……そんな広範囲が対象だったものが領内の1つの畑、そしてダンジョンに生息する魔物と、どんどんピンポイントになってきている」
「魔物を個体ごとにダンジョンから誘拐できると考えたら、もう一刻の猶予もないレベル、か」
クーデターなんて起きたら一気に治安が悪くなる。
物流だってストップするだろうし、多くの人が迷惑する。
そもそも俺を含めた多くのこの国にいる人たちは、現状に満足しているのだ。
国のトップがとんでもない悪政をしているというわけじゃない。
クーデターなんぞ誰も望んでいない。
「よし、ここ出る前にぶっ壊そう」
「「どうやって?」」
「それはもちろん――こうやって」
……
…………
………………
そんなやり取りをした30分後、俺たちはとうとう実験施設を発見することに成功した。
巡回の騎士たちの後をつけ、ひと際大きな声がする場所へ忍び込む・
「あれが『伯爵』か」
「ええ、ヴォルナットを含むここら一帯、サンブリー地方を収めるサンブリー辺境伯です。間違いありません」
「あれが、あたしの故郷の……」
サンブリー辺境伯は一言で言うと、神経質そうな三角淵メガネだった。
この手の権力者にありがちな、自分の能力に絶対の自信を持ち、自分こそが正しいと思い込んでいそうな……「いかにも」な人物。
その三角淵メガネは目の前に映し出されている光景――ホログラム映像を見て狂喜の声を上げていた。
「ふははははははは! 素晴らしい! 素晴らしいぞ! 何とも素晴らしい光景じゃないか! そうは思わんかね、きみ?」
「ええ、とても素晴らしいと思います。一瞬で爆弾を転送し一斉爆破。その後、部隊投入で即制圧。こんなの、わかっていても止められませんね」
「そうだろう、そうだろうとも! これで腑抜けたあの王家に代わって、この私がこの国を支配するのだ! そして、その暁にはローソニアもイブセブンも、全て平らげてくれる! 古代ノイン王朝以降初の支配者に私はなるのだ! はーっはっはっは!」
高笑いする辺境伯。
できれば絶対に知り合いたくない系の人だ。完全に自分に酔っている。
まあ、辺境伯はどうでもいい。
それより隣にいるフードを被った男……あいつの声、どっかで聞いたような?
「もうすぐ私が王に……ふふ、10年前この地で戦争を起こしたかいがあるというもの」
「だいぶ発展した交易都市でしたよね。計画のためとはいえ、自分で潰したの結構痛かったんじゃないですか?」
「まあそれなりにな。しかし、この技術は潰した上でお釣りが来る! これに比べれば上の都市と住人の命などタダ同然よ」
人々の生活を守る領主にあるまじき発言を聞いて、ミーナから殺意が一気に噴き出た。
「ミーナ、落ち着け。今ここで仕掛けたら伯爵は殺せるかもだけど、そのあと間違いなく全滅だぞ」
「……わかってる。あいつを裁くのは国に任せる。ここのこと報告すればあいつは破滅だもん」
家族や友達を、あいつの欲望のために殺されているのにこう言えるのは純粋にすごいと思う。
絶対に、是が非でも仇をとらせてやりたい。
「よし! 最終実験終了だ! 全部隊員に継ぐ! これより明朝3時まで、警備担当者以外は全員就寝とする! 起床後、速やかに食事をとり明朝4時に作戦を決行する! 敵は王家! マトファミア王家だ!」
――オオオオオオオオオオォォォォォッ!
地鳴りのような歓声が上がる。
伯爵は満足そうな表情を見せると、踵を返して部屋を出て行った。
それに続き、この場にいる兵士全員が退出。
最後に隣にいた謎のフード男も出て行き、この部屋は完全な無人になる。
そして念のため、待つこと三時間――、
「よし、外の気配もだいぶ減ったし、そろそろいいと思う」
ミーナの一言を皮切りに、俺たちは作戦を決行する。
「カイト、これどこに仕掛ければいいですか?」
「んー、なんかそれっぽいところに適当に仕掛けてくれ」
「なら魔法陣っぽいやつの淵あたりに仕掛けます」
「発掘なんてできないように天井も崩落させたほうが良いよね。あたしやっとくわ」
「じゃあ俺はこの機械みたいなのに仕掛けるか」
そう言いながら俺たちが仕掛けているのは爆弾だ。
ミミックを倒した時に傍にあった宝箱2つ、そのトラップが爆弾だった。
開ける際ミーナが解除し、そのまま信管を抜いて袋にぶちこんでおいたのだが、ここに来て役に立ちそうだ。
俺が元々持っていた、アイアンスコーピオンの時に買った爆弾、その最後の一発も含め計3個。
ここで使い、伯爵の大それた野望ごと灰になってもらう。
「じゃあタイマーセットするぞ? 30分でいいか?」
「それでオッケー。さっさと出ましょ」
「えーと、確かこのボタンを押してましたよね? さっき」
爆弾をセットし、転送装置でさっさと出る。
これが俺たちの作戦だった。
爆破とか、ちょっと良心が痛まないこともないけど、こっちは殺されかけたのだ。
相手を気遣ってやる理由などない。
そして何より、悪党に対する慈悲などない。
「押しました! 10分後に転送開始です!」
「よし、ナイス! セシルも早くこっちにこい!」
「さっさと脱出しておさらばしよ!」
「うーん、そうは問屋が卸さないんですよねえ、これが」
――っ!?
声がした方を振り向くと、ここにはいないはずの人物がいた。
伯爵の隣にいた、フードを被った謎の男。
その男は笑顔を浮かべながら、拍手交じりに俺たちに近づいてきた。
「いやいやいや、お見事。あそこから落とされて生きていただけでなく、まさかこんなド派手な脱出劇を敢行しようとは。お見事としか言いようがないですな」
「……そう思うなら黙って見ていてくれないか? 30分後に奇跡を目の当たりにできるぜ?」
「あいにく、私は現実主義者でして。奇跡なんて信じるような歳でもないんですよ。それに、そんな奇跡を実行されては、我々の組織の信用が落ちてしまいます。今後の商売に影響も出ますし、見逃すことはできません」
「全く、最後の最後でバトらなきゃいけないなんて……」
「あなた方が行おうとしている行為は、明らかに人の道に反します。神の使徒の末席として、神罰を代行させていただきます!」
「やれやれ、神ですか。神なんて存在しませんよ。神など強者が弱者を効率よくコントロールするための道具にすぎません」
フード男はセシルにそう言うと、ニヤリと笑いながら俺の方をj向いた。
「そう思いませんか? 旨味沢海斗さん? 異世界人のあなたなら私に同意してくれるのでは?」
「えっ!?」
「カイトが……異世界人!>」
「そのことを知ってるってことは……まさかお前!?」
「その通り……あなたをこの世界に誘拐した三人。そのうちの一人が私ですよ」
男はフードを取って頭を垂れた。
思ったよりも普通の顔つきだった。
何の特徴もない、どこにでもいそうな普通の顔だ。
「暗殺ギルド《明けの六天光》――ナンバー3、《地獄の侯爵》ことシジョウ。あと数刻の命でしょうが、どうかお見知りおきを」
-----------------------------------------------------------------------------------
《あとがき》
次回ボス戦です。
今回は珍しく食い物の話がなかった……
《旧Twitter》
https://twitter.com/USouhei
「わかってるけど……これ密着しすぎじゃない?」
「ひゃぁっ!? ボクのお尻触らないでください!」
「あ、ごめん」
「カイト! あんたわざとやってないでしょうね!?」
「んなわけねーだろ! 俺がそんなセクハラすると思うか!?」
「まあ、あんたはしないわよね。そーいうこと」
「そうだろ? よくわかってるじゃないか」
「…………やるならとっくにあたしに手を出してるだろうし」
「何か言ったか? 能力使うのに必死で聞き取れなかったんだけど?」
「何も言ってないわよ、バーカ」
「??????」
「うぅ……いつまでこうすればいいんでしょう?」
こんなふうに言い合いながら、俺たちは現在敵陣の真っただ中を歩いている。
周囲には武装した敵兵が巡回する姿がちらほら。
こんなトーンで話していたら速攻で見つかり一発アウト、今度こそ本当に殺されてしまう――はずなのだがそうはならない。
先ほどミミックから食らった新しい能力――その名も透化七面相。
自分を中心とした半径1メートル以内にある空間を、自分の思う形で他者に認識させられるというチートじみた擬態能力のおかげだ。
俺が「自分は空気だ」と思い込んでいる限り、周囲の奴らには俺たちを認識することができない。
ただし、認識できないだけで存在はしているから、触れられたら即バレてしまうというリスクもある。
しかし、要は触られなければいいだけの話なので、敵側の動きにさえ注意していれば見破られることなどまずありえない。
俺たちは安心して出口を探せるというわけだ。
「しかし、こいつら一体何者なわけ?」
「装備にわかりやすい家紋があればいいんですけど、こんなことしている人たちがそんなもの入れるわけありませんし……」
「有力な貴族だっていうこと以外、何もわからないよなあ」
わかっているのは相手の財力だけ。
年単位で人払いをしたり、侵入者を即断即決で始末しようとするなんて、普通の立場じゃ絶対にできない。
相当な権力を持っているとみて間違いないと思う。
「それよりカイト、あたしらの話に交じって大丈夫なわけ? 集中途切れて見つかったら絶対ダメだかんね」
「それくらいなら大丈夫だ。それよりお前たちも恥ずかしがらずにもっと寄れって。この能力マジで狭い範囲しか効果ないんだからな。できるだけ密着しないと……」
「わ、わかってますけど……男の人とこんなにくっつくなんて初めてで……ずっと修道院暮らしだったし……」
「慣れなくて悪いけどそこは我慢で頼む」
「わ、わかりました……ひゃあんっ!? またお尻を……」
「……カイト?」
「マジでわざとじゃない! こんな状況で命がけのセクハラするわけないだろ!」
「な、なあ、あれ……」
――っ!?
まさか気づかれたか!? 巡回の2人のうち1人が、俺たちのいる空間を指さす。
今のやり取りで気づかれたか!?
一瞬だけ集中が途切れてしまった気がするし……くそっ、どうする!?
「あそこがどうかしたのか? 何もいないが」
「あ、ああ……そうだよな。今、一瞬だけすげえいい感じのケツが3つほど宙に浮いていたような気がしたんだが……さすがに気のせいだよな?」
よかった……気づかなかったようだ。
しかし宙に浮かぶいい感じのケツって……
「あんた何考えてんのよ!?」
「しょうがないだろ! 俺だって健康的な男なんだし、かわいい同年代の女子の尻わしづかみにしたら一瞬くらい考えちゃうわ!」
「か、かわいい? そんなの言われたの初めてです……カイト、ボクかわいいんですか?」
「少なくとも俺はそう思う」
背が高いから同性にはかっこいいと思われがちだろうけど、顔の印象はかわいい系だしなあ。
セシルのようなボーイッシュな女の子もストライクゾーンな俺としては、かわいい以外にない。
「こんな状況で何修道女口説いてんのよ? 罰が当たっても知らないからね?」
「別に口説いてないっつーの。それよりミーナ、お前ももうちょっとこっちに――(むにっ)あ、ごめん! ホントまじでごめん!」
「カイト、あんたいい加減にしなさいよ!? いや、別にいいけどさあ! こんな場所じゃなかったらいいんだけどさあ!」
「おいっ! …………あれ?」
「もしかして……お前も?」
「ああ、ただ俺はケツじゃなくて、綺麗な乳首をした3つの巨乳が浮かんでいるのが見えた」
「そうか……お前はケツドラマーじゃなくておっぱい聖人だったもんな。ケツじゃなくておっぱいを見たのはある意味当然かもしれない」
「きっと、連日の勤務で俺たち疲れてるんだろうな。この極秘任務が終わったら休暇届を伯爵様に提出するか」
――伯爵!?
「……おい、今の聞いたか?」
「もち! あたしらをこんな目に合わせたのはここの伯爵ってわけね」
「ノイン王国時代のオーバーテクノロジーの秘密実験……伯爵は一体何をする気なのでしょう?」
セシルの呟いた小さな疑問、それに応えるかのように2人が漏らす。
「まあ、出したところで受理はされないだろうよ。クーデターが成功しない限りは」
「だよなあ。俺たちサンブリー伯爵直属の秘密騎士団だし。これから王家相手の戦争を始めるのに、暗部が休暇を取る訳にはいかないもんな」
「実験も最終段階に入ってるみたいだし、忙しくなるんだろうな」
「あの装置でさっさと強襲して終わらせたいもんだ」
そう、仕事に関しての愚痴を言いつつ、2人組の騎士は去っていった。
「今、ものすごくやばいこと聞いちゃったな、俺たち……」
「速攻でギルマスに報告して国に通報したほうがいいやつだよね……」
「で、でも最終段階に入ったって言ってましたよ? 時間とか大丈夫なんでしょうか?」
恐らく大丈夫じゃない。
転送装置に関してのものと思われる一連の事件、それを時系列で追っていくとジャイアントレッグの大量発生から始まり消えた畑、そしてウォッチャーと対象がどんどんピンポイントになりつつある。
「この季節にいないはずのジャイアントレッグの大量発生はおそらく、こことは反対の季節にある遠い場所から転送されたもの……そんな広範囲が対象だったものが領内の1つの畑、そしてダンジョンに生息する魔物と、どんどんピンポイントになってきている」
「魔物を個体ごとにダンジョンから誘拐できると考えたら、もう一刻の猶予もないレベル、か」
クーデターなんて起きたら一気に治安が悪くなる。
物流だってストップするだろうし、多くの人が迷惑する。
そもそも俺を含めた多くのこの国にいる人たちは、現状に満足しているのだ。
国のトップがとんでもない悪政をしているというわけじゃない。
クーデターなんぞ誰も望んでいない。
「よし、ここ出る前にぶっ壊そう」
「「どうやって?」」
「それはもちろん――こうやって」
……
…………
………………
そんなやり取りをした30分後、俺たちはとうとう実験施設を発見することに成功した。
巡回の騎士たちの後をつけ、ひと際大きな声がする場所へ忍び込む・
「あれが『伯爵』か」
「ええ、ヴォルナットを含むここら一帯、サンブリー地方を収めるサンブリー辺境伯です。間違いありません」
「あれが、あたしの故郷の……」
サンブリー辺境伯は一言で言うと、神経質そうな三角淵メガネだった。
この手の権力者にありがちな、自分の能力に絶対の自信を持ち、自分こそが正しいと思い込んでいそうな……「いかにも」な人物。
その三角淵メガネは目の前に映し出されている光景――ホログラム映像を見て狂喜の声を上げていた。
「ふははははははは! 素晴らしい! 素晴らしいぞ! 何とも素晴らしい光景じゃないか! そうは思わんかね、きみ?」
「ええ、とても素晴らしいと思います。一瞬で爆弾を転送し一斉爆破。その後、部隊投入で即制圧。こんなの、わかっていても止められませんね」
「そうだろう、そうだろうとも! これで腑抜けたあの王家に代わって、この私がこの国を支配するのだ! そして、その暁にはローソニアもイブセブンも、全て平らげてくれる! 古代ノイン王朝以降初の支配者に私はなるのだ! はーっはっはっは!」
高笑いする辺境伯。
できれば絶対に知り合いたくない系の人だ。完全に自分に酔っている。
まあ、辺境伯はどうでもいい。
それより隣にいるフードを被った男……あいつの声、どっかで聞いたような?
「もうすぐ私が王に……ふふ、10年前この地で戦争を起こしたかいがあるというもの」
「だいぶ発展した交易都市でしたよね。計画のためとはいえ、自分で潰したの結構痛かったんじゃないですか?」
「まあそれなりにな。しかし、この技術は潰した上でお釣りが来る! これに比べれば上の都市と住人の命などタダ同然よ」
人々の生活を守る領主にあるまじき発言を聞いて、ミーナから殺意が一気に噴き出た。
「ミーナ、落ち着け。今ここで仕掛けたら伯爵は殺せるかもだけど、そのあと間違いなく全滅だぞ」
「……わかってる。あいつを裁くのは国に任せる。ここのこと報告すればあいつは破滅だもん」
家族や友達を、あいつの欲望のために殺されているのにこう言えるのは純粋にすごいと思う。
絶対に、是が非でも仇をとらせてやりたい。
「よし! 最終実験終了だ! 全部隊員に継ぐ! これより明朝3時まで、警備担当者以外は全員就寝とする! 起床後、速やかに食事をとり明朝4時に作戦を決行する! 敵は王家! マトファミア王家だ!」
――オオオオオオオオオオォォォォォッ!
地鳴りのような歓声が上がる。
伯爵は満足そうな表情を見せると、踵を返して部屋を出て行った。
それに続き、この場にいる兵士全員が退出。
最後に隣にいた謎のフード男も出て行き、この部屋は完全な無人になる。
そして念のため、待つこと三時間――、
「よし、外の気配もだいぶ減ったし、そろそろいいと思う」
ミーナの一言を皮切りに、俺たちは作戦を決行する。
「カイト、これどこに仕掛ければいいですか?」
「んー、なんかそれっぽいところに適当に仕掛けてくれ」
「なら魔法陣っぽいやつの淵あたりに仕掛けます」
「発掘なんてできないように天井も崩落させたほうが良いよね。あたしやっとくわ」
「じゃあ俺はこの機械みたいなのに仕掛けるか」
そう言いながら俺たちが仕掛けているのは爆弾だ。
ミミックを倒した時に傍にあった宝箱2つ、そのトラップが爆弾だった。
開ける際ミーナが解除し、そのまま信管を抜いて袋にぶちこんでおいたのだが、ここに来て役に立ちそうだ。
俺が元々持っていた、アイアンスコーピオンの時に買った爆弾、その最後の一発も含め計3個。
ここで使い、伯爵の大それた野望ごと灰になってもらう。
「じゃあタイマーセットするぞ? 30分でいいか?」
「それでオッケー。さっさと出ましょ」
「えーと、確かこのボタンを押してましたよね? さっき」
爆弾をセットし、転送装置でさっさと出る。
これが俺たちの作戦だった。
爆破とか、ちょっと良心が痛まないこともないけど、こっちは殺されかけたのだ。
相手を気遣ってやる理由などない。
そして何より、悪党に対する慈悲などない。
「押しました! 10分後に転送開始です!」
「よし、ナイス! セシルも早くこっちにこい!」
「さっさと脱出しておさらばしよ!」
「うーん、そうは問屋が卸さないんですよねえ、これが」
――っ!?
声がした方を振り向くと、ここにはいないはずの人物がいた。
伯爵の隣にいた、フードを被った謎の男。
その男は笑顔を浮かべながら、拍手交じりに俺たちに近づいてきた。
「いやいやいや、お見事。あそこから落とされて生きていただけでなく、まさかこんなド派手な脱出劇を敢行しようとは。お見事としか言いようがないですな」
「……そう思うなら黙って見ていてくれないか? 30分後に奇跡を目の当たりにできるぜ?」
「あいにく、私は現実主義者でして。奇跡なんて信じるような歳でもないんですよ。それに、そんな奇跡を実行されては、我々の組織の信用が落ちてしまいます。今後の商売に影響も出ますし、見逃すことはできません」
「全く、最後の最後でバトらなきゃいけないなんて……」
「あなた方が行おうとしている行為は、明らかに人の道に反します。神の使徒の末席として、神罰を代行させていただきます!」
「やれやれ、神ですか。神なんて存在しませんよ。神など強者が弱者を効率よくコントロールするための道具にすぎません」
フード男はセシルにそう言うと、ニヤリと笑いながら俺の方をj向いた。
「そう思いませんか? 旨味沢海斗さん? 異世界人のあなたなら私に同意してくれるのでは?」
「えっ!?」
「カイトが……異世界人!>」
「そのことを知ってるってことは……まさかお前!?」
「その通り……あなたをこの世界に誘拐した三人。そのうちの一人が私ですよ」
男はフードを取って頭を垂れた。
思ったよりも普通の顔つきだった。
何の特徴もない、どこにでもいそうな普通の顔だ。
「暗殺ギルド《明けの六天光》――ナンバー3、《地獄の侯爵》ことシジョウ。あと数刻の命でしょうが、どうかお見知りおきを」
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《あとがき》
次回ボス戦です。
今回は珍しく食い物の話がなかった……
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