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第1章 冒険者編
第21話 ジャイアントレッグ(後編)
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ジャイアントレッグ――それは脚の周りが異様なまでに太い巨大なイナゴ。
イナゴは古来より日本では食べられているポピュラーな昆虫食である。
戦時中はライスの代わりに食べられるほどの高たんぱくな食材だったという過去があり、現在でも珍味として一部地域で食されている。
俺は過去にイナゴの佃煮と素揚げを食べたが、グロくてキモい印象とは裏腹に、どちらも非常に美味かった。
イナゴはあの見た目からは想像できないほどエビの味に近いのだ。
特に素揚げは、レモンをしぼって食すと川エビの素揚げとそん色ないどころか、むしろイナゴのほうが美味いまであった。
そんなイナゴの巨大バージョン……試してみない理由はない。
「え……料理? え……正気ですか?」
「おう、正気だぞ? 俺の生まれた国ではこれっぽい虫を食べる習慣がある地域もあるんだよ。俺も食ったことあるけど、見た目に反して美味いんだぞー、イナゴ」
「えぇ!? でも魔物ですよ!? 神様の敵である魔物を食べるだなんて……」
「敵を食し、自らの力にする。神様たちだってやってるじゃないか。教会で教えてもらったから知ってるんだぞ」
「た、確かに神様はやっていますけど、ボクたちが同じことをしても……」
「力にできる。もうすでに別の魔物で試しているからな」
「え? えええええぇぇぇぇぇっ!?」
セシルは目を見開いて驚いた。
「今まで食った魔物はどれも美味かった。だから、この魔物もきっと美味いよ」
「そ、そうですか……でもボクは遠慮します……」
「そうか? まあ無理強いはしないさ」
ヴィジュアルがダメな人っているからな。
そこはしょうがない。
「さあて、じゃあまずは下処理といきますか!」
俺はセシルと一緒にジャイアントレッグの死体から羽を切り取り始めた。
羽は討伐の証拠品になる上、素材にもなるらしい。
9割以上がほぼ爆弾で吹き飛んでいるので、この作業はすぐに終わった。
粉々にならなかったのは大体10匹くらいだろうか?
羽を切り落としたそれらから、俺は包丁を使って内臓を取り除く。
イナゴを食べる時は一日絶食させ、糞を出し切ってから料理するのだが今は時間がない。
内臓を取り出したら煮立ったお湯に漬け込み殺菌する。
体の色が変わってきたらお湯から上げて水を切り、食べやすい大きさや部位に分ける。
本来のイナゴ料理にはこの工程は存在しないけど、このイナゴは半端なく大きい。
食べやすいように加工するべきだろう。
「さーて、油、油」
「そ、その油でどうするつもりなんですか?」
「揚げる」
イナゴ料理の種類は大まかに分けて2種類だ。
先に挙げたように佃煮か素揚げかの二択だ。
佃煮も嫌いじゃないが、俺は断然素揚げ派だ。だってめちゃくちゃ酒に合うし。
素揚げなら揚げるだけで余計な手間もかからないし、実にこの場に適しているしな。
――パチパチパチパチ……
「良い感じにあったまってきたな」
「ほ、本当にソレを揚げるんですか?」
「ああ」
「う、うぇぇぇ……」
心底気持ち悪いと言った感じでセシルが見てくる。
嫌なら見なければいいのに見るのは、やはり好奇心なのだろうか?
嫌な顔をしつつも目を逸らしていない。
「それじゃあさっそく」
――ジュアアアアァァァァァァッ!
――パチパチパチパチ……
「うん、いい色に揚がったな」
素揚げにされたジャイアントレッグは、ルビーのように赤く変色している。
これは美味そうだ。
イナゴの味を知っている俺としては、こいつの味に期待せざるを得ない。
まだ見ぬ未知の味を想像しながら、残りのやつもジャンジャン揚げる。
そして完成――。
「できたぞ! ジャイアントレッグの素揚げだ!」
目の前には真っ赤に揚がった巨大イナゴが10匹。
テカった油で宝石のように肌をきらめかせるコイツの味は果たして……?
「もう一度確認しますけど、ホントにそれ食べるんですか?」
「ああ」
「ボ、ボクは食べませんよ!」
「だから食べなくていいって言ってるじゃん……」
いい加減しつこいな。
俺は無理矢理食べさせようだなんて思っていないっつーの。
食事というのは幸せでなければいけないんだ。
無理強いをするのは俺のポリシーに反する。
「それじゃあ改めて……未知の味への出会い、興奮、そして食材の命に感謝を込めて――いただきます!」
――カリッ。
「かあああああぁぁぁぁぁぁっ! 美味えええええぇぇぇぇぇぇぇっ!」
「え? えっ!?」
「予想通りだ! 予想通りだったよこいつは! やっぱりコイツはでっかいイナゴだった! イナゴの味がそのままデカく、旨味をパワーアップさせたような味だよ! 俺この味めっちゃ好きだああああぁぁぁぁっ!」
全身で喜びを表す俺のリアクションを、まるで宇宙人に遭遇でもしたかのような目でセシルが見る。
まあヴィジュアルがヴィジュアルだ。
味を知らない人は俺のリアクションが理解できないかもしれない。
「イナゴの味はエビ……エビの殻の味に酷似している。川エビの素揚げはカリカリジューシーで美味しいけど、こいつの味はそれ以上だ! イナゴや川エビは小さいから食感がエビフライの尻尾に近くて硬いんだけど、こいつはそれより柔らかい! 外殻の部分はサクサクのポテトチップスだよこれは! そして腹とか脚の肉部分は鶏肉だ! エビ味を付けたフライドチキンを食ってるみたいだ! エビの味と鶏の味がタッグを組んで舌の上で荒ぶっている! それぞれの旨味をこれでもかってくらい俺の舌にたたきつけてきやがる!」
こんなん食ったら……もう立てねえよ。
旨味にフォールされて即3カウントだよ。
エビ味と鶏味のコンビネーションパネェよ。
恐るべし異世界のイナゴ。
「これは……ご飯が進む! 酒にも絶対合う! 新メニュー絶対入れるぞおおおぉぉっ! 季節もんだから時価になるけど、弱いからコストもかからねえ! スライム料理に続く二品目の定番料理の完成だああああぁぁぁぁっ!」
「そ、そんなに美味しいんですか?」
「おうよ! 食ってみるか?」
「い、いらないですっ! でも、ちょっとだけ……脚一本だけくれます?」
「もちろんだよ。ほら」
「あ、ありがとう……や、やっぱりヴィジュアル的にキツいなあ」
「脚は肉が多いから鶏もも肉みたいな味と食感だぞ。それに殻のエビ味っぽさが溶けているから何とも言えない旨味がある。多分一番美味いとこだぜ」
ついでに言うと、調理器具にアイアンスコーピオンの鍋を使っている。
エビ味が強調されて普通に作るより断然美味い。
「そ、それじゃあ……神様! どうかボクを見守ってくださいっ!」
神に祈り、いよいよセシルが一歩踏み出す。
――パクッ。
――ジュワアアアァァァ……
「な、何ですかこれえええぇぇぇぇぇっ!? こ、こんな……こんな美味しいだなんて信じられない! 上等な鶏もも肉を何倍にも美味しくしたような味に加えて、エビみたいな味まで同時に感じるだなんて……」
「その上虫料理って高たんぱくで栄養あるんだよ。だから健康にもいい」
「これは、もっと大々的に広げるべき味ですよ! ボクたちだけで独占していい味じゃない! 報告書に書いておかないと!」
「上に報告して、神の敵を体内に入れるなんて不浄とか異端とか言われない?」
「敵の力を取り込む修行とでも言えば何とでもなります」
どうやらセシルは一発でドハマりしてしまったようだ。
普通に店で出すつもりだから、味を広めてもらえるとありがたいなあ。
「殻の部分ももらっていいですか? もっとよく味を知りたくて」
「もちろんいいとも。俺たち2人で狩ったんだから遠慮するなよ」
「じゃあ……いただきます! んーっ♪ 美味しいいいぃぃっ! こんな見た目なのに今まで食べたどんな料理より美味しい! サクサクでいくらでも食べられちゃいます♪」
セシルはその後、俺が作ったうちの半分どころか、俺の分まで手を出そうとしてきやがった。
さすがにそれは困るので、代わりのスライムゼリーを渡してみる俺。
その美味さにまた悶絶するが、それはさておき。
「あー、美味しかった。人と同じように、料理も見た目で判断しちゃいけませんね。神様、ボクに大事なことを学ぶ機会を与えてくださりありがとうございます」
「たしかに美味かった。けど、ちょっと気になるんだよな」
ジャイアントレッグは畑を食い荒らす魔物だ。
この辺りに出るという話だったけど、いくら何でも多すぎる。
この先は廃墟しかないはずなのに、どうしてあんな集団でいたんだろうか?
「ええ、確かに。そこがちょっと気になりますね。畑なんてこの先はないはずだし」
「あんだけの数がどうして何もない場所にいたんだろう?」
妙な状況に頭を悩ませるが答えは出ない。
その日は近くでキャンプを張り、翌日改めて歩を進めた。
そして、見つけた。
「これは……?」
「どうしてこんな場所に!?」
交戦した場所からさらに7キロ進んだ場所。
ミーナの故郷であった廃墟の街までもうあと2キロもない場所に答えはあった。
「食い荒らされているけど間違いない。これは畑だ」
そこだけ土の色が違うとこから推察すると、おそらくこの畑は消えたと言われた畑だろう。
盗むにしても作物だけじゃなく、畑ごと盗むとか一体何の意味が?
いや、それ以前にどうやって?
「車輪の跡があります。たぶん、一部は持ち去られた……ん? 待って、何か落ちてます」
セシルが畑の傍の草むらから何かを拾い上げた。
「これは、ナイフ? 冒険者用のアタックナイフですね。しかも結構高そうなやつ。何でこんな場所に捨ててあるんでしょう?」
「俺にも見せてく――」
「どうしました? 急に黙って」
これ、ミーナのナイフだ!
オークベアの一件の後、新調したって自慢していたから良く覚えている。
ここにそんなものが落ちているってことは……確定だ。
3つの事件とミーナの失踪は関係がある。
「いや、どうやら街に用事ができたみたいだ」
「廃墟ですよ? 危ないですよ?」
「知ってる。だけど、行かなきゃいけないんだ」
「そうですか、じゃあ……もうしばらく一緒ですね」
「どうして?」
「初めに言ったでしょ? ボクもこの先に用があるって」
「道の先じゃなくて街にか? 廃墟に一体何の用が?」
「それは言えません。カイトだってボクに秘密にしていることありますよね?」
「気づいてたのか」
「うん、だからまあお互い様ってことで詮索はナシで。ね?」
そう言ってセシルが微笑んだ。
俺たちはそれ以上何も言わず、この先にある廃墟の街――ミーナの故郷へと歩き始める。
その時、どこからか視線を感じたけれど、俺たちは歩みを止めなかった。
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《あとがき》
イナゴマジで美味いので機会があったらぜひ試してみてください。
《旧Twitter》
https://twitter.com/USouhei
イナゴは古来より日本では食べられているポピュラーな昆虫食である。
戦時中はライスの代わりに食べられるほどの高たんぱくな食材だったという過去があり、現在でも珍味として一部地域で食されている。
俺は過去にイナゴの佃煮と素揚げを食べたが、グロくてキモい印象とは裏腹に、どちらも非常に美味かった。
イナゴはあの見た目からは想像できないほどエビの味に近いのだ。
特に素揚げは、レモンをしぼって食すと川エビの素揚げとそん色ないどころか、むしろイナゴのほうが美味いまであった。
そんなイナゴの巨大バージョン……試してみない理由はない。
「え……料理? え……正気ですか?」
「おう、正気だぞ? 俺の生まれた国ではこれっぽい虫を食べる習慣がある地域もあるんだよ。俺も食ったことあるけど、見た目に反して美味いんだぞー、イナゴ」
「えぇ!? でも魔物ですよ!? 神様の敵である魔物を食べるだなんて……」
「敵を食し、自らの力にする。神様たちだってやってるじゃないか。教会で教えてもらったから知ってるんだぞ」
「た、確かに神様はやっていますけど、ボクたちが同じことをしても……」
「力にできる。もうすでに別の魔物で試しているからな」
「え? えええええぇぇぇぇぇっ!?」
セシルは目を見開いて驚いた。
「今まで食った魔物はどれも美味かった。だから、この魔物もきっと美味いよ」
「そ、そうですか……でもボクは遠慮します……」
「そうか? まあ無理強いはしないさ」
ヴィジュアルがダメな人っているからな。
そこはしょうがない。
「さあて、じゃあまずは下処理といきますか!」
俺はセシルと一緒にジャイアントレッグの死体から羽を切り取り始めた。
羽は討伐の証拠品になる上、素材にもなるらしい。
9割以上がほぼ爆弾で吹き飛んでいるので、この作業はすぐに終わった。
粉々にならなかったのは大体10匹くらいだろうか?
羽を切り落としたそれらから、俺は包丁を使って内臓を取り除く。
イナゴを食べる時は一日絶食させ、糞を出し切ってから料理するのだが今は時間がない。
内臓を取り出したら煮立ったお湯に漬け込み殺菌する。
体の色が変わってきたらお湯から上げて水を切り、食べやすい大きさや部位に分ける。
本来のイナゴ料理にはこの工程は存在しないけど、このイナゴは半端なく大きい。
食べやすいように加工するべきだろう。
「さーて、油、油」
「そ、その油でどうするつもりなんですか?」
「揚げる」
イナゴ料理の種類は大まかに分けて2種類だ。
先に挙げたように佃煮か素揚げかの二択だ。
佃煮も嫌いじゃないが、俺は断然素揚げ派だ。だってめちゃくちゃ酒に合うし。
素揚げなら揚げるだけで余計な手間もかからないし、実にこの場に適しているしな。
――パチパチパチパチ……
「良い感じにあったまってきたな」
「ほ、本当にソレを揚げるんですか?」
「ああ」
「う、うぇぇぇ……」
心底気持ち悪いと言った感じでセシルが見てくる。
嫌なら見なければいいのに見るのは、やはり好奇心なのだろうか?
嫌な顔をしつつも目を逸らしていない。
「それじゃあさっそく」
――ジュアアアアァァァァァァッ!
――パチパチパチパチ……
「うん、いい色に揚がったな」
素揚げにされたジャイアントレッグは、ルビーのように赤く変色している。
これは美味そうだ。
イナゴの味を知っている俺としては、こいつの味に期待せざるを得ない。
まだ見ぬ未知の味を想像しながら、残りのやつもジャンジャン揚げる。
そして完成――。
「できたぞ! ジャイアントレッグの素揚げだ!」
目の前には真っ赤に揚がった巨大イナゴが10匹。
テカった油で宝石のように肌をきらめかせるコイツの味は果たして……?
「もう一度確認しますけど、ホントにそれ食べるんですか?」
「ああ」
「ボ、ボクは食べませんよ!」
「だから食べなくていいって言ってるじゃん……」
いい加減しつこいな。
俺は無理矢理食べさせようだなんて思っていないっつーの。
食事というのは幸せでなければいけないんだ。
無理強いをするのは俺のポリシーに反する。
「それじゃあ改めて……未知の味への出会い、興奮、そして食材の命に感謝を込めて――いただきます!」
――カリッ。
「かあああああぁぁぁぁぁぁっ! 美味えええええぇぇぇぇぇぇぇっ!」
「え? えっ!?」
「予想通りだ! 予想通りだったよこいつは! やっぱりコイツはでっかいイナゴだった! イナゴの味がそのままデカく、旨味をパワーアップさせたような味だよ! 俺この味めっちゃ好きだああああぁぁぁぁっ!」
全身で喜びを表す俺のリアクションを、まるで宇宙人に遭遇でもしたかのような目でセシルが見る。
まあヴィジュアルがヴィジュアルだ。
味を知らない人は俺のリアクションが理解できないかもしれない。
「イナゴの味はエビ……エビの殻の味に酷似している。川エビの素揚げはカリカリジューシーで美味しいけど、こいつの味はそれ以上だ! イナゴや川エビは小さいから食感がエビフライの尻尾に近くて硬いんだけど、こいつはそれより柔らかい! 外殻の部分はサクサクのポテトチップスだよこれは! そして腹とか脚の肉部分は鶏肉だ! エビ味を付けたフライドチキンを食ってるみたいだ! エビの味と鶏の味がタッグを組んで舌の上で荒ぶっている! それぞれの旨味をこれでもかってくらい俺の舌にたたきつけてきやがる!」
こんなん食ったら……もう立てねえよ。
旨味にフォールされて即3カウントだよ。
エビ味と鶏味のコンビネーションパネェよ。
恐るべし異世界のイナゴ。
「これは……ご飯が進む! 酒にも絶対合う! 新メニュー絶対入れるぞおおおぉぉっ! 季節もんだから時価になるけど、弱いからコストもかからねえ! スライム料理に続く二品目の定番料理の完成だああああぁぁぁぁっ!」
「そ、そんなに美味しいんですか?」
「おうよ! 食ってみるか?」
「い、いらないですっ! でも、ちょっとだけ……脚一本だけくれます?」
「もちろんだよ。ほら」
「あ、ありがとう……や、やっぱりヴィジュアル的にキツいなあ」
「脚は肉が多いから鶏もも肉みたいな味と食感だぞ。それに殻のエビ味っぽさが溶けているから何とも言えない旨味がある。多分一番美味いとこだぜ」
ついでに言うと、調理器具にアイアンスコーピオンの鍋を使っている。
エビ味が強調されて普通に作るより断然美味い。
「そ、それじゃあ……神様! どうかボクを見守ってくださいっ!」
神に祈り、いよいよセシルが一歩踏み出す。
――パクッ。
――ジュワアアアァァァ……
「な、何ですかこれえええぇぇぇぇぇっ!? こ、こんな……こんな美味しいだなんて信じられない! 上等な鶏もも肉を何倍にも美味しくしたような味に加えて、エビみたいな味まで同時に感じるだなんて……」
「その上虫料理って高たんぱくで栄養あるんだよ。だから健康にもいい」
「これは、もっと大々的に広げるべき味ですよ! ボクたちだけで独占していい味じゃない! 報告書に書いておかないと!」
「上に報告して、神の敵を体内に入れるなんて不浄とか異端とか言われない?」
「敵の力を取り込む修行とでも言えば何とでもなります」
どうやらセシルは一発でドハマりしてしまったようだ。
普通に店で出すつもりだから、味を広めてもらえるとありがたいなあ。
「殻の部分ももらっていいですか? もっとよく味を知りたくて」
「もちろんいいとも。俺たち2人で狩ったんだから遠慮するなよ」
「じゃあ……いただきます! んーっ♪ 美味しいいいぃぃっ! こんな見た目なのに今まで食べたどんな料理より美味しい! サクサクでいくらでも食べられちゃいます♪」
セシルはその後、俺が作ったうちの半分どころか、俺の分まで手を出そうとしてきやがった。
さすがにそれは困るので、代わりのスライムゼリーを渡してみる俺。
その美味さにまた悶絶するが、それはさておき。
「あー、美味しかった。人と同じように、料理も見た目で判断しちゃいけませんね。神様、ボクに大事なことを学ぶ機会を与えてくださりありがとうございます」
「たしかに美味かった。けど、ちょっと気になるんだよな」
ジャイアントレッグは畑を食い荒らす魔物だ。
この辺りに出るという話だったけど、いくら何でも多すぎる。
この先は廃墟しかないはずなのに、どうしてあんな集団でいたんだろうか?
「ええ、確かに。そこがちょっと気になりますね。畑なんてこの先はないはずだし」
「あんだけの数がどうして何もない場所にいたんだろう?」
妙な状況に頭を悩ませるが答えは出ない。
その日は近くでキャンプを張り、翌日改めて歩を進めた。
そして、見つけた。
「これは……?」
「どうしてこんな場所に!?」
交戦した場所からさらに7キロ進んだ場所。
ミーナの故郷であった廃墟の街までもうあと2キロもない場所に答えはあった。
「食い荒らされているけど間違いない。これは畑だ」
そこだけ土の色が違うとこから推察すると、おそらくこの畑は消えたと言われた畑だろう。
盗むにしても作物だけじゃなく、畑ごと盗むとか一体何の意味が?
いや、それ以前にどうやって?
「車輪の跡があります。たぶん、一部は持ち去られた……ん? 待って、何か落ちてます」
セシルが畑の傍の草むらから何かを拾い上げた。
「これは、ナイフ? 冒険者用のアタックナイフですね。しかも結構高そうなやつ。何でこんな場所に捨ててあるんでしょう?」
「俺にも見せてく――」
「どうしました? 急に黙って」
これ、ミーナのナイフだ!
オークベアの一件の後、新調したって自慢していたから良く覚えている。
ここにそんなものが落ちているってことは……確定だ。
3つの事件とミーナの失踪は関係がある。
「いや、どうやら街に用事ができたみたいだ」
「廃墟ですよ? 危ないですよ?」
「知ってる。だけど、行かなきゃいけないんだ」
「そうですか、じゃあ……もうしばらく一緒ですね」
「どうして?」
「初めに言ったでしょ? ボクもこの先に用があるって」
「道の先じゃなくて街にか? 廃墟に一体何の用が?」
「それは言えません。カイトだってボクに秘密にしていることありますよね?」
「気づいてたのか」
「うん、だからまあお互い様ってことで詮索はナシで。ね?」
そう言ってセシルが微笑んだ。
俺たちはそれ以上何も言わず、この先にある廃墟の街――ミーナの故郷へと歩き始める。
その時、どこからか視線を感じたけれど、俺たちは歩みを止めなかった。
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《あとがき》
イナゴマジで美味いので機会があったらぜひ試してみてください。
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