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第1章 冒険者編
第11話 Only Light STAFF(前編)
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「ルールルルルルルールールルー」
――……………………ゥゥ……
「怖くない、ほら、怖くないぞー、大丈夫。怖くないからなー」
「……何してんの? アホみたいな歌とか歌っちゃって。しかもとんでもなく音痴だし」
「うるさい! 音痴言うな! テイムできないか試してるんだよ!」
そう、テイム――テイムだ。
図書館で借りて読んだ本に、一部のモンスターはテイムし、仲間にすることができるという記述があった。
すでに依頼のあった炎狼三体の討伐を終えたので、そのことを思い出しこうして試しているわけだ。
炎狼の子どもに。
「あのねえカイト、あんたがどんな本を読んだか知らないけどさ、炎狼はテイムできないよ? すっごい警戒心が強くて、家族以外の同族にだって牙を剥くんだから」
「それは大人の炎狼だろ? 右も左もわからない小さい子どものうちならばワンチャンあるって書いてあったぞ」
「あくまでワンチャンだよそれ。魔物使いみたいな専門職じゃないと捕まえるのは無理だって」
「何事もやってみないうちはわからないじゃねーか。とりあえずやってみるが俺のモットーなんだ」
「どうなってもあたしは知らんよ?」
そう言い、ミーナは後ろに一歩距離を取った。
いかにも「あー、バカだわコイツ。無理に決まってんのに」とでも言いたげな視線を俺に送っている。
見てろよミーナ、その小バカにした視線を驚きに変えてやるからな。
本当のバカは常識に囚われ、挑戦することを止めた人間なのさ!
「ほら、お腹空いてないか? さっき取れたばかりの一角ウサギの肉だぞー♪ これをやるからとりあえずモフらせて――」
――ガァウ!(ボッ!)
「あっちいいいいぃぃぃぃぃーーっ!?」
「……言わんこっちゃない」
炎狼の真っ赤な毛に触れようとした瞬間、全身が発光して燃え上った。
あまりの熱さに、思わず手に持っていた兎肉を手放してしまう。
――ワンッ!
「あ、待て! 待ってくれ! 俺の店でコンロになってくれーっ!」
店の経営から来る俺の魂の叫びも空しく、炎狼の子どもは兎肉をくわえて魔の森の奥へと行ってしまった。
「ああ、あいつがテイムできれば店の燃料代が浮くのに……」
「だから無理って言ったっしょ? さ、ご飯にしよ。兎肉、まだあるんでしょ?」
「……おう」
俺は無限袋から携帯用の調理器具と炎の魔力が込められた燃料石、そしてさっき取られた兎肉の本体を取り出した。
すでに解体は終わっており、見た目は小さめのターキーに見える。
「今日は何を作ってくれんの?」
「兎肉でできるかはわからないが、今日は唐揚げを作ろうと思う」
「へぇ、聞いたことないけどきっと美味いんでしょ? 楽しみぃ♪」
唐揚げ――それは日本人なら誰もが知っているであろう伝統料理の一つ。
サクサクの衣を纏わせた鶏肉を、高温の油でカラッと揚げるだけのシンプルだがとても奥深い味わいを持つ、飲み屋の鉄板メニューでもある。
日本を訪れた外国人にもとても人気の高いこのメニュー、きっと異世界人も気に入るに違いない。
「石の配置はこんなもんか。ミーナ、燃料石を起動してくれ」
「はーい」
俺の頼みでミーナが火をおこす。
何度か一緒に冒険をしているからか、細かい指示がなくても火力の具合がちょうどいい感じである。
よし、あとは油があったまるのを待つだけだ。
その間に肉の準備をしよう。
「本来はタレに漬け込まなきゃいいけないんだけど……」
今は外なので贅沢は言っていられない。
袋の中からニンニクとショウガに当たる食材を取り出して細かく刻む。
そして塩コショウを少々肉に振りかけ、先ほど刻んだニンニクとショウガも合わせてよく揉み込んだ。
「お、よくわからないけど美味しそう。なんて言うか、お酒に合いそうな予感!」
「合うぞ。この料理は俺の国では飲み屋の鉄板なんだ」
雑談をしながらも料理は続く。
この世界は醤油がないので代わりにソースだ。
ウスターソースのような味わいを持つそれを、料理用に作ってもらった袋の中に大量にIN。
その中にこっそり作った俺特製マヨネーズを入れる。
その後、一口サイズに切った兎肉も入れる。
そして揉む。
「カイトー、油がパチパチしてきたよ」
「サンキュー。じゃあ、もうそろそろ良さげだな」
唐揚げを作る最後の仕上げだ。
商人ギルドから購入した小麦粉と片栗粉にあたるものを適度にまぶして油の中に投入。
油の熱さに粉が弾け、食材が踊りながら中で泳ぐ。
「ふわああぁぁぁぁ……まだ? ねえまだ?」
「もうすぐだ。ほら、一人前お待ち」
油の中から肉をすくい上げ、用意していた皿の上に置く。
俺の知る唐揚げとはちょっと違う、異世界の唐揚げが完成した。
「本当は鶏肉でやるんだけど、まあ兎も鳥の親戚だし大丈夫だろ」
「え? そぅなの? 見た目全然違うじゃん」
「違っても実際そうなんだよ。肉の味も近いしな。だから唐揚げにしたわけだが」
「まあ細かいことはどうでもいいや。早速食べていい? このまま手で食べていいの?」
「いいよ。熱いうちに食ってくれ」
「それじゃあ――いただきます」
――パクッ。
――ジュワアアアアアァァァァァァッ!
「はあああああああああああっっ! 美味っっっっしーーーーぃぃぃぃっ! 口の中に入れた瞬間、ニンニクとショウガの香りが充満する! その香りが噛んで生まれた肉汁としみ込んだ油に絡まって口の中が幸せの大洪水だよ! んんんんん~~~~♥♥♥」
頬を抑え、恍惚の表情を浮かべながらミーナが語る。
こいつ食レポ上手くなったなあ。
「噛めば噛むほど味に深みができるし、飲み込んだ瞬間胃にガツンとくるから食べ応え十分だし! あーっ! お酒欲っしーっ!」
気持ちはよくわかる。
だけどこの世界、ビールがないんだよな。
揚げ物とタッグを組んだら世界一合うであろうドイツ出身のヤツの存在が。
オーダー可能な酒蔵とかないかな?
作り方は知識としては持っているから、頼んで作ってもらえないだろうか?
「はふっ! はふはふっ!」
「そんな一気に食べると口の中やけどするぞ。誰も盗らないから落ち着いて食えって」
「わかってるけどさっ! はふっ! 美味っ! とまんないんだよこれ!」
「そこを何とか止めなさい。年頃のお嬢さんなんだから。ほら、追加だ」
「わーい♪」
「そろそろ俺も……そうだ。このパンを二つに切って、その中に唐揚げと葉物野菜を置いて、さっき使ったソースをちょっとだけかける――よし、唐揚げバーガーだ」
ただ食べるのもいいけど、主食と一緒に食べても美味い。
それが世界揚げ物王座統一戦タッグマッチ王者――唐揚げという料理である。
では、俺もいただこうか」
しっかり料理に手を合わせて――、
「未知の味への出会い、興奮、そして新たな食材の命に感謝を込めて――いただきます!」
――バクッ!
「っっっっかあああぁぁぁぁーーっ! 美味いっ! 兎肉なんでどうかと思ったけど、これはこれでアリじゃないか! 俺の知ってる唐揚げのようで唐揚げじゃない! 唐揚げの新世界だ! 鶏肉よりも全体的にサッパリした味だからか、たっぷり油に漬けたところで油っこくない! それでいて筋肉には弾力性があって噛み応えがある! あーっ! これはレモンが欲しい! 俺、唐揚げはレモンかけない派だったけどこっちは絶対かけたほうが美味いやつだ!」
「あ、ずるい! カイト、あたしもそれ作って! ソースはたっぷりでね」
「はいよ。ほら、食え」
「あびゃびゃびゃびゃびゃびゃびゃびゃ!」
「どういうコメントだよ(笑)」
「ごめん。あまりの美味しさに一瞬脳を失くしちゃったわ……」
異世界風唐揚げ――大成功である。
「ねえカイト、これ店のメニューに出そうよ! 一角ウサギならEランク以下の冒険者でも狩れるから値段も抑えられるっしょ?」
「値段はいけるけど問題は数だなあ。乱獲して数が減ったら困るし」
一角ウサギはそこそこレアな魔物なのだ。
生息数が少ないので、定番メニューとしてはちょっと弱い。
養殖とかできれば迷わず行くんだけど。
「兎は現状だと限定メニューや日替わりメニューになりそうだな。値段は……銀貨1枚ってところか」
「1枚!? 絶対食べる! だから作る日は絶対教えてよね! もし教えなかったら今この場であんたを押し倒して、あんたの子どもを身ごもるから!」
「何でだよ!」
「だって、あんたの奥さんになれば常に作る料理を把握できるでしょ?」
「食い意地のために抱かれるとかねーわ。もっと自分を大切にしろよ」
「してるよ。こう見えてあたし処女だよ」
「そんな暴露はいいからとにかく食え。ほら、まだあるから!」
「わーい♪」
全く、やれやれだぜ。
でも、銀貨1枚でこの反応か。
通常ランチに使う金は銅貨50-60枚あたりが平均と聞く。
銀貨1枚はちょっとお高いのだ。
なのにこの反応――入れるか、メニュー。
「でも、やっぱスライムなんだよなー理想は」
数といい味といい、定番にするならやっぱりこれは外せない。
けど、現状俺が遭遇した奴を料理して出す以外に手段がない。
「何とかできないかなあ……」
「そういうのは考えても出てこない時は出てこないって。そのうち出てくるのを待とうよ」
「そうだな。そうするか」
果報は寝て待て――そういう諺もある。
ミーナの言う通り、今はただ待つとしよう。
その果報が訪れる時を――
……
…………
………………
翌日、冒険者ギルド。
「あ、カイトさんにミーナさん、おかえりなさい」
「ただいまマール♪ はいコレ。三匹ぶんの炎狼の毛皮と爪ね」
「はい、確かに。ところでミーナさん……美味しかったですか?」
「もう最っ高に美味しかったわよ! あんなの食べたの生まれて初めてだった!」
「いいなぁ……何で私はギルド職員なんでしょうか。冒険者をやっていればカイトさんと冒険に出れたのに! そして美味しいご飯をたくさん食べれるのに! 何故私はギルド職員なんて道を選んでしまったの!?」
いや、世間的にはギルド職員のほうがよっぽど羨ましがられる職業でしょうが。
そんな風に彼女を狂わせる魔物料理……可能性の塊でしかない。
「そういえばギルマスからの伝言なんですけど、例の件はある程度目途が立ったとのことです。二人で何か企んでるんですか?」
「はは、ええ、まあ……ですが一個問題があって。その問題が解決できない限り、企画倒れになりそう――」
――おいおい? ここは無能が来るところじゃないんだぜ?
――何もできない奴はおうちに帰ってママのミルクでも飲んでろよ。
――それとも、ここでパパのミルクでも飲むかぁ?
――ギャハハハハハハ!
「またやってるよあいつら……」
「他にやることないのかね、あのセクハラ冒険者ども」
えーと、確かダズとゴンザだったか?
俺がここに来た初日に絡んできたあいつらの名前。
「冒険者なら冒険しろっての」
「ミーナの言う通りだな。仕方ない……メンドくさいけど俺が一言」
「待ってください。この程度のことを自分で切り抜けられないようでは、いずれ冒険者として失敗します。手出しは無用です」
「ええ……? まあ、わかるけどさぁ」
「でもなぁ……見ていて気持ちのいいもんじゃないし」
「それでもです。それともあなた達は、あの人が大成するまで面倒を見てあげられるんですか?」
「………………」
「………………」
それを言われるとこちらも弱い。
俺は自分の店のことに加えて帰還方法の探索があるし、ミーナは明らかにめんどくさそうだ。
被害者は見たところ気弱な魔術師っぽい少女。
二人組の威圧にビクビクしながら「すいません……」と謝っている。
どう見ても冒険者として成功するようには見えない。
「かわいそうだけど見捨てるしかないね……」
「ああ、助けた結果、そう遠くないうちに死んでしまうほうがかわいそうだもんな……」
でも、関係ないところであの二人をボコすのは構わないだろう?
この件が終わったら、二人の帰り際にケンカふっかけて――
「そんな恰好しているくせに魔術師じゃないのかよ!」
「魔物使いだぁ? どんな魔物連れてるか見せてみろよ!」
「は、はい……スーちゃん、おいで」
「ピィ!」
少女の声に反応し、服のポケットから小さなスライムが出てきた。
「こ、これが、私の使役できる魔物です……」
「使役できる魔物ってスライムかよ! そんなFランクでも簡単に倒せるような小さな魔物、使役したところで何になるんだっての!」
「そんなんで魔物使い名乗られたら迷惑だわ! さっさと帰ってクソして寝て――」
「クソして寝るのはお前らのほうだ」
――バキドガゴシャグシャッ!
「あ、あばばばば……」
「な、何で……?」
俺は二人組を一瞬で黙らせ、この少女と向かい合った。
「あ、あの……ありがとうございます……でも、どうして? ひゃっ!?」
「きみ、名前は?」
「ク、クレアって言います……」
「そうか、クレアきみを助けたその理由は――」
――バッ!
「え、ええぇぇぇっ!?」
俺の取った行動に彼女が困惑する。
それはそうだろう。
自分のピンチを助けた男が、いきなり土下座を始めればそういう反応にもなる。
「どうか俺と組んでください! お願いしますっ!」
「な、何でですか!? 何でスライムしか使役できない私なんかを……」
「その能力が俺にとって、最も必要としている能力だからだ!」
一度顔を上げ、もう一度頭を下げる。
「頼むクレア! どうか俺と組んで欲しい! きみこそ今の俺に最も必要な最高の人材なんだ!」
-----------------------------------------------------------------------------------
《あとがき》
新ヒロイン登場です。
彼女はこれから結構振り回されます。
お楽しみに。
《旧Twitter》
https://twitter.com/USouhei
――……………………ゥゥ……
「怖くない、ほら、怖くないぞー、大丈夫。怖くないからなー」
「……何してんの? アホみたいな歌とか歌っちゃって。しかもとんでもなく音痴だし」
「うるさい! 音痴言うな! テイムできないか試してるんだよ!」
そう、テイム――テイムだ。
図書館で借りて読んだ本に、一部のモンスターはテイムし、仲間にすることができるという記述があった。
すでに依頼のあった炎狼三体の討伐を終えたので、そのことを思い出しこうして試しているわけだ。
炎狼の子どもに。
「あのねえカイト、あんたがどんな本を読んだか知らないけどさ、炎狼はテイムできないよ? すっごい警戒心が強くて、家族以外の同族にだって牙を剥くんだから」
「それは大人の炎狼だろ? 右も左もわからない小さい子どものうちならばワンチャンあるって書いてあったぞ」
「あくまでワンチャンだよそれ。魔物使いみたいな専門職じゃないと捕まえるのは無理だって」
「何事もやってみないうちはわからないじゃねーか。とりあえずやってみるが俺のモットーなんだ」
「どうなってもあたしは知らんよ?」
そう言い、ミーナは後ろに一歩距離を取った。
いかにも「あー、バカだわコイツ。無理に決まってんのに」とでも言いたげな視線を俺に送っている。
見てろよミーナ、その小バカにした視線を驚きに変えてやるからな。
本当のバカは常識に囚われ、挑戦することを止めた人間なのさ!
「ほら、お腹空いてないか? さっき取れたばかりの一角ウサギの肉だぞー♪ これをやるからとりあえずモフらせて――」
――ガァウ!(ボッ!)
「あっちいいいいぃぃぃぃぃーーっ!?」
「……言わんこっちゃない」
炎狼の真っ赤な毛に触れようとした瞬間、全身が発光して燃え上った。
あまりの熱さに、思わず手に持っていた兎肉を手放してしまう。
――ワンッ!
「あ、待て! 待ってくれ! 俺の店でコンロになってくれーっ!」
店の経営から来る俺の魂の叫びも空しく、炎狼の子どもは兎肉をくわえて魔の森の奥へと行ってしまった。
「ああ、あいつがテイムできれば店の燃料代が浮くのに……」
「だから無理って言ったっしょ? さ、ご飯にしよ。兎肉、まだあるんでしょ?」
「……おう」
俺は無限袋から携帯用の調理器具と炎の魔力が込められた燃料石、そしてさっき取られた兎肉の本体を取り出した。
すでに解体は終わっており、見た目は小さめのターキーに見える。
「今日は何を作ってくれんの?」
「兎肉でできるかはわからないが、今日は唐揚げを作ろうと思う」
「へぇ、聞いたことないけどきっと美味いんでしょ? 楽しみぃ♪」
唐揚げ――それは日本人なら誰もが知っているであろう伝統料理の一つ。
サクサクの衣を纏わせた鶏肉を、高温の油でカラッと揚げるだけのシンプルだがとても奥深い味わいを持つ、飲み屋の鉄板メニューでもある。
日本を訪れた外国人にもとても人気の高いこのメニュー、きっと異世界人も気に入るに違いない。
「石の配置はこんなもんか。ミーナ、燃料石を起動してくれ」
「はーい」
俺の頼みでミーナが火をおこす。
何度か一緒に冒険をしているからか、細かい指示がなくても火力の具合がちょうどいい感じである。
よし、あとは油があったまるのを待つだけだ。
その間に肉の準備をしよう。
「本来はタレに漬け込まなきゃいいけないんだけど……」
今は外なので贅沢は言っていられない。
袋の中からニンニクとショウガに当たる食材を取り出して細かく刻む。
そして塩コショウを少々肉に振りかけ、先ほど刻んだニンニクとショウガも合わせてよく揉み込んだ。
「お、よくわからないけど美味しそう。なんて言うか、お酒に合いそうな予感!」
「合うぞ。この料理は俺の国では飲み屋の鉄板なんだ」
雑談をしながらも料理は続く。
この世界は醤油がないので代わりにソースだ。
ウスターソースのような味わいを持つそれを、料理用に作ってもらった袋の中に大量にIN。
その中にこっそり作った俺特製マヨネーズを入れる。
その後、一口サイズに切った兎肉も入れる。
そして揉む。
「カイトー、油がパチパチしてきたよ」
「サンキュー。じゃあ、もうそろそろ良さげだな」
唐揚げを作る最後の仕上げだ。
商人ギルドから購入した小麦粉と片栗粉にあたるものを適度にまぶして油の中に投入。
油の熱さに粉が弾け、食材が踊りながら中で泳ぐ。
「ふわああぁぁぁぁ……まだ? ねえまだ?」
「もうすぐだ。ほら、一人前お待ち」
油の中から肉をすくい上げ、用意していた皿の上に置く。
俺の知る唐揚げとはちょっと違う、異世界の唐揚げが完成した。
「本当は鶏肉でやるんだけど、まあ兎も鳥の親戚だし大丈夫だろ」
「え? そぅなの? 見た目全然違うじゃん」
「違っても実際そうなんだよ。肉の味も近いしな。だから唐揚げにしたわけだが」
「まあ細かいことはどうでもいいや。早速食べていい? このまま手で食べていいの?」
「いいよ。熱いうちに食ってくれ」
「それじゃあ――いただきます」
――パクッ。
――ジュワアアアアアァァァァァァッ!
「はあああああああああああっっ! 美味っっっっしーーーーぃぃぃぃっ! 口の中に入れた瞬間、ニンニクとショウガの香りが充満する! その香りが噛んで生まれた肉汁としみ込んだ油に絡まって口の中が幸せの大洪水だよ! んんんんん~~~~♥♥♥」
頬を抑え、恍惚の表情を浮かべながらミーナが語る。
こいつ食レポ上手くなったなあ。
「噛めば噛むほど味に深みができるし、飲み込んだ瞬間胃にガツンとくるから食べ応え十分だし! あーっ! お酒欲っしーっ!」
気持ちはよくわかる。
だけどこの世界、ビールがないんだよな。
揚げ物とタッグを組んだら世界一合うであろうドイツ出身のヤツの存在が。
オーダー可能な酒蔵とかないかな?
作り方は知識としては持っているから、頼んで作ってもらえないだろうか?
「はふっ! はふはふっ!」
「そんな一気に食べると口の中やけどするぞ。誰も盗らないから落ち着いて食えって」
「わかってるけどさっ! はふっ! 美味っ! とまんないんだよこれ!」
「そこを何とか止めなさい。年頃のお嬢さんなんだから。ほら、追加だ」
「わーい♪」
「そろそろ俺も……そうだ。このパンを二つに切って、その中に唐揚げと葉物野菜を置いて、さっき使ったソースをちょっとだけかける――よし、唐揚げバーガーだ」
ただ食べるのもいいけど、主食と一緒に食べても美味い。
それが世界揚げ物王座統一戦タッグマッチ王者――唐揚げという料理である。
では、俺もいただこうか」
しっかり料理に手を合わせて――、
「未知の味への出会い、興奮、そして新たな食材の命に感謝を込めて――いただきます!」
――バクッ!
「っっっっかあああぁぁぁぁーーっ! 美味いっ! 兎肉なんでどうかと思ったけど、これはこれでアリじゃないか! 俺の知ってる唐揚げのようで唐揚げじゃない! 唐揚げの新世界だ! 鶏肉よりも全体的にサッパリした味だからか、たっぷり油に漬けたところで油っこくない! それでいて筋肉には弾力性があって噛み応えがある! あーっ! これはレモンが欲しい! 俺、唐揚げはレモンかけない派だったけどこっちは絶対かけたほうが美味いやつだ!」
「あ、ずるい! カイト、あたしもそれ作って! ソースはたっぷりでね」
「はいよ。ほら、食え」
「あびゃびゃびゃびゃびゃびゃびゃびゃ!」
「どういうコメントだよ(笑)」
「ごめん。あまりの美味しさに一瞬脳を失くしちゃったわ……」
異世界風唐揚げ――大成功である。
「ねえカイト、これ店のメニューに出そうよ! 一角ウサギならEランク以下の冒険者でも狩れるから値段も抑えられるっしょ?」
「値段はいけるけど問題は数だなあ。乱獲して数が減ったら困るし」
一角ウサギはそこそこレアな魔物なのだ。
生息数が少ないので、定番メニューとしてはちょっと弱い。
養殖とかできれば迷わず行くんだけど。
「兎は現状だと限定メニューや日替わりメニューになりそうだな。値段は……銀貨1枚ってところか」
「1枚!? 絶対食べる! だから作る日は絶対教えてよね! もし教えなかったら今この場であんたを押し倒して、あんたの子どもを身ごもるから!」
「何でだよ!」
「だって、あんたの奥さんになれば常に作る料理を把握できるでしょ?」
「食い意地のために抱かれるとかねーわ。もっと自分を大切にしろよ」
「してるよ。こう見えてあたし処女だよ」
「そんな暴露はいいからとにかく食え。ほら、まだあるから!」
「わーい♪」
全く、やれやれだぜ。
でも、銀貨1枚でこの反応か。
通常ランチに使う金は銅貨50-60枚あたりが平均と聞く。
銀貨1枚はちょっとお高いのだ。
なのにこの反応――入れるか、メニュー。
「でも、やっぱスライムなんだよなー理想は」
数といい味といい、定番にするならやっぱりこれは外せない。
けど、現状俺が遭遇した奴を料理して出す以外に手段がない。
「何とかできないかなあ……」
「そういうのは考えても出てこない時は出てこないって。そのうち出てくるのを待とうよ」
「そうだな。そうするか」
果報は寝て待て――そういう諺もある。
ミーナの言う通り、今はただ待つとしよう。
その果報が訪れる時を――
……
…………
………………
翌日、冒険者ギルド。
「あ、カイトさんにミーナさん、おかえりなさい」
「ただいまマール♪ はいコレ。三匹ぶんの炎狼の毛皮と爪ね」
「はい、確かに。ところでミーナさん……美味しかったですか?」
「もう最っ高に美味しかったわよ! あんなの食べたの生まれて初めてだった!」
「いいなぁ……何で私はギルド職員なんでしょうか。冒険者をやっていればカイトさんと冒険に出れたのに! そして美味しいご飯をたくさん食べれるのに! 何故私はギルド職員なんて道を選んでしまったの!?」
いや、世間的にはギルド職員のほうがよっぽど羨ましがられる職業でしょうが。
そんな風に彼女を狂わせる魔物料理……可能性の塊でしかない。
「そういえばギルマスからの伝言なんですけど、例の件はある程度目途が立ったとのことです。二人で何か企んでるんですか?」
「はは、ええ、まあ……ですが一個問題があって。その問題が解決できない限り、企画倒れになりそう――」
――おいおい? ここは無能が来るところじゃないんだぜ?
――何もできない奴はおうちに帰ってママのミルクでも飲んでろよ。
――それとも、ここでパパのミルクでも飲むかぁ?
――ギャハハハハハハ!
「またやってるよあいつら……」
「他にやることないのかね、あのセクハラ冒険者ども」
えーと、確かダズとゴンザだったか?
俺がここに来た初日に絡んできたあいつらの名前。
「冒険者なら冒険しろっての」
「ミーナの言う通りだな。仕方ない……メンドくさいけど俺が一言」
「待ってください。この程度のことを自分で切り抜けられないようでは、いずれ冒険者として失敗します。手出しは無用です」
「ええ……? まあ、わかるけどさぁ」
「でもなぁ……見ていて気持ちのいいもんじゃないし」
「それでもです。それともあなた達は、あの人が大成するまで面倒を見てあげられるんですか?」
「………………」
「………………」
それを言われるとこちらも弱い。
俺は自分の店のことに加えて帰還方法の探索があるし、ミーナは明らかにめんどくさそうだ。
被害者は見たところ気弱な魔術師っぽい少女。
二人組の威圧にビクビクしながら「すいません……」と謝っている。
どう見ても冒険者として成功するようには見えない。
「かわいそうだけど見捨てるしかないね……」
「ああ、助けた結果、そう遠くないうちに死んでしまうほうがかわいそうだもんな……」
でも、関係ないところであの二人をボコすのは構わないだろう?
この件が終わったら、二人の帰り際にケンカふっかけて――
「そんな恰好しているくせに魔術師じゃないのかよ!」
「魔物使いだぁ? どんな魔物連れてるか見せてみろよ!」
「は、はい……スーちゃん、おいで」
「ピィ!」
少女の声に反応し、服のポケットから小さなスライムが出てきた。
「こ、これが、私の使役できる魔物です……」
「使役できる魔物ってスライムかよ! そんなFランクでも簡単に倒せるような小さな魔物、使役したところで何になるんだっての!」
「そんなんで魔物使い名乗られたら迷惑だわ! さっさと帰ってクソして寝て――」
「クソして寝るのはお前らのほうだ」
――バキドガゴシャグシャッ!
「あ、あばばばば……」
「な、何で……?」
俺は二人組を一瞬で黙らせ、この少女と向かい合った。
「あ、あの……ありがとうございます……でも、どうして? ひゃっ!?」
「きみ、名前は?」
「ク、クレアって言います……」
「そうか、クレアきみを助けたその理由は――」
――バッ!
「え、ええぇぇぇっ!?」
俺の取った行動に彼女が困惑する。
それはそうだろう。
自分のピンチを助けた男が、いきなり土下座を始めればそういう反応にもなる。
「どうか俺と組んでください! お願いしますっ!」
「な、何でですか!? 何でスライムしか使役できない私なんかを……」
「その能力が俺にとって、最も必要としている能力だからだ!」
一度顔を上げ、もう一度頭を下げる。
「頼むクレア! どうか俺と組んで欲しい! きみこそ今の俺に最も必要な最高の人材なんだ!」
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《あとがき》
新ヒロイン登場です。
彼女はこれから結構振り回されます。
お楽しみに。
《旧Twitter》
https://twitter.com/USouhei
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アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。
襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。
果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
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ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
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幼馴染パーティーを追放された錬金術師、実は敵が強ければ強いほどダメージを与える劇薬を開発した天才だった
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主人公である錬金術師のリューイは、ダンジョンタワーの100階層に到達してまもなく、エリート揃いの幼馴染パーティーから追放を命じられる。
彼のパーティーは『ボスキラー』と異名がつくほどボスを倒すスピードが速いことで有名であり、1000階を越えるダンジョンタワーの制覇を目指す冒険者たちから人気があったため、お荷物と見られていたリューイを追い出すことでさらなる高みを目指そうとしたのだ。
片思いの子も寝取られてしまい、途方に暮れながらタワーの一階まで降りたリューイだったが、有名人の一人だったこともあって初心者パーティーのリーダーに声をかけられる。追放されたことを伝えると仰天した様子で、その圧倒的な才能に惚れ込んでいたからだという。
リーダーには威力をも数値化できる優れた鑑定眼があり、リューイの投げている劇薬に関して敵が強ければ強いほど威力が上がっているということを見抜いていた。
実は元パーティーが『ボスキラー』と呼ばれていたのはリューイのおかげであったのだ。
リューイを迎え入れたパーティーが村づくりをしながら余裕かつ最速でダンジョンタワーを攻略していく一方、彼を追放したパーティーは徐々に行き詰まり、崩壊していくことになるのだった。
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