どうしてもモテない俺に天使が降りてきた件について

塀流 通留

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第24話 過去からの手がかり

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 ――カタカタカタ……

 夕暮ゆうぐれの太陽光が窓から差し込む。

 午後4時の天界。
 オフィスの一角でキーボードをキズナが叩く。

 キズナは天界に帰るや否や、過去の報告書を読みあさっていた。
 今のようにデジタル化される前の案件から、何から何まで、全て。

 今はデジタル化、作業の効率化、人件費の削減などで、レベル2以下の案件は修正バッチを当てるという形になっているので、レベル1、レベル2案件の大まかな概要は知っていても、詳細な内容は知らない。

 キズナはそのことに気づき、低レベル案件を調べ直していた。
 レベル1やレベル2案件の中から、今日の太陽のような好感度の異常加速や、運命の複雑なからまりなどを見せた案件が過去になかったかを。

 調べ始めてからもうすぐ2時間になる……が、いまだにそのような前例は出てこない。
 すでに終わった仕事なのに、これほどまで執着しゅうちゃくする必要はあるのだろうか。

 あるのだ。少なくともキズナの中ではまだこの仕事は終わっていない。
 だから上司にも完了の報告はしていない。

 結果だけ見れば仕事は成功。
 だが、それも原因不明の要因が働いた結果でしかない。

 その原因が何か解明されないかぎり仕事は終わりじゃない。
 終わりにしてはいけない。

「……これも違う。次……ん? 何これ? レベル4じゃん。何でレベル2の報告書の中にレベル4が混じってるの?」

 報告書の日付は今から約30年近く前、場所は自分と同じ日本で案件もヴォイド。
 報告書の管理ミスに少しいきどおりを感じたキズナだったが、報告書の内容が気になりすぐにどうでもよくなった。

「報告者の名前は【リツ】……聞いたことない名前だ。レベル4を解決したなら、それなりに名前が売れててもいいはずなのに」

 数十年に一度程度ていどしか発生しないレベル4案件だ。
 難易度や数から考えても、それを解決に導いた者ならば天使として名をせてても全然おかしくない。

「まあいいや。そんなことより内容内容。え……と、『私は泰三という少年に巣食ったバグを排除はいじょするため、彼と片想いの少女の間に赤い糸を結ぶべく、〈天使の弓矢〉を使って二人の運命の糸をつないだ』……そっか、この頃はまだデジタル化してないもんね」

 天界のデジタル化が完了したのは20年前、この案件の後だ。
 このころの天使は、まだ弓矢を使って人々の恋をプロデュースしていた。

「『2人の心を赤い糸で結びつけることに成功した。私は天界に戻り泰三のアカシックレコードに巣食ったヴォイドの経過けいか監視かんししたのだが』――!? 何だって!?」

 報告書にはこう書かれていた。

「『2日もたないうちに赤い糸が切れた。本来であれば結びついている2人の赤い糸から幸福が染み出し、徐々じょじょにバグは消えていくはずだがそうはならなかった」』

 全部シナリオを終わらせないうちに、結びついてしまった自分とは逆だ。
 しかしキズナは直感で、この報告書にこそ自分が欲しかった情報があると確信かくしんする。

「『何度結んでも2人の間の赤い糸は切れる。2人の情報を1から洗い直した私が得た驚愕きょうがくの真実は――』」

 マウスのホイールをスクロールさせる。

「『相手の彼女のほうにもバグがあった。バグの名前は《スルー》、レベル1の案件だ。立ったはずのフラグを無意識にスルーしてしまうというもの。私はこのバグを直そうと彼女の運命にも干渉かんしょうしようとしたのだが……できなかった。ヴォイドと接触したスルーはその性質を格段に向上させ、通常の処理方法では対応できなかったのだ。どうやらレベル4と接触した際に力を分け与えてもらったらしく、弱点が変更されていた。私は泰三や他の同僚どうりょうと協力し、このバグの弱点を解析し、専用の除去手段の確立を』……って、これで終わり!?」

 何故か結末部分が削除されていた。
 だが十分すぎるほどのヒントはすでに出ている。

 キズナはディスプレイの画面を切り替え、今日の太陽とその相手である真奈の運命の調査を始める。
 それと同時に、様々な症例しょうれい掲載けいさいされている資料を開き、今日のようなことが起きるものを確認する。

 めまぐるしく視線を動かし、1秒でも早い解決を試みる。
 あの時感じた、言いようのない不安感をぬぐい去るために。

「太陽…………無事でいて!」



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 《あとがき》
 ここから先、運命のバグが牙を剥きます。
 ラブコメはここまでだ。
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