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第6話 幸せになるための方法
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「ボクたち天使の仕事はね、理不尽な不幸から人間を守ることなんだ。努力しているのに報われないなんて、そんなことは絶対にあっちゃいけないから」
努力すれば報われるべきだし、善人は幸せを掴むべきだ――とキズナ。
「そうするための手段と道具も、ちゃんと作られているから安心して」
「レベル4案件でも?」
「当ー然っ!」
自信満々にキズナは言った。
おそらく本当に対策する方法があるのだろう。
あー、びっくりした。心底焦った。
あんな最悪人生を送ることになったらどうしようかと思ったぜ。
「じゃあ早速始めようか」
「おうよ! ……でも、具体的にはどうやって?」
「それを使うんだよ」
キズナが俺の制服のポケットを指さした。
この中には先ほどキズナが入れた、件の怪しいスマホが入っている。
「出してくれる?」
「ああ、いいけど」
俺はポケットに手を突っ込んだ。
中身を取り出しキズナに手渡す。
「このスマホでどうやるんだ?」
「ふふ……まあ見ててよ」
そう言ってキズナはアプリを立ち上げた。
当然ながら見たことも聞いたこともないアプリである。
「このモテホンの中にインストールされているこれ。このアプリケーションこそがバグを直接修正するためのアプリなんだ。Wish Starって言うの」
「残念な機種名の次は随分とメルヘンチックな名前だこと」
天使のネーミングセンスどうなってんだよ?
Wish Star――とかメルヘンすぎる。
メルヘンな存在だから名前もヘルヘンなのか?
「で、それをどう使うんだ?」
「このアプリを使って彼女を作るんだよ」
「ほう、なるほど。彼女を作るのか。そうかそうか――ってどうやってだよ!?」
努力だけじゃなくて、恋愛フラグも全部無効化されるんじゃないの?
その状態でどうやって彼女を作れと?
「っていうか、俺の運命の修正と彼女を作ることにどんな因果関係があるんだ?」
「んーと……、バグって色々あるけど、そのどれもが人を不幸にするものなのね」
口に指を当て、思案顔でキズナが説明する。
「バグは不幸を糧として不幸を産み出し蓄積する永久機関なの。だからこのアプリを使って無理矢理幸せになって、強制的に不幸を打ち消し中和するってわけ」
彼女をがいるのって幸せでしょ?
キズナはそう俺に同意を求めた。
「このアプリは簡単な事象なら運命の上書きができるから。例えバグ発生中でも、彼女くらいなら問題なくできるよ」
「マジでか!?」
何だよモテホン! 最高じゃん!
彼女イナイ歴=年齢の俺にも、
太陽くんって友達としては最高だけど恋人としてはちょっと――とか言われ続けた俺にも、
ついに彼女がでっきるというのか!?
しかもこんな簡単に!
天使の道具やべーな!
ドラ〇もんだってこんないいもの持ってないぞ絶対!
「でも、何で彼女を作るんだ? 幸せになればいいっていうなら、他にも色々あるだろうに」
「宝くじの1等当てるとか? ダメダメ! そんなことしたら生活環境が大きく変わるから、余計に運命がねじ曲がっちゃうよ。彼女を作るくらいのささやかな幸せじゃないと、余計変にバグっちゃう」
なるほど、納得した。
「別に彼女でいいでしょ? 太陽モテないんだし」
「たしかにいいけど大きなお世話だ」
事実だけど、改めて他人にそう言われるとちょっとムカつくぞ。
「恋人を作れると簡易的な運命共同体になるからね。単純に保有する幸せの量が2人分になるからバグを修正する力が2倍になるし、仲が深まれば幸せもどんどん増えていくからそれだけ早く修正も終わるんだ」
そう言いながら、キズナがスマホを操作する。
「それじゃあ本番の前に、ちょっと使い方を練習してみようか」
絆はリングに手を突っ込むと、タブレットを取り出し電源を入れた。
デスクトップ画面が表示されるまでの間に、キズナはもう一度手を突っ込み、数枚のプリントを取り出し俺に渡す。
「今からこの公園内にいるカップルを検索する。ボクが調べている間、太陽はこれでも読んでて」
「これは?」
「モテホンの説明書だよ。操作に必要な最低限の知識の一部を抜き出したもの」
「結構量があるな……」
「それくらい我慢してよ。でも、スマホの説明書って何でそんなに分厚いんだろうね?」
「ぶっちゃけ読む気力失せるよな。あんなに厚いと」
それでも読まないわけにもいかず、しっかりじっくりと内容を読む。
専門用語で眠くなりそうだったけど、何とか耐えて読み切った。
「キズナー、読み終わったけどそっちはまだか?」
「んー、もうちょい」
そう受け答えするキズナの指はまるでタップダンスを踊っているかのようだ。
残像が見えるくらいブラインドタッチが速い。
「キズナってキーを打つのすげえ早いな」
「まーねー、15の時からこの仕事してるし」
「へえ、今何歳?」
「17歳。太陽と同い年だね」
「天使ってそんなに早く社会に出るのか?」
「ううん、ボクが特別。飛び級で学校出ちゃったから働いてるってだけ」
多くの天使は人間と同じだよ――と説明を受けた。
人も天使もあまり変わらないんだな。
「よし、候補者選び完了! 太陽、しっかり説明書読んだ?」
「ああ、何とか」
「本当に? 言っておくけど、使い方を間違えたら取り返しのつかないことにだってなりうるんだからね」
「……大丈夫。覚えてるから」
でも、念のためもう一度くらい読み返しておこうかな?
取り返しがつかないことになったら嫌だし。
自分の運命がかかっているから、当然間違えるつもりはない。
だけど、改めてそう言われたら不安になるって言うか……。
「ごめん、もう一回だけ読み直していい?」
「いいよ、ボクは他の調べ物するからごゆっくりどうぞ」
俺はキズナに許可をもらい、再度じっくりと読み返した。
一言一句、意味を間違えないよう、高校受験時並みの集中力で徹底的に内容を頭に叩き込んだ。
--------------------------------------------------------------------------------
《あとがき》
この部分もかなり修正しました。
一回リメイクしたタイミング、今思えばブレインフォグ中だったのかも。
努力すれば報われるべきだし、善人は幸せを掴むべきだ――とキズナ。
「そうするための手段と道具も、ちゃんと作られているから安心して」
「レベル4案件でも?」
「当ー然っ!」
自信満々にキズナは言った。
おそらく本当に対策する方法があるのだろう。
あー、びっくりした。心底焦った。
あんな最悪人生を送ることになったらどうしようかと思ったぜ。
「じゃあ早速始めようか」
「おうよ! ……でも、具体的にはどうやって?」
「それを使うんだよ」
キズナが俺の制服のポケットを指さした。
この中には先ほどキズナが入れた、件の怪しいスマホが入っている。
「出してくれる?」
「ああ、いいけど」
俺はポケットに手を突っ込んだ。
中身を取り出しキズナに手渡す。
「このスマホでどうやるんだ?」
「ふふ……まあ見ててよ」
そう言ってキズナはアプリを立ち上げた。
当然ながら見たことも聞いたこともないアプリである。
「このモテホンの中にインストールされているこれ。このアプリケーションこそがバグを直接修正するためのアプリなんだ。Wish Starって言うの」
「残念な機種名の次は随分とメルヘンチックな名前だこと」
天使のネーミングセンスどうなってんだよ?
Wish Star――とかメルヘンすぎる。
メルヘンな存在だから名前もヘルヘンなのか?
「で、それをどう使うんだ?」
「このアプリを使って彼女を作るんだよ」
「ほう、なるほど。彼女を作るのか。そうかそうか――ってどうやってだよ!?」
努力だけじゃなくて、恋愛フラグも全部無効化されるんじゃないの?
その状態でどうやって彼女を作れと?
「っていうか、俺の運命の修正と彼女を作ることにどんな因果関係があるんだ?」
「んーと……、バグって色々あるけど、そのどれもが人を不幸にするものなのね」
口に指を当て、思案顔でキズナが説明する。
「バグは不幸を糧として不幸を産み出し蓄積する永久機関なの。だからこのアプリを使って無理矢理幸せになって、強制的に不幸を打ち消し中和するってわけ」
彼女をがいるのって幸せでしょ?
キズナはそう俺に同意を求めた。
「このアプリは簡単な事象なら運命の上書きができるから。例えバグ発生中でも、彼女くらいなら問題なくできるよ」
「マジでか!?」
何だよモテホン! 最高じゃん!
彼女イナイ歴=年齢の俺にも、
太陽くんって友達としては最高だけど恋人としてはちょっと――とか言われ続けた俺にも、
ついに彼女がでっきるというのか!?
しかもこんな簡単に!
天使の道具やべーな!
ドラ〇もんだってこんないいもの持ってないぞ絶対!
「でも、何で彼女を作るんだ? 幸せになればいいっていうなら、他にも色々あるだろうに」
「宝くじの1等当てるとか? ダメダメ! そんなことしたら生活環境が大きく変わるから、余計に運命がねじ曲がっちゃうよ。彼女を作るくらいのささやかな幸せじゃないと、余計変にバグっちゃう」
なるほど、納得した。
「別に彼女でいいでしょ? 太陽モテないんだし」
「たしかにいいけど大きなお世話だ」
事実だけど、改めて他人にそう言われるとちょっとムカつくぞ。
「恋人を作れると簡易的な運命共同体になるからね。単純に保有する幸せの量が2人分になるからバグを修正する力が2倍になるし、仲が深まれば幸せもどんどん増えていくからそれだけ早く修正も終わるんだ」
そう言いながら、キズナがスマホを操作する。
「それじゃあ本番の前に、ちょっと使い方を練習してみようか」
絆はリングに手を突っ込むと、タブレットを取り出し電源を入れた。
デスクトップ画面が表示されるまでの間に、キズナはもう一度手を突っ込み、数枚のプリントを取り出し俺に渡す。
「今からこの公園内にいるカップルを検索する。ボクが調べている間、太陽はこれでも読んでて」
「これは?」
「モテホンの説明書だよ。操作に必要な最低限の知識の一部を抜き出したもの」
「結構量があるな……」
「それくらい我慢してよ。でも、スマホの説明書って何でそんなに分厚いんだろうね?」
「ぶっちゃけ読む気力失せるよな。あんなに厚いと」
それでも読まないわけにもいかず、しっかりじっくりと内容を読む。
専門用語で眠くなりそうだったけど、何とか耐えて読み切った。
「キズナー、読み終わったけどそっちはまだか?」
「んー、もうちょい」
そう受け答えするキズナの指はまるでタップダンスを踊っているかのようだ。
残像が見えるくらいブラインドタッチが速い。
「キズナってキーを打つのすげえ早いな」
「まーねー、15の時からこの仕事してるし」
「へえ、今何歳?」
「17歳。太陽と同い年だね」
「天使ってそんなに早く社会に出るのか?」
「ううん、ボクが特別。飛び級で学校出ちゃったから働いてるってだけ」
多くの天使は人間と同じだよ――と説明を受けた。
人も天使もあまり変わらないんだな。
「よし、候補者選び完了! 太陽、しっかり説明書読んだ?」
「ああ、何とか」
「本当に? 言っておくけど、使い方を間違えたら取り返しのつかないことにだってなりうるんだからね」
「……大丈夫。覚えてるから」
でも、念のためもう一度くらい読み返しておこうかな?
取り返しがつかないことになったら嫌だし。
自分の運命がかかっているから、当然間違えるつもりはない。
だけど、改めてそう言われたら不安になるって言うか……。
「ごめん、もう一回だけ読み直していい?」
「いいよ、ボクは他の調べ物するからごゆっくりどうぞ」
俺はキズナに許可をもらい、再度じっくりと読み返した。
一言一句、意味を間違えないよう、高校受験時並みの集中力で徹底的に内容を頭に叩き込んだ。
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《あとがき》
この部分もかなり修正しました。
一回リメイクしたタイミング、今思えばブレインフォグ中だったのかも。
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