上 下
202 / 236

ミリもない。

しおりを挟む
 「あれはいったい、何だ‥‥‥‥?」
「何か壊してる‥‥‥のか?作ってるのか?」
「‥‥‥‥さっぱり、わからん」

 ゲーム感覚の土木建築を、現実でやっているなんて、懇切丁寧に説明してもまず理解されないだろう。

 遠目から破落戸達がのぞき見しているその先では、くそデカい石を一撃で粉砕し積み上げている様子に首を傾げた。

「どうでもいいが、森の奥地に入りすぎだ。浅瀬付近まで戻るぞ」
「そうだな、こんな所で魔獣に囲まれたらシャレにならん」

 不可解な行動をしている人物に気取られないように、破落戸共はその場を後にした。
 
 だがその気付かれていないと思っていた行動は、フェンリルである白陽には知られていた。
 ただ、こちらをチラチラ伺うだけで何も事を起こす様子がなかった為、捨てておいたのだ。一つだけ文句を言うなら「──臭い」の一言だけだった。

 そんな目こぼしをしてもらっているとはつゆ知らず、破落戸達は『深淵の森』入口近くまで戻っていた。

「それでお前、あんな奴相手にどうすんだよ?」
「そうだぜ。おまけに従魔連れじゃねぇか。アレ普通じゃねぇぞ」

「コレを使うって言っただろ」

 男は懐から領主からもらった『丸石』を取り出した。
 とたん、持っている本人以外の顔がしかむ。
 前々から怪しんでいたが、「コイツ、匂うよな」だ。
 ただそれを当人には言わず、周りで交わす視線で確認し合っていた。
 ─────コイツくせぇよな? 本人気付いてねぇ? もしかして鼻が悪いんじゃ?
 そんな無言の会話をしながら皆、示し合わせたように二三歩男から離れた。

「それをどうすんだよ」

 こうすんだよ。と言いながら男は『丸石』を矢に括り付けた。
 
「えーと。後はなんだ?『呪文』がいるんだっけか?」

 汚い紙に書かれた『呪文』とやらを唱えだすと、一段と辺りに刺激臭が漂いだした。

「─────うっ!」
「くっせぇっ!」
「なんだよこれ!」
「なんでもいいから、さっさとやれよ!」
「お前ら何言ってんだよ。そんでもってコレを─────」

 遠距離用の弓で、例の人物がいるであろう方角の空に放った。

「─────へへへ。『深淵の森』の中は魔獣がうじゃうじゃいるからな。数で押しゃあどんだけ強ぇ奴でもイケるだろ」

 ─────なぁ?と仲間を振り返ったが、すぐ後ろにいた男達は違う方向を見ながら、じりじりと後退していた。

「お前らどうしたよ?」

 仲間が無言で指さす方向を確認するや、男も瞬時に顔色が悪くなった。

「‥‥‥‥ブ、ブライトモンキーだと‥‥‥‥うそだろ、こいつ等はもっと奥地‥‥‥‥」

 『深淵の森』の深層部に生息していると言われている『ブライトモンキー』。
 毛並みは白に近い灰色。集団で行動し、その姿は巨大。─────そして何より狂暴。   

 ‥‥‥‥ギャアアアァァァァァ─────‥‥‥‥‥‥‥‥

 遠くから、なにか悲鳴のような声がかすかに聞こえた。

「─────ん?何? シロ君何か聞こえた?」

「実力も無いのに、森に入りすぎたんだろ」

「そっか~。見極めるって大変だもんね~」

 目下、土木建築に夢中な人物に、ミリも興味は引く事なかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

今日も聖女は拳をふるう

こう7
ファンタジー
この世界オーロラルでは、12歳になると各国の各町にある教会で洗礼式が行われる。 その際、神様から聖女の称号を承ると、どんな傷も病気もあっという間に直す回復魔法を習得出来る。 そんな称号を手に入れたのは、小さな小さな村に住んでいる1人の女の子だった。 女の子はふと思う、「どんだけ怪我しても治るなら、いくらでも強い敵に突貫出来る!」。 これは、男勝りの脳筋少女アリスの物語。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

転生騎士団長の歩き方

Akila
ファンタジー
【第2章 完 約13万字】&【第1章 完 約12万字】  たまたま運よく掴んだ功績で第7騎士団の団長になってしまった女性騎士のラモン。そんなラモンの中身は地球から転生した『鈴木ゆり』だった。女神様に転生するに当たってギフトを授かったのだが、これがとっても役立った。ありがとう女神さま! と言う訳で、小娘団長が汗臭い騎士団をどうにか立て直す為、ドーン副団長や団員達とキレイにしたり、旨〜いしたり、キュンキュンしたりするほのぼの物語です。 【第1章 ようこそ第7騎士団へ】 騎士団の中で窓際? 島流し先? と囁かれる第7騎士団を立て直すべく、前世の知識で働き方改革を強行するモラン。 第7は改善されるのか? 副団長のドーンと共にあれこれと毎日大忙しです。   【第2章 王城と私】 第7騎士団での功績が認められて、次は第3騎士団へ行く事になったラモン。勤務地である王城では毎日誰かと何かやらかしてます。第3騎士団には馴染めるかな? って、またまた異動? 果たしてラモンの行き着く先はどこに?  ※誤字脱字マジですみません。懲りずに読んで下さい。

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?

甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。 友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。 マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に…… そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり…… 武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

裏切られた公爵令嬢は、冒険者として自由に生きる

小倉みち
ファンタジー
 公爵令嬢のヴァイオレットは、自身の断罪の場で、この世界が乙女ゲームの世界であることを思い出す。  自分の前世と、自分が悪役令嬢に転生してしまったという事実に気づいてしまったものの、もう遅い。  ヴァイオレットはヒロインである庶民のデイジーと婚約者である第一王子に嵌められ、断罪されてしまった直後だったのだ。  彼女は弁明をする間もなく、学園を退学になり、家族からも見放されてしまう。  信じていた人々の裏切りにより、ヴァイオレットは絶望の淵に立ったーーわけではなかった。 「貴族じゃなくなったのなら、冒険者になればいいじゃない」  持ち前の能力を武器に、ヴァイオレットは冒険者として世界中を旅することにした。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

転生幼女の怠惰なため息

(◉ɷ◉ )〈ぬこ〉
ファンタジー
ひとり残業中のアラフォー、清水 紗代(しみず さよ)。異世界の神のゴタゴタに巻き込まれ、アッという間に死亡…( ºωº )チーン… 紗世を幼い頃から見守ってきた座敷わらしズがガチギレ⁉💢 座敷わらしズが異世界の神を脅し…ε=o(´ロ`||)ゴホゴホッ説得して異世界での幼女生活スタートっ!! もう何番煎じかわからない異世界幼女転生のご都合主義なお話です。 全くの初心者となりますので、よろしくお願いします。 作者は極度のとうふメンタルとなっております…

処理中です...