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空気読み
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「さあさあ、沢山食べなさい」
「あ、はい。いただきます」
強面のおっさんが、年端もいかない兄妹を街の食堂に連れ出し、テーブルを囲んでいた。 遠慮がちな兄とは違い、妹の方はテーブルの上に並べられた料理に目を輝かせ、本人的には勢いよく食べているつもりらしいが、その一口は小さくあむあむと頑張って食べている姿は、周りの大人達をほんわかさせている。
「子供が、遠慮なんかするなよ。君は大変な思いをしたんだ。なに、これぐらいの事しか出来ないのが申し訳ないくらいだ」
「い、いいえ。長には十分お世話になっております!」
素直な返事が、人生やさぐれモードだった長の心に染みわたる。
朝から怒涛の様な出来事がてんこ盛りだったが、長年手放せなかった帽子とも別れられたのだ! 怒涛の雑務など無いも同然だっ。
「両親にもわざわざ『早鳥』で連絡してもらって‥‥‥‥」
「お主たちは攫われたのだ。親としては早く詳細が知りたいものだ。お主たちの父親は元冒険者だったのだな。馬で迎えに来ると先ほど連絡があったぞ」
そう聞くと少年は、心底嬉しそうな笑顔になった。
「それはそうと、お主たち二人とも、本当に体調に問題はないのか?」
「はい、僕も妹も異常はないです。かえっていつもより体力がある感じです。─────妹は目が良く見えるようになって、嬉しくって。早く両親に報告したいです」
あむあむとパンを嬉しそうに頬張っている妹を、少年は頭を撫でつつ口にの端に付いたパンくずを取ってやる。
「そうだな‥‥‥‥」
自身の後頭部を撫でながら、先刻までの嵐の様な出来事を思い出す。
「そういえば、あのお姉さんは街を出られたんですか?」
「ああ‥‥‥‥。砦に戻ったのではないのかな‥‥‥‥」
砦の方角から上がった火柱を見て、目の前から消えた三人組(フェンリル込)。
あれから砦の方向から爆発音も響いてこないし、煙も上がっていない。何が起こったのかは後から情報が入ってくるだろうが─────件の人物が介入したのは間違いないだろうな‥‥‥‥なんか憤慨している様子だったし‥‥‥‥。
いきなり転移の『陣』が目の前で発動したのも初めての出来事だった。
あまりの初動の速さに、何が起こったのか、しばらく理解が追い付いてこなかった。
「─────砦ですか?あの人騎士団の方だったんですね。『深淵の森』で単独行動できるなんて、騎士の方ってやっぱり凄いんですね!」
─────騎士でも単独は無理ぃっ!
あの何が生息しているのか、未だに解明されていない『深淵の森』で単独行動など、死と同意語だ。────いや、あやつはフェンリルと一緒だったな。ならば行けるのか?‥‥‥‥いや、そもそもフェンリルが、そこら辺をウロウロしているものか。
そもそもあやつは‥‥‥‥。
『身分証』の作成時に見せられた、前世紀の『仕組み』により、どエライものを見せられたのだ‥‥‥‥。
「‥‥‥‥いや、あやつは騎士ではない」
「え、違うのですか?」』
「あやつは、異国から来た『普通』の旅人だそうだ‥‥‥‥」
「そ、そうなんですか‥‥‥‥」
年端もいかない子供に、空気読みをさせるなどなんとも情けない話だが、事実だしな‥‥‥‥。
─────ふと、パンに夢中だった女の子が、不思議そうにあたりをキョロキョロ見渡した。
「ん?どうしたんだ?」
「おにいちゃん‥‥‥‥なにか、きこえる‥‥‥‥」
─────なにが?と聞き返そうとした瞬間。自分の耳にも、その不思議な音が聞こえるのに気付いた。
「あ、はい。いただきます」
強面のおっさんが、年端もいかない兄妹を街の食堂に連れ出し、テーブルを囲んでいた。 遠慮がちな兄とは違い、妹の方はテーブルの上に並べられた料理に目を輝かせ、本人的には勢いよく食べているつもりらしいが、その一口は小さくあむあむと頑張って食べている姿は、周りの大人達をほんわかさせている。
「子供が、遠慮なんかするなよ。君は大変な思いをしたんだ。なに、これぐらいの事しか出来ないのが申し訳ないくらいだ」
「い、いいえ。長には十分お世話になっております!」
素直な返事が、人生やさぐれモードだった長の心に染みわたる。
朝から怒涛の様な出来事がてんこ盛りだったが、長年手放せなかった帽子とも別れられたのだ! 怒涛の雑務など無いも同然だっ。
「両親にもわざわざ『早鳥』で連絡してもらって‥‥‥‥」
「お主たちは攫われたのだ。親としては早く詳細が知りたいものだ。お主たちの父親は元冒険者だったのだな。馬で迎えに来ると先ほど連絡があったぞ」
そう聞くと少年は、心底嬉しそうな笑顔になった。
「それはそうと、お主たち二人とも、本当に体調に問題はないのか?」
「はい、僕も妹も異常はないです。かえっていつもより体力がある感じです。─────妹は目が良く見えるようになって、嬉しくって。早く両親に報告したいです」
あむあむとパンを嬉しそうに頬張っている妹を、少年は頭を撫でつつ口にの端に付いたパンくずを取ってやる。
「そうだな‥‥‥‥」
自身の後頭部を撫でながら、先刻までの嵐の様な出来事を思い出す。
「そういえば、あのお姉さんは街を出られたんですか?」
「ああ‥‥‥‥。砦に戻ったのではないのかな‥‥‥‥」
砦の方角から上がった火柱を見て、目の前から消えた三人組(フェンリル込)。
あれから砦の方向から爆発音も響いてこないし、煙も上がっていない。何が起こったのかは後から情報が入ってくるだろうが─────件の人物が介入したのは間違いないだろうな‥‥‥‥なんか憤慨している様子だったし‥‥‥‥。
いきなり転移の『陣』が目の前で発動したのも初めての出来事だった。
あまりの初動の速さに、何が起こったのか、しばらく理解が追い付いてこなかった。
「─────砦ですか?あの人騎士団の方だったんですね。『深淵の森』で単独行動できるなんて、騎士の方ってやっぱり凄いんですね!」
─────騎士でも単独は無理ぃっ!
あの何が生息しているのか、未だに解明されていない『深淵の森』で単独行動など、死と同意語だ。────いや、あやつはフェンリルと一緒だったな。ならば行けるのか?‥‥‥‥いや、そもそもフェンリルが、そこら辺をウロウロしているものか。
そもそもあやつは‥‥‥‥。
『身分証』の作成時に見せられた、前世紀の『仕組み』により、どエライものを見せられたのだ‥‥‥‥。
「‥‥‥‥いや、あやつは騎士ではない」
「え、違うのですか?」』
「あやつは、異国から来た『普通』の旅人だそうだ‥‥‥‥」
「そ、そうなんですか‥‥‥‥」
年端もいかない子供に、空気読みをさせるなどなんとも情けない話だが、事実だしな‥‥‥‥。
─────ふと、パンに夢中だった女の子が、不思議そうにあたりをキョロキョロ見渡した。
「ん?どうしたんだ?」
「おにいちゃん‥‥‥‥なにか、きこえる‥‥‥‥」
─────なにが?と聞き返そうとした瞬間。自分の耳にも、その不思議な音が聞こえるのに気付いた。
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