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三途の川

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 程なくして、ちょっとだけ行方不明だったラングは発見された。
   皆の予想通り、土の中から発見されたが意識がなかった。

「隊長っ!いましたっ!」

「やっぱり埋まってました!意識がありませんっ!」

 ズルズル引きずられても起きる気配がない。あせって目覚めさせようとにバシバシ顔を叩いた。

「ラング!おいっ!ラングっ!起きろっ」

 何度目かの時に、くわっとラングの目が開いた。

「ばあちゃんっっ!もう勘弁してくれっ─────あ?」 

 ばあちゃん‥‥‥‥? 隊員の間に微妙な沈黙が流れた。
 気まずい空気の中、若い隊員たちは戸惑っていたが、上官達は違っていた。

「死んだばあちゃんが、川の向こうでいつもの槍を振り回してたんだ‥‥‥‥」

「うんうん」

「『お前こっちに来るんか!来るからには仕上がってんだろうなっ!』て小突き回された‥‥」
   
「‥‥‥‥何という事でしょう」

「間にある川なんか関係なかった。コワかった‥‥‥‥」

「「師匠‥‥‥‥」」

 戸惑う若い隊員たちの背後で、上官たちと同年代の隊員が口を開く。

「若い奴らは知らんだろうが‥‥‥‥隊長たちの師匠だよ」

 隊長たちの師匠‥‥‥‥?誰だっけ?とお互い顔を見合わせる。
 
「『緋色の槍聖』と言えば分かるか?‥‥‥‥厳しい方だった‥‥‥‥くっ。何度、心を折られたか」

 当時の事を思い出したのか、彼は顔を両手で覆って膝から崩れた。

「恐ろしかった‥‥‥‥まだ、ばあちゃんに会いたくない」

 ‥‥‥‥そこは『死にたくない』じゃないんだろうか。というツッコミは空気を読んで飲み込んだ。
 騎士団の中でも一番体格のいいラングが、体を丸めてダンゴムシの様に小っちゃくなっている。その背中を二人の上官が「そうだな、そうだな」と慰めていた。
  騎士団の中でも実力が頭二つ三つ抜けていて、尊敬している上官達のこんな姿は、ちょっと見たくなかったと若い隊員たちは思った。


 前方で何やらすごい音が響いたと思ったら、脱出してきたらしい女の人達が合流したと知らせが来た。
 いそいで現場に行くと、累々と寝そべっている女の人達の中に、顔見知りの冒険者がいてその無事を喜んだのだが当の本人は

「‥‥‥‥生臭い‥‥レッドウルフとか‥‥‥‥もうあの感触いやや‥‥‥‥」

「‥‥‥‥もう轢くのはいや‥‥‥‥轢くのはいや‥‥‥‥」
 
 なにやら訳の分からないことを呟いて、遠い目をしていた。

 他の人達も汚れてはいたが、二人は特に頭やら服やら、色々なものが飛び散ったのか、なんだかひどい有様だった。

「あ、お知り合いですか~?取りあえず飲み物をどうぞ~」

 二人の間に、騎士団の雑用係の少年が水をもって現れた。

「お怪我はないですか~?着替えもありますが、取りあえず毛布をどうぞ~」
 
 他の女の人達の間をすばやく移動しながら、雑用係の少年はそつなく仕事をこなしていく。
 ただ、動いているのは彼だけで、後の騎士団の人間は、なにやら暗い顔で集合している。 

「あの人たちはどうしたんだ?」

「思い出にやられてるだけです~気にしないでくださ~い」

 雑用係の少年は、とびっきりの笑顔だった。


 十分あるから遠慮なく飲みなさい、と渡された水を二人で飲みながら、忙しく動き回る大人たちを眺めていた。
 夜が明けようと白々してきた空を見上げ、俺助かったんだ。妹もちゃんと連れてこれんだと安堵の息を吐いた。


「おにいちゃんっ!みてっ!!」

 突然立ち上がった妹にもびっくりしたが、指さす方向を見て更に驚いた。
 その光景に、周りの大人たちにもどよめきが走る。

「─────柱?光ってる」

 今では遠くなった深淵の森に、巨大な光の柱が出現したのだった。
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