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第2章

第20話 オーディン傭兵団対ポイズンファング傭兵団 決着

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飛んでいたマーカーの1つから5発の《ファイアーボール/炎の玉》が、まさに今から再び戦闘が始まろうとしていた両傭兵団の間で放たれ爆発した。魔法の爆発で両陣営は衝突せずに、ギリギリ戦闘がはじまる前に止まることができたようだ。全員が《ファイアーボール/炎の玉》の飛んできた上空を見る。

『ザザザザザザァ~』

地面に荒々しく滑り込みながら着地した6人は、ポイズンファング傭兵団とオーディン傭兵団の間に立ち、剣を抜いて威圧した。

「オメーラ! こんな街中で戦をするとはどんな了見なんだ! ぶっ殺されてぇ~のか!」

「「「ああっ、あいつは!」」」

両団員の間に割って入り話をはじめた男は、昨日、酒飲み勝負で戦ったアルベールであった。悪徳業者を恫喝した気迫といい、英雄と言われたルグランを引かせた胆力といい、とても並みの男とは思えなかった。さすが三大将軍、赤翼の英雄と呼ばれるだけはある。一言発しただけで両軍の勢いを止めてしまった。

「セシル! アレク……じゃなかった。あいつらは昨日、酒を飲んだ連中じゃない? えっと~、何傭兵団って言ってたっけ?」

「う~ん、何という傭兵団だったかな? バッド? レッド? グッドだったかな?」

「セシルさんとパックさんはアルベール様を知っているのですか? アルベール様はフェロニア市の最高戦力三大将軍の一角、レッドウィング傭兵団の団長です」

「ああ、そうそうレッドウィング傭兵団だ。やつとは色々と縁があってな」

ミアフラウラの産地ポルトゥ村では、馬車の御者をやってもらったな。それにアマリアの教会でも関係がある。迷宮都市フェロニアに来てから意外に関わる回数は多かった。

「チョッチョッチョ、アルベールは邪魔をするな! てめえには関係ないだろうが! 失せやがれ! もうすぐ東側が俺のものになるってのによ」

「おいライダー! この戦況のどこを見てそんなたわごとが言えるんだよ? 倒れている数百の傭兵のほとんどがオメーのとこの傭兵じゃねーか。ライダーは負けを認め、さっさと東側から去れ! 傭兵の掟をまさか忘れた訳じゃねーよな? それとも何か? まさかテメーは俺の顔を潰してレッドウィング傭兵団も敵にまわすとか言うのか? ああっ! どうなんだ!」

「くっ!」

「「「ダダダダダダダダダダダダッ」」」

「団長、遅れてすいやせん」

アルベールが放つ強者の気迫を受け、ライダーは苦悩の表情を浮かべ一歩下がってしまう。同時にアルベールの仲間100人がこの場に到着し、両陣営の間で長蛇の陣形を敷いた。それにしても傭兵の掟ってなんなのだろう?

「ミルア、傭兵の掟ってなんなのだ?」

「はい、傭兵団同士の抗争で負けると、アジトも蓄財も団員もすべて差し出すというものです。だから大きな傭兵団同士は確実に勝てるという勝算がないと争うことはありません」

「なるほど! オイラよく分かったよ。ザルツブルクもライダーの支配地域も勝利が確定したルーファスのものになるんだね!」

「はい、そうなります。ただ、ポイズンファング傭兵団には札付きの悪が多数在籍しています。ルーファス団長は高潔なヒューマンですから、すべての団員は受け入れることはないでしょうね」

「ルーファス様は……良い人です」

「確かに良い人だよね! 反対にポイズンファング傭兵団の黒い部分をオイラたちは見てきたから……ニコルへの件とかさ~。ルーファスはそういう輩は仲間には決っしてしないだろうね!」

「え? ポイズンファング傭兵団の黒い部分ってどのような事なのですか?」

ミルアとアナスタシアは黒い部分という事が何かを聞きたそうにしていた。だが麻薬の売買と闇の性奴隷、戦闘奴隷、それに奴隷剣闘士を密かに復活させていたなどと情報屋のグルキュフから聞いていた。そのような社会の闇を、純情さが残る16歳の女の子は知らない方がいいだろう。

「子供は知らないほうがいい事もある」

「ええ~! 私、子供じゃないです。立派な大人です。セシルさん酷いです」

あまりにも大人の泥臭い闇の部分に触れすぎて、荒んじゃっても可哀想だ。それに大人の清い愛の世界に触れる時は、心が穢れていない純粋さを失っていない時にいただくのが美味しいんだよな。先程、話したフルプレートアーマー一式をプレゼントをする件に、姉妹は乗ってこないだろうか。姉妹処女丼してみたい、ぐふふふふ♪

戦争の結果が出たと言うアルベールの主張にライダーは納得していないようだ。戦の負けを認めたら、築いてきた全てを失ってしまう事を当然承知していたからだ。冷や汗をかきながら、どのような手を打つかを必死に考えていた。
オーディン傭兵団は、オレがかけたバフと定期的に怪我を回復させていた為に、即死した者を除くと、怪我人すらほとんどいなかった。それに対してポイズンファング傭兵団は死者、怪我人の数は膨大に膨らんでおり、これ以上の戦いは自軍に死者が増えるだけの消耗戦となる事は明らかであった。そのため、アルベールの主張に反論が出来なかった。

「ライダーよ、俺が本格的にキレないうちに去った方が身のためだぜ」

「……お、お前らレッドウィング傭兵団は関係ないだろ! とっとと帰りやがれ!」

「キリオス! 止めとけ……」

ライダーが止めようとするよりも早く、ポイズンファング傭兵団、副リーダーキリオスはアルベールに襲いかかった。だが奇襲は成功しなかった。

『ズババババババババババッ!』

「ぐわっ!」

『ドガッ!』

たった一度の攻撃でキリオスは吹っ飛ばされ、壁に激突して失神した。アルベールはキリオスを殺すつもりはなかったようで、まだHPが残っており息があるようだ。

「マジか。あの強いキリオスの兄貴が一発で殺られるなんて」

「1人で帝国軍1万人を斬ったって噂は本当なのかもしれないな」

「あんなやつに勝てる気がしね~」

戦いに参加した傭兵で、トップ5に入る実力者が1ターンで失神KOされた。この場にいる者たちの多くが、噂に聞いていたレッドウィング傭兵団団長アルベールの強さを目の当たりにした。

「くっ、キリオスめ、焦りやがって。ルーファスこの野郎!  もう一歩で東側が俺様のものになったっていうのに! 何でこんな結果に! 野郎どもついて来い!」

キリオスを抱えあげ、西の方面に走り去っていくライダーのあとを、4人の隊長がついていく。また1からやりなおすのだろうが、正しく誠実な別の生き方は無理だろうな。
ライダーたちがザルツブルグから去ったのを確認してから、アルベールはルーファスの前まで行き話しかけた。

「俺はルーファスの人格、統率力、人望を見て4人目の大将軍として認めよう。すぐにでもステュディオス王国の元老院に推薦しよう」

「……アルベール。私たちを認めてくれて感謝する。なぜあまり縁のなかった私にここまでしてくれるのだ?」

「…………………………」

ルーファスの質問に少し赤くなった赤翼の英雄は横を向いて黙ってしまった。アルベールの大幹部であるフィオナが前に出てきて代わりに口を開いた。

「私が団長の代わりに答えるわよ。あなたの仲間を大事にする所、誠実な所、仲間だけでなく民衆の為に打算なく命をかけ戦える事を報告書で知ってね。それであなたの事を気に入ったと言っていたわよ」

「おい、フィオナ! テメー、俺がいつそんな事を言ったんだよ。ぶっ飛ばすぞ!」

「うふふっ、照れちゃって可愛い」

さらに赤くなったアルベールは頭をポリポリとかきながら、ルーファスに近づき右手を出した。その手をルーファスもしっかりと握る。

「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」」」

フェロニア市東側に若く爽やかな支配者が誕生したことに、そして両者の握手に興奮した傭兵やこっそりと戦を覗いていた市民たちが広場に出てきて祝福の雄叫びを上げた。ライダーの支配では税率が高くてやっていけない市民も多く、ルーファスの支配でそれが変わることへの期待もあるのだろう。

「セシル!! オメー戦場のどこかにいるんだろ! 出てこい!」

突然、アルベールが大声を出してオレを呼んだ。あまり目立ちたくはなかったが、彼には土地を貰った恩もあるので出て行くことにした。

「オレに何か用があるのかアルベール」

「おう! やはりいやがったか。オメーは範囲回復魔法を使えたろ? この場にいる全員にかけてやってくれ。オーディンにも元ポイズンファングにもな」

そう言うとアルベールはニヤリと笑った。ポイズンファング傭兵団の団員は、戦に勝ったオーディン傭兵団に組み込まれることになったので、すでに仲間というわけだ。

「分かった。全員を回復してやろう。ルーファスが四大将軍になり、貴族になったお祝いも兼ねてな」

《エリアフルリカバリー/範囲全回復魔法》×範囲拡大10倍

『フォン、フォン、フォン、フォン、カカッ!』

超巨大な六芒星の魔法陣が地面に描かれ、目が開けられないほどの神々しい光の柱が立ち上がった。この光の中にいる全ての者は怪我や病気が一瞬で治る。

「うぉ! 眩しい!」

「な、何!? この光は!」

「うおおおお! 目が! 目がぁああああああああああああ!」

光がおさまると、皆、戦で傷ついた体の動きを確認している。

「嘘! 傷がふさがってる!」

「剣で切り落とされた腕が生えてきた!」

「大量にした出血も問題ないみたい」

《フルリカバリー/全回復魔法》をはじめて受けた元ポイズンファング傭兵団員が、突然、治った自身の体を見て驚いている。ザルツブルグの中からも歓声が聞こえる。回復魔法の効果は絶大だ。だがそんな魔法でも死者だけは生き返る事は出来ない。広場にいる起き上がることのない者は死んでしまっている者たちだ。

傭兵団戦で圧勝したオーディン傭兵団員は合計で1000名ほどいたが、その中で女神に見放され生き残ることができなかった者が100人ほどいた。便利な回復魔法であっても、即死は治すことができない。勝利はしたもののオーディン傭兵団も無傷というわけにはいかなかった。
だが、彼らは冒険者であり傭兵だ。戦場や冒険に死は憑きものと考え、死んでしまった者の事を心に刻んで、常に前進していく。死んだ者の夢や希望の火を生き残った仲間が受け継いでまた戦う。

ミルアから聞いた話だが、ルーファスの持つ魔法の鞄の中には巻物が1つあるという。魔法の鞄は10個しか物は入らないが、その貴重な枠の1つを潰してでも常に入れている巻物があるそうだ。そこに何が書かれているのか? 

今までオーディン傭兵団の作戦で死んでしまった団員の名前が刻まれているそうだ。その名前を毎日欠かさず魔法の鞄から出し、名前を読み上げているのだ。ルーファスはそういう男だ。

「そうだ! 俺がオメーの戦に割り込んだから、まだ勝利の勝ちどきをあげてねーだろ。あれがないと場が締まらないからあげちまえ」

「そうであった。厳しい戦いであったが、皆の協力があり勝つことができた。全員でもぎ取った勝利である。
この戦、私たちオーディン傭兵団の勝利だ! 皆、勝ちどきをあげろ!」

「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」」」

ルーファスが神槍グングニルを天高く突き上げると、それに呼応し、団員たちが雄叫びを上げた。ついに彼らの夢である貴族になる事ができ、幸福の絶頂の中にあった。

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