69 / 101
第2章
第18話 オーディン傭兵団VSポイズンファング傭兵団 その①
しおりを挟む
2時間ほど行軍すると、ポイズンファング傭兵団の主城ザルツブルグにあと数キロメートルの距離にまで来た。完全武装した傭兵団が街中を堂々と行軍したから注目の的であった。不穏な気配を感じたフェロニア市の住民たちは通りから消え、多くは窓から状況を見極めようとして窓から覗いている。普通は聞こえないレベルのヒソヒソ声だが、トータルレベル300超えのオレの耳には聞こえている。
「先頭を歩いているのはルーファス様よ。軍を率いてどこに行くのかしら?」
「そりゃ、定期的なフェロニア市の周辺の見回りに行くんじゃねえのか?」
「馬鹿ね。オーディン傭兵団が向かっているのは東南よ。ルーファス様が守るべき門は西門よ。方向が違うでしょう。向かっている東南ってまさか!? ポイズンファング傭兵団!」
市民もこの行軍の意図に気がついてきたのか、ザワついてきたようだ。二代傭兵団が激突するという事になれば、市内の被害も甚大になるからな。当然、先頭はルーファスが堂々と歩き、その後ろにオレたちが続いている。アーティファクト級の神槍グングニルを持ち、傭兵団を率いるルーファスは、男から見ても惚れ惚れとする威風堂々としたものだった。さすがステュディオス王国で4人目の大将軍を目指すだけあり胆力も相当である。
しばらく行軍すると、斥候に出ていたニコルがルーファスの前に突然表れた。
「団長、この先にある建物には弓矢で武装したポイズンファング傭兵団員約3000人が隠れているのを発見した。どうするか指示を頼む。オーディン傭兵団が通ったときに、左右から挟み撃ちにして一斉に矢を射るのだろう。この道を避けるか?」
「ここまで来たら強行突破しかねーだろ。なっ! ルーファス」
ガディが速攻で口を挟んできた。爽やかな笑顔で真っ向から全面対決を希望するとはさすが脳筋だ。だがこの選択は間違えると大きな被害をもたらすという、ガディの意見であっても簡単に聞けるような軽いものではない。選択肢は2つある。
1つ目は、この道を敵が待ち構えているにも関わらず進軍して被害をある程度は覚悟をし、突破する。この選択肢は敵の本軍と戦う前に、団員の被害が大きくなるかもしれない。
2つ目は、待ち伏せしている敵を避け、進行方向を変える。この選択肢を取った場合、ルーファスが戦争に怖じ気づいたと言われ、傭兵団の指揮低下となってしまうことだろう。とても難しい決断だが、ルーファスは迷うことなく、すぐに指示を出した。
「ニコル隊、ロンド隊、ティナ隊、ガディ隊、ダグラス隊、ルーファス隊は左右に別れ、弓矢を装備し、敵を発見次第迎撃する! 中央は矢の供給をしろ!」
おお! 敵の策略にあえてのり、主力の隊を左右に分けて堂々と迎え撃つ決断をしたようだ。敵の策から逃げないで正面から突破を計るとは、やはりルーファスは熱い漢だ。新兵たちは中央に寄せて大盾を装備させ、熟練した傭兵で周囲を囲んだ。
「おほ! ルーファス、そうこなくっちゃな」
「祭りが盛り上がってきたな。仲間にかける回復魔法は全てオレに任せておけ」
「回復ならオイラたちに任せておいてよ! みんな頑張ってね!」
「ああ、助かる。粉砕のミョルニルは怪我人の救助と治療に専念してくれ」
戦場で鍛えあげられた傭兵団だけあり陣形の形成が早い。すぐに応戦体制を取り、また前進する。この早さがオーディン傭兵団の熟練度の高さを現しているのだ。
《探査マップ/神愛》で敵である赤いマーカーを観察しているが、あと数十メートル先の建物左右両側でジッと待機している。待ち伏せしている敵のレベルが1桁と全体的に低いのは、ここに配置された兵に新兵が多いことを示している。ポイズンファング傭兵団は新兵を使い、ここで出来るだけオーディン傭兵団を消耗させてから本軍で戦うという作戦なのだ。この先にある敵の本拠地ザルツブルグには高レベルの者が多いからだ。新兵を犠牲にし、多少なりとも弱らせたところで本拠地の本軍で叩くなど姑息なやり方だな。ルーファスは新兵を中央に入れて、なるべく新人に被害が出ないように気づかっていた。
「そろそろ来るぞ」
敵が待ち構える真ん中までオーディン傭兵団は進軍して行く。先頭を歩くルーファスが建物の中央に差し掛かると、敵は一斉に姿を現し、奇襲攻撃をかけるために弓を構えた。
「敵を殲滅せよ!!」
「「「おおおおおおおおおおおおおおおおっ!」」」
『『『バシュッ、バシュッ、バシュッ、バシュッ!』』』
そして、敵の司令官が攻撃指示を出すと隠れていた約3000人のポイズンファング傭兵団が矢を放ってきた。
「オーディン傭兵団! 迎え撃て!!」
「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」」」
『『『バシュッ、バシュッ、バシュッ、バシュッ!!』』』
ルーファスが一括すると六隊は反撃する。六隊は傭兵団の主力だけあり、新兵ばかりの敵と比べて平均レベルが敵方よりもかなり高い。次々に敵は矢が当たり倒れるが、オーディン傭兵団は怪我人がほとんど出なかった。
「ぐわっ!」
「矢が腿に当たった! 痛い痛い痛い痛い痛い!」
「ひぃいいいいいい! 血が止まらない!」
敵が戦う建物内から、次々と矢が命中して苦しむ声が聞こえてきた。素人に毛が生えた程度の実戦経験がない新兵だと、百戦錬磨で高レベルの敵と戦場で戦ってきた傭兵とでは相手にならないようだ。
「店長……私も何か出来る事……ないでしょうか?」
集団でも1番安全な真ん中にいて、盾の中でもひときわ大きいタワーシールドに守られているので粉砕のミョルニルはやる事がない。何もやることがない事が真面目なホリーには重荷になっているようだ。
「う~ん、オイラたちの出番は傷ついた団員たちの怪我の治療が任務で、戦闘が終了しないと暇だよね!」
「確かに暇だな。魔法を使って出来る事はあるから、戦闘も少し手伝ってやるとするか。対集団戦で使える魔法は何かないかな?」
《ステータス/状態》
オレの目の前に半透明のウィンドウが現れる。魔法で使えそうなのがないか確認していると、目的に合いそうな魔法を1つ発見した。
「お! これ良さそうだな。レベル5暗黒魔法のサフィケーションデスとかどうかな? 範囲魔法って書いてあるから敵の人数が多いときに有効な魔法なのだろうか?」
「ぶっ!! セ、セシル! その魔法はダメ! 絶対!」
「ん? 何がダメなんだ?」
「魔法の効果とか見た? 魔法名のあとに▷って記号があるでしょ! そこを押すともっと詳しい説明が見れるよ」
全ての暗黒魔法が羅列されているウィンドウを見ると、パックの言うとおり魔法名の端に▷というものがあった。それをタップすると詳細な魔法の説明が出てくる。
「詳細な説明文があるって知らなかった。パックって色々と知っているのだな。あれ? 《ステータス/状態》はオレ以外にも使える人がいたのか? もしかしてホリーも使えるのか?」
「いえ……私にそのような能力はありません……ステータスという魔法は……今まで聞いたこともありません」
《ステータス/状態》はエロース神の聖寵フォルダーの中に入っていた魔法なので、オレしか使えないものだと思っていたのだがな。
「なんでパックが聖寵の事を知っているんだ? 聖寵魔法については話したことがないはずだが?」
オレから質問をされ、パックは急に顔が青ざめた。緊張のため、まばたきのスピードが通常の何倍にも早くなっている。何かまずい質問でもしたのか?
「そそそそ、それは……ほらっ! アレだよ」
そう言いながらパックは右上を見ながら、説明をしようとしている。実は目の動きには意味がある事をオレは知っている。突然、質問をされた時、左上を見ながら考えていると、過去に起こった事実を思い出しているのだ。それではパックのケースの場合、右上を見ながら考えている。このケースの場合……事実を思い出そうとしているのではなく、作り話をでっち上げようとしているのだ。要は嘘だな。
「オイラはセシルの眷属だから、そういう事も分かるんだよ! それよりも魔法の説明欄を見てよ!」
あからさまに嘘をついている感じだが、まあ追求はせずにしておいてやろう。オレだって誰にも知られたくない事の1つや2つはある。日本で住んでいた家にはたくさんのエロDVDが隠してあったしな。エロース神のご配慮のおかげで芽衣にバレなくて済んだ。
「そうだったんだな。それよりサフィケーションデスの効果だが……下位範囲窒息死魔法。範囲内にいるレベル15以下の敵の周囲から空気がなくなり、100%窒息死する。この魔法はレジストが発生しない魔法である……な、なんだと!」
「ふわぁあああああああああ!」
「それってレベル15以下の敵をレジストもさせずに虐殺する魔法だよ! ちなみに上位サフィケーションデスは術者よりも20レベル下の者がレジスト出来ないのさ! セシルはトータルレベルが300くらいあるから、生き残れる生物はほとんどいないだろうね!」
虐殺魔法とは恐ろしい魔法を使おうとしていたな。パックのおかげで助かったよ。空気がなくなって喉をかきむしりながら死ぬなんて怖すぎる。やはり魔法はよくよく考えないと使ってはいけないな。
「そんな魔法は使えんな。代わりにバフでもかけてやるか」
《グレートエンハンスメント/超身体強化》×1015
『フォンフォンフォンフォンフォンフォンッ』
魔法を唱えると、オーディン傭兵団全員がバフで身体能力が上がった。4万ほどの魔力を使ったが、オレのMPは170万程あるので問題はない。
「おお! 体に力が湧いてくる」
「セシルさんありがとうございます!」
「助かります!」
3000人vs600人という圧倒的な人数差があったが、傭兵団の練度の高さとバフの圧倒的な効果もあり、1時間ほどの短時間でポイズンファング傭兵団の弓隊3000は闘争心を消失し、沈黙した。
ポイズンファング傭兵団は多くの死傷者を出しているが、オーディン傭兵団は死者0名、重傷25名、軽傷42名というものだった。しっかりと実戦で鍛え上げられたため、防御力が非常に高かった。
ルーファスの戦い方は防御力に重きをおいていて、1番高レベルの者に弓矢を射たせ、その弓兵を守る盾専門の護衛がいる。弓を射ることに集中できるため、命中力も威力も高まるというわけだ。
「ガディの兄貴、すいません。盾で防ぎきれなくて矢が……」
見るとガディの肩に矢が刺さって血が出ている。ガディは刺さっていた矢を自分で引き抜くと、ポイッと捨て、にやっと笑った。
「ま、気にすんな! 多少血が出てないと盛り上がってこねーじゃねーか。ガハハハハハハハハハハハハッ! なっ、ルーファス」
「そうだな。いつも無茶な戦い方をするお前が無傷だと、逆に作戦ミスをしていないか気になってくる」
「そういえばガディが血を流していない事って、あまり見たことないな。いつもどっか怪我している」
「血を流すのが当たり前といっても、怪我をほっておくわけにもいかないだろう。今から軍全体に範囲回復魔法をかけるな」
「セシルお願いね」
《エリアフルリカバリー/範囲全回復魔法》
「フォンフォンフォンフォンフォンッ」
オーディン傭兵団員全員が入る大きさの六芒星の魔法陣が地面に現れ、光に包まれた。レベルの低い神聖魔法と違い、目が開けられなくなるほど光量が多い。エリアを拡張したレベル6神聖魔法《エリアフルリカバリー/範囲全回復魔法》をかけると魔力をかなり消耗するが、オレは1分間で8000ポイントも魔力が回復するから全く問題ない。
「おお! 傷が一瞬で治った」
「血が止まったわ!」
「刺さった矢が体の中から出てきた!」
周囲に驚きが起こるが、1番驚いていたのがガディの部下であるステファノだった。
「あ、あ、兄貴! 昨年の戦で帝国兵にやられて失明した左目が見えますぜ!」
「マ、マジかよ! セシル、今の神聖魔法はまさか《エリアフルリカバリー/範囲全回復魔法》か? 《ハイリカバリー/上位回復魔法》ではステファノが斬られて失明した左目は治らなかったんだよ」
「ああ、《エリアフルリカバリー/範囲全回復魔法》だ」
「マジかよ! お前はどこまで規格外なんだっつーの。《フルリカバリー/全回復魔法》でさえ、使える聖騎士はこの国に1人もいないっつーのによ。レベル5の神聖魔法を使えるといったら、パルミラ教皇国の聖女アリシア・クレスウェルくらいしかいないだろ! その上を行くレベル6の魔法の使い手など信じられね~」
「確かにそうだな。この際、セシルが味方でいてくれたことに感謝する」
「だな。そういや、歴史的にレベル6神聖魔法まで辿り着いたやつっていたっけ?」
「小さい頃におとぎ話で見たことがあるわ。千年前に実際にいた建国の六英雄の中に、レベル6まで使えた聖騎士が確かにいたわよ。名前は聖パルミラ。パルミラ教皇国の礎を築いた伝説の英雄ね。それ以外ではほとんどいないことは確かね。本当にセシルにはいつも驚かされるわ」
「……………………………………」
ダグラスは相変わらずの無言だ。まだこの男の声を聞いたことがない。喋ることができないのだろうか? ただ表情から感激していることは分かる。
「チッ」
多くの団員が称賛していたが、ロンドだけはオレが気にくわないみたいで、反吐が出るぜという顔をしている。口を開けるとお前なんかたいしたことねぇ、と言いそうだ。オレはそういう反骨精神を持つ男は嫌いではない。
「あまり褒めるなよ、照れるだろ。それより早くザルツブルグに攻撃を仕掛けないと夜になっちまうぞ」
「うむ、そうだな。オーディン傭兵団前進!」
「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」
四番目の大将軍の地位をかけた傭兵団の戦争、初戦はオーディン傭兵団の圧勝で終わった。次はいよいよ敵の本拠地ザルツブルグでポイズンファング傭兵団の本軍との全面戦争である。
ルーファスは神槍グングニルを上空に振り上げ、号令を出した。団員たちもその心に答え、雄叫びを上げた。勝利の勢いそのままにオーディン傭兵団は力強く前進をはじめる。
「先頭を歩いているのはルーファス様よ。軍を率いてどこに行くのかしら?」
「そりゃ、定期的なフェロニア市の周辺の見回りに行くんじゃねえのか?」
「馬鹿ね。オーディン傭兵団が向かっているのは東南よ。ルーファス様が守るべき門は西門よ。方向が違うでしょう。向かっている東南ってまさか!? ポイズンファング傭兵団!」
市民もこの行軍の意図に気がついてきたのか、ザワついてきたようだ。二代傭兵団が激突するという事になれば、市内の被害も甚大になるからな。当然、先頭はルーファスが堂々と歩き、その後ろにオレたちが続いている。アーティファクト級の神槍グングニルを持ち、傭兵団を率いるルーファスは、男から見ても惚れ惚れとする威風堂々としたものだった。さすがステュディオス王国で4人目の大将軍を目指すだけあり胆力も相当である。
しばらく行軍すると、斥候に出ていたニコルがルーファスの前に突然表れた。
「団長、この先にある建物には弓矢で武装したポイズンファング傭兵団員約3000人が隠れているのを発見した。どうするか指示を頼む。オーディン傭兵団が通ったときに、左右から挟み撃ちにして一斉に矢を射るのだろう。この道を避けるか?」
「ここまで来たら強行突破しかねーだろ。なっ! ルーファス」
ガディが速攻で口を挟んできた。爽やかな笑顔で真っ向から全面対決を希望するとはさすが脳筋だ。だがこの選択は間違えると大きな被害をもたらすという、ガディの意見であっても簡単に聞けるような軽いものではない。選択肢は2つある。
1つ目は、この道を敵が待ち構えているにも関わらず進軍して被害をある程度は覚悟をし、突破する。この選択肢は敵の本軍と戦う前に、団員の被害が大きくなるかもしれない。
2つ目は、待ち伏せしている敵を避け、進行方向を変える。この選択肢を取った場合、ルーファスが戦争に怖じ気づいたと言われ、傭兵団の指揮低下となってしまうことだろう。とても難しい決断だが、ルーファスは迷うことなく、すぐに指示を出した。
「ニコル隊、ロンド隊、ティナ隊、ガディ隊、ダグラス隊、ルーファス隊は左右に別れ、弓矢を装備し、敵を発見次第迎撃する! 中央は矢の供給をしろ!」
おお! 敵の策略にあえてのり、主力の隊を左右に分けて堂々と迎え撃つ決断をしたようだ。敵の策から逃げないで正面から突破を計るとは、やはりルーファスは熱い漢だ。新兵たちは中央に寄せて大盾を装備させ、熟練した傭兵で周囲を囲んだ。
「おほ! ルーファス、そうこなくっちゃな」
「祭りが盛り上がってきたな。仲間にかける回復魔法は全てオレに任せておけ」
「回復ならオイラたちに任せておいてよ! みんな頑張ってね!」
「ああ、助かる。粉砕のミョルニルは怪我人の救助と治療に専念してくれ」
戦場で鍛えあげられた傭兵団だけあり陣形の形成が早い。すぐに応戦体制を取り、また前進する。この早さがオーディン傭兵団の熟練度の高さを現しているのだ。
《探査マップ/神愛》で敵である赤いマーカーを観察しているが、あと数十メートル先の建物左右両側でジッと待機している。待ち伏せしている敵のレベルが1桁と全体的に低いのは、ここに配置された兵に新兵が多いことを示している。ポイズンファング傭兵団は新兵を使い、ここで出来るだけオーディン傭兵団を消耗させてから本軍で戦うという作戦なのだ。この先にある敵の本拠地ザルツブルグには高レベルの者が多いからだ。新兵を犠牲にし、多少なりとも弱らせたところで本拠地の本軍で叩くなど姑息なやり方だな。ルーファスは新兵を中央に入れて、なるべく新人に被害が出ないように気づかっていた。
「そろそろ来るぞ」
敵が待ち構える真ん中までオーディン傭兵団は進軍して行く。先頭を歩くルーファスが建物の中央に差し掛かると、敵は一斉に姿を現し、奇襲攻撃をかけるために弓を構えた。
「敵を殲滅せよ!!」
「「「おおおおおおおおおおおおおおおおっ!」」」
『『『バシュッ、バシュッ、バシュッ、バシュッ!』』』
そして、敵の司令官が攻撃指示を出すと隠れていた約3000人のポイズンファング傭兵団が矢を放ってきた。
「オーディン傭兵団! 迎え撃て!!」
「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」」」
『『『バシュッ、バシュッ、バシュッ、バシュッ!!』』』
ルーファスが一括すると六隊は反撃する。六隊は傭兵団の主力だけあり、新兵ばかりの敵と比べて平均レベルが敵方よりもかなり高い。次々に敵は矢が当たり倒れるが、オーディン傭兵団は怪我人がほとんど出なかった。
「ぐわっ!」
「矢が腿に当たった! 痛い痛い痛い痛い痛い!」
「ひぃいいいいいい! 血が止まらない!」
敵が戦う建物内から、次々と矢が命中して苦しむ声が聞こえてきた。素人に毛が生えた程度の実戦経験がない新兵だと、百戦錬磨で高レベルの敵と戦場で戦ってきた傭兵とでは相手にならないようだ。
「店長……私も何か出来る事……ないでしょうか?」
集団でも1番安全な真ん中にいて、盾の中でもひときわ大きいタワーシールドに守られているので粉砕のミョルニルはやる事がない。何もやることがない事が真面目なホリーには重荷になっているようだ。
「う~ん、オイラたちの出番は傷ついた団員たちの怪我の治療が任務で、戦闘が終了しないと暇だよね!」
「確かに暇だな。魔法を使って出来る事はあるから、戦闘も少し手伝ってやるとするか。対集団戦で使える魔法は何かないかな?」
《ステータス/状態》
オレの目の前に半透明のウィンドウが現れる。魔法で使えそうなのがないか確認していると、目的に合いそうな魔法を1つ発見した。
「お! これ良さそうだな。レベル5暗黒魔法のサフィケーションデスとかどうかな? 範囲魔法って書いてあるから敵の人数が多いときに有効な魔法なのだろうか?」
「ぶっ!! セ、セシル! その魔法はダメ! 絶対!」
「ん? 何がダメなんだ?」
「魔法の効果とか見た? 魔法名のあとに▷って記号があるでしょ! そこを押すともっと詳しい説明が見れるよ」
全ての暗黒魔法が羅列されているウィンドウを見ると、パックの言うとおり魔法名の端に▷というものがあった。それをタップすると詳細な魔法の説明が出てくる。
「詳細な説明文があるって知らなかった。パックって色々と知っているのだな。あれ? 《ステータス/状態》はオレ以外にも使える人がいたのか? もしかしてホリーも使えるのか?」
「いえ……私にそのような能力はありません……ステータスという魔法は……今まで聞いたこともありません」
《ステータス/状態》はエロース神の聖寵フォルダーの中に入っていた魔法なので、オレしか使えないものだと思っていたのだがな。
「なんでパックが聖寵の事を知っているんだ? 聖寵魔法については話したことがないはずだが?」
オレから質問をされ、パックは急に顔が青ざめた。緊張のため、まばたきのスピードが通常の何倍にも早くなっている。何かまずい質問でもしたのか?
「そそそそ、それは……ほらっ! アレだよ」
そう言いながらパックは右上を見ながら、説明をしようとしている。実は目の動きには意味がある事をオレは知っている。突然、質問をされた時、左上を見ながら考えていると、過去に起こった事実を思い出しているのだ。それではパックのケースの場合、右上を見ながら考えている。このケースの場合……事実を思い出そうとしているのではなく、作り話をでっち上げようとしているのだ。要は嘘だな。
「オイラはセシルの眷属だから、そういう事も分かるんだよ! それよりも魔法の説明欄を見てよ!」
あからさまに嘘をついている感じだが、まあ追求はせずにしておいてやろう。オレだって誰にも知られたくない事の1つや2つはある。日本で住んでいた家にはたくさんのエロDVDが隠してあったしな。エロース神のご配慮のおかげで芽衣にバレなくて済んだ。
「そうだったんだな。それよりサフィケーションデスの効果だが……下位範囲窒息死魔法。範囲内にいるレベル15以下の敵の周囲から空気がなくなり、100%窒息死する。この魔法はレジストが発生しない魔法である……な、なんだと!」
「ふわぁあああああああああ!」
「それってレベル15以下の敵をレジストもさせずに虐殺する魔法だよ! ちなみに上位サフィケーションデスは術者よりも20レベル下の者がレジスト出来ないのさ! セシルはトータルレベルが300くらいあるから、生き残れる生物はほとんどいないだろうね!」
虐殺魔法とは恐ろしい魔法を使おうとしていたな。パックのおかげで助かったよ。空気がなくなって喉をかきむしりながら死ぬなんて怖すぎる。やはり魔法はよくよく考えないと使ってはいけないな。
「そんな魔法は使えんな。代わりにバフでもかけてやるか」
《グレートエンハンスメント/超身体強化》×1015
『フォンフォンフォンフォンフォンフォンッ』
魔法を唱えると、オーディン傭兵団全員がバフで身体能力が上がった。4万ほどの魔力を使ったが、オレのMPは170万程あるので問題はない。
「おお! 体に力が湧いてくる」
「セシルさんありがとうございます!」
「助かります!」
3000人vs600人という圧倒的な人数差があったが、傭兵団の練度の高さとバフの圧倒的な効果もあり、1時間ほどの短時間でポイズンファング傭兵団の弓隊3000は闘争心を消失し、沈黙した。
ポイズンファング傭兵団は多くの死傷者を出しているが、オーディン傭兵団は死者0名、重傷25名、軽傷42名というものだった。しっかりと実戦で鍛え上げられたため、防御力が非常に高かった。
ルーファスの戦い方は防御力に重きをおいていて、1番高レベルの者に弓矢を射たせ、その弓兵を守る盾専門の護衛がいる。弓を射ることに集中できるため、命中力も威力も高まるというわけだ。
「ガディの兄貴、すいません。盾で防ぎきれなくて矢が……」
見るとガディの肩に矢が刺さって血が出ている。ガディは刺さっていた矢を自分で引き抜くと、ポイッと捨て、にやっと笑った。
「ま、気にすんな! 多少血が出てないと盛り上がってこねーじゃねーか。ガハハハハハハハハハハハハッ! なっ、ルーファス」
「そうだな。いつも無茶な戦い方をするお前が無傷だと、逆に作戦ミスをしていないか気になってくる」
「そういえばガディが血を流していない事って、あまり見たことないな。いつもどっか怪我している」
「血を流すのが当たり前といっても、怪我をほっておくわけにもいかないだろう。今から軍全体に範囲回復魔法をかけるな」
「セシルお願いね」
《エリアフルリカバリー/範囲全回復魔法》
「フォンフォンフォンフォンフォンッ」
オーディン傭兵団員全員が入る大きさの六芒星の魔法陣が地面に現れ、光に包まれた。レベルの低い神聖魔法と違い、目が開けられなくなるほど光量が多い。エリアを拡張したレベル6神聖魔法《エリアフルリカバリー/範囲全回復魔法》をかけると魔力をかなり消耗するが、オレは1分間で8000ポイントも魔力が回復するから全く問題ない。
「おお! 傷が一瞬で治った」
「血が止まったわ!」
「刺さった矢が体の中から出てきた!」
周囲に驚きが起こるが、1番驚いていたのがガディの部下であるステファノだった。
「あ、あ、兄貴! 昨年の戦で帝国兵にやられて失明した左目が見えますぜ!」
「マ、マジかよ! セシル、今の神聖魔法はまさか《エリアフルリカバリー/範囲全回復魔法》か? 《ハイリカバリー/上位回復魔法》ではステファノが斬られて失明した左目は治らなかったんだよ」
「ああ、《エリアフルリカバリー/範囲全回復魔法》だ」
「マジかよ! お前はどこまで規格外なんだっつーの。《フルリカバリー/全回復魔法》でさえ、使える聖騎士はこの国に1人もいないっつーのによ。レベル5の神聖魔法を使えるといったら、パルミラ教皇国の聖女アリシア・クレスウェルくらいしかいないだろ! その上を行くレベル6の魔法の使い手など信じられね~」
「確かにそうだな。この際、セシルが味方でいてくれたことに感謝する」
「だな。そういや、歴史的にレベル6神聖魔法まで辿り着いたやつっていたっけ?」
「小さい頃におとぎ話で見たことがあるわ。千年前に実際にいた建国の六英雄の中に、レベル6まで使えた聖騎士が確かにいたわよ。名前は聖パルミラ。パルミラ教皇国の礎を築いた伝説の英雄ね。それ以外ではほとんどいないことは確かね。本当にセシルにはいつも驚かされるわ」
「……………………………………」
ダグラスは相変わらずの無言だ。まだこの男の声を聞いたことがない。喋ることができないのだろうか? ただ表情から感激していることは分かる。
「チッ」
多くの団員が称賛していたが、ロンドだけはオレが気にくわないみたいで、反吐が出るぜという顔をしている。口を開けるとお前なんかたいしたことねぇ、と言いそうだ。オレはそういう反骨精神を持つ男は嫌いではない。
「あまり褒めるなよ、照れるだろ。それより早くザルツブルグに攻撃を仕掛けないと夜になっちまうぞ」
「うむ、そうだな。オーディン傭兵団前進!」
「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」
四番目の大将軍の地位をかけた傭兵団の戦争、初戦はオーディン傭兵団の圧勝で終わった。次はいよいよ敵の本拠地ザルツブルグでポイズンファング傭兵団の本軍との全面戦争である。
ルーファスは神槍グングニルを上空に振り上げ、号令を出した。団員たちもその心に答え、雄叫びを上げた。勝利の勢いそのままにオーディン傭兵団は力強く前進をはじめる。
0
お気に入りに追加
439
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
最前線攻略に疲れた俺は、新作VRMMOを最弱職業で楽しむことにした
水の入ったペットボトル
SF
これまであらゆるMMOを最前線攻略してきたが、もう俺(大川優磨)はこの遊び方に満足してしまった。いや、もう楽しいとすら思えない。
ゲームは楽しむためにするものだと思い出した俺は、新作VRMMOを最弱職業『テイマー』で始めることに。
βテストでは最弱職業だと言われていたテイマーだが、主人公の活躍によって評価が上がっていく?
そんな周りの評価など関係なしに、今日も主人公は楽しむことに全力を出す。
この作品は「カクヨム」様、「小説家になろう」様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる